セレナの家で遊猟をする為に学校を後にしたテア達は、そこでアレクサンドラに色々と説明を受けていた。
「なるほど…」
誘われた遊猟はテア、レンがドイツから国境を越えていた。
セレナの領地でこの時期に行っている遊猟だが、今年はかなり人数を増やしての開催となっていた。ダートマス校からブリジットとキャリーも訪れており、懐かしい顔ぶれが集まっていた。
「ルールはこんなところだ。何か質問は?」
そこでアレクサンドラは長年やってきたルールの説明を終えると、そこでレンが手を上げる。
「ボウズだった場合は?」
「その時は以前に獲った物がある。土産に困ることはないぞ?」
彼女達は全員が自前の銃を持ち込み、テアだけは直前にアレクサンドラに連れられて仕立て上げられていた。
「よし。カッツヒェンの銃も届いた事だし、行こうか」
そこでアレクサンドラは自前の銃を持ってテア達を見ると、彼女は少し緊張していた。
「こ、これに乗るのか?」
「そうだ」
そこでテアが聞いて来たのでアレクサンドラは頷いた。
「馬なんて久しぶりだな」
レンは感心した様子で繋げられていた馬を見上げる。彼女達は馬を使って射撃場まで移動するのだ。
「よっと…」
「気を付けて」
テアは苦労してよじ登ると、アレクサンドラは彼女を後ろから支えて馬に乗せる。よく調教されていた馬は大してテアに驚くことも無く、彼女を鞍に跨がせると、その後にアレクサンドラは手慣れた様子で鐙を踏んで簡単に馬に乗った。
「ブリジット」
「ありがとう。レン様」
そしてブリジットも
「お気を付けて。お嬢様」
そこでレンと共に騎乗をした彼女を見てキャリーが言うと、ブリジットは『無問題』と言って嬉しそうに答えた。
「よし、では行きますか」
そこで全員の騎乗を確認してからセレナが言って三騎は歩き出す。
「テア、すまん。ちょっと屈んでくれ」
「っ!…あぁ、済まない」
馬に跨ると言う経験が初めてであったテアは幾ばくか緊張してしまっていると、アレクサンドラの呼びかけで現実に戻って少し頭を下げる。
その時、彼女は自分が思っている以上にアレクサンドラの背に差がない事に驚いていた。散々三センチ伸びたと言っていた彼女であったが、それは杞憂なのだろうか?
「はっはっはっ!まだ二人は小さいな」
「五月蝿いぞレン」
「そうだ。我々はまだ背が高くなる可能性は秘めているぞ」
そこで隣を進んでいたレンに言われて二人はカッと目を見開いて反応を示した。
「だ、大丈夫なのか?」
「ん?暴れなかったりしなければ問題ないぞ」
テアがやや震えて聞いており、アレクサンドラは手綱を握って平然と答えた。こう言う時、乗馬に慣れているアレクサンドラを見て少し感動と尊敬を感じてしまった。
「しっかし、レン。上手いのだな」
「地元で乗っていたからな。これくらいは平気だ」
そう答え、非常に馬上服がよく映えているレンは答える。誘った側が言うのもどうかと思われるが、これを学校で見られたら凄まじく黄色い歓声で迎え入れられることだろう。
「お美しいです。レン様」
「そうか?」
そんな彼女の前に跨っていたブリジットが非常に幸せそうな雰囲気で多いに頷いていた。
「…だれか、ブラックコーヒー持ってないか?」
「奇遇だな。インスタントならここにあるぞ」
テアはそう言いその雰囲気に当てられて事前に準備していたインスタントコーヒーのパックを取り出した。その手際の良さに『後でくれ』と言ってアレクサンドラは草原を進む。
「今年は如何なんだ?」
「相変わらず食害が凄いね」
「まあ鹿はすぐに増えてしまうか…」
森の外周を回る様に馬は歩いていると、レンがそこで聞いた。
「イギリスは森が少ないから鹿が少ないんじゃないのか?」
その疑問にセレナは答える。
「ほら、最近は動物保護とか諸々で遊猟も色々と言われて来ちゃってね」
「ああ…」
「大変なんだな」
「まあ狐狩りよりはマシだと思うぞ」
「それは駄目だと思うよ、色々と」
各々が口々に言うと、そこで暫く彼女達は歩いた後に目的地に到着をする。
「ほれ、着いたぞ〜」
そしてセレナは馬に括り付けていたケージを開けると、中から二匹の犬が飛び出してくる。ボーダー・テリアだ。
「元気だ…」
「素晴らしい猟犬だ。鳥を撃つ時は仕留めた獲物を運んできてくれる」
「…よく調教されているな」
テアはそこで座って指示を待っていた猟犬を撫でると、二匹は嬉しそうにしていた。
「よし、じゃあ今日はここら辺でやってみましょうか」
「はーい」
「了解した」
そこで馬を降りた彼女達は、あらかじめ用意されていた厩に馬を繋ぎ止めてからそれぞれ銃を持って森の中に向かう。
「人数は五人しか居ないぞ?」
「大丈夫。ここの森は猪とかそう言うのは居ないはずですから」
セレナはそう言い、馬を降りて足跡をなるべく立てない様に森の中を歩いていく。その足元ではリードも使うことなく二匹の犬がついて行っており、見事な調教にテアとレンは舌を巻いていた。
「今日はこの子達も初めてですからね。出来れば大物を捕まえたい所…」
「獲れたらどうする?」
「とりあえずその場で内蔵だけ捨てて持ち帰る。後は従者達が弾抜きと解体をしてくれる」
「なるほど、撃ったら後はやってくれるわけか」
レンは従者と聞いて考える仕草を取る。その手には
「ブリジットの狩猟の経験は?」
「一応嗜む程度はやって来たわ。ただ下手くそだけどね」
彼女はそう告白すると、森の中を歩いていく。
昔からここら辺は景観保護のためにほぼ手付かずの状態でこのされた森林。中には鹿や兎などの狩猟動物が生活していた。
「…よし、じゃあ最初は誰にする?」
そして狩場に到着をしてセレナが聞いてくると、そこでレンが手を上げた。
「では私とブリジットで行こう」
「分かりましたわ」
そこで彼女達は槓桿を操作して弾薬をそれぞれ装填し、木で組まれた擁壁に立って照準を合わせる。
「よし、こっちはいつでも行けるぞ」
「うん。分かった」
そこで頷いてセレナは犬に指示を出すと、一斉に二匹は森の中に飛び出して行った。
「大丈夫なのか?」
「慣れている人達の腕前を見れば良い」
テアはアレクサンドラに聞くと、彼女はそう言ったのでテアは自分に与えられた猟銃の機関部を開けて散弾の有無を確認する。今は撃たないので、弾薬は空であった。
「…来た」
その時、アレクサンドラが言ったのでテアも少し身を屈めて森の奥を見ると、遠くから鳴き声と草を掻き分ける音が聞こえて来た。
「「…」」
そして二人とも持ち込んでいた狙撃眼鏡を覗き込んで草むらから追い立てられた方を見た。そして直後に草むらから猟犬に追い立てられた数匹の鹿が飛び出して来た。
ッ!…ッ!
その直後に彼女達は引き金を引いて発射すると、放たれたライフル弾はそのまま飛び出した鹿に命中して一匹が斃れた。
「お見事」
「…いや、今のはブリジットの方だな」
仕留めたのを見てアレクサンドラが手を叩くと、レンはそう言いながら薬莢を排出する。
「おめでとう」
「とんでもないですよ〜」
最初の一匹目を仕留めた事にブリジットはレンから褒められた事で嬉しそうにしていた。
「回収しましょうか」
そこでセレナは言うと、アレクサンドラ達も森の中に出て仕留めた鹿を回収する。
「おお、すごい。見事に心臓を撃ち抜いている」
そして仕留められた一匹を見てアレクサンドラは驚いていた。
「偶々ですけど、これなら臭いに苦しめられなくてすみそうですね」
ブリジットはそう言い、仕留めた鹿を纏めてから近くの小川で血抜きと内臓を取り出していく。
「カッツヒェン、手伝ってくれ」
「…分かった」
頷いてテアは足を縛られた鹿を見ると、渡されたナイフを言われた通りに鹿の体に当てていく。
「手慣れているな」
「昔からやっておるからな。そっちこそ」
アレクサンドラはそう言い、サバイバルナイフを使って丁寧に解体を始めていくレンを見ていた。
「気を付けて」
「ああ…」
そこでアレクサンドラはテアに指導をすると、彼女はその通りに血抜きを行っていく。そして内臓を地面に埋めて熊や猪の対策をすると、セレナが言った。
「よし、次のポイントに移動しますか」
「了解」
そこで彼女達は頷いてから鹿をセレナの従者達に預けてから新しい狩場まで移動する。
「何度も使えないのか?」
「ええ、鹿は警戒心が強いですからね。次に使えるのは早くて三日後くらいだと思いますよ?」
彼女はそう話して馬に跨ると、テアはアレクサンドラに支えられながら馬に跨った。
「気を付けて」
「ああ」
そこでテアに軽く言いながら彼女達が馬に乗ったのを確認して移動を始める。
「ちょっと失礼」
「っ!!」
その時、アレクサンドラは手綱を握り直す時にテアほ腹部を腕で囲んで握り直した。テアが彼女の前の鞍に座っていたために致し方のない話なのだが、テアはその時に一瞬心臓が跳ね上がりそうになった。
「大丈夫かい?」
「…ああ、大丈夫だ」
テアは話しかけられてやや動揺をしつつも返すと、少し姿勢を下げて前を見る。
「どうだ?」
「あっ、悪いな」
アレクサンドラはテアの気遣いに感謝をすると、そこで彼女は言う。
「…身長が高くなったんじゃないのか?」
「それはそうだが…」
足ばかりが伸びてしまっている為に彼女の座高はほぼ変わっていない。その為、馬に乗ると座高が低い二人はほぼ同じ高さに頭があった。
「本当に成長期に入ったのか?」
「五月蝿い五月蝿い。本当に伸びてるんだい!」
彼女は強めに反論をすると、そこで先頭を進んでいたセレナの馬が停車をした。
「新しい狩場です」
「了解した」
そこで先にアレクサンドラが降りると、次に彼女は手を伸ばして来たので、テアは鞍に掴まりながら鐙を踏んで丁寧に地面に降り立つ。
「よし、次は私達で仕留めるぞ」
「ああ…獲物が出てくるかどうかは定かではないが」
「そう言うことを言うんじゃない」
テアにアレクサンドラは言うと、彼女達は中折れ式を開けて薬室にそれぞれ散弾を装填した。