ビスマルクが戦線を離脱し、これでヴィルヘルムスハーフェン艦隊は三隻、ダートマス艦隊は四隻となる。
元々火力で劣った部分があったヴィルヘルムスハーフェン艦隊は、これでさらにその差が開いてしまう形となった。
「キング・ジョージとロドニーがこっちに来ます!」
『敵艦、十五節で此方に接近中!』
双眼鏡でその姿を確認したフリーデとエリーザが報告をあげた。
「いよいよか…」
「どうしますか?」
そこで艦隊が集結しようとしているのを前にアレクサンドラは無線で連絡をする。
「カッツヒェン」
『うむ、フッドとヴァンガードから距離を取る。このまま四隻に集まられるわけにはいかない』
そこで彼女達は半包囲からの脱出を敢行する。
「自分たちの大将がやられたのに、意気地のない奴らだ」
その様子をフッドの艦橋でグレニアは感心したよう見ていた。
「仕方ないですよ。フッドが相手なんですもの」
ドロシーもそこで答えると、グレニアは目の前の艦隊を見ながら冷徹に指示をする。
「仕留めろ、ここで逃すな!」
そしてフッドから砲撃が加えられる。
「砲撃、来ます!」
「取舵!回避運動!」
そこで先頭を航行していたアーダルベルトは砲弾の雨を避ける。
元々通商破壊戦を念頭に格下キラーとして設計されていた本艦は重巡洋艦並みの装甲しか持ち合わせておらず、少なくとも親善試合に参加している艦隊の砲撃など受けたら忽ち撃沈判定を受けることとなる。
「それから煙幕も忘れるな」
「了解です」
そこで先頭を最速で航行していたアーダルベルトは機関室にオイルを流し込ませて煙突から濛々と黒煙を吐き出す。
「げほっ」
その黒煙が濛々と立ち込めると、その煙を露天艦橋に立っていたミーナ達はモロに被って咳き込んでしまう。
「艦長!」
「避難しろ。以降はアーダルベルトの管制に従って航路をとれ」
「了解」
そこで彼女達は船内に避難をして最も高い場所にある艦橋まで移動すると、そこで黒煙を吐き出すアーダルベルトを見る。
「敵視認不可能!」
「チッ、クラウツめ…」
グレニアはそこで黒煙で見えなくなったヴィルヘルムスハーフェン艦隊を見る。艦隊全体が煙幕で覆われたことで射撃をしようにも目標が見えなかった。
「だがその先はどうする?」
しかし彼女はニヤリと笑って煙幕で姿を隠した艦隊を見た。
「この先は制限海域です」
「どうします?」
「…」
そして操舵艦橋でアレクサンドラ達は海域図を見ていた。彼女達は交戦海域の隅に近づき始めており、今はまっすく交戦海域の隅に向かっていた。
するとアレクサンドラは指示を出す。
「円形に沿って行け。この艦艇は最速三五節の快速艦だ」
彼女はそこでニィッと笑う。
「諸君!この艦の建造目的は?」
「はっ!通商破壊であります」
そこでエーリカは背筋を伸ばして答えると、彼女は言う。
「現在、我々は一番槍だ」
彼女はそう言い、煙幕を展開して僚艦二隻を隠している状況を確認する。
「つまり、最も狙われる位置を陣取っている」
その直後、先頭を航行し、唯一視認可能なアーダルベルトに敵艦隊の攻撃が加えられる。
「目標!アーダルベルト!」
「敵速二五。距離、一三,〇〇〇!」
「撃て!」
ヴァンガードとフッドは視界に濛々と黒煙を焚き付ける巡洋戦艦に照準を合わせ、ロドニーも測距を行なって砲撃を行う。
「砲撃確認!」
「回避だ。面舵一杯」
「了解っ!」
そこで交戦海域の手前で船体を旋回させると、直後に水柱が上がる。
「だがモノは捉え方、見方によって実にさまざまに解釈をできる。…ここで仕掛けるぞ」
「「「「「はっ!」」」」」
そこで全員がアレクサンドラに背筋を伸ばすと、彼女は頷いて指示を出す。
そしてアーダルベルトの管制航行に従い、彼女が展開した煙の幕の内側に入る形でシュペーとヴュルテンベルクは煙幕を飛び出して水柱の上がるアーダルベルトを見る。
「まずい、アーダルベルトが集中砲火を受けている…!!」
「…」
その様子を見ていたミーナとテアは唖然となり、冷や汗をかいていた。
「あれではすぐに夾叉されます!」
「アーダルベルトの装甲は重巡洋艦ほどしかない。一発でも当たったら大きく戦闘力が損なわれますわ」
砲術長のリーゼロッテが集中砲火を受けている様子を確認して顔も険しくなる。
無論テアもその危険は分かっており、それを分かっていて彼女はその俊足を生かして弾受け役を買って出ているのだ。
プリンツ・アーダルベルトの最大戦速は三五節。今回の参加艦艇では最速で、向こうの発砲直後に速度を落としていた。
「各砲塔。装填完了次第、確固に自由射撃。副砲、高角砲、撃てる砲はありったけ撃て」
「了解!」
『こちら機関室!そろそろ煙幕が切れるぞ!』
「了解した」
アーダルベルトはそこで着水を確認すると、直後に増速を指示する。
「くそっ!加減速が不定期で当たらない…!!」
「いつもの自信はどうした!?」
測距儀を使って敵速を観測していた砲術員が毒吐くと、アナスタシアが怒鳴る。
「チッ、ちょこまかと面倒臭え…!!」
グレニアも水柱が上がっているにも関わらず有効な命中だが当てられない状況に歯噛みしていた。
「…あの艦艇、すごく良い操艦だね」
その様子を見てブリジットも感心した様子で見ていた。すると直後に目の前を航行していたロドニーが発砲した。
「ロドニー発砲!」
「取舵一杯!」
「と〜りか〜じ一杯!」
そこで攻撃を避けると、そこでエリーザが報告を出す。
「電探室、測距出ました!」
「直ちに僚艦に通達せよ!」
そしてドイツ軍艦の優秀な電探が敵艦の位置座標を正確に捉えると、近くを航行していたシュペーやヴュルテンベルクに諸元が伝えられる。
「アーダルベルトから諸元来ました!」
「直ちに照準を合わせろ!」
その直後、煙幕の影に隠れて姿を完全に隠していたシュペーとヴュルテンベルクによる照準が行われる。
「ん…?」
その時、見張をしていたフリーデはフッドやロドニーの影に隠れていたキング・ジョージ5世の立ち位置に首を傾げた。
その頃、追撃を行っていたダートマス艦隊でブリジットはやや怪訝に艦隊を見ていた。
「かれこれ一〇分。もう尻尾が掴めそうですね」
キャリーは言うと、隣でブリジットは怪訝にその様子を見ていた。
「何か気になっていることでも?」
「うーん、あまりにも無策だからかな?」
ブリジットはそこで敵艦隊の動きに、敵の考えが読めずに首を傾げる。
「このまま外周円を渡っていても、内側を直進している私たちよりも不利なことしかない」
「なす術がないだけでは?」
キャリーはそこで逃げ回っているようにしか見えない艦隊の動きにそんな推測を立てていた。
「(うーん…煙幕で艦隊を隠して逃げるにしては速度も遅いしな…)」
艦隊をすっぽりと覆い隠し、その黒煙ですっかり他の僚艦の姿が見えない状況。集中砲火を受けているアーダルベルトの反撃も激しいモノではなく、緩射による軽い反撃しかなかった。
「っ…!」
その瞬間、彼女は顔を上げた。
「回避!面舵一杯!」
「え?」
ブリジットが敵の思惑に気が付いた瞬間、砲声が轟くと黒い煙幕に衝撃波で穴が開けられながら飛翔した砲弾がロドニーに着弾した。
「ロドニー被弾!被弾しました!」
「なっ…!!」
そこでほぼ全弾が命中したことに驚愕すると、見ていたセレナは唖然となる。
「煙幕から砲撃!?」
「第二射、来ます!!目標ロドニー、キング・ジョージ5世!!」
その直後、ヴュルテンベルクから放たれた砲弾がロドニーに着弾。散布界を広めに取っていた事で近くにいたキング・ジョージ5世も砲撃の巻き添えを受ける。
「いきなりなんですか?!この命中精度!!」
「今まで二〇分のアーダルベルトの航路出して!」
すぐにブリジットは書記から航路記録を見せてもらうと、そこで彼女は感心したように見ていた。
「やっぱり…、ビスマルクを中心に距離を測っていだんだ」
そこで現在の自艦と撃破判定の艦艇、視認可能なアーダルベルトの戦況図を見て彼女は理解した。
「逃げる間に煙幕を焚いて、僚艦の現在位置を隠して…先頭を進んで測距を行なって、私たちが間に入ったのを確認して撃ったんだ」
ブリジットは敵の思惑を完全に理解した様子で頷くと、その後ろでブツブツと呟いていたブリジットにキャリーは困惑気味に見ていた。
現在、撃破したビスマルクを越えて彼女達は敵艦隊の追撃を行っていた。大海原で十分な水深もある交戦海域は測距の目印になる動かない目標がない。
そこでアーダルベルトは動かない目標物として撃破判定を受けて修理が始まって動けないビスマルクを照準の目標にしたのだ。そして煙幕の中に隠した僚艦に座標を伝えて砲撃を行わせた。
「交戦海域ギリギリだけど、煙幕の中から撃ってきたってことは…」
ブリジットはそこで双眼鏡を使って今も煙幕を焚いているアーダルベルトを見る。
「あれは緞帳なんだ…」
上手いやり方だと彼女は舌を巻いた。
その意図はフッド、ヴァンガードの艦長達も理解する。
「くそっ、クラウツ共め!緞帳の裏から穴を開けやがった!!」
「煙幕でどこから撃っているか分からなくさせているんだ…」
事実、先ほどロドニーを撃破判定に持ち込んでから一切の砲を撃たない僚艦を見る。
最も火力の高い艦艇を撃破され、これで隻数は同数に持ち込まれた。それに伴って火力も大きく減らされた。
あくまでも向こうは火力を減らすことを目的にしていた様子で、三隻の集中砲火を受けてあっという間に撃破されてしまった。
「現在の天候は!?」
「ふ、風速〇.五節です…」
弱風の天候を聞いてグレニアは舌打ちをした。
「チッ、これじゃあ煙幕が晴れねぞ…」
そこで彼女は真っ黒で一切の姿が見れない艦隊を睨みつけると指示を出す。
「アーダルベルトの後方を狙え!僚艦は近くにいるはずだ!」
セレナも同様に指示を出す。
「砲術長、散布界を広げて発射して」
「了解しました」
そして彼女達は仰角に差を付けてから再度砲撃を開始する。
「
グレニアは獅子のように唸った顔を見せてアーダルベルトを睨んだ。
ダートマス艦隊からの砲撃を確認しながらアレクサンドラは連絡を入れていた。
『カッツヒェン、レン艦長ーー』
そこで先頭を航行していたアーダルベルトから無線で連絡を受けた。
「了解した」
『了解。任せろ』
テアは連絡を受けて頷くと、レンも賛同する。
「総員!フッドに向けて全速前進!」
「「「宜候!!」」」
そこで二隻は同時に面舵一杯で一斉回頭を行うと、アーダルベルトが展開していた煙幕を突き抜けて出てくる。
「煙幕止め!面舵一杯!!」
アレクサンドラも指示を出すと、船体を大きく回頭させ始めた。