改装作業を終わらせ、ハワイまでの遠洋実習を行うこととなるプリンツ・アーダルベルト。
遠洋実習を前に副砲や対空砲、各種電子装備を換装し、艦載機は
目的はハワイまでの遠洋実習の寄港地である横須賀やハワイへ、ドイツが発明した新装備の実証実験と売り込みである。
「面舵。十五」
「宜候、面舵十五!」
アーダルベルトの操舵艦橋でアレクサンドラが指示をすると、エリスは頷いて操舵を行う。
「後ろはどうか?」
そしてアレクサンドラが聞くと、オリヴィアが伝える。
「はっ、問題なくついて来ています」
「うん。良し」
そこでアーダルベルトから後方十五マイル近辺で航行を行うシュペーを見る。彼女とは途中の寄港地であるスペインのビーゴ沖合で一日遅れで出航したシュペーと合流していたのだ。
無論、そのことに関してテアやミーナから苦笑をされてしまったわけだが、二隻は戦隊を組んでジブラルタルを抜けていた。
「ミャウ」
その時、アレクサンドラの足元で一つ鳴き声がした。
全員が鳴き声に釣られて下を見ると、そこでは綺麗な銀色の毛並みのブリティッシュショートヘアの子猫がいた。
「おう、すまんな」
その中を前に彼女は身を屈めると、その猫は飛んでアレクサンドラの被る制帽の上に丸まった。
「良いな〜」
その時、モニカが少し羨ましそうにしてその所作を見ていた。
「セレナが贈ってくれたのだ。鼠取り委員長には最適だろう?」
「まあ…」
「乗組員に猫アレルギーいなかったのがありがたいですね」
『エリザベート』と名付けられた彼女は、ブリーダーをしていたセレナが育てていたブリティッシュショートヘアだ。アレクサンドラの艦長就任記念と、海上基地での酒の納入の礼として贈られたのだ。
名前の由来はケージから出した時にアレクサンドラの頭を踏み越えたことから『余の頭を踏み台にするとはよくやる奴よ』と、その豪胆性と生まれ故郷、雌であった事などからイギリスの女王の名前に肖っていた。
それからと言うもの、エリザベートはアレクサンドラの頭か肩に飛び乗るのが毎度の光景になりつつあった。
「ジブラルタルを抜けました。このままポートサイドに停泊し、スエズ運河を抜けます」
「了解した」
アレクサンドラは航路を聞いて承諾をすると、アーダルベルトは地中海を航行していた。
「艦長〜」
「?」
そこでエルフリントが聞いてきた。
「この後って時間ありますか?」
「あぁ〜、どうだった?」
「ありますよ。航空科との定時飛行訓練の前に二時間ほど」
アンネリーがそこで答えると、エルフリントはそこでお願いをしてきた。
「じゃあその時にちょっと剣の相手をしてもらうことって…」
「良いぞ。余も少し鈍っていないか気になっていたところだ」
即答で彼女は頷くと、自分の常に降ろしているレイピアを一瞥する。
「やった」
「ずるいぞ」
「そーだそーだ」
そこで模擬戦をしてもらえると聞いて艦橋の各所から文句の嵐が吹き荒れた。
「相変わらず艦橋は騒がしいな」
「それだけ賑やかってことですよ」
「羨ましい…」
「機関長〜、この後のシフト変えてくださいよ」
そこで機関員のヴェロナ・マッファイが言うと、ベルタは即答する。
「ヤダ」
「ケチ!」
船内でもアレクサンドラとの剣の決闘は人気の催し物であり、彼女達はその様子を観戦するのが好きだった。
「私だって艦長の決闘みたいもん」
「フザケルナ!!」
「私だって!!」
そこで機関室でも軽く喧嘩が勃発した。
そして航空科との定期飛行訓練の確認を済ませると、船内に持ち込んだ木刀を持って甲板に上がった。
「いけーっ!」
「艦長に負けんなー!」
円陣を組んで決闘場を仮設で作った彼女達は、そこで中央で木刀の先端の少し先あたりで立ったアレクサンドラとエルフリントを見ていた。
「今日こそ勝たせてもらいますよ。マイン・カイザー」
「来たまえ。いつでも相手してくれる」
余裕すらある様子でアレクサンドラは言うと、その手にレイピアを模した木刀を握る。
「用意!」
そこで審判役の衛生長のハイルヴィヒ・コッホが手を挙げて決闘の合図を取る。
「はj…『そこの学生艦二隻。直ちに航海を止め、近くの港に停泊しなさい』っ!!?」
その時、拡声器を使って彼女達の耳元に英語で呼びかけられた。
「なんだ!?」
その音にギョッとなってエリーミルが振り返った。
「あれは…」
「ブルーマーメイドですわ!」
機関員のアウグスタ・ゴータ、シモーネ・フォン・ヘンシェルの両名がその改インディペンデンス型沿岸戦闘艦を見て驚いていた。
その船体に記されたマーキングは、自分たちが目指しているモノであるなら尚更だ。
「え…?私たち何かやらかした?」
「そうなっていたら良くて停学ですわね」
「怖いこと言わないでよ…!!」
ブルーマーメイドが現れたことに驚愕をすると、彼女達はそのまま近くのマルタ島まで移動させられた。
そしてマルタ島にて強制的に投錨したシュペーとアーダルベルト。
「この先の海域には海賊が出るから~、通行止めだよ~」
「「「「「っ!?」」」」」
そこで士官服を纏ったシュペーとアーダルベルトの艦橋要員は驚愕した。
「海賊!?」
「このご時世に海賊とはまあ…」
そこでシュペーの機関助手のレオナ・ベックナーが呆れたようにつぶやいた。
「いや、結構商船とか被害にあっているから…」
「自前で傭兵雇って守らせるくらいですからね」
そんな彼女にエリスとエルフリントが言う。
「最近、この近海では海賊の被害が多発中でね~、安全のためにこの海域の航行を規制しているの~」
「じゃあ日本には行けないってことですか?」
そこでミーナが聞くと、そのブルーマーメイド隊員は頷く。
「そうだねー…戻ってアフリカをぐるって回るとか?ふぁ〜」
「おいおい、何日かかると思ってんだ」
「バルチック艦隊か!」
喜望峰経由の航路を提案され、全員が微妙な顔をしてアレクサンドラは突っ込んだ。
あくびをしながら返答をしていたので余程面倒な事案なんだなと内心で思いつつも、海洋学校の生徒の前なんだからそれはそれでどうなの?と言う疑問が浮かんでいた。
「はぁ…困ったな…」
ミーナはそこで学校に説明をした上で航路の変更をしなければならないなぁ、と今後の面倒くらい連絡事項が待っていることに苦笑していた。
「こらっ!良い加減にしなさい!」
「もうっ、わかったから話してよ!」
すると、そこでジタバタと音を立てて騒いでいる音が聞こえてきた。
「フン!自分で歩けるからさ!」
そこでブルーマーメイド隊員に拘束されていたその少女は拘束を振り解くと、ズレた帽子を被り直す。
「いつまで足止めさせる気なのさ…」
「何か言いました?」
「なんも言ってませーん」
その少女ばぼやいて言うと、ブルーマーメイド隊員にそう言って答えてからスタスタと歩いて距離をとる。
「フゥ…やーいっ、堅物ブルマーって言ったんだよ!」
「こらぁーーっ!」
そして追いかけても間に合わない程度まで距離をとってから彼女は言うと、ブルーマーメイド隊員から叱責されていた。その様子はまるで悪ガキ問題児と学校教師のようなやりとりであった。
「…あれはなんだ?」
「見ては行けません。マイン・カイザー」
「ええ、あれは救えないものです」
アレクサンドラの目元をすっと覆い隠して彼女の疑問にエーリカは答えると、アンネリーも頷いた。
「なんだあいつら?」
「えーっと…多分イタリアのタラント校ですよ」
ミーナの問いにローザが制服からどこの学校なのかを教える。さすが、制服は学校の看板とはよく言ったものだろうか。
「ちぇ、融通が効かないなー」
「こっちに来たぞ」
「「げっ…」」
そこで先程まで暴れていた問題児の香りがムンムンに漂う二人にミーナ達は警戒の度合いが高まる。
「やっほ〜。もしかしてその制服、ドイツの人?」
するとその生徒は陽気な笑みを浮かべてブルーマーメイドと話していたテア達に気がついて声をかけて来た。
「(話しかけてきた!)」
「(面倒事の予感…!!)」
その瞬間、テアとアレクサンドラは瞬時に警戒度が爆上がりする。
「君らも足止めくらってんの?」
「ああ(関わりたくないな…)」
「そっかそっか、じゃあ仲間だ!」
このマルタ島で制限海域を前に足止めをされていたと言う点でその少女はテア達に( ´∀`)人(´∀` )ナカーマの雰囲気を感じ取っていた。
「私は航洋艦リンチェの艦長、アンネッタ。どうもね♪」
そう言い彼女、アンネッタ・パトリオッティは気軽に挨拶をした。ご丁寧に英語で話しかけてきたので、ミーナ達も英語で答える。
「初めまして。副長のエーリカです」
「同じく、副長のミーナだ」
役職と名前を手短に答えると、アンネッタはやや驚いた様子を見せた。
「あれ?君たち副長?艦長っぽいオーラがあるのにな〜」
そう言い身長が一六二cm、一七二cmもあるミーナとエーリカを見て首を傾げていた。
「艦長は私たちだ」
「おー」
そこで副艦長達と間違われたアレクサンドラ達が一歩前に出て挨拶をすると、アンネッタは二人を見て言った。
「あ〜、こっちの小っこい子達か。ごめんごめん」
「「っ!!?」」
『『『『『っ!?』』』』』
その瞬間、この場にいた全員が凍り付いた。何せいきなり地雷を、それも対戦車地雷を踏みつけてしまったようなものなのだから。少し前まで身長のことでいざこざがあったとなればさもありなん。
彼女の爆弾発言を聞いてテアとアレクサンドラは僅かに震える。
「…艦長に背の大小は関係ない」
「おいウォップ、その胸は飾りのようだな」
「へ?…っ!!?」
身長のことを指摘された二人は過度に反応を示すと、アレクサンドラはイタリア人への蔑称を使いながらナイフのような鋭さを持った視線でアンネッタの胸元を見る。
「身だしなみを整えたまえ。余に同性愛の趣味は無い」
そこで彼女は先ほど暴れたせいでズレていた胸パッドを指摘され、アンネッタは驚愕して顔を赤くした。
「あははっ、言われてやんの艦長!」
「うぅ…うるさいっ!笑うな!!」
そのことを副艦長にも大爆笑を誘っていると、彼女は胸元を当てで覆って隠して叫んだ。