その日、アレクサンドラはエーリカとアンネリーを伴ってある場所を訪れていた。
「やれやれ…」
そしてやや呆れも混ざった様子で彼女はその光景を見下ろしていた。
「乗艦の直後に改装をするとは」
そこでは水の抜かれた乾ドックに残置されているアーダルベルトの姿があった。アレクサンドラの隣でアンネリーが改装計画を読んでいく。
「新装備の装備と副砲の換装…新しい人員を迎え入れるための準備も大忙しですね」
「お陰で段ボールを片付けることすらできなかった…」
彼女はそう言い、ルイ・ヴィトン製のコンテナを見る。
彼女達は最初の一ヶ月間の演習航海の後、二ヶ月間のドック入りによる大規模改装工事を受けていた。目的は新技術導入と新兵科の試験運用である。
その為、彼女達のクラスは海上基地での一ヶ月の基礎訓練、ダートマス校との親善試合の後に改装工事を行うためにキールに訪れていた。
「編入生が来るまでの間、我々は特別補習期間となる」
「エッカーンフェルデまで移動するんですね」
「ここが恋しくなりそう…」
彼女達はそこでこれからの二ヶ月間に苦労する事とになりそうだとなりながらドックに入る自艦を見つめる。
「幸い、カッツヒェン達も余の事を咎めてくれる事もなくて安心した」
「でもお話は広まってしまいましたね…」
「何、ある程度は覚悟していた事だ」
彼女はそう言い、今も奇々怪界な視線で見られる事にため息をついていた。
ホーエンツォレルン家の血族であるという話はあの社交会の後、どこかで盗み聞きをされていた様で、帰ってきて多くの生徒達から連絡を受けてしまった。
「やれやれ、噂が広まるのが早いことよ」
「何と言ってもヴィルヘルムスハーフェンは女子校です。噂は自分の立ち位置を覚悟する上で必要な事です」
「ましてやホーエンツォレルン家ともなれば…」
そう言うとエーリカは隣で立つ親友を見る。相変わらず彼女の身長は悲しいほどに小さく、自分とは三〇センチ近い差は埋まらない。
「さて、そろそろバスが出ます」
「了解した」
そこで彼女達はキールまで回航した自分達の教育艦を背にすると、他の同じプリンツ・アーダルベルト級の生徒達と共に目的地に向かう。
エッカーンフェルデ海軍基地。
そこは主に潜水艦や支援艦艇、陸戦部隊の基地を有するドイツ共和国が有する海軍基地の一つだ。
「流石に大きい」
「元々潜水艦は我々ドイツが一番の技術力を有していますからね」
そこで多数係留された
欧州動乱で疲弊したドイツとフランスだが、その後のニイハウ条約によって軍艦の保有数に制限が加えられてしまったことで、その抜け道としてドイツは高性能な潜水艦を多数建造する事によって戦力を補おうと考えた。
その戦略によって生み出された潜水艦艦隊は、現在は教育艦として多数が運用されていた。
ドイツではその誇りと自信を表す様にこの国では女子生徒であっても潜水艦の教育艦が用意されている。
「た、高い…」
「ひぃぃ…」
そこで五〇メートルほどの塔に登らされた生徒達は、そこで覗き込んだ高さに震える。
「本日はハーネスを使用した
そこで教官が叫ぶと、一式の装備を揃えた生徒達はその腰にカラビナを装備していた。彼女達は安全帯を使ってカラビナとロープなどの器材を指定された通りに装着すると、教官は暗闇の中で暗示装置を使って指示を出す。想定戦場は敵施設上空である。
「
状況が始まった事を伝えると、クルーチーフ役の生徒が立ち上がって身を乗り出してからそこから見える景色に障害物がない事を確認する。
「
そして足元でとぐろを巻いていたロープを蹴り落とすと、重力に従ってロープが地面に落ちる。
「
そこで
そして投下されたロープは真っ直ぐ伸びて下まで到達する。
「
そして模擬用のランプが赤から緑に切り替わると、クルーチーフは叫ぶ。
「
そこで彼女達は飛び出す様にロープにしがみつくと、ロープを伝って降下を始める。
元々彼女達は艦橋の窓の清掃などでロープアクセス技術は体得しており、ある程度の高さに恐怖はなかった。しかしこれが数十メートル。しかもベルリンテレビ塔に上がって練習をさせられた時は生きた心地がしなかった。
「高いよ…」
「怖って…!!」
彼女達はそんな事を口々にしながら訓練をこなしていく。
同時刻、屋内演習場。
「伏せろ」
そこで
彼女達は手元に握られた突撃銃を持ってハンドサインを送ると、模擬弾の
ッ!ッ!
二発目の閃光弾が起爆をすると、部屋に突入を行って突撃銃の射撃を行う。
「
彼女達は
彼女達は全員がプロテクターや防弾装備を纏い、全員が防弾装備を纏ってキャンバス製ポーチを降ろしていた。
「
銃口を突きつけて彼女は叫ぶと、部屋に突入をした生徒達は敵役のブルーマーメイド隊員から反撃を受けた。
「「うわっ!!」」
ドアの影に隠れて手榴弾の攻撃も突撃銃の攻撃も耐えていた隊員に複数の生徒達が撃退されると、生き残った生徒が持っていた突撃銃を使って残存した敵を撃破した。
『
そこでアナウンスが鳴る。
『訓練終了。直ちに準備室に帰還せよ』
彼女達は指示を受けて装備を持ったまま準備室に戻ると、そこで彼女達は体が模擬弾で命中したBB弾がポロポロと落ちる。
「痛ててて…」
「大丈夫?」
「何とか…」
そこでフル装備をしていた彼女達は、疲れた様子でシュターヘルムを外す。
「あっつ〜」
「蒸れちゃった」
「誰かスプレー持ってない?」
そこで彼女達は疲れた様子で纏っていた装備品を外していく。
「戦闘結果だ。損害六名、目標数以上。作戦は戦術的失敗だ」
教官はそこで今し方の戦闘訓練の動きを見ていた生徒達に結果を伝える。
「今回の戦闘は
そして次に教練と反省会が開催され、彼女達はブルーマーメイドから教練を受けていた。
この日々の戦闘訓練に疲労困憊になりながら特別実習を受講している生徒達は食堂で机に突っ伏していた。
「あぁ〜…」
「大丈夫?」
「…この様子を見で何処がどう大丈夫だと言えますの!?」
そこで聞かれて声を荒げて砲術員のヨハンナ・フォン・ザウアーは叫ぶ。
「疲れた…」
「しょ、食事が喉を通らない…」
彼女達は連日連夜の猛特訓を前に撃沈されていた。せっかく、先の親善試合でMVPを獲得したにも関わらず、日々の疲労でスイーツを頼もうにも食事だ喉を通らなかった。
「諸君、大丈夫かね?」
「「「「っ!!?」」」」
その時、彼女達にアレクサンドラが話しかけると、彼女はそこで天啓を授ける。
「教官と話をつけて今度の週末に休養を取り付けた。喜べ、今度の週末は自由時間が与えられる」
「…え?」
その時、彼女達は一瞬の困惑で顔をあげ、その言葉の意味を反芻して理解すると徐に涙が溢れる。
『『『『『ありがとうございます!!殿下!!!』』』』』
彼女達はそこで泣き付くようにアレクサンドラに言うと、彼女は『また新しい渾名が増えた…』と内心で思いながら涙を流して喜びの舞を踊る生徒達をみる。
その頃、海洋演習を終えたシュペーでヴィルヘルムスハーフェン校ではテアがほうぼうと天井を仰ぎ見ていた。
「大丈夫か?テア」
「…ああ」
そこで少し遅れて返事をしたことに見ていたレターナも不安になってミーナに話しかける。
「本当に大丈夫かよ」
「親善試合からここまで、ずっとああでな…」
ミーナはそう言い、テアを見ると彼女の頭の上に被せられた制帽を見る。その帽子はマイヤーから預けら制帽であり、その帽子を日本に届けてこいと言う彼女の母親からの伝言を聞いてからと言うもの、この調子が続いていた。
「ザーシャも今は居ないしなぁ…」
「ああ、こう言う時はクローナのウザさでも欲しいところだ」
彼女はそう言い、大規模な修繕の関係で座学が中心となっているビスマスククラスを思い出す。
学校に帰還した彼女達であるが、この後もほぼ洋上演習ばかりが待っているため、珍しく彼女達は別々に行動していた。
「しっかし驚いたな〜。まさかザーシャがお姫様だったとは…」
「失礼だぞ。殿下と呼べ」
「いやぁ、でもホーエレンツォン家って、王位は剥奪されたわけだし…」
「「…」」
そこでレターナが言うと、ミーナ達も思わず沈黙してしまう。それは海上基地で知った親友の話。
偶然とはいえ、今ではすっかり学内でも有名な話になってしまっていた。
「でも色々と納得が行ったけどな」
「ああ、道理で彼女は食べたかも所作も綺麗だったわけだ」
あのどんな食べ物すら高級品に見えたあの仕草は、長年の作法の教育の賜物なのだと彼女達は理解していた。
「レイピアの銘板も
「大叔父というのも、現ホーエレンツォン家の当主だそうだ」
「へぇ〜、よほど気に入られているんすね」
レターナはそう言って親友の意外な素顔に笑って過ごしていた。