入学式の翌日から授業が始まる。
全寮制であるこの学校は、中等教育の間は座学の時間ばかりがカリキュラムで編成されていた。
本格的に
「おはようございます」
「おはよう。エーリカ」
寮の前でアレクサンドラはエーリカと待ち合わせてから学舎に向かう。
昨日の入学式で座席の場所は指定されており、二人は偶然にも同じ教室であった。
「今日から新生活ですよ〜」
「うむ、余も楽しみだ」
エーリカにアレクサンドラも頷く。かく言う自分の場合はこうした同級生と同じ部屋で教鞭を聞くと言うのが初めてであった為に、彼女の好きな日本の漫画・アニメのような情景に気分は昂揚していた。
「憧れていたのだ。共に学舎で勉学を取ると言うことに。余は子供の頃から学校に通っての教育を受けたことがなかったものでな。お父上に嘆願して通わせて此方にもらう事となったのだ」
「ははは…なるほどね」
そこで苦笑しながらエーリカは校舎に向かって教室のドアを開ける。
「…」
教室ではすでに女生徒達によるグループが作られており、その中にアレクサンドラも入っていく。
「おはようございます」
「あっ、おはよう」
そこで幾つかの生徒達に話しかけて軽く挨拶をしていく。彼女の微笑みのような笑顔は無意識に彼女への注目を集めることになる。
アレクサンドラ・イレーネという女性とは全員に和かに挨拶を交わしたことで、全員の頭の片隅に顔が残されることとなる。
「ふぅ」
そこで教室の席に座って周りの光景を見回してみる。この教室には実に多くの上流者階級も居るもので、その中にはアレクサンドラでも知っているような名家もいた。
「…ん?」
その時、彼女は教壇の近くでこの教室で最も大きい集団が目に付いた。正確にはその中心にいる女生徒の頭だ。
「彼奴は…」
「クローナ・セバスティアン・ベロナ…かの海軍の名門。ベロナ家の御令嬢です」
ポロッと口に漏れた本音を聞いていたのか、隣に座っていた女生徒が教えてくれた。
「おお、済まんな」
「いえ、個人的に彼女はイケ好かないので距離を取っているんです」
「おおぅ…」
その生徒は眼鏡を掛けており、目の前の光景に不満げになりながら今日の授業の準備をしていた。
「初めまして。私はアンネリー・フォン・ヴィッテルスバッハと申します」
「おぉ、バイエルン公の御息女であらせらるるか」
「…遠縁ですがね。我が家は分家ですので」
家名を聞いてアレクサンドラが反応をすると、少し彼女は間を置いてため息を吐いた。
「アレクサンドラ・イレーネだ。初めまして」
「宜しくお願いします。アレクサンドラさん」
そこでお互いに顔を見合わせて挨拶をすると、アレクサンドラは笑った。
「嫌だなぁ、ザーシャって気軽に呼んで欲しいよ」
「分かりました。ザーシャ、私のこともどうぞお気軽にアンネリーとお呼びください」
そこでアンネリーは軽く頷いてからそう言うと、アレクサンドラも了承した。
「全く、上流階級の囲い込みというものは面倒だ。余は辟易とする」
「同感です。おまけにあんな簡単な囲い込み。見ていて呆れてしまいます」
二人はそう言い、教壇の前で話すクローナに呆れて見ていた。
「まるで小判鮫みたいだ」
「ふふっ、言い得て妙です」
アンネリーはクスクスと笑って答えると、そこでアレクサンドラはクローナが頭に結んでいたリボンを見て少し目元を細める。
「鼻につく奴なのは余も同感。あのリボンは余が支払った物なのだぞ?」
「ほう…昨日、クロイツェル家の娘とクローナが話しているのを見ましたよ」
彼女が言うと、すぐにアレクサンドラは察した。
「…奴は彼女に吹き込んだな?」
「おや、察しがよろしいですね」
アンネリーはすぐにその答えに行き着いたことに感心した様子でアレクサンドラを見た。
「余とて貴族の争いの歴史は呆れるほど学んでおる。しかし…」
アレクサンドラはそう言いながらグループの中央に立っているクローナを見て言う。
「浅慮だな」
「ザーシャ…?」
そこで彼女の見つめる姿にアンネリーは首を傾げると、教室のドアが開いてミーナが入ってきた。
彼女は別の教室であったが、何かに気がついた様子でクローナに詰め寄っており、彼女は教壇の前で立っていたテアを見て驚きの様子を見せていた。
「どうしますか?」
「静観で。地雷と分かっていて踏む愚者もおるまい」
アンネリーに即答すると、アレクサンドラはそこで教室をローザ達に引っ張られて後にするミーナの確固たる決意に満ちた眼差しを見ていた。
「暫くは問題無かろう。だが…」
そこでクスクスと笑ってテア達を見ているクローナ達を見つめる。
「あまり度が行きすぎれば、少しは考えものかも知れぬな」
「っ…!?」
その時、アンネリーは霊感が強い方の人間であったために真隣の少女から一瞬だけ漏れ出た気配に驚いてしまった。
「(何…今の…?)」
彼女はすぐにスッと消えてしまった彼女の雰囲気に困惑気味に見ていた。
「アンネリー、確か午後に適性試験があったな?」
「はい。私はあまり自信がありませんが…」
アンネリーは頷くと、アレクサンドラは言う。
「構わぬ。手を貸して貰っても良いか?」
「…ベロナの生意気娘の鼻を明かせるのであれば」
「よし」
確認を取った後、彼女達は早速アンネリーが持ち込んだタブレットを使って指示を出す。
テアのいた教室を後にしたミーナは、そこで校舎内の一角に集まっていた。
クローナが行うテアへの妨害工作をすると推測したリーゼロッテによって反クローナに傾いていたリーゼロッテ達も協力姿勢を見せた。
「私が思うに、適性試験で動くでしょうね」
リーゼロッテはそこで確信した様子で言う。
「適性試験?」
「新入生はまず、適性を審査されて向いている専科を推薦されるんです」
その試験があることを知らなかったレターナは首を傾げると、ローザが説明をする。
「みんなブルーマーメイドになれるわけじゃないのか」
ミーナは意外な事実を知って驚いていると、ローザはさらに説明をしてくれる。
「海の花形ですし、競争率はどうしても高くって…」
「へー…、ブルマーになるのって厳しいんだなー」
学内に入っても改めて選抜されると言う事実に、レターナはやや愕然となりながら見ていた。
「要するに、私たちの戦いはもう始まっているってことよ」
リーゼロッテはそこでクローナが仕掛けてくるであろう妨害工作。
「ここでテアが落ちたら最悪……」
適性試験を通過できなければ、ブルーマーメイドになるための入口すら閉ざされてしまうことになる。
海洋準備校と上級学校とこの学校は分けられているが、実態は
「というか、試験はいつなんだ?」
「午後からよ」
「早っ!!?」
そして試験の開始時刻を聞いてミーナは驚愕すると、リーゼロッテは言う。
「さあ……どう出たものかしらね」
「しかもノープラン!!?」
ミーナは何も作戦を考えていなかった彼女に驚愕していた。
「お前ってバカなの?」
「ありえないわ。バカじゃ貴族はつとまらないもの」
「流石です!!」
レターナにリーゼロッテは軽く言い返すと、彼女と共に行動をしているアウレリア・ブランディが言う。
「まずい……時間が無いぞ」
どう対処したものかと思った時、
「どうも皆さ〜ん」
「うおっ!?」
突然真後ろから話しかけられたのでミーナは猫のような驚き方をして振り返った。
「おっ…!ア、アレクサンドラさん…」
「どもども〜、皆様の
そこで和かに笑みを見せていたアレクサンドラは一歩後ろに見慣れぬ生徒を引き連れており、その人物を見てリーゼロッテが反応した。
「初めまして。アンネリー・フォン・ヴィッテルスバッハです。以後お見知り置きを」
「ヴィッテルスバッハ…?」
「お貴族様よ。しかも現役の公爵」
どうやら知らない様子のレターナにリーゼロッテがささやき女将の容量で耳打ちをした。そして知らされた爵位にレターナは驚いていた。
そんな反応とは違い、満面の笑みを見せたアレクサンドラはミーナに提案を持ちかける。
「皆様はテア・クロイツェルをお救いになりますか?それともクローナを蹴落としますか?」
「…両方という選択肢はないのか?」
ミーナはアレクサンドラからの提案にそう答えると、聞いていたレターナ達は呆れていた。
「『ヘルメースときこり』かよ…」
「どちらかと言うとトロッコ問題なのでは?」
そんな事を言っていると、ミーナの返答にアレクサンドラは笑う。
「ふふふっ、強欲なお方だ。宜しい、では余より提案だ。アンネリー」
「畏まりました」
そこでアレクサンドラは言うと、一歩アンネリーが前に出てタブレットを片手に話す。
「我々は所詮、小学校上がりの義務教育すら終わっていない子供です。故にできることは限られます」
「おおぅ…」
初っ端からぶち込んできたアンネリーにミーナ達は苦笑すると早速彼女は彼女達に言う。
「まずはテアさんと組む生徒達を探してください。話はそこからです」
彼女はそう話した時、近くを通りかかった生徒のぼやきが聞こえた。
「午後の試験でクロイツェルさんと同じ班なんですけど、ベロナさんからクロイツェルさんを無視するよう言われちゃいまして…はぁ〜」
「なにそれ?不正じゃない」
「…」
そのぼやきを耳にしたミーナはその方を見つめる。
「でもべロナさんって怖くて………」
なんとも間の良いことに、ちょうど近くを噂の御仁と組む生徒を見つけてしまった。これが暁光というべきか。
「ほほぅ…」
「……あれだな」
ミーナ達はニヤリと笑って幼馴染のレターナに言う。
「行け!レターナ」
ポ○モンのアニメ主人公のように
「わっ!!?」
「あら」
そして立ち塞がった彼女に二人は驚くと、ミーナがそこで話しかける。
「ちょっといいか?」
しかし彼女の目元は悪巧みを考える悪い表情をしていた。
「私?」
「早く逃げよう…」
そして前後をミーナとレターナに挟まれた二人は、片方は首を傾げ、もう片方は怯えた様子で相方の肩を掴んでいた。