「じゃあ、私はもう帰るわね」
作戦会議…とは言ってもほぼ詳しい詰めもする事なく部屋を去るクローナ。正直やっても無駄だったかもしれない。
「…なんて奴だ」
そして部屋を出た後、アレクサンドラは呆れたため息を吐いた。
「ザーシャの艦は装甲が薄い。この艦隊の砲撃を受けたら一発で撃沈判定だ」
「狙っているんじゃないのか?私を弾受け役にしようとするほどだ」
歪んだ表情でレンは言うと、アレクサンドラも同感する。
「実に愚かな…そもそもの艦艇が無くなれば勝利すら見えぬと言うのに…」
すっかり褒章をつけて自らの威容を示そうと画策しているクローナに呆れていた。
「…カッツヒェン、レン。少し良いか?」
「「?」」
そこでアレクサンドラは二人に提案をする。
「思ったのだが、開幕に合わせて我々でビスマルクに魚雷を放つのはどうだ?」
「「っ!?」」
彼女からの提案に二人は眼を丸くする。自らの手で味方を撃破するなど普通は考えられなかったからだ。
「無能な味方は最悪の敵だ。ゼークトの組織論にも書かれておる」
「しかし…」
「駄目だ。ビスマルクの火力は艦隊でも一番高い。我々は一隻でも損失を出せば、それだけで作戦に影響が出てしまう。ただでさえ負け気味の火力をさらに減じる訳にはいかない」
困惑するレンにテアはそう断言すると、アレクサンドラは困った表情を浮かべた。
翌日、指定海域。
ダートマス校とヴィルヘルムスハーフェン校による親善試合が行われる為、艦隊は錨を上げる。
『それでは、ヴィルヘルムスハーフェン海洋学校とダートマス海洋学校の合同訓練プログラムの親善試合を始める』
艦隊は一路洋上に出て海域に進入する。
『全艦指定の位置についたら、試合を開始』
「はぁ…」
「大丈夫ですか?」
アーダルベルト艦橋で大きくため息を吐くアレクサンドラにエーリカが話しかける。
「いや…不安でしかなくてな」
行き当たりばったりな作戦を前に彼女は疲れ切った様子で艦橋に用意された椅子に座る。
「大丈夫ですよ。テア艦長やレン艦長ともお話ししたのでしょう?」
「まぁ…懸念は共有した。我々は為せることをするだけだ」
彼女はそう言うと、無線で連絡が入った。
『配置を確認。試合を開始してください』
そこで一斉に艦隊は動き出すと、ドイツ艦隊は先に電探でイギリス艦隊の動向を把握する。
『敵艦隊、二つに分割した模様』
「片方は高速艦だ。突っ込んでくるぞ」
電測員のエリーザ・レーダーが報告をあげると、アレクサンドラはすぐに警戒を促す。すると連絡が入る。
『旗艦。指揮を務めるビスマルク艦長のクローナ・セバスティアン・ベロナだ。単縦陣をとり、撃ち合いに備えよ』
彼女は艦隊指揮官として指示をすると、ビスマルクを先頭にプリンツ・アーダルベルト、アドミラル・グラーフ・シュペー、ヴュルテンベルクの順番で単縦陣を編成する。
対するイギリス艦隊はキング・ジョージ5世、ロドニーとフッド、ヴァンガードが単縦陣を取り、後ろ二隻が組んで接近していた。
「チッ、こっちの方が早いんだから譲りなさいよ」
「こっちが独断専行できない様にする為なんじゃないの?」
嫌味と皮肉たっぷりに文句を漏らしながらモニカとオリヴィアは言い、先頭を航行するビスマルクを見る。彼女達は昨晩の一方的で、自分達の損害を鑑みていない様子のクローナに苛立ちを抑えきれていなかった。
「しかし、褒章か…」
「おや艦長、お気になられるので?」
そこでアレクサンドラにエーリカが気にかけると、彼女はそこで言う。
「皆とて甘味は欲しかろう?」
「勿論です」
アンネリーがそこで多いに頷く。
彼女の中ではMVP艦=褒章授与と思っていたので、今回の試合での活躍を前に考える。
「では負けない試合をするとしよう」
「畏まりました」
エーリカは承知すると、アレクサンドラは露天環境に上がっていく。すると直後にエリーザが報告をあげる。
『敵艦、発砲!』
「面舵!回避運動!」
「宜候!」
ダートマス校からの発砲を確認し、一発でも命中すれば危険なアーダルベルトは必要以上に警戒をしながら之字運動による回避行動を始める。無論、その砲撃はビスマルクでも確認していた。
「放っておきなさい。開幕射撃なんて当たる訳ないじゃない」
「さっすがベロナ様」
しかし遠距離からの砲撃という事も相まって彼女達は楽観視していた。まだ夾叉もされていない状態で砲弾が当たるとは考えられないからだ。
砲弾で周りが水柱まみれになればいよいよ不味いことになるが、まだ一本も水柱が無い状態での命中はあり得ないと予想していた。すると艦隊に模擬砲弾が着弾した。
「っ!!」
その砲撃により、周辺に水柱が上がると回避運動を行っていたアーダルベルトは一発も被弾しなかった。だが回避運動をしなかったビスマルクは複数の着弾を確認した。
「ビスマルク直撃!!!ラッキーパンチきました!!!」
「なっ…!!」
初弾で命中をした事実にアレクサンドラ達は冷や汗をかいた。
「これがダートマス校の実力か…」
「夾叉もなしにいきなり命中させるなんて…」
「いや、凄すぎる…」
最初に海洋大国ならではの腕前を見せつけられた気持ちになり、彼女達は唖然となった。
最初に最大射程ギリギリで砲撃を開始したダートマス校。その旗艦であるキング・ジョージ5世の艦橋。
「フッド、ヴァンガード。先行します」
そこで複縦陣を形成する艦隊は、眼前に高速戦艦を配置しており、これから接近攻撃を敢行する予定であった。
「うんうん。うまく当たったみたいだね」
ビスマルクに直撃をした報告を聞き、ブリジットは嬉しそうに頷いた。
「お見事です」
「みんなのおかげだよ。でも幸先は良さそうね」
その一歩後ろでティーポットを持っていたキャリーに彼女は答えると、そこで砲撃を行った砲塔が旋回していくのを確認する。
「艦長?」
「っ!!」
そこで先頭を航行していたヴァンガードで艦長のセレナ・ウィンザーは大きく驚いた。
「ど、どうした?」
「それはこっちのセリフですよ」
軽くため息をついてアナスタシアは言う。
「艦長、昨日からずっと上の空ですから」
「ごめん…」
そこでセレナは少し恥ずかしげに手を頭に回す。
「あのドイツの艦長さんですか?」
「うん…知っている顔だったからね」
アナスタシアは上の空だった理由を言うと、聞いていた艦橋要員は驚いてクローナの顔が思い浮かんだ。
「艦長、お知り合いなのですか?」
「え?あの嫌味な人?」
「えー、なんか嫌だな〜」
彼女達が違う人物を思い浮かべていることに彼女は否定する。
「違う違う。ほら、アレクサンドラさん」
「あー」
「小さい艦長さんね」
「でも小さい艦長って二人いるって聞いたよ?」
そこで彼女達は敵役の艦隊の艦長と聞いて口々に自由に言っていた。
「艦長のお知り合いということは…」
「まぁ、そう言うことだよ。海洋学校に通っているとは思っていなかったけど…」
セレナはそう言うと砲術長が報告をする。
「Mighty Highness、射撃準備完了しました」
「うん。撃って」
「はっ、Fire!」
そこでダートマス艦隊から一斉に第二射が発射される。
「アレックス…今日はあなたの胸を借りるつもりで望ませてもらいます」
そして飛翔した砲弾を見て彼女は言った。
『
被弾したビスマルクでは損害報告が上がった。
『駆動力系反応なし!!』
「ちょっと!たかが模擬弾頭ごときで、何で駆動力までやられているのよ!?」
「おそらく衝撃の影響で接触不良がおきたものかと…」
ビアンカが驚くと、乗組員は被害の大きい理由を推測して報告する。
「動力低下!!」
「前進できません!!」
そして次々と上がってくる報告に艦橋でクローナは言う。
「開幕早々やってくれるじゃない!!」
彼女はそこで地面を蹴って地団駄を踏んだ。その勢いに見ていたビアンカも驚いた悲鳴を上げる。
「泣いて懺悔しても許さないわよ…!!!」
そして苛立ち度合いが頂点に達していた彼女は禍々しい邪気を放って大海原を睨みつけており、その雰囲気にビアンカは背筋が思わず伸びてしまっていた。
「体制を立て直すぞ!!」
「応急修理班は修理を急げ!!」
漸く損害がまとまり、生徒達は修繕作業を開始することができた。
「ビスマルクとの通信が回復しました」
「損害報告を知らせぇ!」
そこでアンネリーに聞くと、彼女はビスマルクから届いた電信を読む、
「乗員に怪我は無い様で…ベロナ艦長も無事みたいです」
「あぁ…」
「しぶといですわね」
「悪人ほど長生きするって言うじゃない」
艦橋要員はそう言っていると、アンネリーは続報を伝える。
「あと、それから伝言です…」
そこでタブレットで電信を飛んだ彼女は、直後に目元に影を落として読み上げる。
「『ビスマルクは修理に入る。守れ
「些細なことで荒むな。アンネリー」
そんな彼女を軽く宥めると、次にエーリカに聞く。
「実際、どこまで回復できると思う?」
「見た所、後部甲板は全滅ですね…」
アレクサンドラの問いかけにエーリカは双眼鏡を使ってビスマルクを確認して大まかな損害の予測をする。するとエルフリントが言う。
「駆動系もやられたと聞きました。これは時間かかりますよ」
「これでダートマスの相手はしんどい、です。マイン・カイザー」
マリーはそこで被弾したビスマルクの状況から推測していると、モニカが叫ぶ。
「敵艦!次弾発射!!」
「っ!!」
そこで閃光を視認し、直後に砲声が確認される。
「回避!」
「くそっ!ビスマルクが邪魔だ…!」
エリスは舵を握るが、前方で停止したビスマルクが進行を阻害していた。
「近いぞ!総員!何かに掴まれ!!」
アレクサンドラが叫ぶと、直後に彼女はエーリカに押し倒されるように地面に伏せると、模擬砲弾の嵐が艦隊に命中した。
「っ!損害報告!!」
「全弾それました!被害なし!」
「おいおい、今のは夾叉だったぞ!!」
「危なかった…」
そして大きく揺れる船体。
「(このままではなぶり殺しだ…)」
アレクサンドラは現状に冷や汗をかいた。