「ビスマルク、主砲旋回を確認!」
「狙いはキング・ジョージ5世の模様!」
そこで水飛沫を受けながらモニカ達が報告をあげた。
「クローナめ、艦の修理が終わったのか」
アレクサンドラはそこで振り返ってビスマルクを見る。
「一番・二番・三番砲塔!装填準備完了!」
「行けます!艦長!」
修理を終えたビスマルクでクローナは報告を聞く。
「ブリジット様!こちらも準備万端です!」
キング・ジョージ5世でも同様に報告が上がる。
「「よし」」
二人は同時に頷くと、司令を送る。
「撃ち込め!」「全砲門、一斉射撃!!!」
そしてほぼ同タイミングでビスマルクとキング・ジョージ5世の撃ち合いが始まった。
至近距離での砲撃は激しいもので、見ていた者達を感嘆させる。
「おお…!すごいな!!超弩級戦艦同士の一騎打ちだ!!」
その様子をレンも目を輝かせて見ていた。
「ビスマルク応答しろ!ビスマルク!」
『なによ!?五月蝿いわね!!』
「わっ!?」
そこでミーナが無線で聞くと、怒鳴り声が返ってきたので彼女は耳を叩かれて驚いた声を漏らしてしまった。
「クローナ!?やれそうなのか。そっちは…」
『ふん、当然よ。恥辱を受けた分、倍返しにしてやるんだから』
「ハハハ…」
無線でミーナはいつもの彼女であったことに安堵と『図太いな』と思っていた。少なくともこんなに堂々といつもしている図太い神経があるなら、その図太さをもっと良い方向に持っていって欲しいものだと思った。
彼女の反応にミーナは乾いた笑いをするとクローナは言う。
『それより自分の心配をした方が良いんじゃない?』
そこではフッドの主砲が旋回していた。
『そっちにいるのは王子様よりこわ〜いでしょ?』
「ああーー」
そして頷くとフッドは発砲。
「確かにそうだな!…うわぁあっ!!」
着弾した際の巨大な水柱はシュペーを大きく揺らした。
「よそ見してんじゃねえぞコラァ!!フッドを忘れんじゃねえ!!」
フッドの艦橋でグレニアは叫ぶと、彼女は獲物を見つけた猛獣のように笑う。
「ようやく暴れられる。全てをぶっ潰してやるぜ」
そこで至近距離をとっての戦闘に興奮していると、後ろでドロシーが恐る恐る話しかける。
「あのね、グレニア艦長…ノリノリのところ恐縮なのですが、通信です…」
「?」
誰からの通信だと良いところを前に不満げになりながら通信機の受話器を受け取る。
『わ〜ん、グレニアちゃ〜ん!』
すると聞こえてきたのは態とらしい泣き声だった。
『ヘルプミーだよ~、ビスマルク強すぎ!毎分三射とか卑怯なんだよ~!』
「…」
『予想よりも元気過ぎて困るんだけど!』
ブリジットはビスマルクの主砲性能とその抗堪性、並びにいまだにタイマンの砲撃戦をやり合っていることで悲鳴を上げていた。
「オイ…!!何してんだ!?テメェは!?」
『あはは、ただのジョークだよ♪』
そこで彼女はグレニアに言うと、その瞬間に彼女は目元が暗くなった。
『あっ。でもねぇ、グレニアちゃんには手を貸して欲しいな〜…な〜んて♪』
そして彼女の頼みからグレニアは僅かに手が震えながら握った受話器を叩きつける。
「通信を変えろ!!おい、チェンバレンズ!!」
『『はいっ!?』』
そこで彼女はロドニーを指揮している双子指揮官に連絡を入れると、彼女達は驚いた様子で答える。
「こっちはフッドとヴァンガードだけで十分だからよ、テメェらは
『『無理だよ〜』』
マニとララはただでさえ快活で、大型犬のようなブリジットに彼女から恥ずかしがり屋と言われるほどの性格。そして何よりもビスマルクとの熾烈な砲撃戦を展開している中に突っ込めと言う命令だ。思わずそう返答してしまう。
「あああ…くそイライラする。あのわざとらしい話し方を聞いていると我慢できねぇ…」
グレニアは苛立ちながらブリジットからの救援要請に答える前に思考を巡らせる。
「艦は大きいのにグレニア艦長は身長と同じく超短気ですね」
「…ドロシー、テメェは後で艦長室な」
そこで盛大に彼女の地雷を起爆させた副艦長に対し、グレニアは本気でキレた声で折檻を宣言する。
しかし指示を受けたのでロドニーはビスマルクに対して照準を合わせる。
「ロドニー、主砲旋回中!照準、ビスマルク!」
「阻止しろ!」
その直後、アーダルベルトに砲弾が着水する。
「主砲!アーダルベルト!向かわせるな!」
「主砲、一斉射ぁ!」
「撃ぇ!!」
そこでヴァンガードが砲撃を行うと、水柱が艦橋にまで降り注ぎながらアレクサンドラとエーリカは言う。
「チッ、目標ヴァンガード!」
「レーダーと連動!各砲塔は着弾に合わせて各個射撃せよ!」
『了解』
そこで砲撃を行ってきたヴァンガードへの対応を迫られるアーダベルト。主砲弾が装填をされると、砲塔毎に射撃が行われる。
「一、二…三!射撃しました!」
「回避行動!ビスマルクにも連絡!」
「駄目です!ビスマルクの通信機器が破損した模様!」
「チッ…」
そこで彼女はロドニーの対処ができない事に歯噛みしながらビスマルクが戦艦である事を考慮して耐えてくれる事を願った。
ビスマルクではキング・ジョージ5世との壮絶な撃ち合いが佳境を迎えつつあった。
「フン、王子様も大したこともないわね。そろそろお終いにしてあげましょう」
元々キング・ジョージ5世級戦艦は政治的な配慮から主砲に十四吋砲を装備した艦艇だ。計画時は十五吋砲の搭載を予定していたが、ニイハウ条約の継続を訴えるイギリス政府が急遽、十四吋砲を搭載するよう命じて作られた。
主砲も当初は四連装砲を三基搭載予定であったが、弾薬庫の装甲に問題があるとされ、二番砲塔は二連装主砲を装備し、正面から見れば四連装砲塔と連装砲塔を背負式に配置した歪な艦影となっていた。これがアレクサンドラが『イギリス人の服装のような艦影』と言わしめていた。
船体も切り立った艦首形状の影響で凌波性も高くなく、もろに甲板に海水が被る為にロシアに向かった際など前部主砲が全て凍り付いたと言う記録も残されている。
クローナは反撃の手数が減ってきた相手に対して余裕を持って言うと、左舷見張員が叫ぶ。
「ベロナ艦長!左舷より砲弾です!」
「何!?」
その直後に甲板に砲弾が着弾する。しかも大きい砲弾、十六吋砲弾だ。
「前部甲板に被弾!!」
「僚艦は何をやっているの…!」
そこで彼女はロドニーが接近してくる事にアーダベルトを始めとした僚艦が見逃していたのかと怒鳴り散らしたくなる。
「一番砲塔動きません!」
「何ですって!?」
そしてロドニーの砲弾の着弾によって動かせる主砲塔が第二・第三主砲のみとなった事にクローナは叫ぶ。
「均衡がブレイクしたね。このままフィニッシュよ!」
ブリジットはビスマルクの無力化の為に砲弾の雨を降らせ続ける。
『二番砲塔も被弾!挟まれました!』
「チッ!!」
そして叩き込まれた砲弾は次々とビスマルクの武装を破壊していく。
「レン艦長、あれ…」
「うわっ…」
その様子をヒルデが指差すと、レンも思わず驚いてしまう。
「これは酷い…」
アーダベルトでアレクサンドラもボロボロのビスマルクを見て唖然となっていた。
「あれでは死に体だ」
「もうこれ以上は…」
エーリカもその損害の大きさに絶句してしまっていた。
「クローナ様、これ以上は無理です」
「もう砲も動きません…降伏するしか…」
ビスマルクではビアンカや他の乗組員達から口々に弱気に言われる。
「離せ!!」
「クローナ様…!」
そして腕を掴んで避難させようとしたビアンカを突き飛ばすと、彼女は言う。
「あなた達は退艦しなさい」
「えっ?」
クローナの言葉にビアンカ達は目を丸くする。すると彼女は鬼すら殺せそうな鋭い視線を向けながら力強く言う。
「私は絶対に降伏などしない!!私は誇り高きビスマルクの艦長なのよ!!」
それは悪あがきのようでもあった。実際そうなのだろう。主砲は破壊されて、目の前の戦艦も攻撃する手段を失っていた。それでも彼女は艦橋に立つと叫ぶ。それは自分が海軍の名家の娘であると言う高い自尊心が生んだ蛮勇とも言えた。
「…それなら、私達だって」
「お供します」
だが一人でも戦い続けようとする姿を見せた彼女に、他の乗組員達も突き動かされて継戦を叫ぶ。
「あらら?降伏しないんだ?」
その様子を見てブリジットは呆れたような、感心したような雰囲気で指示を出す。
「じゃあキャビアちゃん、砲身を艦橋に向けてあげて」
「えっ!?しかしそれはブリジット様…」
彼女の出した指示にキャリーは驚愕して辞めさせようとした。
「艦長命令よ」
しかし彼女は鋭く眼光を向けて断固として命令を下すと、砲塔が旋回して仰角がつけられる。
「!?」
「ーー!これは…」
その旋回を見たマイヤーは、その砲口がビスマルクの艦橋に向いている事を指南する。
「危険行為です!今すぐ注意を…「待て、マイヤー君」学長!」
しかしロッテンベルクが制止をさせると、マイヤーはその事に驚愕する。
「逃げろ!!クローナ!!」
砲口が艦橋に向けられたのを見てミーナは叫ぶと、ブリジットは命令する
「撃て」
その瞬間、砲身を閃光が駆け巡った。
「ーー」
その時、艦橋では強い空圧でクローナの髪が吹き上がった。
「空砲…?」
その砲撃の正体は炸薬に点火しただけの空砲であるもミーナも認識すると、困惑して見ていた。
「一人だけ折れなかったけど。…まぁいいか」
「えっ?」
キャリーはそこで首を傾げて紅茶を飲むブリジットを見た。
「ビスマルクをみんながドン引くほど、コテンパンにしたら心が折れて戦意が落ちるのかと思ったんだけど」
彼女はそう言うと改めてクローナを見つめた。
「さすが、ビスマルクの艦長さんだ」
そこで見たクローナは仁王立ちをしたまま、空砲で髪型を崩されたことに怒り調子であった。
彼女は艦隊旗艦であるビスマルク失えば僚艦である艦艇が次々と士気喪失で総崩れになる事を狙っていたのだが、どうやらこの旗艦すら彼女達の中では精神的な支えではなかったらしい。むしろ一層攻撃は苛烈になってダートマス艦隊に降り注いでいた。
最も仕留めたかったアーダルベルトはほぼ無傷で健在し、今もその高速性を使って追撃を行なっていた。
最初の遠距離砲撃もアーダルベルトを狙っていたのだが、ビスマルクに命中してしまっており、巡洋戦艦には一発も当たらなかった。その快速性を活かして先頭を進んでいると思っていたのが、予想外にもアーダルベルトは二番目を航行していたのだ。
「さてとーー」
だが、ブリジットは厄介であったビスマルクを撃破判定に持ち込んでから安堵した様子で艦長席から立つ。
「それじゃ後片付けしよっか!」
その時の彼女の顔は満足したような笑みを見せていた。