ミーナ達がスキッパーで接触をしてしまったクルーザーの持ち主のブリジット・シンクレア。
「お二人は何をしにここへ?」
そこで彼女の召使のキャリー・ビアレットから提供された紅茶を飲みながらアレクサンドラが聞いた。
「それは”て”…」
「て…?」
ブリジットが言いかけたところをキャリーが口元を抑えたことでアレクサンドラは首を傾げた。
「天気が良いので観光に来たのです」
そして慌てて彼女は言い換える。おい、最初がReから発音が変わっているぞ。
「もしよければドイツ艦の中を見学してもよろしいですか?」
「構わないが」
ブリジットにテアはすんなりと許可を出すと、アレクサンドラは驚いた様子で彼女を見てしまう。
「Really?ではぜひ艦橋など!」
「良いですよ」
ローザはテアから許可が出たことでブリジットに言うと、その横でアレクサンドラはテアにドイツ語で話しかける。
「いいのか?怪しいぞ此奴は」
「構わん。この者の目的を探れるのであればな」
英国人であればドイツ語は分かるまいと思いつつ、警戒のために小声で話した。
「はぁ〜、ドイツ艦の艦橋へ登れるなんて夢のようだわ」
ブリジットはそんな二人に気がついていない様子で話す。
「私、高い場所からこの愛用の単眼鏡で見渡すのが好きで……」
彼女はそう言いながら愛用の単眼鏡を探すが…。
「あ…あれ?…おかしいですね……」
「?」
彼女は身体中のポケットを弄り始めた。するとたちまち顔を青くさせた。
「わ、私の単眼鏡が…ない……」
「えっ」
彼女が言うと、ミーナ達は驚いてしまう。
「まさか、海に落ちた拍子に落としたのでは?」
「そんなに大事なモノなのか…?」
キャリーは言い、ミーナは愛用というくらいなのだからどのくらいのものなのだろうかと聞いてみた。
「海洋学校に上がる時に頂いた先代当主からのプレゼントなのです」
「えぇ!?」
すると思いの外重要なものだったことにさらに驚いてしまう。
「じゃあ今頃は海の底に……」
ローザは言うと、ブリジットは涙目で目をゴシゴシと拭いていた。
「無くしたモノは仕方がないわ!」
「「「「「えええ!?」」」」」
そして彼女の割り切りの良さに何度目かも分からない驚きをしてしまう。
「いかなる物もいずれ壊れ無くなるもの。とても寂しいことに変わりないけど……」
しゅんとしながら彼女は言うと、切り替えてドイツ艦艇に上がれることに喜ぶ彼女。
「大丈夫なんですか?」
「本人が良いと言っているのだから構わないんじゃなくて?」
ローザの不安にリーゼロッテが本人の言葉の通りにしようとした。
「駄目だ」
しかしクルーザーでアレクサンドラが言った。その時の彼女は強い口調だった。
「下賜されたものであると言うのなら尚更」
彼女はそう言い、自分が腰から下ろしていたレイピアに触れる。この剣も彼女が敬愛する親戚から海洋準備校に入学した際に受け取ったものであった。
「私に探させてくれ、ここらなら水深が浅い筈だ」
ミーナがそこで先ほどぶつけて海に落としてしまった謝罪も込めて真っ先に捜索に名乗り出る。
「それなら私も行くか」
「おう」
そこにレースに参加していたレンやレターナも言い、捜索に名乗りをあげる。
「エーリカ、手伝ってくれるか?」
『了解しました』
そこでアレクサンドラは携帯電話で状況を手短に伝えて理解すると頷いて答えられた。そして一式の潜水用具を内火艇に乗せてプリンツ・アーダルベルトから進発する。
「カッツヒェン、二人で見ておくぞ」
「分かった」
幸いにも行幸というべきか、単眼鏡捜索のためにブリジット達はクルーザーに乗ったままとなった。そこを艦長両名は彼女が変なことをしないかの監視も含めて乗り込んでいた。
「ブリジット・シンクレア。下賜されたものは生涯大切に使わねばならぬぞ」
「は、はい…!!」
そして彼女達が海に出る間、アレクサンドラは軽くブリジットに叱責をすると、彼女はその叱責に思わず身構えて背筋を伸ばした。
「ぷはっ」
そこで海面に顔をあげてミーナはシュノーケルとマスクを外す。
「くそっ…見つからないな」
「はぁ…こっちもだ」
レンも同様に海を泳いで探すが、単眼鏡のレンズの反射も確認できていなかった。
「暗くなってきたな…」
「そろそろ引き上げませんと、潜れなくなりますよ」
スキッパーに乗ってレターナが言うと、エーリカもスキッパーのフロートに捕まって沈みかけの太陽を見た。
「いかがですか?」
するとそこでキャリーがスキーパーに乗って話しかけてきた。
「見つかりましたか?」
「あ、えっと…キャビアちゃん」
「ピアレットとお呼びください」
ミーナの言い間違えにキャリーが苦笑する。まあこの場合は彼女のことを最初にキャビアと言ったブリジットが原因かもしれないが…。
「補給食とライトです」
そこで彼女はカゴの中にこれからの探索で必要になる物資を入れ手渡す。
「単眼鏡自体はどこにでもある地味なデザインですが、キーホルダーのエメラルドが良く光るのでそれを目印にしてください」
「な、なるほど。すごいな……そんなに高価なものだったんだな」
ミーナが言うと、そこでキャリーは強く反応を示した。
「その通りです!!」
「「「わっ!?」」」
彼女の突然の激昂にミーナ達はギョッとなって驚く。
「一体、あの単眼鏡にいくらかかるのか…!!もう想像しただけでも勿体ない!!」
「!!?」
ミーナは唖然としていたが、エーリカはその気持ちがよく理解できた。なにせ自分たちの艦長も同じような理由で持っているレイピアがあり、それが海に落ちたとなったら乗組員総出で探すところであった。
「オホン。必ず見つけてください」
するとキャリーは自分が激昂していたことに気がついて気を取り直した。
「それに…ブリジット様はああ言っておられましたが、やはり大切な物なのです」
「任せてくれ」
「よろしくお願いします」
キャリーは改めて頭を下げると、シュペーが近づいて探照灯を照射して夜でも捜索できる環境が整えられた。
その頃、クルーザーではお茶会が開かれていた。
「ふむ、フォートナン&メイソムのクイーンアンか」
「Marvelous!この味がわかるとは!」
「嗜む程度だがな…」
船上でテアは紅茶の茶葉を言い当てると、ブリジットは感心した様子だった。
「余はマンガラムの茶葉が好みだ」
「まぁ、美味しい産地ですわね」
アレクサンドラの紅茶の好みを聞いてブリジットは共感で何度も頷いた。
「それにしてもミーナさんたちには申し訳ない事を…」
「気にするな、アレがウチの副長だ」
「優しい子だ。皆な…」
そこで彼女達は今も海で捜索をしてくれている仲間達を思い出す。
「信じているのですね」
「ん?」「?」
その時、ブリジットにテア達は首を傾げた。
「フフフ、あなたたちの関係はとてもMarvelousだわ。でもこれ以上は迷惑をかけられない。やっぱり今から船まで送るわ」
彼女はそう言い立ち上がる。
「紅茶も淹れてきます♪」
そして卓上のティーポットも持って船内に入る。
「キャビアちゃん……はいないんだった」
そして片手でIH調理器の電源を入れる。
「んーと…確かこれだっけ?(いつもキャビアちゃんに任せているから分からないわね)」
彼女はそこで船に二人を送るために操舵室に入るが、キャリーに全任していたことで彼女は訳が変わらなかった。
ツルッ「わっ」
すると操舵室のシートに手を滑らせて彼女は頭をぶつけると、クルーザーのスロットルが下がった。
「「!?」」
するとその急加速でカップを傾けていたテアは驚き、アレクサンドラは勢い余って顔面に紅茶を被った。
「見つけたーー!!」
そして海底を捜索していたミーナは右手に単眼鏡を持って高く掲げていた。
「おお…!!これです!良かった!」
同じく海に潜って探していたキャリーも本物だと確認してひどく安堵する。
「やったな!」
「これでブリジット様も…」
その時、キャリーは聞きなれない音を聞いた。
「!?」
「どうした?」
その音の方向を見て驚く。
「あ…あれ」
「燃えてる?」
そこで洋上を見ると、波飛沫を立てて爆走する一艇のクルーザーがいた。
「ちょっと、あれって…」
「ブリジット様のクルーザーです!」
レンは見て驚くと、そこで乗っているはずの人を思い出す。
「おい、艦長達もまだ確かあそこに…」
「なっ!!」
ミーナはそこで目を見開いて驚くと、すぐに行動に移す。
「助けに行きましょう!」
そこでエーリカが叫んでスキッパーに乗り込んだ。
「何事か!!」
「これは一体…」
急発進したクルーザーでアレクサンドラとテアは操縦席を覗き込んだ。
「ごっ、ごめんなさい!急発進させた拍子に油が…」
そこではブリジットが慌てた様子で燃え盛る操縦席を背にしていた。
「消化器は!?」
「そ、操縦席の下…」
二人は同時に操縦席を見てしまう。
「(くそっ、炎が強くて操縦席に近づけない…)」
暴走状態のクルーザーに二人は対処に困った。
「艦長!」「ザーシャ!」
「ミーナ!」「エーリカ!」
すると二人はお互いのペアに確認をとった。
「大丈夫ですか!」
「駄目だ!火が回って止められない!」
「そんな…」
ミーナは燃えるクルーザーを見て歯噛みすると、乗っていたアレクサンドラが言った。
「飛び込むぞ!捕まれ!!」
「え?!この速度で!?危険だわ!!」
ブリジットは言うと、彼女は言う。
「エーリカ!」
「はっ!」
そこでアレクサンドラにエーリカは理解した様子でスキッパーをクルーザーと同じ速度に合わせた。
「ミーナ!」
「まかせろ!」
お互いに合図をすると、アレクサンドラが言う。
「飛べ!」
そして彼女が言うと、ブリジットとレイピアを掴んで海に飛んだ。そして続くようにテアも海に飛び込む。
海に飛び込むと、周りを海水が覆ってから直後に引き上げられた。
「艦長!」
「すまん。迷惑をかけたな」
そこでスキッパーに引き上げられてエーリカが確認を取った。テアもミーナに回収されていた。
「…あっ、そういえばあのお嬢様は?」
そこでスキッパーに乗っていたレターナは首を傾げると、少し離れたところで気泡が上がった。
「「ぷはっ」」
そこでレンが片手にブリジットを掴んで水面に上がっていた。
「怪我はないかい?お姫様」
「ごめんなさい…!」
ブリジットはそこでレンを見ると、彼女は平気な様子を見て安堵した。
「謝らないで。君が無事でよかった」
その時、ブリジットはややボーイッシュなところがあったレンにトキメキを覚えた。
「ありがとう… 」
その彼女達の後ろではスキッパーに乗ったキャリーが駆けつけてきた。