Reichs Adler   作:Aa_おにぎり

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#23

アレクサンドラ達に課せられた特別実習は、陸上での白兵戦ばかりであった。

二ヶ月間の訓練期間、三ヶ月に及ぶ艦艇の改装。いずれも余す事なくカリキュラムは消化され、プリンツ・アーダルベルト級の各乗組員に行われる改装に生徒達は辟易としていた。

そんな中で彼女達はとある招待を受けて視察を行っていた。

 

「ほぅ…」

 

その日、アレクサンドラを始めとした今回の特別実習に参加した艦艇の艦長・副艦長の両名はブルーマーメイドのドイツ支部技術廠に訪れていた。

 

「これがそうか?」

「はっ、我が航空技術局が開発した新型機であります」

 

普段はハイブリッド飛行船を格納する巨大な飛行船格納庫の中、駐機されていたその機体を見上げて感心した様子で見ていた。

そして彼女達の前で作業着を纏っていたその女生徒が説明をする。

 

「『Fa 223 ドラッヘ』我がドイツ航空技術局が発明した、世界初の非気嚢使用型の航空機です。Hubschrauber(ヘリコプター)と我々は呼称しております」

 

そこには巨大なプロペラを上に向けた状態で駐機されていた機体を見る。その見た目は魚のような形状の胴体から細い梁が機体両方に大きく伸びており、明らかに飛行船ではありえない形状をしていた。

そんな機体を見ながら恐る恐るアレクサンドラは聞いた。

 

「ヘリウムや水素を使わずに飛べるというのは、本当なのか?」

「まずは見てもらう方が早いでしょう。どうぞコチラに」

 

そこで技術廠に配属となった海洋準備校時代の同級生に案内されて彼女達は機体に乗り込んでいく。

その奇怪な見た目から乗り込んだ面々は不安げになりながら言われた通りにヘッドホンを装着する。

 

「今回飛行を担当いたします。パイロットのマルグレート・フォン・リヒトホーフェンです」

 

すると乗り込んだ彼女達に敬礼を行なって一人の生徒が挨拶をする。その役職を聞いてアレクサンドラはフッと笑った。

 

水先案内人(パイロット)…なるほど、大空を海に例えたか」

「どうぞ、新しい技術で作られた快適な空の旅をお楽しみください」

 

マグレートは自信ある様子で頷くと、彼女は機体のドアを開けてアレクサンドラ達を乗せる。そして機体の解説を受けた。

 

「こちらの機体は搭乗員に八名を添乗可能な上、担架を用意すれば四名を運搬することが可能です」

「思ったより少ないわね…」

 

そこで飛行船の方が積載量で圧倒的なことに彼女達は『これを艦載機にする意味はあるのか』と訝しむ。

 

「ええ、しかし巡航速度は時速一二一km、最高速度一八二km。毎秒四mの上昇が可能です」

 

しかし彼女はそんな怪訝な感情を払拭するように諸元を話した。

 

「何と…!?」

「そんな速度で空を飛べるのか?!」

 

そこで速度を聞いて乗り込んだ面々は驚愕していた。

ハイブリッド飛行船はどれだけ速度を高めようとも最高速度は一三〇キロ程度が限界である。それを巡航速度で出せるというのだから彼女達が驚くのも無理はない。

 

「飛行後は此方の者にご質問を。ではこれより離陸いたします」

 

彼女はそう言うと、全面が防弾ガラスや防弾プラスチックで覆われたコックピットに座り込んで各種エンジンの確認を行う。

そして無線機を起動して彼女は事前チェックを終えてからエンジンの点火ボタンを押す。

 

「一番点火」

 

そして片方のエンジンが轟音を立てて動き始めると、巨大なプロペラが回転を始める。

 

「二番点火」

 

そして動いていなかったもう片方のエンジンも動き始める。直径が十二mもある巨大な機体は艦載機運用を行う際はその大きさ故にこのプロペラを外すように指示がされていると言う。

 

「管制塔、此方ホルス01。タキシングの許可を求める」

『こちら管制塔。ホルス01のタキシングを許可する』

 

彼女は無線でのやり取りを行うと、レバーを前方に倒して格納庫を出る。そして格納庫前の駐機場に出るとそこで停止する。

 

『ホスル01、離陸を許可する』

「了解。離陸する」

 

そこでエンジンの回転数を上げると、飛行船ではありえない轟音は機内に響き、飛行船の感覚で必要ないだろうと思っていた艦長達の耳を破壊しにかかる。

すると座っていたアレクサンドラは視界の先で今まで近かった地面が離れていくのを認知した。三つある大きめのタイヤが全て地面を離れると、機体は上昇を開始していく。

 

「…おぉ」

 

そして一度離陸をした機体は、そのまま上昇を続けてあっという間に飛行船基地を見渡せるほどの高度まで上昇を行い、基地の周りを一周し始める。

 

「ザ、ザーシャ…」

 

するとその光景を見ていたエーリカはやや顔を青くさせてアレクサンドラの袖を掴んだ。

 

「ふははっ、怖いのか?エーリカ」

「だって、浮袋も無しに飛んでいるのですよ…!?」

「安心せい。よほどの安全性がなければ我々には乗る許可すら降りておらんぞ?」

 

彼女は王族の末裔らしく、この新しい体験を前にしてもどっしりとして構えており、そのことが他の面々を唖然とさせていた。

 

「見ろ。八人とはいえ、一〇〇〇キロ以上の荷物を懸架できるそうではないか」

 

アレクサンドラはそう言いながら事前に渡された仕様書を見る。

この機体はいくつかの派生系として二五〇キロ爆弾や爆雷を装備した対潜哨戒型のA型、偵察型のB型、ウインチを備えた捜索・救難型のC型、輸送型のD型、練習機のE型がすでに設計を完了して製作を行なっていた。

 

「我々はこの機体を各地に売りつけることも目的なのだろう」

「え?では…」

「まあ、次の遠洋実習は我が艦級は全てブルーマーメイドの主要地に派遣されることとなるだろう」

 

機内で彼女はプロペラの回る轟音を耳にしながら話すと、眼下に広がる基地を見る。

すでにこの機体の先行量産型のロールアウトは完了しており、整備員やパイロットの育成も順調に行われていた。

 

「それが航空科ですか…」

「ああ、主にこの機体ともう一つの機体で試験を行うそうだ」

「もう一つ?」

 

そこで彼女は首を傾げると、そこで機体は飛行船発着場に着陸を行った。

初めてのヘリコプターに一部の生徒達は乗り物酔いを起こしてバケツに霰も無い醜態を晒していたが、アレクサンドラは平然としており、むしろ楽しげでもあった。

 

「続いては私がご案内いたします」

 

次に挨拶をしたのはロジーネ・フォン・リヒトホーフェン。先ほどの機体のパイロットを務めたマルグレートの双子の妹である。規則上、一度飛行を行うと次に飛べるのは八時間後というルールが定められているそうだ。そのため交代しなければならないという。

双子というと直前の親善試合のチェンバレン姉妹を思い出すが、この二人は二卵性双生児と言うこともあって、顔立ちはそれほど似ていなかった。

 

「今度はどんな機体なんだい?」

「はっ、きっと貴女様であれば喜ばれるかと」

 

そう言い自身のある様子で彼女はアレクサンドラ達を案内する。

 

「ほう」

「先ほどのよりもだいぶ小さいですね…」

 

そこで案内された機体を見てエーリカがそんな感想を呟く。確かにその機体は先ほどの『Fa 223(ドラッヘ)』と比べると大変小柄な機体であったのだ。

 

「此方は『Fl 282 コリブリ』の複座偵察・連絡仕様のB型でございます」

 

そこで巨大な交差双ローターが目をひく小柄な機体は先ほどの大型機と違って剥き出しのコックピットを備えていた。二人目は機体後部に後ろ向きに座席が配置されており、此方もまた剥き出しであった。そしてドラッヘもコリブリも、その名前に相応しい機体サイズであった。

 

「此方は最高速度時速一五〇km、航続距離一七〇kmで運用可能です」

「これでは、確かに移動と偵察以外では使え無さそうだな…」

 

その機体を前にアレクサンドラは興味津々で見ていると、ロジーネは聞いた。

 

「お乗りになられますか?」

「是非頼もう」

 

即答をした彼女にエーリカは目をギョッとさせた。

 

「ザーシャ…」

「ふふふっ、先より低高度を飛ぶのだ。安心せい」

 

彼女はそう言い、不安がっていた長年の友人に安心させるように話すと彼女は飛行服(フライトジャケット)を受け取って着替える。

 

「ふむ、スカートが邪魔になるのか」

 

そこで彼女は制服のスカートが非常にズボンタイプの飛行服と相性が悪かった。

 

「仕方ない…」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

その時、彼女は躊躇なくスカートのホックを外したので、周りにいた生徒達は面食らって驚愕した。

 

「安心せい。下はドロワーズを履いてきておる」

「「「「「そう言う問題じゃない!!」」」」」

 

そこで彼女達はホックを外したアレクサンドラを囲うようにエンジンを作って足跡の壁を作って、その中で着替えさえた。

 

「ふむ、少し暑いな」

「空に上がればよく冷えます。ですのでこれくらいが良いのです」

 

そこで飛行服を纏った感想を漏らすと、ロジーネは機体後部にアレクサンドラを乗せると、そこで彼女はヘッドホンを付けた。

 

『シートベルトを必ず閉めてください』

「了解した」

 

新しいおもちゃを見たように興奮気味であった彼女は真っ先に小型ヘリコプターに乗ると、そこですぐ頭上を回転し始めるローターを見る。

 

「あの小ささで大丈夫なのか?」

 

その様子に不安げに一人の艦長がぼやいた。

その小柄な機体の上部に大きさ約十二mのローターを四枚持ち、絶妙に斜めに角度をつけられていたその機体はぶつからない絶妙な速度でエンジンを回転させると、次第にフワリと機体が持ち上がった。

 

「「「「「おぉ〜…」」」」」

 

その様子を見て思わずそんな感想が漏れる。さすがは技術大国の祖国だと内心で誇りと自信が沸々と上がってくると、離陸した機体を見上げる。

 

「しかし凄まじい轟音だな」

「これでは偵察に使えないのではないか?」

 

彼女達はそう言い、ヘリコプターの巨大なローター音にそんな事を言う。

 

「演習で試してみるしかあるまい」

「しかしあれには装甲がない。輸送と連絡、救難任務以外で使えるのか?」

 

また別の者は非装甲であることに懸念を示しており、戦闘時に使えないのではないかと怪訝に見ていた。

 

「…」

 

そして離陸していったヘリコプターを見上げていたエーリカは、そこで改めて諸元を見た。

 

「(凄い。諸元を見ても圧倒的に飛行船よりも何もかもが優勢だ…)」

 

その性能を前に彼女は震えていた。せいぜい飛行船が勝つのは積載量と飛行時間だけだろう。ヘリコプターと飛行船では、速度と俊敏さは異次元で高性能であった。

 

「(おまけにドラッヘは爆装もできる。ここにロケット弾でも取り付けたら潜水艦は瞬殺だわ)」

 

設計思想にも反映されている対潜・偵察・輸送・捜索・救難、全てが一つの形式のバリエーションで可能な機体を前に彼女は歴史が変わる瞬間を目撃しているような錯覚に襲われた。

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