甲龍歴423年◯月◯日。
転移の迷宮に到着。
僕はギースの指示をもとに後ろで常時、
ちなみに、このスピリット・フローと言う読みは兄さんに頼んだらつけてくれたものである。
僕としてもカッコいいと思ったので文句なし。やっぱり、こう言うのを頼んで正解だった。
今後は使用する際につぶやくことにする。
さて、自分で一々書くのもそろそろ面倒になってきてはいるが、自分のことをしっかりと把握するために闘気流しの仕組みを振り返っておこうと思う。
1既知のものや人物の魔力の残穢を辿ることが可能
2知らない人物や物を探すときは、その人物が身に着けていたものなどに付着している魔力の残滓を辿る必要がある。
3有機物、無機物に関わらず魔力さえあれば探知が出来る。
4魔力が無ければ探知は不可
要するに、魔力があれば僕はある程度探知が可能なのである。
さて、ここで今回潜る迷宮について振り返ろう。
転移の迷宮
その名の通り、転移のトラップが多く存在している。
ただ、この闘気流しを使用することで事前にどこにトラップがあるかを知ることが出来る。
これによって、僕を含めたメンバーは一度も転移のトラップにひっからずに抜けることが可能なのだ。
もちろん、デメリットと言うより出来ないこともある。
1魔力の無い原始的なトラップは探知できないこと。
これは、ぶっちゃけて言えば考えなくていい。
レイドとの特訓により目と頭の使い方は叩き込まれているから問題にはなっていないのだが。
初めての迷宮ということで事前に話していた打ち合わせ通りに進んでいった。
ギースが先頭
僕が次。
パウロがサポート。
タンク役のエリナリーゼ。
エリナリーゼの後ろにルーデウス。
そして、後ろに控えるタルハンド。
僕は、時々に応じて剣神流で攻撃、水神流でのタンク、北神流での臨機応変に。
前のギース、背中のパウロを中心に、場合によれば、全員のフォローを行う。
魔物と遭遇したがそこは、パウロが先行して倒してくれた。色々と強者と稽古や実戦をしてきた僕でもパウロは普通に強く見えた。なぜだろうと聞いてみたら鍛え直したとか言っていた。
とはいえ、陣形が崩れるような行動な為、パウロはエリナリーゼから苦言をもらう。
それに軽口を言うパウロ。
同じパーティーだった時からこんな感じらしいので気にしないようにする。
まぁ、倒す事に僕と兄をちらちらと見てきた行動から、察するに、僕と兄にカッコいいところを見せたかったからだろうと簡単に分かった。
兄は表情にこそ出てないがうざいとでも思っているのだろう。
あと、ここで重大な事実が発覚した。
そう、エリナリーゼは兄の嫁のお父さんのお母さんに当たる……いわば、おばあちゃんだというのだ。
つまり、義理のおばあちゃんとなるわけだ。
僕目線で言えば、エリナリーゼのことは昨日あっただけでよく分からない人なのでパウロが落ち込んでいた理由は分からない。
何が嫌なのだろうか。後でパウロに聞いてみることにしよう。
出来るだけ、兄の魔力消費を抑えるために積極的に魔物を処理しながら先へと進む。
兄の魔法は便利だが、とっておきとして温存しておいて損はないのだろうと考えだ。
それに、迷宮の本を読んで記憶したとは言えそれがその通りとは限らない。切り札はなるべく温存する。
僕については一ヶ月は休みなく動き続けることが可能なので問題はない。
レイドとの素の体力を強化する訓練が役に立ったというところ。
蜘蛛の巣を突破し、その奥にある転移の魔法陣を踏む。通路を歩き、また別の蜘蛛の巣を目指す。そんな事を、迷宮に入ってから五度ほど繰り返した。
一度の転移の魔法陣に到着する時間は十五分ほど。
5回なので1時間とちょっとぐらいだろう。
僕が居ることによって、大幅な短縮が起こっているとパーティーからお褒めを頂いた。
2階層へ。
ここからは、巨大な鋼鉄の芋虫『アイアンクロウラー』が這いまわるようになる。
床の小蜘蛛はいなくなり、蜘蛛の巣も激減し土の地面がさらされている。
高さ1メートル、長さ2メートルほどの大きさを持つアイアンクロウラーは、ズングリとした印象を受けた。
頑丈でタフ、そして外見に似合わず速いと来た。
どうやら、パウロやエリナリーゼの二人では両断が不可能であるらしい。
とはいえ、僕の、光の太刀の前では紙切れに近い装甲だったので問題なく。
兄が何か言いたそうな顔をしたが、見なかったことにする。
言いたかったのはおそらく、俺の出番取るなよ的な言葉だろう。
まぁ、何もない以上に越したことはない。
体力の消耗はなるべくないほうがいいのだから。
ここで一旦、休憩に入る。
と言っても、基本的に戦っているのは僕だけなので僕の心配からだろう。
見張りはタルハンドが積極的にしてくれるらしい。彼も彼で何も出来ていないことに思うところがあるのだろう。
もうすぐ第三階層ということでギースに呼ばれ兄と一緒に情報を精査する。
ロキシーがどこにいるのか。
それを探す方法は僕の闘気流しによる探知と迷宮について書かれた本にあった転移の魔法陣は他階層に繋がっておらず転移の魔法陣が発動した階層のどこかに飛ばされるという情報。
それを鵜呑みにするのであればロキシーは三階層の何処かにいるとされる。
頼りにしてるぜとギースに軽く肩を叩かれ、兄には頼んだぞと期待いっぱいの言葉を頂いた。
ここまで来れたという実績を踏まえてだろうか、何と言うべきか、期待に応えないといけないような圧が凄かった。
特に兄の方が。
ちなみに、闘気流しの使用によって既に2階層は殆ど穴がなく埋まっている。
さて、休憩もそこそこに出発した。
三階層に着いた。
ロキシーの場所はすぐに分かった。
「ロキシーさんの居場所は「神の気配がします」えっと?」
伝えようとしたら、直ぐ様、兄が言葉を遮り場所を特定した。探知系統の魔法は無かったはずなのだが、どうやら、兄には分かるらしい。
何を言ってるんだコイツと思っていたら一瞬で壁をぶち破り駆け出した。
「兄さん!? 」
僕も慌てて、それに並走する形で走る。と言っても、兄よりは身体能力は上なのですぐに追い越すことは可能だ。
とはいえ、あそこまで、取り乱した兄の表情は見たことがなかった。故にサポートしようではないか。
「僕の指示通りに地面を踏みしめ進んでください。最短で届けます!」
兄はそれに助かる的なことを言っていたと思う。
そうして、ロキシーの救出してギースの判断で一度、地上へと帰還へと相成ったというわけである。
甲龍歴◯月◯日
ロキシーを救出し拠点に戻ってきた。
今日と明日か数日程度の休みをすることになった。
救出したのはいいが、兄はこっぴどく、パウロやエリナリーゼからお叱りを受けていた。
なぜかと言えば、救出できたと言え最悪、転移の魔法陣を踏みどこかに飛ばされ遭難するところだったからだ。
まぁ、これについては仕方ない。
ロキシーについては丸一日眠り込んだ。
まぁ、まる一ヶ月ダンジョンで過ごし魔物の影に怯えながら過ごしていたことで十分な睡眠が取れていなかったのだろうから仕方が無い。
甲龍歴◯月◯日
ロキシーの体力が回復した。
「この度は、お手数を掛けました。わたしはもう、大丈夫です」
その反応は様々だ。
一応、リーダーであるパウロが答える。
「ま、礼ならルディに言ってくれ。ルディが突然『神の気配がする』とか変な事言い出して壁をブチ抜いて走りだして向かわなきゃ、見つけらんなかっただろうからな」
こんな感じで取り敢えずはいいとする。
こう聞くと兄さんってやべぇな。
そのまま、会議を始める。
迷宮に入り直すのが三日後。
ロキシーの体力とかそういうのを気にしてか兄が早すぎるのではと言うと、パウロが答える。
どうやら、迷宮で死にそうな目にあった時、すぐに入りなおさないと、二度と迷宮に入れない呪いがかかっちまうとか。
どっかで聞いたことがあるような無いような記憶が巡る。
引っかかりが気になるが今は会議に集中することにした。
先日の迷宮探索での振り返りである。
まず、兄がやった無理やり壁をぶち抜くのは崩落の危険があるのでやらないように。
話し合いの結果。
とりあえず、次は第三階層の攻略を進め、展開次第、最低でも第四階層への魔法陣を見つけるまでは潜ると言う感じ。
フォーメーションをいじることになった。
行うのは後ろで待機していたタルハンド。
斥候にギース。
前衛は変わらずに僕、サポートにパウロ。
中間にエリナリーゼ、タルハンド。
後衛にルーデウス、ロキシー。
とう言う感じで解散となった。
甲龍歴◯月◯日
今日は休みなので楽しく素振りをしているとパウロが木剣を二つ持って手合わせをしてほしいと言ってきたのでやることにした。
木剣を構え、軽く間合いを取る。
パウロが使ってきたのはおそらくは上級の技、無音の太刀だ。
ここまで、規格外を相手にしてきたのでハッキリ言えば、スローに見える。
完璧なタイミングで、振り下ろされる木剣を弾き、そのまま喉元に先端を滑らせる。
「……俺の負けだな」
パウロさんは苦笑しながら複雑そうな誇らしいようなそんな顔だったと思う。
「強くなったな、レイ」
そう言われて、何と返すべきか少し迷った。
パウロの自尊心の傷つけぬようにどう言ったものか。
最終的に言った言葉はこれだった。
「いえ、僕もまだまだです。誰よりも強くなる……その目標にはまだ届きそうにないですから」
「…………ああ、そうだったな。世界最強。その目標は子供の頃から変わってねぇのな」
パウロは木剣を下ろし、そのまま地面に突き立てた。
少しだけ目を細めて、僕の顔を見ている。
「子供の頃の稽古、辛かっただろ」
急にそんなことを言われた。
記憶の端で、何度も木刀を落とされ、泥にまみれて起き上がった自分の姿が写る。
「……ああ。うん。そうだね」
正直に答えると、パウロは短く息を吐いた。
「悪かったな。あれは……初めて息子に、父親らしいことができるって、つい熱が入っちまったんだ」
珍しく、素直な言葉だった。
いつもの軽口が混ざっていない。
「でも、お前は一度も投げ出さなかった。それが俺にとっては……誇らしくて嬉しくて。気付いたら、もう、お前は俺なんかじゃ相手にならなくなるまで強くなっちまった」
らしくなく、パウロは過去を振り返っていた。
「なぁ。レイ。ぶっちゃけて言うと、俺はルディよりもお前に……親としての実感を強く持ってる」
そこで一呼吸置いて、パウロは続けた。
「ルディは頭が良すぎて、俺にはよく分からねぇ。一歩引いたところがあるだろ? アイツ。でもお前は……俺を頼ってくれて、稽古してるときも、負けず嫌いな目で俺を見てた。あの目が、俺を父親にしてくれてた」
少し照れ臭そうに、頭を掻いた。
「だから、その、なんだ。強くなって戻ってきたお前を見て、ホッとしたし、嬉しかった。同時に……少しだけ寂しくもあった。もう、俺が教えてやれることがほとんどねぇみてえで」
木剣を引き抜き、肩に担ぐ。
「ま、父親として情けねぇ話だがよ。お前が『誰よりも強くなる』って言ってる限り、俺は応援する。親としてな」
そう言って、パウロはいつもの調子の良い笑みを浮かべた。ただし、目だけは少しだけ真剣だった。
「……ありがとう、父さん」
短くそう返すと、パウロは「おう」とだけ言って、軽く俺の頭を軽くわしゃわしゃと撫でた。
「もう一本頼めるか? 時間もあるしな」
稽古を通じて、今度は教えられる立場から教える立場へとなったように思える。
子供の頃に感じていた「厳しい父」の記憶と、今の「少しだけ素直な父」の姿が、静かに重なる。
うん。この人は僕の父なのだろう。
不器用でクズでどうしようもないけど、父親として頑張ろうとする姿は確かに心に響いた。
あと、エリナリーゼについて聞いてみたが、わっしょいだった。
甲龍歴423年◯月◯日
転移の迷宮の攻略は順調だ。
一〜三階層はほぼ網羅し、四階層に降りてきた。
苦戦という苦戦はなくマッピングしていく。
ギース曰く、僕の影響が大いに有り比較的簡単に運んでいるようだ。
なお、2日で三階層のマッピングは終わった。
ゼニスの影も形も掴めていない。
休憩中に、兄とロキシーが会話をしているのが見えた。兄は既婚者であるというのに、他の女性にうつつを抜かしていいのだろうかと疑問は持ったが、そういうものだと、敢えて何も言わないようにした。
パウロの血をしっかりと受け継いでいると言えば当然と言えば当然か。
甲龍歴423年◯月◯日
足りなくなったものもあり買い足しをしていた。
パウロとエリナリーゼから誘われ屋台の剣を見て掘り出し物がないかを調べ、パウロが一つのナマクラを買った。
というのも硬いものほどよく切れる魔剣だとか。
甲龍歴423年◯月◯日
第四階層〜五階層を攻略した。
明日は第六階層へ進出する。
甲龍歴423年◯月◯日
第六階層、最奥へと辿り着いた。
驚くほどにスムーズに行けた。
ここが、本に書いてある最後の場所なのだろう。
今は兄が思考に耽り、考え事をしているの。それを護衛するのが僕の役割となった。
他、4人は兄の思考の手伝いである。
この最奥は、階級主(ガーディアン)と呼ばれる強力な魔物へと続く道だとエリナリーゼ、パウロが言っていた。
階級主へと続くだろう転移陣は三つ。
正面、右、左である。
ただ、本にはこう書いてある。
『魔法陣は三つ。そのうち二つはランダム転移を引き起こすものだとすぐに分かった。そのため、我々は正解と思われる魔法陣の前に目印の石を起き、乗った。しかし、それは罠だったのだ。私は見知らぬ空間へと飛ばされた。黒く、ヌメヌメとした体を持つ悪魔がひしめく空間。そう、イートデビルの巣だ。奴らは私を見た瞬間――』
目印の石、という物はすぐに見つかった。
綺麗に磨かれたこぶし大の石である。
その表面には、6という数字が刻まれていた。
今までの階層には無かったもの。
消去法で正面は違うとなる。
残りは二つ。
どちらが正解か。
それを熟考する兄の背中を見つめる。
ここで、僕一人で入って戻ってくるのも有りじゃないかと提案してみたが却下された。
何もわからない以上、僕という戦力を無為に亡くしてしまうリスクを冒してするべきではないと。
正論である。
取り敢えず、兄が考える時間がほしいと言っているので待つことにする。
数十分後、流石と言うべきか。
兄はもう一つの選択肢を見つけた。
そう隠し階段というやつを。
よくやったという背中をポンと叩く流れができたので僕もやっておく。
パウロの判断で装備の確認をして、進むことになった。
そうして、魔法陣を踏む。
蛇足
今作でのパウロはレイモンドが居る影響から、精神は安定しています。ルーデウスという優秀な子供と剣術では自分を超えたレイモンドを頼りにしています。
優劣はつけてないですが感情的にはレイモンドに少し寄ってますが、ルーデウスとレイモンドの2人は可愛い自分の子供であることは変わってません。
レイモンドについて。
敬虔なミリス教徒のイゾルテと長く居たことと、転生者という二つの関係から一夫多妻に不信感を持っています。ただ、そういうものだと考えて否定することはないかと。
次回、ヒュドラ戦。