天剣へと至る愚者   作:一般通過害悪

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ベガリット大陸
大陸の大部分が砂漠だが唐突に途切れて森や山がある土地。
多くの迷宮や魔大陸の次いで強い魔物が多い危険地帯。
なお、王級や帝級の間程度の実力があれば可能とされる。
可能というだけで一人での横断を行うのは余程の命知らずか死にたがりである。


迷宮編・序章

甲龍歴423年◯月◯日

剣の聖地での日程。

午前:2時間おきに剣神と水神との稽古。

午後:ジノ・ブリッツへの指導もとい稽古

 

レイダさんとガルさんの訓練を終えて、お昼時。

剣の聖地でのご飯は基本的に肉と魚、そして、味噌汁や寒いなかで取れる麦を脱穀し炊いて食べるのだ。

 

健康的でとてもいい。

ご機嫌な昼食だった。

 

一応は、剣神からの来客ということで衣食住は用意してくれるらしい。ただ、もらってばかりでは、申し訳ないので、時間があれば、お手伝いをしてみてもいいのかも知れない。

 

食事を終えて、事前に用意してくれた場所に移動すれば既に一つの影があった。

 

そう、ジノ・ブリッツである。

年齢は僕より上なので一応敬語で話すことにした。

軽く自己紹介を終え、改めて剣聖ジノ・ブリッツと模擬戦を行うことになった。

 

模擬戦では、相手の力量と共にこれから行う指導内容が変わったりするから。

 

無論、僕が勝った。

ただ、伸びしろは感じれた。

昨日戦った三人、イゾルテ、ニナ、エリスよりもあると見る。

 

ただ、どうしても、一つ足りないものがあるように思える。

素質は十分。それを為すことの出来る肉体も満点だ。

ガルさんに聞いた感じでは、幼馴染のニナさんと五分五分だと聞いたがどうにも、彼女程度に負けるような手合いには見えない。

 

彼に足りないものは何か。

少し思考し、問いかけてみた。

 

何か斬りたいものはあるか?

 

その問いに、ジノさんの表情は変わらない。

問の答えは「特には」と答えた。

 

次に問うのはなんで、剣を始めたのか。

無論、嘘はつかずに本当の思っていることを言うように強制する。

 

ジノさんは答えてくれた…と言うより、こっちが答えさせたのが正解か。

 

あくまで親にやらせられたからやっていたに過ぎず、自分の意思でやりたいと思ったことなど、一度もない。他の子どもたちも当然のようにやっていたし、剣帝である己の父と、剣神の妹である母は、自分が技を学ぶと褒めてくれた。

 

そこから、自分の意見なんぞは無くただ惰性でやってきたということなのだろう。

 

つまり、ジノさんに必要なものは一点集中するための目標だ。

 

そこで、何かしたいことがあるかとジノさんに聞いてみるが答えは芳しくない。

 

そこで、一つ、思いついたことがある。

 

僕はこう投げかける。

 

ニナさんのことはどう思っていますか?率直に言えば結婚したいとか、自分のものにしたいとかそんな感じのこと思ったり?

 

そうすれば、見て分かるほどにジノさんの耳が赤くなったことに気が付いた。

 

ジノさんはニナさんの事が好きなのだろう。

 

 

そこを見逃さずに僕は畳み掛ける。

ニナさんの父は剣神ガル・ファリオンだぞ。自分よりも弱い相手に可愛い娘を渡すと思うか?

 

ガルさんのことは、僕よりも知っている筈のジノさんは首を横に振った。

 

と言うわけで。

 

「ニナさんを娶る為に、剣神を倒す気はありますか?」

 

と聞いてみれば、ジノさんは即答でもちろんと答えた。

 

今日からジノさんの目標は、「幼馴染のニナ・ファリオンを妻として娶るために剣神を倒す」にシフトした。

 

見て分かるほどに、ジノさんの瞳に輝きが宿ったことが分かった。

 

よしよし、やりたいことを明確化すればそれまでの道程もわかりやすくなる。

 

一先ず、やる気を出すことには成功した。

 

ここからの稽古内容は、まっすぐに剣神流を一点に極めることだ。

 

稽古して分かったが多くのことをやるよりも一点特化で鍛えるほうがジノさんは遥かに伸びるだろう。

 

僕みたいに色々とやることを増やすのではなく、ただ一点。長らくやってきた剣神流を極限まで鍛えることでジノさんは剣神であるガル・ファリオンを越える事が出来るはず。

 

取り敢えずは、基本的なことから始め、闘気の扱いを教えることにする。

 

 

甲龍歴423年◯月◯日

剣神と水神の稽古をしながらジノさんの指導をすること一ヶ月。

 

まず、ガルさんとの稽古は学びが多くてめっちゃ楽しい。特にガルさんは教え上手で、その場、その場で適切な判断力が養われていくのを感じる。

 

レイダさんとの稽古は、概ねいつもの感じ。

 

次に、ジノさんの伸び代についてだけど、これは想像以上だった。

 

数週間もすれば、僕と打ち合えるようになったのだ。

一を知ると千を知る人物だったよう。

 

稽古を見に来たガルさんからしてもジノさんの変わりようは驚きだったのか、何をしたのかと聞かれた。

 

目標を明確にしただけだと言うとなるほどぁと納得した声色を出していた。

 

ちなみに、ガルさんにジノさんの目標は伝えていない。それはジノさんが剣神に言わなければいけないものだと考えたから。

 

 

 

甲龍歴423年◯月◯日

そこから四ヶ月後。

ジノとの稽古に勤しんでいると、ガルさんが一つの手紙を僕に差し出してきた。

 

差出人はパウロから。

どうやら、ゼニスの救出が困難であり救援を要するらしい。

 

僕はその知らせを聞き、すぐさま、レイダさんに接触。剣の聖地を空けることを伝える。

 

レイダさんはため息を吐いて言う。

 

「勝手にしな。こっちも、半年くらいは邪魔する予定だからね。それまでに戻ってくるならどこへだって行くといいさね。イゾルテには良い感じに言っとくからさっさと行ってやんな」

 

要する、半年経つ前には戻ってこいと言われた。

早速、荷物をまとめていると、イゾルテさんが部屋を訪ねてきた。

 

どうやら、レイダさんに聞いて来たという。

 

イゾルテさんが引き止めたりすることはなかった。

彼女の性格から無理に引き留めたりはしないことはもとより知っていた。

 

ただ、もう一度会えることを祈るように静かに抱擁された。

いい匂いと柔らかな感触。

その温かさによって、自然と力が湧いてくるのを感じた。

 

「また」

 

短い言葉を交わしてイゾルテさんは戻っていった。

 

荷物を持って、ジノに稽古内容を書いた紙を渡して剣の聖地を出発した。

 

向かう場所はアスラ王国のウィシル領。

普通であれば、アスラ王国へ向かいそのまま船を使って行くのであろう。ただ、僕の体力であれば南下して全速力で走った方がいくらか速いのだ。

 

加えて、ウィシル領とベガリット大陸の間には郡島があるのでそれを飛び越え向かうのが一番手っ取り早い。

 

と言うわけで、休みなく進むことにする。

 

甲龍歴423年◯月◯日

剣の聖地から出て三週間程度でウィシル領の町にたどり着いた。軽く休憩がてら一日中寝ることにする。

休みなく三週間も進みっぱなしとなると流石に疲労が溜まる。加えて、ベガリット大陸の迷宮都市ラパンまでもそこそこあるので休みは重要だろう。

 

後はベガリット大陸の魔物の情報についても改めて振り返っておく。

 

 

甲龍歴423年◯月◯日

山を越えて谷を飛び越えて、一面砂漠のベガリット大陸で地に足をつけた。のは、いいが休める時間などありはせず。

 

ここ、2週間分の日記を書きそびれてしまった。

 

そう、なんやかんやありつつ、迷宮都市ラパンまでたどり着いたのだ。

 

まずは、闘気流しを使用、パウロの闘気を探せば一つの場所を確認した。

 

扉を開ければ、少し窶れたパウロと兄ルーデウス、リーリャさんという見知った顔と仲間なのだろうドワーフと金髪縦ロール、猿顔の男、その他が居た。

 

「少し、遅れたみたいですね」

 

そんな感じのことを言ってみれば、いいや、心強い援軍だと迎え入れてくれた。

 

「改めて、レイモンド・グレイラット。母さんを助けるため尽力させていただきます」

 

こんな感じでパウロたちと合流した。

ここから簡単にこれまでの整理に移った。

 

初めましての、ドワーフがタルハンド、金髪縦ロールがエリナリーゼ、猿顔がギースと自己紹介を。

 

ここには、兄の師匠であるロキシーもいたらしいが一ヶ月前に転移トラップに掛かり行方不明だそうだ。

 

ミリシオンでロキシーとタルハンドに出会った事。

情報を手に入れ、ベガリット大陸へと渡ったこと。

そこそこ充実したパーティ編成のおかげで、なんとかラパンまでたどり着いた事。

そこでギースと再会し、ゼニスの居所に見当がついたこと。

 

ここまではいい。

 

母さんの居場所はここから一日行ったところにある迷宮に囚われている。

なお、囚われているとは言ったが本当にその場所に居るのかも怪しいとか。

 

ギースさんはこう続けた。

 

「その迷宮ってのが古くて厄介な迷宮だ。この一年、オレたちは何度もアタックを仕掛けたが、どうにもうまくいかねえ。迷宮探索のプロが四人も集まって、半分も攻略できてねえ。情けない話だ」

 

迷宮探索なんて始めてである。

しかも、その迷宮はここいらでも難易度の高いSランクだとか。

 

はてさて、どうなることやら。

 

………と思いきや矛先はよい方向に変わった。

 

なんでも、兄が転移の迷宮を題材に描かれた本を魔法大学から持ってきておりある程度の構造が分かったのだ。

 

都合良すぎ。

 

そんなことを思ったがまぁ、これも星の巡りと言うやつだろう。

有効活用しながら、チーム編成を始める。

 

メインアタッカー兼索敵要員の僕

サブアタッカー兼僕のサポートのパウロ

サブアタッカー兼ヒーラーのルーデウス

タンクのエリナリーゼ

フレキシブルのタルハンド

司令塔兼雑用のギース

 

「まずは最初の目標だが、第三階層だ」

 

フォーメーションを決めた後、パウロはそう宣言した。

 

「そこで、ロキシーの行方をハッキリさせる」

 

ロキシーが生きているかどうかはわからない。

だが生きていた場合は、彼女を保護し、一度迷宮から戻るとか。

 

彼女の具合次第では、彼女にもパーティに加わってもらい、迷宮の奥へと足を踏み入れる。

 

7人で未踏の4階層から先を探索するのだ。

自分の出来ることを共有した。

 

「それでだが。レイ。ロキシーの闘気………いや、魔力だったか。その技とやらで、感知できるか?」

 

そう聞かれた。

 

「すみません。現状では不可能です」

 

僕の言葉に肩を落すパウロだったが、直ぐ様、兄が僕の言葉の含みを突いてきた。

 

「現状では、と言うことは何か条件が揃えば探せるということですか?」

 

「うん。僕の探知能力は知らない人物だったら、その人物を探すために魔力の残滓を僕自身が分かっている状態じゃないと探知できないんだ。えっと、簡単に言えば、ロキシーさんが身に着けていたものなどがあれば探知ができる……と言う感じ」

 

なるほど!と直ぐ様、ロキシーが所持していたらしいものを持ってくる女性陣。

 

「これで、ロキシーさんの魔力は探知できるようになりました」

 

そこから明日、出発となった。

 

 

その日の夜。

パウロ、リーリャ、ルーデウス、僕が同じ部屋になった。どうやら、ギースさんが気を回したらしい。

 

そこから、4人で水入らずで会話をした。

兄が話すのは学校でのこと、結婚したこと妊娠させたこと、ノルンとアイシャのこと。

 

結婚??妊娠??と思ったがどうやら、手帳に書いてあった緑髪のエルフ、シルフィエットさんのことらしい。顔が思い出せないので適当に会話を合わせる。

 

ノルンとアイシャについて。

アイシャは、メイドとして家のこととシルフィエットさんの世話をしてくれているので、関わりは自然と持てれているが、ノルンに至っては、寮生になったので接する機会が極端に少ないとか。

 

兄の話が終わって、次は僕の番となった。

自分の事を除く殆どの記憶が戻ったこと。

これまでの武者修行の旅。

 

そこから、良い人は居ないのかも、女の一人ぐらいは抱いたかなど下世話なものをパウロさんに聞かれ困ったが、リーリャさんが窘めてくれるおかげでなんとかなった。

 

あと、剣の聖地からここまでどう来たのかと聞かれたが、三週間でウィシル領に移動、その後、島々を飛び越え、2週間で北の砂漠からからここまで横断してきたと伝えると、化け物を見るような目で見られた。

 

この視線に慣れてきた自分自身にちょっとアレだった。

 

それと、兄にはエリスについては伏せておいた。

剣の聖地でのエリスの様子から見て伝えずにいたほうが後々、彼女と兄の為になるのだろうと思ったから。

 

 

さて、取り敢えずは明日に備え寝ることにしよう。

 




蛇足
ジノさん→ジノに変わったのは関係に進展があったので意図的なので気にしないでください。
原作とは違い、ノルン、アイシャの二人とルーデウスの関係については、あんまり進展してないです。
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