「左一二〇度。回頭、と〜りか〜じ一杯!」
アーダルベルトは煙幕を切って旋回を行うと、煙幕を挟んで隠れていたシュペーとヴュルテンベルクも一斉に左九〇度に回頭して煙幕を突き抜けてダートマス艦隊の目の前に出てくる。
「「「っ!?」」」
アーダルベルトを中心に追撃を行っていたダートマス艦隊は、僚艦も先ほどのロドニーの攻撃からピッタリ追従をしていると予測しており、煙幕に沿うように航行していたため、真隣の煙幕から出てきた二隻に驚愕する。
「目標はすぐ目の前です!!」
「流石だ…」
「凄い…」
そして煙幕を突き破って抜けた先で同航戦の形状となった様子を見てアーダルベルトから管制を受けて航行していたミーナ達は唖然となって舌を巻いていた。
「よし!行ける!」
「勝てるぞ!!」
目の前に接近していた艦隊を前に乗組員達はロドニー撃破で勢い付いていた。
一方で煙幕を突き抜けて出てきたシュペーとヴュルテンベルクにダートマス艦隊は完全に面食らっていた。
「主砲!旋回急げ!!」
「ダメだ、間に合わない…!!」
「速射砲!撃て!」
そこで最も近くにいたフッドは目を見開いて副砲の十四cm速射砲の攻撃が先んじて行われる。そして目の前一杯にフッドを視認したヴュルテンベルクでレンは叫ぶ。
「艦首・右舷、魚雷発射用意!!こうも至近距離だ!確実に当てろ!!」
「ぎょ、魚雷発射用意!目標、フッド!」
その直後、速射砲の攻撃が集中的に命中する。応戦するようにヴュルテンベルクも十五cm速射砲の攻撃を行い、副砲同士の撃ち合いという奇妙な光景が出来上がっていた。
『レン!!』
「大丈夫だ。頑丈だけが取り柄だからな!こう言う弾受けなら大歓迎だ!!」
ミーナが叫ぶが彼女は平気な様子で衝撃を感じ取った艦橋で答える。するとジルケが報告する。
「魚雷発射用意完了!」
「発射!」
そして叫ぶと、艦首と舷側から三本の六〇〇mm魚雷がゴォンと重たい音を立てて射出されると、真っ直ぐフッドに向かって舷側から射出された二本の魚雷がフッドの船体に命中する。
「被雷!被雷しました!!」
「左舷に二発命中!!」
命中したフッドでは船体が大きく揺れ、グレニア達は衝撃でよろめいた。
「損害報告!」
『こちら射撃指揮所!まだ動けます!』
「よしっ、前はシュペー!後ろはヴュルテンベルクを狙え!水平射撃!」
グレニアは確認を取ると、大破こそしたがまだ動けることに安堵して照準を合わせる。すると旋回を続けるフッドを見て見張員のエリーザが叫ぶ。
余談だが、シュペーの見張員とアーダルベルトの電測員は奇跡的に同じ名前であったために、お互いに『見張りの方のエリーザ』『電測の方のエリーザ』と呼び分けがされて渾名がつけられていた。
他にもシュペーの会計長とアーダルベルト艦長も同じ名前であるため『会計のサンドラ』『艦長のザーシャ』と区別されていた。
「フッド!まだ主砲動いてます!」
「右舷、魚雷投射!」
シュペーはそこでトドメの一撃で船体後部の五三三mm魚雷を四本発射すると、至近距離ということもあって直ぐにフッドに四本の水柱が上がる。
「一、二、三、四…!」
「全弾命中を確認!」
そこで水柱を確認して報告をあげると、審判が下される。
『フッド停止!航行不能!!』
「なっ…!?」
グレニアは六発の被雷を前に撃破判定を受けると、そのことに絶句してしまった。
煙幕から飛び出してきたシュペーとヴュルテンベルクに驚愕する中、ヴァンガード艦橋では阿鼻叫喚していた。
「こ、後方に二隻確認!」
「前方!アーダルベルトの旋回を確認しました!」
そこで見張員が煙幕を切って面舵をとるアーダルベルトを見て悲鳴を上げた。
「セレナ!」
そこでアナスタシアが叫んだ頃で、彼女は乾いた笑いをした。
「ハハハ…やられました…アレックス」
彼女はそこで側面を向けて全砲門を指向したアーダルベルトを見る。
「目標!ヴァンガード!全砲塔!照準を合わせぇ!」
綺麗に丁字の形となって航行する形にアレクサンドラもこの気を逃さずに指示を飛ばす。
「前部砲塔はアーダルベルト!後部はシュペーを狙え!」
セレナは直ぐに気を取り直して指示を飛ばす。
「全ての火砲を使用せよ!速射砲、撃て!」
そして近距離での撃ち合いに船体側面の両用速射砲四基も正面に指向して砲撃を行う。
「艦長!伏せてください!」
「構わん!射撃を続行せよ!」
露天艦橋に立っていたアレクサンドラは叫ぶと、同時に号令を出す。
「
そして放たれた砲弾は同時に着弾をすると、お互いに砲弾の雨が襲いかかった。しかし体を大きく見せていたアーダルベルトの方に複数砲弾が命中をすると、重巡洋艦程度の装甲しかないアーダルベルトは撃破判定を受けた。
『アーダルベルト、航行不能!!』
「よしっ」
セレナはグッと拳を掴んだ時、船体に激しい振動が襲った。
「うおっ!?」
「何事だ!!」
アナスタシアが聞くと報告が上がった。
「被雷!被雷しました!!」
『機関停止!航行不能!!』
「何?!」
「何処から…!?」
そこで彼女は双眼鏡を使って雷撃を行った正体を理解する。
「…シュペーだ」
そこでは右舷側を見せていたシュペーの姿があった。その船体後部は四連装魚雷発射管が旋回しており、魚雷を発射したのは彼女だと理解する。
そして撃破判定を聞いてミーナはグッと拳を握る。
「よしっ!後はキング・ジョージ…「その必要はない」え?」
ミーナはテアに驚くと、彼女はそこで左舷側を見た。
「キング・ジョージには、もう撃つ砲が無い」
彼女はそう言うと、ブリジットは艦橋で薄く笑みを見せてカップを傾けた。
あの壮絶なビスマルクとの砲撃戦や、煙幕越しの射撃によってキング・ジョージ5世は多大な損害を受けて航行不能寸前まで機能不全に陥っていたのだ。
「試合は終わりだ」
テアはキング・ジョージ5世の艦橋から上がる大きな白旗を見つめた。
『それでは、親善試合のMVPを発表するーー』
海上基地内の運動場。そこで親善試合に参加した全生徒が整列をしており、教壇で教官が言う。
『受賞者代表。プリンツ・アーダルベルト艦長、アレクサンドラ・イレーネ。前へ!』
そこで名前を呼ばれてアレクサンドラは壇上に上がる。そこで彼女はメダルを受け取る。そして教壇を後にすると、次に名前が呼ばれる。
『褒章授与者。アドミラル・グラーフ・シュペー艦長、テア・クロイツェル』
名前を呼ばれた彼女は、そこで釈然としない様子を隠しながら拍手を受けながら教壇に上がる。
「褒章です。おめでとう」
「ありがとうございます」
そしてエンバスから直接首を通して受け取ると、その後ろで褒章もMVPも取り損ねたクローナは鼻を鳴らしてそっぽを向いていた。
褒章を受け取り、ミーナからも喜びの様子を見せると、そこで一人の生徒が話しかける。
「おめでとう、カッツヒェン」
「…ザーシャ」
アレクサンドラは胸元にMVPを示す
「どうだ?母上と同じ褒章を受け取った気分は?」
「…」
その時、彼女は少し考えて自分の中で考えを纏めてから言葉を紡ぐ。
「…これほど激昂することはないな」
「そりゃあ良かった」
「?」
一瞬、テアがアレクサンドラを睨んだことにミーナは首を傾げていた。
「おめでとう」
「ブリジット!」
そこでブリジットが話しかけた。
「一つ聞いていい?」
そして彼女はそこで彼女に聞く。
「いつから気づいていたの?砲が壊れているって」
「…先頭を航行していたアーダルベルトに砲撃がされていた時だ。煙幕の後ろに隠れていた我々は、砲撃の数が少ないと思っていた」
テアは言うと、ブリジットはやや驚いた様子で彼女を見た。
「うまく隠していたようだが、あの場面で旋回中のアーダルベルトに攻撃をしなかったのは砲が使えなかったからだ。それなら、使えない間に勝負をつけたかった」
そこで事情を知って彼女はため息を吐いた。
「はぁ〜、やっぱりそうか〜。敗因はビスマルクにやられ過ぎちゃったことかな…」
「いや、我らの完敗だ」
その時、テアはブリジットに言った。
「この艦隊で最も足の速いアーダルベルトがいなければ、我々は煙幕の裏に隠れられなかった。副砲の撃ち合いになる距離まで接近できたのは模擬弾だったからだ」
その時、ブリジットは目が見開かれた。
「もし本当の戦いだったら負けていた」
彼女はそう言うと、ブリジットは笑う。
「ふふ、正直なんだね。テアちゃんは」
彼女はそう言い、テアの手を握る。
「私、貴女の事好きかも」
彼女はそう言った時、僅かにテアの顔が赤くなった。
彼女は本気ではないことは『Like』と言った時点で分かっていたが、それでも思わず驚いてしまう。するとブリジットは打って変わって冷や汗をかきながら言う。
「それはそうとちょっと相談なんだけど…あの人どうにかならないかな?ずっと睨まれていて…」
そこではジッと睨みつけて見ていたクローナの姿があった。まあ散々ボコボコに撃ち合った仲でもある上に、最初にあのラッキーパンチである。
泣いても許さないと宣言した通り、試合が終わっても彼女は怨嗟の視線を送っていた。
「それは自業自得です。ブリジット様」
「キャビアちゃん!?」
そこでキャリーがスッと姿を表すと、彼女はブリジットを回収していく。
「絡まれない内に帰りますよ」
「アーン、まだレン様と別れの挨拶が〜!!」
そう言い彼女を回収していくと、彼女はそこで言う。
「アッ、言い忘れる所でした。良い勝負をありがとうございました」
彼女はそれだけ言い残してから去って行った。
「…あれ、ザーシャは?」
その時、ミーナは周りに先ほどまで居たアレクサンドラが消えていたことに首を傾げた。
その彼女はある生徒と顔を合わせていた。
「お久しぶりです。アレックス」
「うむ。最後にあったのは四年前の晩餐会以来であるな」
話していたのはヴァンガード艦長のセレナ・ウィンザー。彼女の側にはアナスタシアの姿もあった。
「初めまして。アナスタシアさん」
「初めまして。エーリカさん、アンネリーさん」
そしてアレクサンドラの一歩後ろに立っていた二人は挨拶をした。