新年を明けてから出港を行う遠洋実習を前に、ヴィルヘルムスハーフェン校ではクリスマスを迎える事となる。
「…」
その日、アレクサンドラは平原の中でその手に
BOW!WOW!
そこで聞こえてくるのは犬の鳴き声と草原を走る音、すでに二匹の猟犬がこの場所で放たれていた。この鳴き声は獲物を見つけた時の合図だ。
「…」
風を読み、音を聞き、よく調教をされた猟犬達は平原で追い立てていく。徐々に足音は大きくなり、草を掻き分ける音も近くなる。
ッ!
その直後、草むらから一匹の動物が飛び出すと、彼女は持っていた散弾の引き金を引いてスラッグ弾を発射した。すると撃たれた鹿はそのまま倒れると、音を立てて地面に倒れた。
「お見事です。アレックス」
そこで手を叩いて森に出てきたのは頭に鹿撃ち帽を被ったセレナが出てくる。そこで銃を握っていたアレクサンドラは深く息を吐いて持っていた銃の安全装置を付けた。
次に自分が仕留めた鹿を見ると、足元に擦り寄ってきた猟犬を撫でた。そして撫でられた二匹のボーダー・テリアは嬉しそうに微笑んでいた。
「見たまえ、大物だぞ?」
「ええ、一発で仕留められるとは流石です」
彼女はそう言い仕留めた鹿を見ると、彼女はそこで手を挙げるとゾロゾロと従者が出てきて仕留めた鹿を回収していく。彼女は綺麗に心臓を貫通しており、ひどい臭いもしなかった。
「見ろ!」
そしてアレクサンドラは次に三人目の招待客に目を向けた。
「カッツヒェン。帰ったら鹿のジビエだ!この家のジビエは最高なんだ!」
「…なぜ私まで参加しているのだ?」
そこでテアは彼女から与えられた
事の始まりは十一月の初めの頃だ。
ヴィルヘルムスハーフェン校に帰還したプリンツ・アーダルベルト級大型直接教育艦。
「帰ったぞ。諸君!」
そこで甲板に仁王立ちで彼女は立って答えると、岸壁ではミーナやテアが手を振って出迎えていた。
「お帰り。ザーシャ」
ミーナは手を振ってアレクサンドラ達を出迎えた。何せ三ヶ月ぶりの再会である。
彼女達は艦艇の改装工事と特別実習の為にキールに移動しており、海上基地で別れたのが最後になってしまっていた。
「(…あれ?)」
そしてタラップが下される時、ミーナは違和感を覚えた。そしてタラップを伝ってアレクサンドラ達は投錨をしてから下船を行うと、そこでその違和感の正体に気がついた。
「ザーシャ…大きくなったか?」
「おぉ!!」
「え?」
その瞬間、以前よりも顔を見下ろす角度が浅くなったことを指摘すると、彼女は普段は糸目寄りの目を大きく見開いてミーナを見る。
「そうなのだよ!この三ヶ月で余の身長は聞いて驚け!三センチも伸びたのだ!!」
「なっ…!?」
その瞬間、テアは目元を暗くして驚愕し、ミーナもその成長ぶりに驚いていた。驚くべき急成長ぶりである。
「凄いな。そんなに伸びるものなのか?」
「うむ!一ヶ月一センチの速度で伸びている」
「どうも、少し遅めに成長期が来たみたいなんです」
その隣でアンネリーは補足説明をしてからタブレットで彼女のここ数ヶ月の成長曲線を見る。
そこではほぼ並行に推移していた線図がここ数ヶ月は右肩上がりに跳ね上がって成長を示していたのだ。
「毎日、三食の食事とおやつと夜食の際に牛乳を飲み、毎朝二〇〇回の縄跳びを行ってきたのが功を奏したようです」
「す、凄いな…」
ミーナは身長に対するここまでの執念深さに感心するとともに、体重やどのような食事を摂っていたかまでを事細かく記してあったアンネリーのタブレットにドン引きしてみていた。
「(一歩間違えたらストーカーだぞ。これ…!?)」
彼女はそこでアンネリーが『栄養管理』として記録していた彼女の食事記録や体型、体重に至るまでの全ての身体記録を一瞥していた。
テアも同じ悩みを抱えており、彼女と同じように日に五杯の
「やったぞ!日頃の成果が現れた証なのだ!…おかげで最近はこの制服が縮み始めてしまってな。新しいものを新調せねばならんのだ」
実に晴々とした笑顔で彼女は安堵した様子を見せていた。
「うっ…」
「?」
そこで晴れやかな笑顔をしているアレクサンドラとは反面、テアは体を震わせていた。
「裏切り者ぉぉおおお!!」
そこでヴィルヘルムスハーフェン校の岸壁で彼女の心の底から来る悲痛な悲鳴が響いた。
それからと言うもの、テアはアレクサンドラを見るといつも以上の角度をつけて見上げる事実に、実に毎度のことながら不満げになっていた。
「カッツヒェン」
「…何だ?」
そこでややぶっきらぼうに彼女は受け答えをしていた。毎度この態度をとっており、その様子を見てミーナは内心でガッツポーズをとっていた。
『他人の不幸は蜜の味』とはよくいったものだが、今回ばかりは甘みが効き過ぎていた。
「はぁ〜、どうしたものか…」
食堂で彼女は肩を落としており、最近のテアとの関係を前に悩んでいた。
「大丈夫ですか?」
「大分、調子が悪いですよ」
そこでアンネリー達も流石に通常の任務にも支障をきたしてきそうな雰囲気を前に困って見ていた。
当初こそ二人で陰でハイタッチをして抱擁し合うほどに喜んでいたが、流石にここまで気を落とされると心配が勝るようになった。
「どうします?」
「とりあえず、テア艦長との関係修繕をしませんと…」
二人はそこで長年低身長ペアとして名優と言っても差し支えがなかった二人の、アレクサンドラの突然の裏切りによってブレイクされた友情にどう取り持つべきなのかを考えていた。
その頃、シュペーでもミーナ達が慌てていた。
「テア!これ以上は支障をきたすぞ!」
「もう八〇〇回以上以上飛んでいますよ!!?」
そこでミーナとローザは甲板で縄跳びをしていたテアに言う。すると彼女は三重跳びを永遠と続けていた彼女は怒鳴った。
「黙れ!」
その時の気迫といえば、あのわざと遭難をする羽目になったんロッテンベルクからの課題の時にも匹敵する恐ろしさがあった。
最近は牛乳を飲む量も倍増しており、寝る間も惜しんで縄跳びを行って骨に刺激を与えていた。
「ミーナさん、どうしましょう…」
「このままではマズイな…」
流石に通常の航海実習にも影響を及ぼしそうな勢いで彼女は鍛錬を行なっており、縄跳びの腕前はぐんぐん上昇していた。そして縄跳びの上達に合わせて体力や心肺機能は大幅に強化されていた。
「ザーシャの身長が伸びたとなってからずっとこれだ…」
「あら、三重跳びなんて初めて見ましたわね」
そんな呑気な事を言ってレターナとリーゼロッテは甲板で縄跳びをしているテアを見ていた。
「このままだと実習に支障が出ちゃいます。ちゃんと休養しましょう!」
「いや、まだだ…まだ一〇〇回飛ばねば…」
「無茶です!」
ローザは彼女の永遠と飛び続けている縄跳びを見て悲鳴をあげると、ミーナの携帯に連絡が入った。
「?」
誰からの連絡だと首を傾げると、相手はエーリカからだった。
「ローザ、テアを寝かしつけておいてくれ」
「わ、分かりました!!」
そこで彼女は頷くと、レターナも呼んでテアを強制的に寝かしつけるために彼女を取り押さえに掛かった。
そして呼ばれたミーナは校舎で先に待っていたエーリカとアンネリーの姿を見た。
「エーリカ、アンネリー」
「こっちです。ミーナ」
そこで二人と合流をした彼女は、そこでメールの内容を確認した彼女達は顔を合わせていた。
「そっちも大変なようだな」
「ええ、最近のマイン・カイザーは激しく気落ちしていて…」
「この前、一番酷い砲撃結果を出していました」
中々に悲惨な状況にミーナも最近のテアの状況を話す。
「こっちもだ。テアの牛乳の飲む量は倍増して、縄跳びを永遠と飛び続けている」
「何と…」
「それはまた…」
お互いに敬愛する艦長同士が絶不調な様子を見て、お互いに悩みを打ち明けていた。
「既に支障をきたしているのか」
「テアも割と危ないですよ?」
「分かってる。分かってはいるのだが…」
解決策が見当たらないことに三人は腕を組んで悩んでいた。艦長を支えることもまた彼女達の職務であるが、今回の問題は些かが過ぎていた。
「難しい問題ですね。なにせ今まで信用し切っていた仲間に裏切られたようなものですから…」
「クローナよりも厄介な問題だぞ、これは…」
ミーナは確信して呟くと、エーリカはそこで自分の携帯電話を触りながら言う。
『三人寄れば文殊の知恵』という日本の諺があるが、集まった彼女達はそこでこの問題の解決策を考える。
「どうする?」
「どうすると言われましても…」
ミーナに聞かれ、アンネリーはそこで良い解決策が思い浮かばないことに頭を抱える。
「身長の問題は私は…」
「うん…テアの逆鱗に触れそうだから止めておけ」
エーリカにミーナは頷いて彼女の一七二cmもある巨体を見上げる。
流石はロシア系の血筋というべきなのだろうか、彼女のその巨体はテアから羨望と嫉妬の眼差しで見られることが多々あった。
そんな彼女に低身長の悩みを聞いたところで分からないだろうし、下手に地雷を踏んでこれ以上被害を拡大させたくもなかった。そしてエーリカが地雷を踏む姿がありありとミーナ達は想像できてしまった。
「ドイツ人の最新(2026年度)の女性の平均身長は一六六.一八cm…テア艦長の身長は一四〇cmですので…」
「絶望的なまでに低いんだよな…」
何なら、これから留学に向かう日本の平均身長(2026年度)の一五八.五cmよりも小さい。
改めて確認した彼女の身長であるが、ミーナ達にとってみれば人形のように可愛らしくとも、本人からすればたまったものではない状況。しかもドイツ人は背が高いことばかりであるために、彼女達は肩身の狭い思いをしていた。
「…あっ、ザーシャからだ」
その時、エーリカの携帯電話にメッセージが届いた。送り主は噂にしていたアレクサンドラからだ。
「えっと…『今度、セレナの家に遊びに行くから予定を空けてくれ』…だ、そうです」
「セレナ…」
「イギリスのザーシャの友人です。以前の親善試合では戦艦ヴァンガードの艦長を務めていました」
「いや、覚えているぞ。ザーシャが王族ってのを暴露していた生徒だろう?」
どんな覚え方だよと思いつつも、それ以外に接点がないのかとすぐにアンネリー達は振り返った。
「っ!」
その瞬間、アンネリーに電流が走った。
「それ、使えませんか?」
「「?」」
アンネリーの呟きにミーナ達は首を傾げた。