「おっしゃー!!地中海だ!!」
そして日の出とともに出港をした艦隊は単縦陣に組んで移動を始める。
「艦長…マルタ島周辺も地中海っすよ」
「知っているよ!喜びを表したかったんだよ!」
リンチェの甲板でアンネッタが言うと、軽く副艦長に諌められていた。
「じゃあ恥ずかしいんでやめてください」
「なにをぉぉぉおぉ!」
その通信は全開で全艦に伝えられていた。
「賑やかですね…」
「イタリア人は騒ぐことしか能がないのか…」
艦橋で艦長代理として立っていたエーリカに砲術長代理のハイデマリーは呆れていた。
『こら、飛ばすんじゃない!!我々の後方につけ!!』
「はいはーい」
そして早速、問題を起こすリンチェに対してブルーマーメイド艦が怒鳴って戦列に戻るよう言った。
「いい天気ですね」
「ほんと、こんな海に海賊が居るなんて想像できないわね」
そこで代理の両舷見張員のヘルミーナとマリアが言う。
アーダルベルトの通信員のマリアだが、母親と同じ名前であるからなのかテアは少々苦手にしている人であった。
「大丈夫?海賊もいるって話だけど…」
書記代理のマグナレータがやや不安げに聞くと、水雷長代理のフローラが言う。
「その時は私の魚雷が吹っ飛ばしてくれる。所詮は武装商船でしょ?」
『だとしても警戒を解くんじゃないぞ』
そこで艦内無線を使って話を聞いていたアレクサンドラが言った。彼女達通常の艦橋要員はエーリカ以外全員が生牡蠣に当たって医務室行きになっていた。
「オエェ…」
マリーが見事なまでのオエー鳥を演出している医務室はベッドがうめき声で埋め尽くされていた。
「これは酷い」
これにはハイルヴィヒも苦笑してしまうほどであった。細菌・ウイルスを専門に取り扱う彼女からすればどうと言うことはないが、警戒をしないことに越した事はなかった。
これから艦隊はトリポリに向かい、アフリカ大陸沿岸のミラスタ、スルト、ラス・ラーヌーフ、バンガージーを大陸に沿うように進むことは事前に聞かされていた。事前に艦橋に無理にでも上がってこようとするだろうからとエーリカが先に必要な情報は教えていたのだ。
「体調はどうですか?」
『私は腹痛だけで済んでいる。ただマリーが重症だな…』
「そうですか…安静にしておいてくださいね?」
『ああ、分かっている』
アレクサンドラはそう言い、医務室で倒れている他の艦橋要員を見る。
「申し訳ないな。誘ったばっかりに…」
「いえ…悪いのは当たる生牡蠣を出したレストランですよ」
アンネリーは腹をさすって言うと、アレクサンドラの隣に座る。
「回復したら他の子を診ればいいですよ」
「ああ、そうしよう」
アレクサンドラは頷くと、彼女はタブレットを持ってサブスクで見ている途中であったドラマを見始めていた。
一方シュペーでもテア相手に似たようなことが起こり、その時にレオナがミーナに任侠映画を教えたことで彼女は見事にどハマりをしていた。
「はぁ~あ~……飽きたなぁ~……」
出港からしばらくした頃、リンチェの甲板で平和な空を見上げてアンネッタが呟いた。
「ハァ、もうお昼は過ぎたか…。午前中までだったなぁ~テンションが上がったのは…」
「ブルマーもいるから自由に動けないっすもんね」
副艦長もそこで水のように溶けてしまいそうなアンネッタを見て言う。リンチェは今までのやらかしからブルーマーメイドからも要監視対象に指定されており、ピッタリと今でも目の前にブルーマーメイド艦が張り付いていた。
「なんか面白いことない?」
「ええ!?やめてくださいよ。艦長ってばトラブルメーカーなんですから!!」
そこで話しかけられた乗組員は散々彼女のやらかしに振り回されていたので、もう怒られるのは懲り懲りといった様子だった。
「副長~、なんか面白いことない?」
そこで彼女は話を振ったので、副艦長はそんなやらかしをするアンネッタにに面白いネタを焚き付けようと考える。
「確か…、機関科の連中が面白そうなことをしていましたよ」
「ちょっ、副長!言わなっ…って、艦長早っ!!!」
そこで乗組員は余計なひと言を言った副長に顔面蒼白をさせると、直後に考えるよりも先に体が動いていた。
「わっ、艦長!?」
「私も混ぜて~」
「ちょっとそこは…!!」
そこで機関室に向かった彼女に機関長は驚くと、アンネッタは適当に制御盤を操作した。するとその直後に煙突から煙が停止してから炎の手が上がった。
「エンジン停止しちゃった♡あはは…」
「あははははっ!!」
さすがにやらかしたと彼女か顔を青くさせて誤魔化すように手を後頭部に当てた。その様子を見て副艦長はゲラゲラ笑っていた。
「火出てる!!」
「早く消火!!」
「何してんすか!!!」
そこで炎の上がった煙突を見て慌ててリンチェ乗組員は消火作業を始めた。
その事を聞いたエーリカは激昂していた。
「なぁにやっとんじゃクソガキィィッ!!」
ただでさえアレクサンドラが病気療養で艦橋におらず、彼女がいないことで溜まっていたフラストレーションが一気に限界を迎えて噴火をしてしまっていた。
「ヒィィ…!ご、ごごごめんなさいぃ…」
その時の夜叉のような禍々しい瘴気を纏わせ、髪すら逆立ちそうな勢いでキレていたエーリカにアンネッタも流石に顔を青くし、漏らす寸前まで足を震わせていた。
「あーあ…」
「怒らせちゃいけない時に火を付けやがりましたね。あの艦長」
その様子を見ていたマルグレートとロジーネは言っていた。しかし触る神に祟りなし。今のエーリカを前に助ける気はさらさらなかった。
「あっ、これは何?」
そこで彼女は後部甲板に積載された梱包されたドラッヘを見てそれに触れようとしたが、エーリカが怒鳴った。
「触るな!疫病神!」
「ヒンッ!」
彼女にすっかり恐怖していたアンネッタはビクリと目に涙を浮かべて体を震わせていた。
「どうだ?」
「ダメで〜す。港じゃないと直せませ〜ん」
そこでレンチで×印を作って応急員のヴェンデルガルト・シーメンスが言った。機関部を確認した彼女はその事をブルーマーメイドにも伝えた。
「…チッ、我々が曳航すると伝えろ」
「了解」
本当は置き去りにでもしてやりたいという苛立ちを抑えながら彼女はリンチェを曳船する。元々巡洋戦艦という巨体で三五節とリンチェよりも早い足を持っていたアーダルベルトは簡単に一隻でリンチェを曳船可能だった。
「速力は一〇節か…」
「本日の日没が十八時四〇分ですから~、今の速度でトリポリを目指すとなると~…予想到着時刻は二一時三〇分ですねぇ~」
副官が英戦をして速度の落ちた艦隊を前に言うと、リンゴルは頭を抱えたくなる。
「ふぅ~…頭が痛い」
案の定と言うべきか、問題児がしっかりと問題を起こしたことで危険な時間帯の航行を余儀なくされてしまい、目的地に到着できるのが夜になってしまった。
「大丈夫?夜間航行をする羽目になるけど」
「私たち、人手が足りませんよ?」
艦橋に戻って舵を握っていたヘルミーナが言うと、フローラが聞いた。
「最悪航空科に増援を要請して。測量と射撃管制は教育されているはずだから」
「分かりました」
そこでこの前増員されたクラスメイト達に連絡を取ると、彼女達は快く受け入れて配置についてくれた。
元々後から来たことで微妙な距離感があって気を揉んでいた彼女達は、人員不足を前に全力で答えてくれたことで元々の乗員達は気が楽になったことでお互いに交流を深くするようになった。
「航空長も倒れて大変よ」
「あら、そっちも?」
電探室ではエリーザと航空管制官のエレナ・ウーデットがそんな話をしていた。
「呆れたもんだ。艦長もすっとこどっこいだな」
そして食中毒で艦橋要員が倒れた話は格納庫内で機体整備を行なっていた整備班長のハイジ・フォン・メルカッツが言った。
「海賊船はまあ、ブルマーには攻撃なんて仕掛けんでしょうに」
「…だといいんだがな」
そこで同じく整備員のララ・オットソンが言ってその懸念にハイジは不安を拭えずに陽の沈む大洋を見た。
そしてリンチェを曳航しながら進んでいた艦隊は、そこで夜の中に航行を行う一隻の船影を見た。
「輸送船です」
「ええ…」
そこで電探室でもしっかりと船舶を確認すると、その船舶はビーコンを切っていた。
「この時間に制限海域を航行するとは…」
リンゴルもそこで発光信号を送っていた輸送船を見て呆れていた。
「我々の忠告を無視して船を出している企業の船舶が居ると聞くが、迷惑な連中だ」
彼女はそう言い、リンチェと同様のことを考える大人がいることに呆れてしまう。
無論、企業とて日が経つごとに燃料を無駄に消費して、その分の損失が莫大なものになるので、危険を承知で船舶を航行させている。
利益を追求しなければならない資本主義の常ではあるが、ブルーマーメイドやホワイトドルフィンからすれば仕事が増えてしまい、眉を顰める行為である。
「!!?」
するとその発光信号を見て副官が驚く。
「艦長!あれは…救難信号です!!」
「何っ!?」
その直後、航行していたブルーマーメイド艦艇の近くに水柱が上がった。
「砲撃…!?まさか…!!」
その水柱の正体を前にリンゴルは振り返ってその攻撃が飛んできた方角を見る。
「海賊か!?」
そこでは暗闇の中で探照灯をつけて接近してくる
「輸送船が海賊に襲撃されている!スキッパー隊は出動!「スキアーヴィ」は貨物船の救助に迎え!」
「ここでブルマーに出会ったのが運の尽きだったな」
そこでスキッパーが展開されると、ブルーマーメイド隊員は不倶戴天の敵を見つけたようにこの期間で不眠不休だった獲物を見つけてスキッパーのエンジンを吹かす。
「絶対に取っ捕まえてやる!!」
そして彼女達は一斉に出動をすると、その様子を見てハイデマリーは驚いていた。
「海賊が出たの!?」
「ど、どうしよう」
狼狽える彼女達にエーリカは言う。
「落ち着きなさい。総員戦闘配置!」
「
そこでヘルミーナが叫ぶと、警報が鳴り響いて乗組員は事前の訓練通りに艦内を走って配置につく。
「…?」
その中でアレクサンドラは砲撃音を聞いて首を傾げながら何事かと近場の窓の外を見た。
「なんだ、アレは…?」
そこで彼女は窓の外からうっすらと見えたその艦影に首を傾げた。