潜水艦の対処を終わらせたのとほぼ同刻。
「こちら「スキアーヴィ」!ようやく海賊を捕えました!合流します!」
スキッパーを操作して海賊船に乗り込んだブルーマーメイド隊員は言うと、リンゴルは安堵したため息を吐く。
「ふぅ…最低限の仕事はできたか」
「潜水艦もバラストタンクに穴が空いてしまって潜航もできませんしね」
そこで副官は穴の空いた影響でどうしようもなくなった潜水艦を見る。浮上した後にアーダルベルトの機関砲の攻撃でバラストタンクに行くつも穴を開けられた船体は、一度沈降すれば浮上できない鉄の棺桶と化していた。
中の乗組員の殺傷の可能性もあったが、すでに魚雷攻撃をされていたのであまり強くは言えなかった。
「あっ、シュペーから連絡です」
すると彼女のタブレットに一本の連絡が届いた。
『失礼します。シュペー副長のヴィヘルミーナです。
艦長からの伝言なのですが、さっきの貨物船を調べるべきだと』
「襲われていた船を?」
リンゴルは首を傾げると、そこでいくつかの理由を述べた。
①なぜそもそも金品狙いの海賊がブルマーを攻撃したのか。
②それは我々の航路が海賊にとって都合が悪かったから。
③おそらく金品を奪った後に横流しをする密会でも行われていた可能性がある。
④今晩ここを通過するはずだった船を調べて欲しい。
きっとグルだろうとテアはメッセージを残していた。
「「…」」
その内容に二人は固まると、直後に指示を出す。
「すぐに検問をかけろ!」
「はっ!」
そしてすぐにブルーマーメイドとホワイトドルフィンを使って捜査が始まった。
「流石はクロイツェルさんのお子さんだ。海賊の現れた数十分の間に…恐れ入る」
リンゴルはすぐにこのことを連絡してきたテアの手腕に感嘆していた。
その後、腹痛が治ったアレクサンドラは日課の牛乳を飲みながら話す。
「『人の嫌がることを率先して』それは勝負を勝利に導く最適解だ」
トイレに篭っていた彼女は、ようやく下痢の兆候が治って回復をしていた。そして回復後は艦橋に立ってそう言ったので聞いていた者達を苦笑させた。
甲板後部ではヘリポートにドラッヘが着艦を行っていた。
「一〇…九…八…七…六…」
甲板に航空管制官のエカテリーナ・ヴダノワが両手にライト棒を持って
そして着艦を終えると、コックピットが開いてハンナ達が降りてきた。
「よくやってくれた」
「いえ、楽しかったですよ。夜間飛行は」
そこで回復をしたアレクサンドラが出迎えると、ハンナは少し嬉しそうにして答えていた。
「体調は回復されたようですね」
「うむ。余と数名は復活したぞ」
まだマリーが酷い下痢を起こしているが、命に別状はないというのがハイルヴィヒの診断だった。
「聞きましたよ。ブルーマーメイドから感謝状ですって?」
「うむ。まあ、余はトイレに篭っていたからエーリカ達に渡されるべきのような気もするのだがな…」
「そんなそんな。マイン・カイザーこそふさわしいですよ」
そんな事を言いながらハンナはアレクサンドラと共に甲板を歩いて行った。
そんな海賊との戦闘から一夜。
「おっ、トリポリ到着〜!」
そこでリビアの首都、トリポリに到着をしたアンネッタはリンチェの甲板からその街の景色を見る。
「これもどれも私のおかげだな♪」
「違うっしょ」
アンネッタはそう言って昨晩の作戦の成功の報酬を信じて疑っていなかった。
「すごーい!艦長、今回の活躍でブルマーから感謝状出るの!?」
「流石艦長!」
「…当然のことをしたまでだ」
シュペーでもブルーマーメイドからあった連絡を前にテアは乗組員達から言い詰め寄られていた。その事にテアはやや恥ずかしそうにしていた。
「体調も回復したようで良かったですね」
「ああ、一安心だな」
ミーナもそんな風邪が治った様子の彼女を見て安堵していた。
「あっ、そうだ」
そこでレターナがふと思いついた。
「確か今日はここで点検を兼ねて停泊するんだよな?せっかくならお祝いを兼ねてパーティーしね?」
「パーティー?」
レターナの提案にミーナ達は首を傾げた。
トリポリに投錨をして下船を行う艦隊。先の制限海域はテアの助言で未だに海賊と繋がっていた企業などの摘発に躍起になっていた。
「とりあえずここでは各砲の点検と対空火器。それから投下した航空爆雷の補充…と言ったところですかね」
そこで回復したアンネリーがタブレットを持って甲板を歩いていた。
「しかし、ぶっつけ本番でよく飛べたものだ」
「元々、こちらに配属された航空科は腕利ばかりですからね。『どんなトリッキーな運用もできる』と豪語して止みませんよ」
「…そうか」
新しく用意された航空科は、艦載ヘリコプターを運用する事を前提にした試験的に運用される新しい科。現状は海洋学校に編入という形でヘリコプターの育成機関から派遣されてきた生徒達だ。こんな実験部隊を任されている事に対してビスマルクのクローナは不満げな様子であったが、そもそもビスマルクは格納庫がないのでどうしようもない問題でもあった。
「艦長はこの後、ブルマーからの感謝状授与ですか…」
「ああ、本来はエーリカやあの作戦に参加した全員に授与されるべきなのだがな…」
「ふふっ、でも潜水艦の対処を提案しましたよ?」
「それもカッツヒェンの提案だ。余は何もしていない」
そう言い彼女はしてやられたと言った。
「親善試合でのことで余は恨まれていたらしい」
「意図返し、と言ったところですか」
「そう言うことだ」
そう話すと、彼女はドラッヘやコリブリを格納している格納庫を見る。
「あれ、マイン・カイザー?」
そこではアーデルハイト・ガーランドとロッティ・シュペーテの航空管制員二名が休憩をしていた。
「すまんな。視察をしにきただけだ」
「ああ、どうぞどうぞ」
「格納庫は大したものはありませんが…」
彼女達はそう話しながら翼を外された状態の機体を見せる。いずれも機体を運ぶ為だけのため、格納庫内で埃を被りつつある代物であった。
「いや、先の作戦でのヘリコプターの能力の高さは証明された。あとは資料の提出といったところだろうな」
「はぁ…書類仕事ですか」
「面倒ですね」
そこで苦笑して彼女達は先の作戦の報告書案件に表情が強張る。
「別に悪いことでもない。この報告書をあげた暁には我々は歴史に名を残すこととなるのだからな」
「おお、流石にマイン・カイザーが言うと重みが違いますな」
「違いない」
彼女達はそう言って笑い合っていた。
その頃の岸壁。
「サプライズ…ですか」
エーリカは興味を示して相槌を打つ。
「艦長達が感謝状を受け取る記念なんだ。どうだろうか?」
「良いですね。艦長達も喜ぶでしょうし」
好印象を受けてミーナも嬉しげに頷く。
「会場はどうしましょうか?」
「シュペーでどうだろうか?」
「分かりました。こちらも主計科の子達に連絡いたしますね」
協力的な姿勢を見せた彼女に、ミーナは頭を下げる。
「ありがとう。エーリカ」
「いえいえ、長い付き合いですから」
そんな彼女に、エーリカは実に貴族らしい微笑みをして答えた。
「(最近、艦長の元気がなかったしな。この回は絶対成功させなければ)」
ミーナは強く思うと、母親との関係を薄ら薄らと聞いて感じ取った事を胸に秘めて船内に戻る。
そして船内に戻ったエーリカは、そこで食堂にてウルズラ達にサプライズイベントの話を持ちかけた。
「わぁ、良いですね」
「サプライズって響きがいいですね」
「興奮してきますね」
彼女達は三者三様の反応を見せると、そこでアレクサンドラの故郷の味である南ドイツ料理のレシピを引っ張り出す。
「どうします?」
「シュペーの子にも南ドイツ料理を振る舞ってみるってのは?」
「いいかも。こっちでも好評だったし」
アレクサンドラの家系から半ば強制的に宮廷料理が提供されているようなものなのだが、彼女達はアレクサンドラから受け取ったレシピを完璧に再現しており、彼女を喜ばせていた。
「この前、マイン・カイザーから鹿肉とかも届いたしね」
「鴨も混ざっていたりしましたし、レパートリーは増えそうですよね」
わざわざイギリスに向かって狩猟で獲ってきた肉。あまりにもワイルドな方法での提供に彼女達は目を丸くしつつも、冷凍庫で届けられた肉類は保管されていた。ちなみに出港前に艦内の倉庫にはアレクサンドラが大量に自分の領地のワインとビールを持ち込んで保管させていた。
「そういえば猫ちゃんも来ましたしね」
「いっつもマイン・カイザーの頭に上に座っているけれどね」
ウルズラとマクシーネはそう言い、アレクサンドラの制帽か腕、もしくは肩に乗り込む癖のあるエリザベートの事を思い出す。
綺麗なブリティッシュショートヘアの血統書付きの猫。しかし性格は意外にもお転婆娘に違いものを感じていた。
「エリザベートって、イギリスの友人から譲り受けたって話だけど?」
「すごいよね。流石は王族の血筋って感じだよ」
そんな事を話ながらワイワイと盛り上がっている三人を見てエーリカは『あとはお願いします』と言って食堂を後にした。
「…アンネリー」
『何でしょうか?』
そして食堂を出た彼女はインカムを起動してから連絡をとった。
「ザーシャって、今どこにいる?」
『私の目の前、格納庫よ。何か用?』
「いや、これからサプライズを仕掛けるから、夜までザーシャをなるべくシュペーの前甲板の見える場所に行かせないでほしいの」
『ああ、了解』
すぐに事情を理解してアンネリーは頷くとそこで通信が切れる。相変わらずよく切れる友人だと思う。
シュペーの面々と違って二人三脚で艦長という個人を輔弼しているアーダルベルト。昨晩のことは例外的だが、エーリカはアレクサンドラのおかげで胎児にならずに済んでいた。
「(やはり、艦長はザーシャにこそふさわしいですね)」
それは昨晩の事。状況把握が常に落ち着いていたアレクサンドラは的確に指示を出しており、エーリカはその命令をどこの誰に送ればいいのかを考えるので精一杯だった。
「(まあ、研鑽は必要ですが…)」
エーリカはそこでこの後行われるサプライズパーティーを行う上で、次は誰に声をかけるべきかを瞬時に計算していた。