「悪かったね。怒らせるつもりはなかったんだ」
その後、マルタ島のレストランに入ってアンネッタは先ほどの失礼を謝罪する。
「実は私たちも一週間、ここに足止めをされててな。仲間を見つけてついテンションが上がっちゃったのさ」
アハハと笑って彼女は言う。どうやら彼女達もこの制限海域を前に立ち往生していたようだ。
「だってこれじゃあいつまで経っても日本には着けないだろ?」
「へーっ、お前達も日本を目指しているのか」
ミーナは驚いた様子でアンネッタ達を見ると、彼女は頷いた。
「あぁ、日本の合同演習。君たちもだろ」
「へー、イタリアにもあるんだな」
「もちろん!」
イタリアという他国の国の事情を知ってミーナは興味深く話を聞いていた。
「日本は国土の沈降という大きなハンディを克服するために世界随一の海洋技術を開発した国家だ。その技術力を学ぶカリキュラムはどの学校も必須さ」
そう言い、聞いていたアレクサンドラ達は『へぇ、根は真面目系なのか?』と推察していた。
「まぁ、私らは落第寸前だからそんなのよりも単位が欲しいだけなんだよね」
「言うなよ!!」
しかし彼女の副官からの暴露を聞いて彼女達は『ああ、やっぱり』と言った具合で大きく落胆こそしなかった。
「すごい奴らだな…」
「通りでウォップの癖に品がなっていないわけだ」
キッとアレクサンドラは先ほどのことを掘り返すと、アンネッタは苦笑したまま引き攣らせていた。
「ま…まあつまりこれ以上遅れたく無いんだ」
彼女はそう言い、そこである提案をアレクサンドラ達に持ちかけた。
「だからさ、私たちと協力してここから抜け出さないか?」
「「「えっ…」」」
その提案は聞いていたミーナ達を驚かせるには充分だった様子だった。
「ブルマーの指示を無視するということか?」
「三隻で行けばきっとブルマーを振り切れるし、海賊も怖く無いって」
「!!」
ミーナは楽観的に見ている様子のアンネッタに驚いていた。
「それに君たちも足止めは嫌だろう?」
そこで彼女からの提案を聞いたアレクサンドラ達は言う。
「確かに魅力的な提案だ」
「…一考する価値はある」
『『『『艦長!?』』』』
乗り気なのかとミーナ達は最も驚き、エーリカもこれには流石に驚いていた。
「武装商船相手にこちらが負ける可能性は低い」
「そんな奴らのために時間を浪費するわけにはいかない」
「(おっ、食い付いた。てか息ぴったりすぎるでしょ)」
そこでアンネッタは示し合わせたように答えるテアとアレクサンドラを見る。すると二人は息ぴったりに返答をした。
「「だがお断りだ」」
まるで双子だ、という前にアンネットに二人は言う。
「自分勝手に海に出ていくほど愚かではない」
「我々は利害のみで動かない。帰れ」
二人はキッパリと拒否の構えを示すと、アンネットはため息を吐いた。
「…ハァ…交渉決裂か。残念」
彼女はそこでこれ以上粘ることもなく解散した。
そして帰る途中でレターナが腕を後ろに組んで言った。
「あいつら本気ですかね?」
するとそこでアレクサンドラが言う。
「もう少し事細かく作戦内容を説明もせずに何が提案だ。愚か者め」
「…そもそも奴の話なんて聞く必要ない。ザーシャ」
テアはジト目で言うと、アレクサンドラは言う。
「だが連中はイタリア人だ。連中は反比例で戦果を上げるというぞ?」
「え?」
「何ですかそれ」
初めて聞いたその話にミーナ達が首を傾げて聞いた。
「イタリア人は魚雷艇だと戦艦を沈める大戦果を上げるのに、戦艦に乗ると弱くて逆に沈められるというジンクスだな」
「何ですか、其のジンクス…」
「初出不明の話だ。気にすることではない」
アンネリーの苦笑にアレクサンドラは答えると、そこでエーリカが言う。
「しかしどうされますか?」
「学校に事情を説明して喜望峰を回る航路に移動するか、大西洋を横断してパナマ運河に行くしか無いだろうな」
後続でビスマルクも来る上で、この情報を学校に伝えて航路の変更を要請するほか無いだろうと考えていると、
「ん?」
ヒューと音を立てて夜空に花火が音を立てて上がった。
「おぉ!?花火だ?!」
「わーっ、綺麗ですね」
この時期に花火など珍しいとレターナとローザが感嘆して見ていると、そこでアンネリーが違和感を覚えた。
「…あれ?何かおかしく無いですか?」
「「…」」
花火を前にテアとアレクサンドラは呆然と見つめていると、ローザが言う。
「シュペーとアーダルベルトから打ち上がったように見えませんか?」
すると彼女は水面を見て指差す。
「あっ、あれ!」
そこでが小型スキッパーに乗って疾走するリンチェの副艦長が言う。
「さっきのイタリア校の奴だ!」
そのスキッパーの後部には打ち上げて焦げ跡のついた花火の打ち上げ台が積載されていた。
「くそっ、アイツら…」
「囮に使われたな」
瞬時にテア達はリンチェが何をしようとしているのかを察した。
「この騒ぎで我々に目が向く。其の隙に件の海域に向かう算段だろう」
「アイツらぁ〜、巻き込んだな!!
ミーナはタラント校の生徒に虎のような唸り声を漏らしながら睨みつけた。
「どうしますか?」
「ブ、ブルマーに事情説明をしないと…」
エーリカが聞くと、ローザは驚きながらもブルーマーメイドへ事情説明をするべきかと提案した。
「…いや、時間をかけたら向こうの思う壺だ。そっちがその気なら…」
そこでテアの隣でアレクサンドラは一言。
「舐められたら殺す!…これが騎士の本懐なり」
「「っ!?」」
其の直後、テア達はドスの良く効いた重々しい声に驚いていた。
「行くぞ」
「「「「はっ!」」」」
そこでアレクサンドラ達、アーダルベルトの乗組員達は乗船していく。その仕草はまるで一つの騎士団のように整然としていた。
其の頃、洋上に出ていたアンネッタは甲板に出て笑っていた。
「あはははっ!やっぱり、私って天才だな!」
彼女はレオーネ級駆逐艦四番艦 リンチェに乗って航行しており、マルタ島かた飛び出すように出港していた。
「シュペーとアーダルベルトには悪いことしちゃったけど、これも単位のため!」
彼女はそう言い、今頃はブルーマーメイドに事情聴取を受けているであろう二隻のことを思い出しながら言う。
「いやいや、どうせ海賊も倒すつもりだったし♪」
アンネッタはそう言い、制限海域で暴れているという海賊に対して航洋艦が負けるはずがないとタカを括っていた。
「そしたら規制も解けてアイツらも万々歳だ!私、やさしー!!」
自分たちはイタリア人。ノリと勢いさえあれば勝てるだろうと彼女は信じて疑わなかった。
「艦長!」
「ん?」
そこで副艦長が叫んで報告をあげた。
「シュペーとアーダルベルトがブルマーを引き連れて追いかけてきています!!」
「はぁっ!?」
アンネッタは驚愕をして後方を見ると、そこでは二隻の艦艇が爆速で追従しており、其のさらに後ろにはブルーマーメイドの改インディペンデンス級も追従していた。
『シュペー号、アーダルベルト号!直ちに港に戻りなさい!』
拡声器で怒鳴られると、艦橋でアンネリーが苦笑する。
「艦長、これって私たちもブルマーを振り切って制限海域に行こうとしていませんか?」
「そうだ。ブルマーに走りながらシュペーが対応しているはずだ」
彼女は信頼したテアを見て言うと、彼女はこめかみに青筋を立てて指示をする。
「こちらはリンチェに打電しろ」
「はっ!」
そこでアンネリーは苦笑気味にリンチェに通信を行った。
その通信は無事にリンチェに届く。
「艦長!アーダルベルトから通信!」
「何だ?」
そこで通信員が読み上げる。
「え〜、『スタイリッシュ国際問題をしたイタリア人馬鹿ども。停戦しなければパスタをへし折る』…だ、そうです」
「なっ…!?」
「『直ちに返答せよ。停まらなければ撃つ。沈められるかパスタを折られるか選べ』…です」
その打電内容にアンネッタ達は顔を青くさせた。
「連中、なんて奴だ…」
「鬼だ…きっと鬼がいるに違いない…」
イタリア人の魂とも言えるパスタを人質に取られていることに絶句していると、
「艦長!アーダルベルトの砲に仰角が付ききました!」
「はぁ!?」
そこでアンネッタは目を見開いた。本気で連中は撃つつもりなのか!?と。無論、そんなことをすれば国際問題直結である。
するとリンチェの脇を小柄な影が爆速で通過した。
『イタリアの学生艦!停まりなさい!』
「げっ!!?」
すると拡声器でスキッパーを使って先回りをしたことで、駆逐艦は包囲されてしまう。
「ぐぬぬ…」
「くそう…降伏だ…」
そこでアンネッタは機関を停止させた。
翌日、マルタ島に帰還した艦隊。
「ありがとう。シュペー、アーダルベルトの諸君」
マルタの港でブルーマーメイド隊員がテアやアレクサンドラ達に言う。
「私はこの海域を担当しているリンゴルです。
君たちの迅速な行動で彼女らの過ちを防ぐことができ、ブルーマーメイドを代表し、感謝します」
「ふぁ〜」
彼女の後ろでは昨日、自分達に制限海域のことを伝えたブルーマーメイド隊員が眠たげにしていた。相変わらずの徹夜で疲労感を隠しきれずにいるようだ。
「こちらこそ、理解していただけて感謝します」
テアはそこで事情説明を理解してくれて、同時にスキッパーまで派遣してくれた理解あるリンゴルに感謝をしていた。
「あーあ」
するとそこで心底残念そうにする声がする。
「折角私たちが海賊を退治してやろうと言ってんのにさ」
そこでは岸壁に座らされていたアンネッタ達、リンチェ乗組員がブルーマーメイド隊員に睨まれていた。
「黙りなさい。全く」
「大人しくしてなさい」
「(ある意味海賊より厄介だな…)」
リンゴル達に睨まれて縮こまっている彼女達にミーナは顔を引き攣らせていた。
「おい」
「ヒィ…!!」
その時、頭を抱える猫のようにアンネッタが表情を破壊して怯えていたのは、目元を暗くしたアレクサンドラであった。
「エーリカ」
「はっ」
そこで足音ひとつ立てずエーリカがトレーに乾燥パスタの束を乗せて彼女はそれを握る。
「あっ!それ…」
「ふんっ!」
そして有無を言わさずに彼女は真ん中でその束を真っ二つにへし折った。
「「ああぁぁあーー…っ!!」」
その直後、まるで心臓を握りつぶされたかのようにアンネッタ達は悲鳴をあげていた。
その行動を見てミーナは『なるほど、殺すと言うのはイタリア人のメンタルを破壊すると言う意味か』と理解した。