Reichs Adler   作:Aa_おにぎり

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#10

「出港!」

 

翌日、再び五日間の航海に赴くこととなったプリンツ・アーダルベルト。

海上基地からはほかにも同様に教育艦が出港を初めていく。

 

「今日からまた五日間の航海だ。よろしく頼む」

 

露天艦橋に立って彼女は真っ直ぐ大海原を見る。アレクサンドラは仁王立ちで腕を組んで伝声管を使って指示を出すと、船内の各所から返答が返ってくる。

 

「機関長〜」

「ん?どうした」

 

そこで伝声管を通して聞いていた機関助手のフリーデグント・クルップが聞いていた。

 

「なんか今の声、艦長ちょっと強張ってません?」

「そうか?普通に聞こえた気がしたがな…」

 

ベルタは違和感を覚えなかったが、微速前進の指令通りに機関を操作する。

 

「(此度の航海は艦長が態と航路を外れて遭難することとなる。今のところ体調に変化は無し…)」

 

彼女はそこでアレクサンドラを見て今回の航海で確実に修羅場になることが確定するので、エーリカは彼女を見ながら思慮を巡らせていた。

 

「どうした。副長?」

「どうかされましたか?」

「…いや、なんでも無いなら良い」

 

その時視線に気がついて聞かれたのでエーリカは平静を装って答えた。

 

「…副長」

「?」

 

そこでアレクサンドラはエーリカに質問をした。

 

「君の家は、どんな家だった?」

「?私の家は普通の家でしたよ。元々、ロシア革命で亡命してからは没落してしまった家ですからね」

 

質問をされたエーリカはそう答え、家の話をする。

 

「一応貴族の最低限のマナーとして食事の作法は学びましたが、それ以外はただの一般家庭と同じ雰囲気でした」

 

彼女はそう言うと、アレクサンドラは少し目を俯かせた。

 

「そうか…いいご家族だな」

「ええ、いい家族だったと思っていますよ。…しかし、いきなり何故そのような事を?」

 

唐突なその質問にエーリカは首を傾げると、アレクサンドラは訳を話す。

 

「…少し、余の家のことを思い出していた」

 

彼女は昨日、ロッテンベルクに呼び止められた時に家の話を持ち出されたことで忘れていたような気がしていたことを胸の内に収めていた。

 

「大きな一族なのですよね?」

「ああ、余の一族は察しているだろうが貴族の一家だ」

「…意外でした」

 

エーリカは純粋に驚いた顔をすると、その顔を見てアレクサンドラも意外な顔をする。まさか気がついていなかったのかと思って思わず笑ってしまった。

 

「…ふっ、そうか」

 

こう言う真面目に見えて少し抜けている部分があるのが彼女らしいなと内心で思いながら続ける。

 

「まぁ、余の家は色々と事情がある故、国を出て旅行に気軽に行けやしない。

だから気軽に海外に赴け、海に出ることができる海洋学校に行きたいと願ったのだが、これもお父上や周りから色々と言われてしまってな。校長にも迷惑をかけてしまった…」

 

彼女はそう話すと、そこでエーリカに言う。

 

「副長。今回の航海が終わったら皆でパーティーを実施したい」

「はっ、畏まりました。主計科に依頼をして準備させましょう」

 

彼女は頷くと、その後に伝声管に向かって指示を出す。

 

「航海長、航路変更。今から余の指示通りに進路変更せよ」

『えっ!?』

「(来たっ…!!)」

「沿岸を外れ、直進して目的地に向かえ」

 

操舵艦橋でエリスの驚いた声がすると、エーリカは遂に課題が始まったことに身構る。すると彼女の隣でアレクサンドラの隣でアンネリーが言う。

 

「艦長、そのコースですと低気圧帯に突入します。嵐が多発する海域に突入することになります」

「構わん。余の指示の通りに進みたまえ」

「しかし…」

 

アンネリーすら知らない話であるため、一歩後ろでエーリカは静かにやりとりを見ていた。

 

「(このルートを進めば、艦長は非難される。…課題だと分かっていても辛いですね)」

 

ロッテンベルクの鬼のような課題。艦長という立場であるために、折角得ようと努力していた信頼を打ち崩すような行為に、最初の演説で『友となりたい』と言ったアレクサンドラには酷な話だと思った。

 

「余は艦長だ。全ての責は私が負うもの。そうだろう?」

「…」

「ならば余の指示に従いたまえ」

 

ーー異論は許さん。

 

彼女の目元には鋭い、独裁者のような威圧感があった。

彼女はごく偶に、このような人を押し黙らせることができる雰囲気を作り出すことができる。どこで身に付けたのかは知らないが、彼女は人身掌握が驚くほどに上手かった。

 

「はい…分かりました…」

 

故に、バイエルン王族の分家であるアンネリーですら黙らせられてしまう。元々、長い付き合いの友人であることを加味しても彼女の『王』としての雰囲気がある様に見えてしまう。

 

「(ザーシャはどこでこんな勉強を…?)」

 

その一連の様子を見ていたエーリカはそこだけはいつも不思議でならなかった。今まで聞くこともなかったが、彼女は先ほどもそうだが色々と不思議なことが多かった。

 

「副長」

「はっ!」

 

その時、突然話しかけられたので思わずエーリカは声がやや裏返って返事をしてしまう。何かまた聞かれるのかと思うと彼女は言う。

 

「ウルズラのフランクフルターが食べたい。ブルートブルストの用意があるか聞いてくれ」

「…はっ!すぐにご用意いたしましょう」

 

少しいきなりな話に驚きはしつつ副長は言うと、彼女は操舵艦橋に行くと言って露天艦橋から去っていった。

 

 

 

その後、彼女にフランクフルターを持って行ったエーリカはアンネリーから話しかけられた。

 

「エーリカ、ちょっと良い?」

「どうかしたかしら?」

 

そこで二人は滅多に人の来ない予備部品保管庫に入って話す。

 

「今回のザーシャ、変だと思いませんか?」

「?まぁ、いつも以上に気を張っている気は済ますけど…」

 

エーリカは一部同意をすると、アンネリーも親友が同じことを思っていたことに安堵をして懸念を示す。

 

「何かあったのでしょうか…?」

「家の事で揉め事があったのでは?」

「ザーシャの家、ですか…」

 

全てを知っているエーリカは内心でアンネリーに謝罪をする。無論、彼女だから話したところで言いふらす様なことはしないだろう。

だが秘密は知っている人数が少ない方がいい。言いたくなる感情を抑え込んでエーリカはアンネリーと話すと、彼女はそれでも違和感が蟠りながら保管庫を後にする。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ーー三日後ーー

 

「やっぱり…」

 

アレクサンドラの命令で艦を進めていたプリンツ・アーダルベルトでアンネリーはタブレットを見て言う。

 

「艦長、この先に嵐があります!回避を…!」

「ならぬ。このまま前進せよ」

 

艦橋で遠くに曇天の影を見ながらアレクサンドラはどっしりと構えて指示を出す。

 

「しかし…」

「あの程度の嵐でこの艦は沈まぬ。良い訓練になるぞ?荒天操船だ」

 

不敵に笑う彼女は、側から見れば覇気すらある凄まじい雰囲気を纏っていた。いっそ自信すらある様子の彼女にエリス達も思わず息を呑んで指示に従うしかない。

 

「(艦長…慣れてない見張員の子が怯えていますよ…)」

 

エーリカはそこで顔を青くして震えているモニカ・エックハルト、オリヴィア・ローテンベルガーの両名に苦笑していた。

 

 

 

そして嵐に突入して三時間。

 

「うぉぉぉおっ!?」

「あばばばっ!」

 

船内ではあちらこちらでドッタンバッタンの大騒ぎ。食堂では思わず生徒達は机にしがみついていた。

 

「揺れてんな」

「機関長!よくそんな気楽に言えますね!!こんな状況で!!」

 

ヴェロナ・マッファイが制御室のバルブにしがみついて叫ぶと、彼女は豪快に笑う。

 

「ふはははっ!貴族たる者、どの様な出来事に対応しても動じないことが求められるのさ」

 

そこで前後左右に揺れて悲鳴が上がっている中でベルタは余裕を持った様子で笑っていてすらもいた。

他の貴族出身の生徒達も同様の様子でこの嵐の中でも優雅にコーヒーを飲む余裕すら見せていた。

 

「何なのよあの艦長!!」

 

そんな中で食堂で怒号もする。

 

「自分のミスで嵐に遭遇したのに嵐に突っ込めと!?バカにしているのか!!」

「落ち着きなさい」

 

激昂している生徒に砲術員のヨハンナ・フォン・ザウアーが諫める。

 

「うげぇ…」

「よ、酔った…」

「ト、トイレ何処…」

 

大きく揺れる船内でひどい船酔いに遭う人物すらいる始末。元々周り三方を陸地で囲まれているドイツでは海に慣れきっていない生徒も多く、船酔いが出やすいことも被害が拡大する要因であった。

 

「しかし被害も大きいですね。レーダーも故障してしまいましたわ」

「え?レーダーが故障?」

 

ヘルミーナは思わず振り向いてしまう。

 

「それって…」

「遭難しましたわね。私達」

 

レーダーが使えなくなったと言うことで全員が現在位置が不明となったことを把握すると、食堂では生徒達の不満が募り始めていた。

 

「副長!もう無理です!艦長に言ってくださいよ!!」

「副長と書記は艦長と仲がよろしいんでしょう。お願いしても?」

 

そこで貴族出身の生徒達からも圧をかけられると、エーリカは言う。

 

「そうですわね。…一連の行動は艦長としての余裕が招いた事。艦長も望んでいた艦艇、乗組員であったことに少し自信過剰になった可能性がございますわね」

 

彼女はそこで今の問題を踏まえ、しかし事情を知っているので少し控えめに言う。

 

「ただ、もう少し我々の安全を考慮して欲しいものですわね。これ以上同様の事態が続く様であれば私が指揮を取ることもやぶさかでは…」

「それは済まないな。自信過剰で危険な行動ばかりしていて」

「「「「っ!?」」」」

 

その時、食堂にいた誰もが驚愕をした。彼女の身長が小柄であったことからエーリカの影に隠れて食堂に入ってきていたことが見えなかったのだ。

 

「か、艦長…」

 

今の話を丸々聞かれていたのかとギョッとなってエーリカは振り返ると、アレクサンドラは言う。

 

「艦で起こる全ての事態は余の責任だ。…皆も部屋に戻り各々過ごせ。余からは以上だ」

 

それだけを言い残すと彼女は食堂を去ってしまった。

 

「艦長!!」

 

ヘルミーナが追いかけようとするが、彼女は何も聞かずに艦長室に消えていった。

 

「はぁ…」

 

そして部屋の奥、艦長私室として用意された部屋で彼女は制帽を取る。

部屋には最低限の荷物を持ち込んでいた。しかし彼女は趣味の狩猟で使用する複合銃(M30 Luftwaffe Drilling)も持ち込んでいた。

 

「…」

 

そして次に机の引き出しを開けると、そこには丁寧に折り畳まれたものがあった。

それを確認した後、彼女は静かにそれを取り出して机の上に置いた。

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