夜にダートマス校とヴィルヘルムスハーフェン校の親善試合を行う艦艇の艦長・副艦長が集まって顔合わせを行なっていた。
「では生徒達の紹介をしましょう。キング・ジョージ5世の艦長、副長ーー」
「ブリジットとキャビアちゃんです」
「ビアレットです!」
早速名前についてまたも訂正を行うキャリー。おそらくずっとこのままだろうなとアレクサンドラ達は思っていた。
「次にロドニーの艦長と副長ーー」
「あっ…ええっと…チェンバレンです……双子です」
そこで少し辿々しく挨拶をしてくる二人。マニ・チェンバレンとララ・チェンバレンの二人は顔や体つきこそ一緒だが、髪の色が変わっており、一卵性双生児ではない事を伺わせていた。
「へぇ、珍しいな」
「恥ずかしがり屋さんなの」
そもそも双子が産まれてくるのも珍しいが、双子が共に名門校であるダートマスを通過し、普通であればクラスが分けられるはずの双子が同じ艦艇の艦長・副艦長を拝命していた点で、どこか彼女達の実家の圧力の匂いがプンプンしてきた。
「次にフッドの艦長と副長ーー」
「…」
「こっちがリオン。私がドロシーです」
そこで挨拶をしたのは低身長白金のショートヘアの少女と長身の少女が挨拶をする。…片方は無言でコチラを見ており、テアやアレクサンドラ並みに身長が低かった。
「ぶっ潰す!!」
すると唐突にグレニア・リオンは張り上げた大声で言うと、その声にミーナ達は一瞬驚いた。
「!!?」
「わわわっ!ごめんね!」
そしてミーナ達を見て睨みつけてくると、ドロシー・ウィリアムズは彼女を押さえ込んでいた。
「(此奴は猛獣か…)」
その睨んできたリオンに呆れた視線でアレクサンドラは溜息を吐きたくなる。特に彼女は身長の大きなエーリカを親の仇のような敵視の仕方をしていた。
「最後にヴァンガードの艦長と副長ーー」
「…あっ、艦長のセレナ・ウィンザーです」
「副艦長のアナスタシア・カーネギーです」
そして最後に二人が挨拶をすると、セレナはアレクサンドラを見て軽く会釈をして、アレクサンドラも無言で会釈をしていた。
「?」
その時、僅かにアレクサンドラは目を開けて驚いた様子を見せ、顔見知りな様子であった二人にミーナは首を傾げていた。
「それでは挨拶は終わりましたね。明日は日頃の成果を出し合う様、健闘を祈ります……と、その前に一つ伝え忘れていました」
マイヤーはそこで付け加えて顔を合わせた生徒達に言う。
「代々この親善試合では勝者の中から、活躍が目覚ましい生徒に対して両校から記念の褒章が与えられます」
「褒章?」
初めて聞くことにレンは驚いた。まあどれもこれも直前になって試合の話をしてきたロッテンベルクが悪いのだ。
「大変名誉あるものなので、両校の歴史に名を刻む事になるでしょう」
「わーお、素敵」
そこでクローナが名を刻むと言う点で興味を示した。やれやれ、面倒なことにならなければいいが…。
「さて、此処まででの中で何か質問はありますか?」
「は〜い」
そこでマイヤーにクローナが質問をした。
「旗艦は勝手に決めていいんですか?」
「構いません。褒章を狙うのであれば、その方が効率がいいでしょう」
質問にそう答えると、次にマイヤーはテアの事を見た。
「貴女はいいのですか?我関さずと言う顔をしていますが」
「興味ないので」
彼女はキッパリと無関心であっのでそう答えると、マイヤーは言う。
「そうですか、それは残念ですね……この褒章は貴女の母親も獲られたものなんですが」
そう言った時、僅かにテアは目を開けて興味を示した。
「…母は関係ありません」
だがすぐに彼女はいつもの調子に戻った。
「そうですか……まぁ私には、シュペーを選んだことも理解しかねますが」
「え?それって…」
そこでマイヤーが持ち込んだ話題にレンは思わずテアを見てしまう。
「才能ある者がそれを発揮しないのは罪です」
「…」
「…チッ」
マイヤーの一言でクローナは全てを察した様子で舌打ちをする。
そりゃあそうだろう、今までビスマルクに乗れたのはテアに成績で勝ったと思っていたからだ。それが実際は宿敵である彼女から譲られたからだと分かると、自分の実力でビスマルクの艦長でなかったことで侮辱されたような気持ちになるのだから。
「少し、言い過ぎましたね」
そんな苛烈に反応を示したクローナにマイヤーは油に火を放ったかと直感的に感じた。しかし言いたいことは言ったつもりであったので消火する気はさらさら無い。
「これにて解散です」
マイヤーはそう言い、艦長同士の顔合わせは終了する。
「ベロナ艦長。この後、余の艦で作戦会議を行う」
「…ええ、行けばいいんでしょう?」
軽く舌打ちをして苛立っているクローナはアレクサンドラに答えると、そんな隠しもしない闘争心を見て彼女はクローナの目を見る。
「それから…」
彼女はそこでいつもは細目であった眼を大きく開けてこの大洋の様な昏い碧眼を見せる。
「少しは闘争心を抑えろ。クローナ・セバスティアン・ベロナ」
「っ…!?」
その圧倒的な美貌にはいささか似合わぬ威圧は見ていたクローナを驚愕させる。
「客人の前で剥き出しの闘争心を隠さぬは名家の娘の振る舞い方ではない」
彼女はそれだけを言うと話を終えて岸壁を後にする。
「…何なの、アイツ」
クローナは思わず息が止まってしまうほどの雰囲気に、困惑した様子でエーリカと共に去るアレクサンドラを見た。
その後、プリンツ・アーダルベルト船内の教室でプロジェクターに艦艇が映し出される。
「今回のダートマス校からの参加艦艇はキング・ジョージ5世、ロドニー、フッド、ヴァンガードの計四隻です」
アンネリーが解説を加えながらスライドを動かす。
「まずはキング・ジョージ5世の諸元ですが…」
彼女の話を聞いていたのはクローナ、アレクサンドラ、レン、テアの四名。クローナとテアは配慮で最も距離を置いて座らせていた。
「主砲は三五六mm砲を一〇門、一三三mm連装両用砲を八基装備した重装甲艦です。主砲の最大射程は三五,二六〇m。最大速力は二八節です」
そこで彼女達はまるで英国人の服装の様なセンスの四連装主砲と二連装主砲を背負い式に配置した艦首側の艦影を見る。
「続いてロドニー。
主砲は四〇六mm砲を九門。一五二mm連装砲を六基、一〇二mm連装高角砲を四基備え、前部集中配置型の戦艦です。主砲の最大射程は三六,三五八m。最大速力二三.九節です。今回の参加艦艇の中では最も火力が高い艦艇となります」
これもまた珍しい砲塔配置をした艦艇だ。全くもって紅茶とライムの香りがプンプンとしてくる艦影だ。
「フッド。
主砲は三八一mm砲を八門、一四〇mm砲を一二門、一〇二mm高角砲を四門装備。主砲の最大射程は二六,五二〇m。最大速力三二.七節」
そこで映し出されたのはキング・ジョージ5世やロドニーと違ってまともな艦影、先の二隻と違って美しさが際立つ艦艇が投影される。
「最後にヴァンガードです」
そして最後に四隻目の戦艦が投影される。
今までの中で最も大きな艦橋を備え、艦首もイギリスの切り立った形をしていない、少々近代的な容姿をしていた。
「主砲はフッドと同じ三八一mm砲を同数の八門を装備し、一三三mm連装両用砲を八基装備。四〇mm機関砲を七五門装備しています。主砲は改良が施され、最大射程は三三,三八〇m。最大速力三〇節です」
アンネリーは必要最低限の情報だけを伝えると、最後に四隻の諸元を纏めたスライドを投影する。
「この性能から、ヴァンガードはフッドと同じ巡洋戦艦として見て良いでしょう」
アンネリーはそう断言すると、一連の話を聞いたアレクサンドラは言う。
「となると向こうは低速戦艦二隻と高速戦艦二隻の編成となるのか」
「その様になります」
「どうする?我々は火力面と装甲、一部は速力で劣っている編成だぞ」
レンがそこで聞いてくると、まず最初にアレクサンドラは他の艦長に聞いた。
「その前に、艦隊旗艦はビスマルクで異論はないか?」
その質問に全員は首肯して承諾をする。
「アンネリー、我々の艦隊の諸元との比較を」
「畏まりました」
そこですぐに艦艇の諸元表をまとめた一覧が表示される。
旗艦ビスマルク
三八〇mm砲 八門 最大射程:三六,五二〇m
一五〇mm砲 一二門
一〇五mm砲 一六門
三七mm砲一六門
二〇mm機関砲 二〇門
最大速力 三〇.八節
プリンツ・アーダルベルト
三八〇mm砲 六門 最大射程:三六,五二〇m
一五〇mm砲 六門
一〇五mm砲 八門
三七mm機関砲 八門
二〇mm機関砲 二〇門
五三三mm魚雷発射管 六門
最大速力三五節
ヴュルテンベルク
三八〇mm砲 八門 最大射程:二三,二〇〇m
一五〇mm砲 一六門
八八mm砲 一〇門
六〇〇mm魚雷発射管 五門
最大速力二三節
アドミラル・グラーフ・シュペー
二八〇mm砲 六門 最大射程:三六,四七五m
一五〇mm砲 八門
八八mm砲 六門
三七mm砲機関砲 六門
二〇mm機関砲 一〇門
五三三mm魚雷発射管 八門
最大速力二八節
以上の諸元を確認した時、レンは言う。
「この編成であるなら、向こうは高速戦艦と低速戦艦で艦隊を分割するだろう」
「であるなら、我々も分割するべきだろう。ビスマルクと我が艦、シュペーとヴュルテンベルクではどうだろうか?」
アレクサンドラは相手の艦隊編成を見て作戦を提案すると、クローナが言う。
「その必要はないわ」
「何故だ?」
レンが聞くと、レターナは平然と答える。
「足が遅いなら私の後を追いかければ良いわ。弾受け役をしなさい」
「「「…」」」
その瞬間、アレクサンドラはクローナが勲章にしか目がいっていない事を察する。勝つことは前提なのだが、そこまでの過程がゴッソリ抜けていた。
「しかし…」
「兎に角、艦隊を分ける必要はないわ。もし高速戦艦が接近してきても二倍の数の砲で叩き込めば良いのよ」
クローナはそう言ってさっさと会議を終わらせようとする。
しかし彼女の言う事も一概には否定できない。単縦陣で航行をする間、かの著名な丁字戦法によって前進する艦隊に全砲門を使って叩き込めば高速性を活かして撃破可能だろう。だが…。
「(此奴、この艦が巡洋戦艦である事を忘れておらぬか?)」
そこで鋭い視線でクローナを見る。
このプリンツ・アーダルベルトの装甲は二〇三mm砲を防ぐ程度の装甲しかない代わりに速度を使って回避する艦艇だ。今回の参加艦艇の中で最も足が速く、尚且つビスマルクに近しい火力もある。足が遅い艦艇からすれば目の上のたんこぶである。向こうからしたら一発でも砲弾が当たれば戦闘不可能にできるのだから、狙わないはずがない。
…いや、この様子だとライバルになり得る艦を生贄に捧げようとしているのだろう。その方が褒章は取りやすい。
「相手には十六インチ砲を装備するロドニーがいる。確実に我等は狙われるぞ?」
「射程距離はこっちが勝っているの。先制攻撃はできるわ」
「…」
こんな行き当たりばったりであるにも関わらず、余裕すらあるクローナにアレクサンドラ達は不安しか生まれてこなかった。