雄英高校を突如として襲った未曾有の危機、USJ襲撃事件。
平和の象徴たるオールマイトが現場に駆けつけたことで、事態は瞬く間に終わりへと向かっていった。
各災害ゾーンに散らばり、生徒たちを脅かしていた有象無象の
その後、通報を受けて駆けつけた塚内率いる警察部隊が到着。無力化された
出入り口付近の広場。
無事に救出された1-Aの生徒たちは、警察の保護下で一箇所に集められ事の成り行きを見守っている。
「やっぱり、オールマイトはすげぇや……。あんなにいた
「ああ。俺、火災ゾーンで一人ぼっちだったから、来てくれた時はホント心強かったよ」
「ウチらも、上鳴が人質に取られちゃってマジで危なかったもんね……」
黒霧の『ワープゲート』で施設内へ分断されていた生徒たちは、絶望の淵から救い出してくれたナンバーワンヒーローへの感謝を口々に零し、心底からの安堵の息を吐き出していた。
しかし、その一方で。
出入り口の扉付近で最後まで黒霧の相手をしていた麗日や障子といった面々の表情は、全く晴れてはいない。
「……飯田くん、大丈夫かな」
「“個性”が使えないって言ってたけど……絶対、相澤先生の力みたいな一時的なやつだよね?」
「……“個性”の出力を強制的に増幅させる違法な薬があると耳にしたことはあるが、“個性”そのものを使えなくさせる兵器なんて聞いたこともないからな」
麗日と芦戸の憂いを帯びた問いかけに、障子が腕を組みながら重々しく首を振る。
一体、どういう原理で飯田の『エンジン』が使えなくなってしまったのか。まだヒーロー科に入学したばかりの学生に、あの未知なる銃弾のメカニズムなど分かるはずもない。
それでも、クラスメイトの身に重大な後遺症が残らないことを祈り、顔を曇らせるのは当然のことだった。
麗日の脳裏には、警察の到着直後、詳細な事情聴取と身体検査のために救護テントへ連れて行かれた飯田の沈んだ背中が焼き付いている。
さらに、水難ゾーンの戦闘で無理をして指を骨折し、リカバリーガールの下へ連れていかれた緑谷出久の痛々しい姿も相俟って、彼女は心配の念を隠しきれず、自身の指先を白くなるほど握り締めていた。
「相澤先生や13号先生も大丈夫かしら……。命に別状はないみたいだけど、何か後遺症とかが残らないか心配だわ」
「……オイラたちも、五条がいなかったら先生たちみたいになってたかもしれねぇんだよな」
「そうね、ホントに間一髪だったわ。……ところで、その五条ちゃんはどこにいったのかしら?」
峰田の言葉に頷きつつ、蛙吹が普段と変わらぬマイペースな声で周囲へ視線を巡らせた。
「確か、五条ちゃんも右腕を怪我してたはずよ。緑谷ちゃんと同じように手当てを受けてればいいのだけど」
倒れた死柄木と脳無の身柄を引き渡してからというものの、気づけば五条枢は広場から忽然と姿を消していた。
蛙吹は、絶体絶命の危機から救ってくれたことへのお礼すら言えていないと、脳無の圧倒的な暴力から自分たちを庇った彼の背中を思い起こす。
「───いやー、みんな大変だったね」
そんな中。
件の枢が、壊れた扉の方角から、まるでコンビニにでも行ってきたかのような軽い足取りで現れた。
「あ、五条ちゃん」
蛙吹が声をかける。
脳無との戦闘の際に行使した『赫』の反動によって、彼を象徴していた漆黒のアイマスクは吹き飛び、消失してしまっていた。そのため、今の枢はその下に隠されていた宝石のような深海色の瞳───『六眼』を惜しげもなく晒している。
しかし、予期せぬ
飄々とした声音と他を圧倒する特異な雰囲気で、無意識のうちに眼前の存在が枢だと察した生徒たち。
彼に命を救われた面々や、入り口付近で絶望の淵に立たされていた麗日たちが、駆け寄ってお礼の言葉と同時に状況を聞き出そうとする。
しかし、そんな彼らを手で軽く制し、枢は安心させるような柔らかな笑みを携えて言葉を告げた。
「塚内って刑事さんから伝言。一先ず、俺たちは先に教室に戻ってろってさ。事情聴取とかその辺の諸々は、後で学校側を通して行うみたいだから」
そう言うと、枢は不在にしていた理由を語り始めた。
オールマイトが残党の処理に当たっている間、急を要すると言うことで重傷を負って意識を失っていた相澤と13号をリカバリーガールが待機する保健室へと迅速に搬送していたこと。そして自身も治療を受けそのまま戻って来る際、現場で指揮を執っていた塚内から先程の伝言を託された、という経緯である。
その上で、枢は個性破壊弾を撃ち込まれた飯田を案じて表情を沈ませている麗日や障子たちへ、何よりも欲しかったであろう朗報を付け加えた。
「ついでに、さっき救護テントにいる委員長のことも視てきたよ。アレ、個性因子そのものがちょっと傷ついてて、一時的に“個性”が使えなくなってるだけっぽいから。今日の夜か、遅くても明日には完治してると思うから安心しなよ」
「本当!?」
枢のその断言に、麗日たちの顔へ目に見えて安堵の光が灯った。
「ホントホント。『
枢が自信たっぷりに頷いてみせると、麗日や芦戸たちは「よかったぁぁっ……!」と抱き合い、心の底から救われたように深く胸を撫でおろしていた。
それは確実に彼らの心へ暗い影を落とす恐ろしい体験だった。しかし、結果として襲撃は失敗に終わり、相澤や13号、緑谷といった負傷者こそ出したものの、死者は一人も出ず、クラスメイト全員の無事が確認できた。
その事実がもたらした強烈な安堵感によって、張り詰めていた緊張の糸がほどけ、生徒たちの間にようやく日常の空気が戻ってくる。
そして、その余裕が生まれたことによって。
彼らの脳は、眼前に立つ少年の
「ていうか、五条くん……」
葉隠透が、体操服に包まれた透明な腕を枢の方へと伸ばし、少し上擦った声でその事実に言及した。
「アイマスク、外してない?」
「「「え……?」」」
葉隠のその言葉に、「うェ〜い」と未だに“個性”の使いすぎで脳がショートしている上鳴が何度も深く首を縦に振った。
それと同時に、入学初日からずっとあの目隠しの下が気になっていた生徒たち───特に、上鳴からのゴシップ情報で好奇心を燻らせていた女子陣の視線が、一斉に枢の顔面へと集中する。
「ホントだ! 五条目隠し取ってるじゃん!!」
「上鳴の言ってた通り……宝石みたいな目してる……!」
「“個性”由来なのでしょうか……あんなに綺麗で吸い込まれそうな瞳、私も初めて見ますわ」
「超イケメン!!」
「え、なになに?」
突如として黄色い歓声を上げ始めた女子陣の異様な盛り上がりっぷりに、流石の枢も思わず面食らって困惑を隠せない。
さらに女子だけでなく、瀬呂や尾白といった男性陣からも、「おー、マジでスゲェ目してんな」「なんかオーラが違うね」と感心したような言葉と共に熱い視線が向けられる。
「……いや、ホントになに?」
枢が身の危険を感じて一歩後退りしようとした時、ふいに背後から障子に軽く肩を叩かれ、振り返った。
「先程、飯田の症状を『この目で視たから確かだ』と言っていたが……五条は、何か特異な『眼』を持っているのか?」
戦闘訓練の際も、俺の『複製腕』や常闇の『
そう静かに問う障子は、飯田の未知の症状を医学的根拠もなく即座に「問題ない」と断言してみせた枢の振る舞いを不可思議に思っていた。
「答えたくなかったら構わないが」と前置きしつつも、彼は枢が普段からあの厳重な目隠しをしていることも踏まえ、能力に対する純粋な疑問を投げかけたのだ。
「あー……」
そんな障子の気遣いに対し、枢はだからこうなってる訳ねと一人納得したように頷くと「別に隠すようなことでもないし、問題ないよ」と軽く肩を竦める。
そして、周囲の生徒たち全員に聞こえるよう自身の碧眼───『六眼』について、初めてその詳細を語り始めた。
「俺のこの目、『六眼』って言うんだけど───簡単に言うと、相手を見るだけでどんな“個性”を持ってるのか大体分かっちゃうんだよね」
プロヒーローであるワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのラグドールが持つ“個性”、『サーチ』に近いと。
極めて軽く、事も無げに語られた枢の言葉。
「“個性”とはまた別の体質みたいなもんだからさ。オンオフ効かなくて、人混み多いとこにいると疲れちゃうのよ」
だから普段からアイマスクしてるのはそれが理由だと語り終えた枢に対して。
一瞬の間の後。
USJの壊れた天蓋に向かって、1-Aの生徒たち全員の、驚愕と理不尽に対する絶叫が響き渡った。
「「「あー、なるほどね───ってなるかああぁぁぁぁッ!!?」」」
空間を操る『無下限』という唯一無二の“個性”に加え、相手の“個性”を見透かす『六眼』という究極の特異体質。
同じ一年生の中に、そんなデタラメにも程がある存在がいるという事実に。
死線を潜り抜けたばかりのヒーローの卵たちの叫び声が、平和を取り戻したUSJにいつまでもこだましていた。
☆
───時計の針は、死柄木弔率いる
陽の光も届かない、ひどく淀んだ空気が滞留する裏路地の奥深く。
そこでは、空間を歪めて前触れもなく現れた純白の怪物と、裏社会に暗躍する極道組織『死穢八斎會』の若頭、オーバーホール───治崎廻との、凄惨な死闘が幕を開けようとしていた。
古びたテレビの画面越しに響いた不気味な声と共に、自身の悲願の要である少女・壊理を黒い泥に飲み込まれ、奪い去られたオーバーホール。
その直後、泥の中から入れ替わるようにして出現したのは、脳髄を剥き出しにし、背中から二対の翼と頭部から蛇のような尾を生やした、純白の巨漢であった。
それは、後にUSJで五条枢と対峙することになる『黒い脳無』とは似て非なる存在。知性を残し、より高度な戦闘能力を付与されたハイエンドと呼ばれる個体であり、中でもこの『純白の脳無』は、創造主である氏子達磨をして『最高傑作』と謳わしめるほどの究極の改人であった。
無論、一介のヤクザの若頭に過ぎないオーバーホールが、眼前の怪物の出自など知る由もない。
ただ、自らの計画の全てである壊理を眼前で奪われた事実に対する、底知れぬどす黒い怒りだけが彼を支配していた。
『エリを、どこへやった』
路地裏の暗闇の中、オーバーホールはペストマスクの奥で殺意を滾らせ、静かに、しかし躊躇いなく怪物の右腕へとその手を伸ばした。
彼自身の“個性”である『オーバーホール』。対象に触れるだけで、その構造を文字通り細胞レベルで『分解』し、チリに帰すことができる破格の能力。
手袋を外した五指が、純白の肌に触れる。
直後、怪物の右腕は内側から弾け飛ぶようにして、肉と骨が爆ぜる悍ましい音と共に血肉の雨へと変わった。
全身を消し飛ばさなかったのは、あくまで目の前で消えた壊理の行方を問い質すためだ。このまま質問を投げ、答えなければもう片方の腕を、それでも答えないなら脚を、と順番に分解していくのが彼のプランであった。
しかし。
右腕を失った怪物は、苦悶の声を上げるどころか、瞬きの間に欠損した腕の肉芽を膨張させ、一瞬にして元の状態へと『超再生』させてみせたのだ。
さらには、ただの再生ではない。失われた右腕が復元した瞬間、怪物の頭上に
『(……チッ。面倒な“個性”を持ってるな)』
圧倒的な身体能力と、腕の欠損程度であればどうとでもなる再生能力。
この路地裏で自分一人で相対するには手に余ると即座に判断したオーバーホールは、この怪物を確実に捕獲し壊理の行方を吐かせるため、地形の利があり部下たちが待機している死穢八斎會の地下迷宮へと、あえて脳無を誘い込んだのであった。
───そして。
肺が焼け焦げるような激しい喘鳴が、ひび割れた空間に虚ろに響く。
それから、どれだけの時間が経過しただろうか。
何時間なのか、あるいは丸一日以上が過ぎているのか。休息も、食事も、睡眠も、生きるために必要な要素を何一つ満たしていない極限状態の中。
自身が怪物を誘い込んだはずの広大な地下室は、今や見る影もないほどに徹底的に破壊し尽くされていた。
「何故だ……何故、俺たちの“個性”の悉くが通じない……!?」
ひび割れたペストマスクの奥で、オーバーホールは血を吐くような声で絶望を口にした。
結果は、全滅。
周囲の瓦礫の山には死穢八斎會が誇る実働部隊『八斎衆』の面々はおろか、
残っているのは、極度の疲労とストレス、そして他者の血肉と泥にまみれた不快感から全身の至る所に悍ましい蕁麻疹を浮かべ、息も絶え絶えになったオーバーホール本人、ただ一人であった。
彼らは、決して無策で挑んだわけではない。
入中の“個性”で地下空間そのものを操り圧殺しようとし、玄野の針で動きを遅延させようとし、乱波の連打で粉砕しようとした。
最初は、確かにそれらの攻撃は通用していたのだ。怪物は壁に潰され、針に貫かれ、打撃で肉体を砕かれた。
だが、戦闘が長引くにつれ、異常事態が発生した。
気づけば、入中の操作するコンクリートの壁は怪物の肌を傷つけることすらできなくなり、玄野の針は皮膚に弾かれ、乱波の打撃は根こそぎ威力を殺されるようになっていたのだ。
そしてそれは、オーバーホール自身の“個性”にも例外なく及んでいた。
路地裏で初めて会敵した際、確かに腕を消し飛ばしたはずの『分解』の力。しかし、この地下室で何度怪物の肉体に触れようとも、今は全く傷一つ負わせることができなくなってしまっていた。
どれだけ長い間、総力を挙げて死闘を繰り広げようとも。
眼前の純白の怪物は、疲労を見せるどころか一切のパフォーマンスを損なうことなく、たった一人でオーバーホール率いる死穢八斎會を壊滅へと追い込んでしまったのだ。
「この、バケモノがああぁぁぁッ!!」
血走った目で絶叫し、オーバーホールは最後の足掻きにと、床を蹴って眼前の怪物へと駆け出した。
残された全精力を右手に込め、必死の形相で純白の肌へとその手を突き出す。
肉と肉が激突する、生々しくも硬質な音が弾けた。
オーバーホールの五指が、確かな感触と共に怪物の胸板へ深く突き刺さるように触れる。
対象を細胞レベルで分解する、破格の“個性”。
「───」
しかし。
怪物の胸板は、チリに帰すどころか、ほんの僅かな罅割れすら起こさなかった。
相変わらず五体満足のままの怪物は、鬱陶しい羽虫でも払うかのようにゆっくりと腕を振り上げ、オーバーホールの胴体へと無慈悲なカウンターの豪腕を振り下ろした。
肺葉から無理やり空気が叩き出される、重く濁った破裂音。
肋骨が砕け、内臓が破裂する致命的な衝撃。
オーバーホールの身体は鞠のように吹き飛ばされ、冷たいコンクリートの壁に激突して、血塗れのまま崩れ落ちた。
意識が激しく明滅し、視界が黒く塗り潰されていく中。
彼は口から大量の血を吐き出しながらも、自身の五指から伝わってきた
「(“個性”は……確かに、発動している……。発動しているのに、何故、こいつの肉体には効果が適用されない……!?)」
そう。個性が消されたわけでも、不発に終わったわけでもない。
分解のプロセスは確実に働いているのに、怪物の肉体そのものが、その異能の法則を根本から『拒絶』しているかのように機能しないのだ。
まるで、自身の“個性”の構造そのものを読み取られ、それに耐えうるように肉体の細胞が作り変えられてしまったかのような、理不尽極まりない現象。
「(……あの弾丸すらも、効かなかった……)」
薄れゆく意識の中で、視界の端に、先程撃ち尽くしたリボルバー式の拳銃と、転がっている薬莢が映り込んだ。
それは、彼の悲願の結晶。壊理の細胞を使って精製した、対象の“個性”を根本から破壊し消滅させる『個性消失弾』の試作品。
最後の手段として急所に撃ち込んだそれは、確かに怪物の肉体に弾着した。
しかし、驚くべきことに、眼前の相手からは一切の“個性”が奪われた痕跡すらなかった。自分たちを容易く蹴散らすあの超パワーも、奪われた傍から瞬時に回復していく超再生の能力も、そしてあらゆる攻撃を無効化する謎の力も、全てが健在のままであったのだ。
「(まだ……道半ばだ……。これからだっていうのに……ッ)」
オーバーホールは、歯を砕かんばかりに強く奥歯を噛み締めた。
壊理の特異な力を使って裏社会の理を支配し、自分が新たな魔王となって、斜陽の極道である死穢八斎會をかつての栄華へと復権させる。
そのために、自分を拾ってくれた恩人である『
ヒーロー症候群というこの世界の『病』を治し、真に正しい秩序を取り戻す。
その悲願が、何故、こんなところで出処も分からない正体不明のバケモノによって、理不尽に鎖されなければならないのか。
「(せめて……“個性”を完全に使用不能にする消失弾が出来上がっていれば……ッ!)」
明滅する意識の中で、後悔の念がどす黒く渦巻く。
自分が世界を治すはずだったのに。こんな、生命の理から外れた正真正銘の『
「(エリ……どこにいる……。お前が、俺の元から逃げなければ……なぜ、逃げた……)」
自分から逃げ出し、路地裏で泥に飲み込まれて消えた、あの白い髪の少女。
彼女さえ手元にいれば、こんな怪物などどうとでもなったはずなのに。
その未練がましい恨み言を最後に、オーバーホールの瞳から永久に光が消え、彼の意識は果てしない闇の底へと落ちていった。
こうして。
裏社会再編を目論んでいた指定敵団体『死穢八斎會』は、世間にその牙を剥くこともなく、たった一体の怪物によって、今日この暗い地下室で崩壊した。
血の匂いだけが充満する静寂の地下室に、粘り気のある汚泥が湧き上がるような不吉な音が響いた。
空間が黒紫色のヘドロによって歪み、その中から上質なスーツを身に纏い、顔の半分を生命維持装置のようなマスクで覆った一人の男がゆっくりと姿を現す。
「素晴らしい」
男───裏社会の真の支配者たる『オール・フォー・ワン』は、床に転がるオーバーホールと八斎衆の無惨な姿を見下ろし、そして、その中央で静かに主を待っていた純白のハイエンド脳無へと視線を向けて、心底からの感嘆の声を漏らした。
「あらゆる“個性”の攻撃を受け、その現象のメカニズムを瞬時に解析し、自身の細胞をアップデートして無効化する“個性”───『
オール・フォー・ワンの口元が、闇の中で深く、おぞましく吊り上がる。
「
主の歓喜に呼応するように、純白の怪物もまた、剥き出しの牙を見せて歪な笑みを刻む。
不可侵の空を墜とすためだけに生み出された『最高傑作』は、来るべき死闘の時を待ちわびながら、深淵の底でただ静かにその牙を研ぎ澄ましていた。