ビスマルクが一時的に行動不能になり、先頭が止まったことで他の後続艦も停止を余儀なくされてしまっていた。
「こうなっては仕方ない…」
エーリカに体を起こしてもらってアレクサンドラはすぐに指示を出す。
「このままライミーに接近する」
「えっ!?」
「艦長。しかしそれは…我々とシュペーとヴュルテンベルクで四隻を相手取るのですか?」
アンネリーが驚いた様子で聞いてきた。すると彼女は首を横に振る。
「無理に追撃はせん。注意を引きつけて時間を稼ぐだけだ」
制帽を被り直して彼女は指示をする。
「全艦に通達。ビスマルクは黒煙を焚かせよ、大破と誤認させる。間に合うかギリギリだが…」
そこでアレクサンドラは指示をすると、連絡を聞いたテア、レンは承諾をする。
しかしクローナは指示をしてきたことに不満を持って連絡をした。
『生意気な!私に指示をする気!?』
「黙れ」
『『『っ!?』』』
無線で繋いでいたので彼女の怒号は他艦の艦長達も耳にし、聞いていた者達の背筋を伸ばす。
「文句を言う暇があるのであればさっさと機関を修理しろ。
愚痴は後から好き勝手言え。今は試合の勝利のみを追求しろ。愚か者!!」
彼女は怒鳴り散らしてから無線を切ると、直後にため息をついてしまった。
「…やってしまった」
彼女は今の怒号を前に顔に手を当てて後悔をしていた。
そして今の叱責を聞いていたクローナは激昂した。
「死んだふりをしろですって!?あのチビ…!」
「し、しかし艦をこのままこの海域に留まらせるよりも有効かと…」
ビアンカはやや先ほどのアレクサンドラの怒号に畏まりながら言うと、彼女とて海軍の名門の娘として今の状況がどのような状況なのか、そして彼女からの指示が的確であり、反論の余地がなかったことなどが彼女に歯軋りをさせた。
「…畜生が!!」
彼女はそこで拳を強く血が滲みそうなほど握りしめて空に向かって叫んだ。
そしてビスマルクは煙幕を展開させ、その様子を海上要塞からロッテンベルクが見ていた。
「ほう」
単眼鏡を使って試合を見ていた彼女は笑う。
「ククク…二次災害に見立ててビスマルクを置き修復を待つか。…面白い作戦をとったな」
「経験の浅い学生にしては判断も早い。良い生徒が育っていますね」
クローナの判断に二人の教師は感心して称賛していた。
「さあ、これであなたの所の生徒はどう出るか…時間稼ぎだと気づくかな?」
「残念ながら私にはもう分かっています」
「!」
そこでエンバスは確信を持った様子で海を見ていた。
「私がダートマス校に赴任して三〇余年…ここまで多くの生徒を教えてきても彼女よりも優れた生徒は見たことがありません」
彼女はそう言い、よほど自信あるように微笑む。
「フフ…ブリジットは最高の指揮官ですよ」
その時、彼女の微笑みは挑戦をしているようにも、教え子達を優しく見守るもの優しくも見えた。
「う~ん…向こうは
艦橋でミーナに見つけてもらったあの単眼鏡を使って見ていたブリジット。彼女はすぐにビスマルクから出る黒煙が欺瞞であることを見抜く。
「二度目の黒煙はカモフラージュだね。黒煙が上がってからの三隻のアクションがちょっと早くで不自然だし」
彼女はそう言いながら単眼鏡を片付ける。
「さすがブリジット様、見事な洞察力ですね」
「そんな事ないよ」
すぐに欺瞞を見破った彼女にキャリーが言うと、彼女は微笑みながら艦長席に座る。
「これぐらいの騙し討ちは何度も経験しているから」
そこで彼女は不敵に笑うと、艦長席に座って手を顎に当てる。
「う〜ん…それじゃあどうしようかなぁ…」
ブリジットはそこで敵の動向を作戦を想像しながら対応を考える。
「お茶でも淹れましょうか?」
キャリーはそこでブリジットに提案をすると、彼女は頷く。
「それじゃあアールグレイを。いつもありがとう」
「いえ、これが私の役目ですから」
キャリーはブリジットから召使と紹介されるように、その職務に全うする。
「(そう、ブリジット様が万全の状態で指揮できるようサポートするのが私の役目。この方が居るだけで私たちの艦が行く先を迷う事は無い)」
毎日行ってきたことで体に染みついた所作。そこに無駄はない。
「(莫大な知識と、最良の選択。それが…)」
「キャビアちゃん」
その時、ふと彼女の後ろでブリジットが顔を埋めた。
「キャビアちゃんの髪の匂い、落ち着くなぁ~」
「…!!」
そして次にキャリーの芳香剤の香りを嗅ぐと、そこで一考。
「んー、決めた!」
そして彼女は満面の笑みを見せる。
「まずはビスマルクを粉々のスクラップにしちゃお♪」
「食いつきませんね」
「結構煽っているのだがな…」
そこで双眼鏡を使って敵艦隊の動きを見ていたのだが、一向に動きのない様子を見てエーリカは言う。
『ダートマスの艦が釣られてこない』
『あの航路だと真っ直ぐビスマルクに向かってますね』
テアとミーナが言って困惑する。
砲撃を行い、幾らか被害も出している筈なのだが、艦隊は復縦陣で二隻の高速戦艦が先導していた。
『時間稼ぎがバレたのか?』
レンが言うと、アレクサンドラも理解した様子で
「カッツヒェン」
『ああ、これより距離を詰めて相手の進行を防ぐ』
指揮権を移譲したテアが制帽を摘んで言うと、全員の顔色が緊張に包まれる。
「接近戦ですか…」
「燃え、ますね」
接近戦と聞き、水雷長のエルフリントはニィッと笑い、砲術長のマリーは興奮した様子を見せる。
「左舷六〇度。最大戦速!」
『宜候!』
そこで一斉に艦内でも湧き立ち始めると先頭を航行するアーダルベルト、その艦橋に立つアレクサンドラは不敵に笑っていた。
「アンネリー、音楽をかけろ!」
「了解しました」
彼女が指示をしてアンネリーが音楽をかけ始めると、そこで船内に取り付けられたすべてのスピーカーを最大音声にして『
「さぁ歌え!連中に我々の歌声を聴かせてやるのだ!!」
アレクサンドラはそう言い、その曲に他の生徒達も笑って大声で歌い始めた。
「何しているんだ?」
「あれは英国の軍歌ですよ!」
「ふふふっ、面白いことをするなぁ。アレクサンドラ艦長!」
大音量で音楽をかけ始めたことにミーナ達は驚いたが、そのやり方にレンは実に楽しげに見ていた。
『『『『『It's a long way to Tipperary.It's a long way to go.』』』』』
その間、敵からの砲撃が飛んでくるが、不規則な蛇行航行で一発も被弾せずに海面に水柱が上がる。
「当たるなよ!」
『任してくだい!故郷の漁村で学んだ操船技術ですよ!』
操舵室でエリスの陽気な様子が帰ってきてアレクサンドラも笑う。
『『『『『It's a long way to Tipperary.To the sweetest girl I know!』』』』』
そして大音量で音楽を流しながらアーダルベルトも主砲の仰角をつけて砲撃を行う。
「うひゃあ…近いですね」
「おお!面白くなってきた!」
ジルケは発砲から着弾までの時間が短くなってきていることに怯え、レンは激戦となりつつある現状に興奮していた。
「
そして叫ぶと主砲と副砲が一斉に放たれる。
三八〇mm砲弾四発、一五〇mm砲四発を正面に指向可能な設計のアーダルベルトは最大戦速のまま突撃を敢行する。
「この主砲は近距離こそ最高の戦場なり!主砲!
彼女はそう叫び、主砲の砲声が轟く。
ドイツの戦艦全般に言えることだが、総じて想定された戦場が荒れた海の北海であるために視界不良からくる交戦距離の短さより、ドイツ戦艦の主砲は軽い砲弾に大量の装薬を装填して放つ設計となっている。そのためドイツの戦艦というのは基本的に
そして彼女はレイピアを抜刀して天に掲げると接近するイギリス艦隊を見つめる。
「勝利を掲げよ!突撃!
そしてその剣先を前方のダートマス校艦隊に向けた。
「「「「「
その演説に呼応するように彼女達は声を張り上げると、覇気に迫る勢いで彼女達は艦隊に接近をする。
「速い…!」
「まずい、離れすぎるぞ!」
その様子をシュペーで見ていたテアとミーナは、置いてきぼりにされかけているのを見て思わず叫ぶ。
「…ん?」
その時、監視を行なっていたフリーデが報告を入れる。
「艦長!前方にキング・ジョージが見当たりません!」
「何!?何処に行った!!」
アレクサンドラは怒鳴り返してフリーデは再度周囲を見回した。
「あっ!発見!方位一八〇!」
「「っ!!」」
そこで報告を聞いたアレクサンドラ達は振り返ると、ほぼ真後ろを航行する戦艦を視認する。
「単独行動!?」
「一隻だけで突き抜ける気だ!」
そこで前方の三隻を確認すると、そこで陣形は半包囲の形になっていることに気がつく。
「あくまでも狙いはビスマルク…!!」
「射撃指揮所!第三主砲!第三副砲!キング・ジョージを狙え!」
アレクサンドラは射撃指揮所に指示を出した。
『ダメです!前方の主砲操砲で手が出せません!』
『腕三本欲しい…』
「チッ…」
射撃指揮所の人員不足がここで祟っていた。
「撃て!接近させるな!」
「主砲発射!撃ぇ!!」
そして先頭を突撃してくるアーダルベルトに向けてセレナが指示を飛ばすと、直後に彼女達に激しい振動が襲う。
「っ!!畜生、ここまで至近距離になるとは…」
そして接近してくるキング・ジョージ5世をビスマルクでも確認する。
「ククク…」
接近してくる戦艦にクローナは嗤う。
「わざわざ旗艦一隻だけでくるなんて、願ったりかなったりだわ」
彼女は戦艦を前に言うと、ビアンカが聞く。
「修理はどれくらい済んでいるの!?」
「えっと…艦首の向きを変える程度ならできます!」
「あと
そして各部署から回復の兆しの報告を受けた。
「それだけで充分よ」
報告を聞き、クローナは手袋を噛む。
「さあて…ビスマルクの本当の恐ろしさを教えてあげる。おいで、王子様❤︎」
そして向かってくる獅子を狙い撃ちにしようと