トリポリに停泊したシュペーとアーダルベルト。そこでミーナはテアとアレクサンドラがブルーマーメイドに感謝状を与えられるという理由で、その記念でサプライズパーティーを画策していた。
そして早速シュペーではミーナがハマって厳選していた任侠映画をテアに進めて時間工作を展開していた。
「ザーシャ」
「?」
そこでアンネリーが格納庫で談笑をしていたアレクサンドラに話しかけると、彼女はそこで提案を持ちかける。
「この後、寄港地の日本なのですが、一部乗員から日本語を学びたいという生徒がいるらしいのですが…」
「ほう?」
「よければ教えて欲しいとのことです」
アンネリーはそう言い、アレクサンドラがパーティーに気が付かないように船内教室に誘導をする。そこで日本語の指導と聞いて彼女はほぼ二つ返事でなずく。
「良かろう。余の知識は日本のアニメ・漫画が多いが、それでも構わぬか?」
「大丈夫です。日本語は学ばれているのですよね?」
「無論だ。日本人に教えてもらっておる」
彼女は当たり前のように日本語について頷くと、彼女はそこでクラスメイト達に緊急で日本語教室を行う旨を連絡する。
「まずはどの程度を教えれば良いか?」
「日常会話ですかね。挨拶とか、出来れば日本語の読み方とかも」
「うむ、向こうに到着しても不便にならない程度に教えれば良いな」
概ねどの程度まで詰め込み教育をするべきなのかを察すると、彼女はそこで格納庫から船内に入っていく。
その頃シュペーでは、足止めのためにテアがアウレリアと共に日本語教育としてミーナの選んだ任侠映画を見ていたわけだが、映画にさして興味が無かったテアはその後に映画視聴をやめて船内の散策を始めていた。
その中でミーナは甲板でテアが出てきたことに驚いていた。
そこでどうにかしてサプライズを成功させるために彼女は足止め第二弾としてチェスを提案していた。
「あっ!チェスでもどうですか?ザーシャも呼んでどうです?」
「何を今更…私が勝っただろうに」
「えぇ、でももう一戦してみては…?」
テアのチェスの強さは艦内でも折り紙つきだ。この前もアレクサンドラと試合をした際はテアが勝利しており、その事を彼女は二日ほど自慢しまわっていた。
「あっ、みーっけ!」
「アンネッタ!」
そこでシュペー甲板に知った声が聞こえた。振り返ると、タラップを登ってアンネッタがピースサインをしていた。その後ろでは副艦長も挨拶をしながら甲板を上がっていた。
「ジャーン、遊びに来たよー」
「ちーっす」
二人はシュペーに上がってくると、ミーナはそこで聞いた。
「お前艦長だろ、自分の艦はどうした?」
「邪魔ばっかしてたら追い出された。アハハハハハ!!」
アンネッタはそう言い、これでも笑って済ませていることにミーナは『ああ、クラスメイトも苦労するな…』と内心で彼女に散々振り回されたであろうクラスメイトに合掌をしていた。
「なになに?チェス?」
そこで彼女は用意されたチェス盤を見て聞いてきた。
「私が相手してやろうか?」
「お前が〜?相手になるのか?」
そこで用意されていたチェス盤を見てアンネッタが言うと、今までの彼女の破天荒ぶりからアッサリとテアに蹴散らされてしまうのではないだろうかと推察していた。
「まあまあ落ち着いてー」
するとアンネッタの所の副艦長が言った。
「やーでも、うちの艦長に信用がないのはわかってっけど、強い人探しているならうちの艦長はピッタリだと思うよ」
そう言われながらアンネッタが席に着いてチェスを行うと、彼女は後手であるにもかかわらずシュペー・アーダルベルトで最強となったテアを簡単に倒した。
「はい!チェックメ〜イト!」
「なっ…!?」
簡単に蹴散らされてテアは驚愕していた。
「「「「強!!」」」」
その様子を見てミーナ達は驚愕していた。
「うちの艦長はチェスの世界大会でも上位でね。一応『天才』と呼ばれている」
「意外な才能だな…」
そこで普段の破天荒さと問題児っぷりでは考えられない彼女の才能にミーナ達も舌を巻いていた。確かにテアをこうもアッサリと倒すとなると、その腕前は本物だろう。
「それをもう少し航海術に生かせばいいのに…」
ミーナはそう言い、今まで散々巻き込まれた時の事を振り返りながら軽く苦虫を潰した。
「って艦長!?」
すると心なしかアッサリとコテンパンにされたことにテアは魂が抜けているようにも見受けられた。
「くっ…不覚!もう一度だ!」
彼女の今までの行為か、彼女自身の強さのプライドか、テアは無気になって再戦を申し出る。
「今度こそ本気を見せる!」
「はっはっはっ!どうぞどうぞ」
アンネッタはテアに笑って言うと、そこでさらに来客が来る。
「チェスの会場はここかい?」
「っ!ザーシャ!!」
そこではエーリカを伴ってアレクサンドラが甲板に上がっており、テアとアンネッタが座っているのを見た。
「失礼、観戦させてもらっても?」
「どうぞどうぞ〜。王族の前で試合なんて初めてだ〜」
アンネッタはそう言い日本語教室を中断してこっちに訪れたアレクサンドラを見ると、彼女は自前の椅子とテーブルをテキパキと用意されて、そばに従者のように立っていたヘルミーナが丁寧に豆や道具を持ち込んでいた。
「カッツヒェン、どれがいいかな?」
「…中煎り、細挽きでくれ」
「アンネッタは?」
そこで振られて彼女は驚きながらコーヒーを注文する。さすがは王族…とアンネッタは目の前で豆を引くことに違和感を覚えていないアレクサンドラに舌を巻いていた。彼女の腕の中では一匹のブリティッシュショートヘアの猫が可愛がられており、マフィアのドンのような雰囲気すら醸し出していた。
「あっ…じゃあエスプレッソってできる?」
「かしこまりました」
そこでヘルミーナはアレクサンドラの一瞥を受けて承諾をすると、コーヒーミルを取り出して豆を挽くところから始めていた。
「アンネッタに事情を話した。今のうちに準備してしまおう」
ミーナはそこでチェスの対戦を見ながらその間に準備を進めていく。
事情を理解してアンネッタはパーティーに参加することを条件に試合もテアと長引くように試合運びをして時間を作ってくれていた。
その後、アンネッタという強い足止めのおかげでシュペーの前甲板で着々とサプライズパーティーの準備は進んでいた。
「だいぶ準備が進みましたね」
ローザはそこで言うと、ミーナは言う。
「アーダルベルトも手伝ってくれたおかげだ。当直お疲れ」
会場を一箇所にまとめた事で人員も単純に倍増したおかげで会場は予想よりも早く準備が整っていた。
「これで艦長も元気を取り戻してくれればいいのですが…」
「そうだな…こんなことしか出来ないが、喜んでもらえると嬉しい」
そんなミーナの呟きに近くにいたアレクサンドラ・ティエレとロミルダ・ハンネ・カールスが反応を見せた。
彼女…シュペーの方のアレクサンドラは、アーダルベルトの方のアレクサンドラが余りにも格の違いすぎる家柄だったために胃袋に穴が開きそうなのが最近の悩みであった。
「艦長がどうかしたの?」
「あっ。いや、最近、母親の事で悩みがあるようで浮かない様子でな」
そう話し、海上基地でマイヤーから渡されたあの艦長帽や、マルタ島でのリンゴルとのやりとりを思い出す。
「えー、艦長のお母さんってブルマーの中でもすごい人なんでしょ?」
「何が不満なんだ?」
「いろいろ事情があるのでは?」
「でも艦長もブルマーを目指しているってことはお母さんが目標なんじゃないの?」
その時、アレクサンドラの疑問を聞き、ミーナはふと思った。
ーー目標…
そしてミーナは振り返ってその疑問を聞いた。
「そういえば…皆はなぜブルマーになろうと思ったんだ?」
彼女の疑問に乗組員達は一斉にミーナを見た。
そしてテアとアンネッタの試合を観戦していたアレクサンドラ。
「んん〜、これ美味しいね」
「ダルマイヤーの、余の好みの『プロモド』と言う種類だ。苦味と酸味の両立したものを選んでいる」
「うわっ、絶対高い豆じゃん」
アンネッタは名前からして高級そうな雰囲気に、そんなものをエスプレッソにして淹れてもらえている事実に『友達万歳!』と内心で喜んでいた。
「ほい、チェックメイト」
「んなっ…!!?」
そこで最後に駒を置いて宣言すると、テアは目を見開いて驚愕した。
「アハハハ、やったー!三連勝!」
アンネッタはそこで負け知らずだった試合に鼻歌までしていた。
「大したことねーな」
「うう…この私が…」
テアは屈辱的なまでな敗北を喫し、その事に顔を青くさせていた。
「おっと、今日はこの辺にしよー。そろそろ時間だしな」
「っ〜〜〜〜」
アンネッタが締めるというと、負け続けだったテアは不満そうにしていた。
「二人は皆に愛されているんだな」
「?」「…そうね」
そこで彼女が言った一言にテアは首を傾げ、アレクサンドラは静かにゆっくり頷いた。
「さーて、行こう」
アンネッタはそう言い、チェス盤を片付けて立ち上がる。
「こっちこっち!みんな待っているぞ!」
「みんな?」
そう言いながらアンネッタはテアの手を引っ張っていた。
「いいからいいから」
テアを引っ張っていたアンネッタはそう言い、内心で心優しき彼女達のクラスメイトのことを思う。
「(こいつ等、サプライズのことを知ったら驚くだろうな。私だったらもう泣いて喜ぶぞ)」
彼女はそう思い、自分にはしてくれることはないんだろうな、と自分が自分の指揮する航洋艦を追い出されたことを思い出して途端に悲しくなった。
「ちょっと待て」
「へ?」
その時、テアは極めて訝しんだ様子でアンネッタの手を振り解いた。
「怪しい…」
そして彼女はアンネッタを前に極めて怪訝な様子で言った。
「先に向こうに何があるか言え。じゃないと私は一歩も動かん」
「何ぃいいいっ!?」
アンネッタは予想外のテアの抵抗に驚くと、彼女の隣でアレクサンドラが言った。
「まま、行こうじゃないか。カッツヒェン」
「しかし…」
「(サンクス!王女様!!)」
アンネッタは見事にフォローを入れてくれたアレクサンドラに心の底から感謝をしていた。