そこでアレクサンドラの見事なフォローに感謝をすると、そこでテアは堂々と言った。
「前甲板に向かうんでしょう?」
「しかしコイツのことだ。途中に落とし穴があるかもしれない」
「(なんだと思われてんだ私)」
テアからの評価を聞き、途端に苦笑するアンネッタ。少なくとも今までの行為とこの評価からしてまともではないことは確かだ。
「どこに穴を掘るんだよ…やるならロケット花火の打ち込みでしょう?」
「そっちはそっちで怖いって!」
世にも恐ろしい推測をしてきたアレクサンドラに『こっちも同類かよ』とアンネッタは突っ込んだ。
「とにかくこっち来いって」
「行かん!」
そこで押し問答引き問答になった時、彼女達の足元を小さな影がすり抜けていった。
「ひゃう!?」
「!?」
「うおっ!!」
その感覚にアンネッタは変な悲鳴をあげると、その声にテアとアレクサンドラは驚いた。
「い、今、足元になんか…」
「どうした?」
そこで驚愕したアンネッタにテアは首を傾げると、直後に彼女達の足元に他にもすばしっこい影が通り過ぎていく。
「ぎゃああっ!」
「なんだ!!?」
「!!」
三人はそれぞれ驚いてその正体を見た。
「!!?猫とネズミ?!」
「うわっ!」
その瞬間、ネズミを見たエリザベートがアレクサンドラの腕から飛び出していった。そして一目散にそのネズミの群れに向かって飛び出してしまった。
「「「…」」」
一連の動きに三人は茫然自失になってしまった。
「…っ!待て!エリザベート!!」
「え?あの猫そんな名前なの!?」
そこでアレクサンドラが慌てて追いかけ始めると、その猫の大層な名前にアンネッタは驚きながら走る。
「困ったな、ネズミは船旅で大事な食料をダメにしてしまうぞ」
「いや!普通に気持ち悪いし、考えるとこそこじゃないよ!!」
テアは冷静にそう言ったのでアンネッタは突っ込んでアレクサンドラ達を追いかけ始めた。
その頃、シュペー前甲板ではパーティーの準備が佳境を迎えていた。
「よし、こんなところか」
ミーナはシーツを机に広げて言うと、ロミルダは安堵していた。
「なんとか終わりましたね」
「ああ、エーリカ達には感謝しないとな」
そこで彼女は会場の設営に協力してくれたアーダルベルトの乗組員を見た。
「あとは艦長達を呼びにいくだけだな…」
ミーナはそう言い、テア達を呼びに向かおうとした時。
「待て!」
甲板に声が響いてミーナはの方を見ると、そこではアレクサンドラ達が駆け足で走っていた。
「ザーシャ?どうしてこっちに…ん?」
その時、甲板をよく見ると、アレクサンドラ達の前を小さな集団が走っていた。
「は?」
「ぎゃあああ!!」
「ちょ、気持ち悪い!」
「ちょっと!こっち来ないでぇええ!!」
そこで乱入した猫とネズミに会場にいた乗組員達は悲鳴をあげた。
「あっ、エリザベー…ぐほっ!?」
エーリカはそこでいつになく元気に走っていたエリザベートに首を傾げると、ネズミを全速で追いかけていたことで砲弾となってエーリカの鳩尾を貫通する。
「副長!?」
「お、おのれ…ライミーの猫風情がぁ…!!」
急所を攻撃されて甲板に倒れ込んだ彼女はそばにいたマリーに驚かれ、そこで彼女は恨めしそうに腕を振るって一匹を仕留めたエリザベートを見た。
「エーリカ!」
「艦長…」
すると大混乱の会場の中でアレクサンドラが話しかけたので、彼女は顔を上げた。
「これは?」
「猫とネズミがタラップを伝ったらしい」
そこで会場を改めて見ると、そこではネズミを前に大混乱の状況が出来上がっていた。
「どうしますか?」
「うむ…」
アレクサンドラはその会場を前に大きく息を吸って静止させようとした時、
「静まれ!!」
甲板に先にテアの声が通った。
「現在、野ネズミ五匹と野良猫一匹が艦内に紛れ込んでいる!まずは艦首の出入り口を封鎖せよ!」
そして次々と彼女は指示を出していく。
「そしてチームに分かれて必ず捕まえろ!猫の捕獲は私とイレーネ艦長が指揮を取る!!」
テアはそう言いアレクサンドラを見てお互いに頷いた。
「急げ!」
「「「「はい!!」」」」
彼女の指示で乗組員達は大慌てでネズミの捕獲を開始した。
そうして彼女達は指示通りにネズミや猫を順次捕獲していった。
両艦の衛生長のハイルヴィヒとマリーア・ローフはネズミを実験体に使おうとして叱られたり、猫を追い詰めて上からテアがマントを使って捕獲したりと大慌てで対応に追われた。
「すっかり夜になったな」
ミーナは汗を拭って安堵すると、次に他の乗組員達に言う。
「お前達、手はちゃんと洗っておけよ」
「よし、よくやった」
テアはそこで無事に網に入れられたネズミやレターナが腕に抱えていた黒猫を見た。
「猫可愛い〜。モフりたい」
「余のエリザベートならおるぞ?」
シュペーの炊事委員のエルフリーデ・ルフトが言うと、隣でアレクサンドラがエリザベートを差し出した。
「艦長、コイツ等どうするんだ?」
「港から離れたところで返してやれ」
テアはレターナに言うと、エルフリーデの顔面に猫を押し当てながらアレクサンドラは言った。
「ネズミは殺鼠剤でも使いなさい。皆殺しよ」
「言ってること怖いです。殿下」
そこでシュペーのアレクサンドラがジト目で彼女を見た。
「で、何をしようとしていたんだ?」
そしてアレクサンドラが聞くと、そこでテアも同じことを聞いてミーナは苦笑気味に答えた。
「メチャクチャになってしまいましたが…まあ、しょうがないですね」
「あはは…」
それにはエーリカも苦笑していた。
「もっと綺麗にしたかったんですが…」
ミーナはそこでテアとアレクサンドラを見ると、そこで言った。
「みんな!行くぞ!」
そこで一斉に乗組員達はその手にクラッカーを握った。
「「「「艦長方!表彰おめでとうございます!」」」」
「!?」「おお…」
そして一斉にクラッカーが音を立てて紙吹雪を舞い上がらせた。その出来事にテアは目を丸くしていた。
「どう言うことだ?」
「こっそりお祝いをと。…まあいわゆるサプライズです」
ミーナは少し申し訳なさそうにしてテアに答えた。
「なるほど、余に隠していたのはこれか」
「あはは、流石にわかってしまいますか」
「露骨だったからな。まあ、それでも嬉しいことに変わりはない」
そう言い、そこでジュースが提供される。生憎、停泊しているリビアは酒類が基本的に禁止されていたための措置であった。
「ミーナが、テアの元気がないからと計画したんです」
「…なるほど」
エーリカが事情を話すと、そこでミーナに口元まで運んでもらっているテアを見て納得した。
「どうですか?気に入っていただけましたか?」
「…ああ、こんなに嬉しいことはない」
アンネリーにも聞かれて彼女は頷くと、次に言う。
「…この信頼と信用を、余は保ちづける努力をしなければならんな」
彼女はそう言いながら炊事員たちが用意してくれた南ドイツ料理を一口食す。この味は故郷の味だ。このプリンツ・アーダルベルトの炊事員達はこの故郷の味をよく再現してくれたと思っていた。
「…今度は乗組員の故郷の料理が食べたい。頼めるか?」
「…ふふっ、わかりました」
そこで彼女の要望にエーリカは微笑むと、ゆっくりと頷いた。
「みんな、集まってくれ」
するとミーナがそう言ったので、テア以外のシュペーの乗組員達が並び始めた。
「これは?」
アレクサンドラは足で首を傾げると、そこでエーリカが聞いた。
「艦長、貴女がブルーマーメイドを目指す理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「…そうか」
そこで目を伏せて彼女は頷くと、その光景を見つめる。
そこではシュペーの乗員が次々と『なぜブルーマーメイドを目指すのか』と言う疑問に答えていく。
レターナは『強い女性のイメージそのものだったから』と答えた。
彼女のやや男勝りな部分らしく、彼女はブルーマーメイドに入っても現場主義でいきたいと言っていた。
ローザは『海洋学者を夢見ており、ブルーマーメイドになって学者になった者がいたから』と答える。
彼女はこっそり海洋学を学び、海洋学者としてもやっていきたいと夢を語った。
そして次々とはどうになりたい理由を話していく。
エルフリーデはコックになりたいから。
ロミルダは顎枯れていた先輩の追っかけ。
シュペーのアレクサンドラは権利や興味から。
それぞれさまざまな理由が垣間見えた。
「これは…」
「皆、ブルマーを目指す理由です」
ミーナはそう言った。
「詳しくは私も知りませんでしたが、皆それぞれ理由があるんです」
彼女はそう話し、次に隣に立つテアに話しかける。
「…艦長が何か悩んでおられることも皆知っています。それが私たちにはどうしようもないことを知っています」
「…」
「でもその悩みがあっても私たちは同志なんです」
「っ…!」
その時、彼女は少し目を大きくした。
その光景をシュペーの射撃指揮所からリーゼロッテが見下ろしていた。
「あーあ、青春しちゃって。聴いているこっちが恥ずかしいですわ」
軽く鼻を話して彼女は眼下に広がる光景を見ていた。
彼女はこのサプライズパーティーに関してミーナと買い変わらず反りが合わず、こうして射撃指揮所からその光景を見下ろしていた。
「まだここにいらしていたのですね」
するとここまで上がってきた生徒が一人いた。水雷長のアウレリア・ブランディである。
「アウレリア」
「ケーキ、いただいてきました」
彼女はそう言い、トレーにこうちゃと切り分けられたケーキを差し出す。
「リーゼロッテ様は下に降りられないのですか?」
「ご冗談を!やってられないですわ、あんな子供っぽいこと」
リーゼロッテはそこで眼下で開催されているパーティーを前に少し強がるように言う。するとそんな彼女を見て、アウレリアは少し驚く。
「…私は一人前になりたかったんです」
そして際によって大洋を見ながら徐に呟く。
「昔から小心者で、お兄様やお姉様の影に隠れて過ごしてきたんです。憧れとしていたブルーマーメイドは堂々としていて、格好良かった…」
彼女はそう話し、海洋準備校の頃からの付き合いであるリーゼロッテに羨望と尊敬の眼差しを向けていた。
「私もそうなりたくて、リーゼロッテ様のような度胸が羨ましかった」
「…フーン」
そんな彼女にリーゼロッテは満更でもない様子を見せながら言う。
「私は艦長よ」
彼女が目指すもの。そのことを改めて告白をしてから、自分には何が足りなかったのかを思い返しながら眼下の光景を見る。
「ああ言う艦長になりたかったですわ」
その時、彼女の視線はテアに向いていたのか、アレクサンドラに向いていたのか、それは本人以外にはわからなかった。