「ーーーで、その後炎上した船は壁に激突して沈没。人命救助とはいえ手放しで喜べない被害ですね」
「「「すみません……」」」
事故の翌日、海上基地で校長室でレン、テア、アレクサンドラの三名はマイヤーに帰港が遅れた理由について叱責をされていた。
「本来なら停学処分です。士官候補生である意味達が問題を起こすなど…」
「まあまあ、説教はそれくらいでいいじゃないか。マイヤー君」
説教をする彼女にロッテンベルクが言う。
「学長」
「若い頃の火遊びなど、君も良くやっただろう」
「同期に釣られてです」
キッパリというが、妙にその顔には思い出補正が混ざっていて少し異様に見えた。
コンコン「失礼します」
「ベロナ!」
「あら、あなた達」
すると校長室のドアがノックされてクローナが入ってきてアレクサンドラは少し嫌な顔をしてしまった。絶対、面倒事になると分かったからだ。
「丁度いいところに来てくれた」
ロッテンベルクはクローナを見て言うと、四人を見る。
「ビスマルク、アドミラル・グラーフ・シュペー、プリンツ・アーダルベルト、ヴュルテンベルクの艦長達よ、君たち四人には重要な課題を言い渡す」
彼女はそう言うと、聞かされた側のアレクサンドラは内心で『また我々に何か嫌がらせを?』と思ってしまった。
「あれを見たまえ」
すると露骨に顔に出てしまっていたのか、ロッテンベルクはアレクサンドラを見た後に窓に視線を誘導する。
四人は窓を見ると、そこで接近してくる艦艇を見た。
「っ!キング・ジョージ5世…」
「イギリスの直教艦…」
その妙に紅茶臭さが感じ取れる戦艦を見て彼女達は驚く。
「君たちには我が校の代表としてダートマス校との親善試合に参加してもらう。そして、彼女はダートマス校の代表だ」
そこでロッテンベルクが紹介をすると、校長室の別の扉が開かれて一人の生徒が出てくる。
「レン様〜!」
入ってきた生徒は甘えた声でレンに近づいた。
「またお会いできましたわね」
「わっ!?ブリジット!?」
胸に飛びついたブリジット・シンクレアにレンは驚愕すると、そのままロッテンベルクを見た。
「ええっ!?ブリジットがダートマス校の代表!?」
彼女はそこで再度ブリジットを見る。
「何かの間違いじゃ…」
「レン様ったら、そんなにSurpriseしなくっても♪」
そこでブリジットはレンに言うと、それをやや冷めた様子でテアは見ていた。
「…何拝んでいるんだ」
「いやちょっと…」
そして隣で両手を合わせて感謝のポーズをするアレクサンドラに呆れた目で見ていた。
「失礼だぞレン・シュテーゲマン」
そこでロッテンベルクが言う。
「彼女はダートマス校でも数年に一人の逸材と言われるほど優秀な生徒だそうだ。胸を貸してもらいなさい」
「改めまして、ヴィルヘルムスハーフェン校の皆さん」
ブリジットはそう言い、自分たちに改めて挨拶をする。
「昨夜の事は感謝していますが、それはそれ、これはこれ。明日の試合はNice fightをしましょ!」
彼女はそう言うと、テアとアレクサンドラは耳打ちをする。
「じゃあやはり昨日は…」
「差し詰め、
二人は納得をすると、ロッテンベルクから親善試合の話を他のクラスメイト達にするために校長室を出る。
「カッツヒェン、これは作戦会議をしなくては…」
「そうだな…すでに我々は出遅れているのだからな」
昨日に偵察に来た時点で向こう側はこれからの予定を知っていたわけで、そうなってくるとあの学長は試すためにこっちに直前に言ってきたのだ。
そして校長室を出て岸壁でこれからの親善試合の話をする。
『『『『えっ!?』』』』
案の定、昨日のことを知っていた生徒達は驚いていた。
「あっ、実はダートマス校って大したことないんじゃあ…」
「阿呆。超名門ですわよ」
「どのくらい?」
「そりゃあ国内外から入学希望者が殺到する程よ」
「噂では入るために高校浪人する生徒も大変いらっしゃるって話よ」
「え?」
そこで周りの生徒達からも言われ、名門校とブリジットの印象が噛み合わずに困惑していた。
「人は見かけによらぬと言うことだ、余のようにな」
「「「「それは違うと思います。マイン・カイザー」」」」
「何故だ!?」
クラスメイト達から一斉に否定をされたことで逆に驚愕するアレクサンドラ。するとエルフリントが言う。
「艦長は元々、その色気があったと思います」
「むしろ納得が行ったくらい、です」
マリーも援護射撃に加わり、すっかり蜂の巣にされてしまったアレクサンドラ。彼女は気を取り直して話す。
「ま、まあ…親善試合の開始時刻は明日の一二○○。編成は四隻と四隻の同数マッチ。いずれも戦艦だ」
彼女は説明をすると、途端に乗組員達は殺気立つ。
「まあなんと派手な」
「いい機会ですこと」
「ライミーどもを叩き潰してくれますわ…」
「望むところ…!!」
彼女達はやる気十分、殺る気も十分と言ったところで安心していた。
「海域はブイが浮かんでいる。模擬弾を使うが、怪我だけはするな。各科に真剣に試合に臨むよう伝達」
戒めてアレクサンドラは言うと、アンネリーとヘルミーナが言う。
「とは言っても…」
「あの艦長では気が緩んでしまうのでは…?」
彼女達は昨夜の出来事を思い出しながらそんなことを言っていた。
「…ああ、そうだ」
するとアレクサンドラは思い出したように付け加えて伝える。
「この親善試合でMVPとなった艦には、酒保や食堂で使える三ヶ月分のデザートが支給されるそうだ」
「「「「「えっ!!?」」」」」
そう言うと、聞いていた生徒達は一気に沸き立った。
「本当ですか!!?」
「すごい!訓練中食べ放題じゃん!!」
『『『『絶対勝とう!!』』』』
スイーツの力にアレクサンドラはボソッと言った。
「私はビール券の方が良かったな…」
そこで彼女は湧き立っていた彼女達に冷や水を浴びせるように言う。
「ただ、相手には『マイティ・フッド』がいる」
「「「「「っ!!」」」」」
その艦名を聞き、湧き立っていたクラスメイト達は固まった。
「フッドがいるのか…」
その艦名を聞き、途端に渋い表情になるフリーデ。
「くそう、こっちは三隻しかいないのに」
「おいおい、数でも負けているのか…」
「どうしたものか…」
「どうする?潜水艦の増援呼ぶ?」
「そもそもあんた達ビスマルクに失礼でしょうが!!」
そしてクラスメイト達の会話に主計長のマグナレータ・リストが怒鳴った。最初からビスマルクが居ないように彼女達は言っていたので口を挟まずにはいられなかった、彼女達は確固たる確信を持っていた。
「いやだって…」
「ビスマルク、絶対シュペーに足引っ張るよ?」
「艦長〜、最初に魚雷で撃沈判定にしちゃダメですか?」
「マジでやめろ。ビスマルクの火力はうちらの艦隊でも指折りの高さなんだ」
彼女達に思わず素が漏れてしまって答えるアレクサンドラ。水雷員のフローラ・フォン・モーゼルは真顔で聞いてきたのがさらに恐ろしかった。
そんな風で話し合っていると、聞いていたエーリカは呟く。
「あの艦長、どこかでミスをしてくれぬものか…」
「それはないと思います。あの方は天才ですから」
「うおっ!?」
そこでスッと現れたキャリーに驚愕するアンネリー。
「おお、ブリジットの召使さん。どうしました?」
アレクサンドラは平静とした様子でキャリーを見ると、彼女はここに来た理由を話す。
「先日のお礼をお渡ししたいと思いまして…借りを作ったまま勝負はしたくはないので…」
キャリーはそう言い、その手にケーキを入れた箱を持ってきていた。
「おお、これは申し訳ありませんわね」
エーリカはそこでキャリーからケーキを箱を受け取ろうとした時、不意に彼女はグッと力を込めた。再度引っ張ると、キャリーは抵抗を示した。
「なぜ…!?」
「すみません…貧乏性が災いしてタダであげるとなると手が…!」
彼女はそう言うと、その反応に見ていたアレクサンドラ達は苦笑してしまった。
「では、私はこれで」
彼女はこの後にシュペーにも同様のものを私に行くと言って離れていく。
「あぁ、一つ聞いても良いですか?」
「なにか?」
そこで軽くキャリーを呼び止めてからエーリカは聞いた。
「ブリジットが天才って、そんなに凄いのか?」
「あー…これは口が滑りましたね」
その時、彼女は軽く唇をなぞった。
「どのみち明日になればわかりますよ。艦橋に上がった艦長は別人ですから」
キャリーはそう言うと、その絶対的な裏付けがあっての言葉にエーリカ達は思わず息を呑んだ。そして彼女は去ると、そこでアレクサンドラが違和感を覚えた。
「…ん?あれ?」
「彼女、ドイツ語話していましたね…」
「…げっ」
キャリーがドイツ人が聞いていても違和感のないドイツ語を使っていた事に昨夜の出来事を思い出してしまった。
「副長、この後二〇〇〇に艦長と副長の挨拶がある」
「分かりました。作戦会議はその後ですね」
「ああ」
アレクサンドラは頷くと、彼女達はこの後の予定に備えて船内に戻る。
その後、作戦会議前の艦長達の顔合わせを前に岸壁を歩く。その道中で停泊していたイギリスからの艦艇を見ていた。
「流石に大きいですね」
「ああ、海軍大国イギリスの本領発揮といったところだろう」
今では完全に没落した…ゲフンゲフン、かつては輝かしい栄光を放った大英帝国。その真骨頂であり、力と美しさの象徴である戦艦。
噴進魚雷の登場で戦艦の時代は終わりを迎えたと言われており、今では教育艦に改装されて運用されていた。
「おーい」
「うん?」
そこで呼びかけられてその方を見ると、レンが立っていた。
「レン。もう皆んな来た感じか?」
「いや、まだシュペーの二人が来ていないな」
そこで近づくと、彼女は一日後ろから伺うように見ていた生徒を紹介した。
「あっ、そうだ紹介するよ。うちの副長のジルケだ」
そこで眼鏡をかけてペコペコしていた彼女にアレクサンドラ達は驚いた。
「え?」
「居たんですか…!?」
「影、薄いんです…あはは」
その二人の反応にジルケは乾いた笑いをしていた。
その後、テアとミーナが訪れたことで両校の親善試合に参加する艦艇が揃っていた。
「初めまして、私はダートマス校のエバンスです。生徒達を紹介しましょう」
そこで引率の教頭であるサシャ・エンバスが紹介を始めた。