入学式を終え、新入生総代の挨拶に軽く肩を落としたアレクサンドラは会場で知り合いとなったエーリカと共に会場となった艦艇を離れる。
「しかし、あの総代の演説には驚かされたものだ」
「『陸の上で話すことはない』…ですか、変わり者ですね」
エーリカも頷くと、二人は明日からのカリキュラムを前に割り当てられる寮に向かう。
「ザーシャさんは、何処から来たのですか?」
「南のペッキングからだ」
「まあバイエルンから?」
随分と遠い場所から来たもんだとエーリカは思った。だが海洋学校ともなれば国中から優秀な生徒が集まるからそうかと納得もしていた。
「あの場所は海に中々行けなくてな。余は子供の頃から海に憧れていた」
彼女はそう言うと、帰り際にエーリカは彼女に寄り道を提案をする。
「どう?私、少し前にここに着いたから美味しい
「フランクフルター…ほぉ、この近くにあるのか?」
フランクフルターと聞き、彼女の脳裏には新大陸の文化が過る。父の仕事に付き添う形で飛行船に乗って海を越えたことがふと思い出された。本場の料理を食べた為に美味であった事なども思い出した。
そしてエーリカの案内でアレクサンドラは近くの店に入りそこで注文をするのだが…、
「レジに人はいないのか?」
ここで端末だけ用意された店内に困惑してしまっていた。アレクサンドラは無人レジに戸惑いを見せており、困り果ててエーリカに聞いた。
「すまない…どう注文をすれば良いのだ?」
「え?あっ、まぁ…南部だとまだ無いこともあるのか…」
無人レジが分からないアレクサンドラにエーリカは自分の祖父母に教える様な感覚になりながら使い方を教えると、彼女は理解した様子で相槌を打った。
「普通のフランクフルターでいい?」
「ああ、マスタードは多めが良い」
「了解」
内心ですごい食べ方をするなと思いながらエーリカはアレクサンドラの注文の通りにフランクフルターを頼むと、そこでアレクサンドラは財布を取り出す。
「便利なのか不便なのか分からんな」
「それは慣れないと多分分かんないと思うよ」
エーリカは少し苦笑気味に自分の注文も済ませてから席に座る。
「エーリカは何処から?」
「私はケーニヒスベルクの方から」
「おぉ、ケーニヒスベルクか!」
都市の名前を聞いた途端、アレクサンドラは目を大きく見開いた。
「行ったことがあるの?」
「余の一族は毎年ケーニヒスベルクに集まるからな」
「へぇ、大きな家なの?」
「ああ」
アレクサンドラは頷くと、そこで店員がやってきてフランクフルターを持ってきた。
「おお、ここのは大きいフランクフルターなのだな」
半分に切られたパンの間に挟まれた太いブルストに刻んだ生玉ねぎ、ケチャップに目も覚めそうなほど詰め込まれたマスタード、見ているだけで目が冴えそうであった。
「学生も使うからね。大きいのじゃ無いと満腹にはならないわ」
エーリカは彼女の食べ方に少々引きつつも、お互いに座って食べ始めようとした時、二人を見て声を上げた。
「お?」
「あ、入学式の時の…」
話しかけられて顔を上げると、そこでは茶髪の少女が立っており、その隣にはヴィルヘルミーナやテア・クロイツェルなどもいた。
「おお、汝等か」
「さっきはありがとうございます」
「何の何の」
茶髪の少女に軽く首を横に振ると、そこで聞く。
「汝等はどうしたのだ?」
「あっ、実は帰りにここで食べようとなって…」
「でも他の所開いてなかったんだよなー」
そこでややボーイッシュ風味のある赤毛の少女が言って周りを見ると、入学式を終えたばかりであるからか、多くの新入生と思しき生徒達が屯していた。
「なら余の席を使えば良い」
「え?良いんですか?」
「何、余は小柄だ。少し詰めれば座れる。エーリカも良いか?」
「ええ、私は構いませんよ」
そこで座っていた席を寄って空間を作ると、そこでヴィルヘルミーナ達は際に座った。六人が座ったが、彼女達の体格のおかげで座ってもまだ余裕があった。
「レターナ・ハーデガンって言うんだ。さっきはどうも」
「ローザ・ヘレーネ・カールスです」
「アレクサンドラ・イレーネだ。宜しく」
「エーリカ・アレクセーエヴナ・ロジェストヴェンスキーです。これから宜しくお願いしますね」
そこで二人は挨拶をすると、アレクサンドラの隣にヴィルヘルミーナが座る。
「どうも、ヴィルヘルミーナさん」
「ミーナで良い。さっきはすまなかった」
そこでヴィルヘルミーナことミーナは軽く先の睨み合いに入り込んだアレクサンドラに感謝をすると、彼女のさらに隣に座っていたテア・クロイツェルを見た。
「初めまして。テア・クロイツェルさん」
「…あぁ」
話しかけられて彼女は面倒くさそうな顔を隠しもせずに答え、その事にアレクサンドラは先ほどの挨拶と言い『不可思議な奴だ』と思ったが、自分とてそう思われてきたのだから今更な話だと思っていた。
「うわー、でけーー!」
すると彼女達の元にもフランクフルターが届けられて、その太さにレターナは驚いていた。
「このマーク、ローレライか」
「うちの校章と一緒ですね」
ローザもその太さに驚きながら巻紙に印刷されていたマークを見て反応した。
「皆は今日知り合ったのか?」
「いや、レターナは私と同郷だ」
「幼馴染って奴っすよ」
「おぉ、幼馴染。良いなぁ、余も憧れたものだ」
そこでアレクサンドラはミーナに羨望を向けると、彼女は『それほど良いものでも無いぞ?』と返した。
「せっかく新生活憧れてここに訪れたのに、顔見知りがいたら雰囲気が壊れる」
「あー、なんて事言うんだ」
ジト目でレターナは言うと、彼女達は口を開けてフランクフルターを食べようとしたが、彼女はそこで一向にホットドッグを前に手を置いたままのテアに気がつく。
「食べないの?クロイツェルさん」
ミーナはそこで大きく口を開けながら彼女に聞くと、テアは首を傾げた。
「どうして私が手を煩わせなければならないのだ?」
「え?」
ミーナはそこで固まり、一瞬の思考の後に納得する。
「なるほど、じゃあガブっと!」
ミーナは理解した様子でテアの前にフランクフルターを差し出す。まだ口をつける前である為諸々の問題も無問題である。
「このままいくのか……?」
そこでいきなり差し出されたフランクフルターに驚きつつも、差し出されたフランクフルターに齧り付く。彼女はその小さな体躯らしく、噛み口もとても小さかった。
「はむ」
そして咀嚼。
「……美味しい」
その後もずっとブルストから溢れた肉汁の味わいを噛み締めていた。
「(あああああ、食べる姿も可愛んだけど!集中して食べてる!!)」
「おちつけ」
そしてその姿を見てミーナは内心で興奮していた。そしてとんでもない顔になっていたところをレターナに突っ込まれていた。
「口に付いてますよ」
そこで口元にマスタードとケチャップが付いていたテアにローザはハンカチを取り出して彼女の口元を拭き取ると、彼女は子供の様に反応した。
「あっ…」
その時、ローザは何かがときめいたような気がした。
「なんか今、お世話したミーナさんの気持ちが分かった気がします!」
「だろ!」
「お前らな…」
その反応にレターナは少し表情を引き攣らせて見ていた。
「しかし…」
そして次に彼女はミーナの左隣に座る人物を見る。
「あれ、ウチらと同じもの食べているんだよな?」
「ええ、マスタードが多いだけで同じものですよ?」
エーリカも頷いてアレクサンドラを見る。
「あーん…むぐむぐ…」
そこで丁寧な所作で一口ずつ丁寧に噛む彼女は全てが煌めいて見えた。
「何だろう。なんか高級なフランクフルターを食べているのかな?」
「何ですか、高級なフランクフルターって…」
自分とてほぼ没落したとはいえロシア貴族の末裔であり、それなりの教育は受けてきたつもりである。しかし目の前の少女はそれを軽く上回ってキラキラと輝いて見えた。
「ねぇ、あれナニ?」
「さぁ…?」
彼女の周りだけ煌めいて見え、ただのフランクフルターも高見えしていた。
そしてヴィルヘルムスハーフェン校の校内では一部有志の露店が用意されていた。
「へぇ、露店まであるんだね」
「わーっ、可愛いですね」
校内でレジャーシートを敷いて物品販売を行なっていたのをアレクサンドラ達は見ていた。
「あっ、これなんかクロイツェルさんに似合いそう」
そこでミーナは膝を曲げて露店で売られていたリボンを手にとって見せた。
「ほらっ」
「……」
そんなミーナにテアは先ほどのフランクフルターを思い返しながらそのリボンを受け取る。
「ーーいや、お前の方が似合っている」
「えっ…」
そして彼女はこれ以上の付き合いも無いだろうからと、最も効率の良い別れ方として露店の店主に言う。
「店主、同じのを買うぞ」
「まいどっ」
そこでリボンを受け取ると、それをそのままミーナに手渡す。
「これはお前の好意に対する礼だ。受け取れ」
その時、彼女は大きく目を見開いてリボンを渡してきたテアを見上げた。
「おお…!!じゃあお揃いにしよう!もう一つください!」
「えっ…!?」
その行動にテアは驚いてしまうと、リボンを受け取りながら彼女は言う。
「あと私、クロイツェルさんのことテアって呼びたい!いいかな!?」
「!?」
そんな彼女の提案にテアは自分の予想と丸切り反対の動きをする彼女に、いい加減面倒になってしまった。
「はぁ…ーー好きにしろ」
「やったーー!!」
ミーナはテアの返答を聞いて嬉しくなって飛びつくと、店主そっちのけになってしまった。
「あの…お代…」
「余が払おう」
そこで店主に代わりにアレクサンドラが支払いをすると、彼女達は別れる。
「それじゃあテア!また明日!」
テア以外は寮が別の場所にあるため、彼女一人が別れると、その際にミーナは大きく手を振っていた。
「…(やっと帰ったか)」
煩いのがようやく帰ったと安堵すると、
「あーらあら、似合っているわねぇ」
その後、間を置かずに一人の生徒が話しかけた。
「あの方達は……?」
「どうかなさいました?」
そしてその様子を遠くからリーゼロッテ達が見て首を傾げていた。