三月二四日
トリポリから無事に横須賀に到着したアーダルベルト。
入国審査で名前を見た入国審査官に驚かれたものの、それ以外は特に大きな騒ぎもなく入国を終える。
「諸君、これより我が艦は四月五日までの長期休養。俗に言えば春休みだ」
そこで機関も停止させて甲板に乗組員を集めさせて彼女は言う。
「ここで長々と演説するのも面倒だ。我々が日本に寄港する目的を忘れず、暫くはゆっくりと羽を伸ばせ。以上だ」
仁王立ちをして彼女は宣言すると、そこでエーリカが出る。
「ではこれよりシフト表を配布する。各員所定の予定通りに行動し、時間厳守せよ」
「「「「はいっ!!」」」」
そしてシフト表を確認して乗組員達は陸に上がる者は歓喜し、残る者は肩を落としていた。
「で、マイン・カイザーは何処に?」
「ふっふっふっ、もちろんアキバだ!」
彼女はそう言い、その手に財布を取り出す。その中には一千円札の札束が仕込まれていた。
「既に現金は用意した」
そこで彼女は直後に肩を落とす。
「余にとって春コミに参加できなかったのは痛恨の極み…!!」
彼女は数日前にメインイベントの一つが終了していたことを嘆いていた。
「しかし夏コミがまだある。そちらは日本にいる間にまだ参加可能だ!」
「…そうですね」
エーリカはそこでアレクサンドラが艦長室に持ち込んでいたアニメのグッズやゲームの数々を思い出す。その部屋だけを見ると如何考えてもただの腐女子にしか見えない彼女。どうやら抑圧された環境が彼女の思考を捻じ曲げてしまった様子だった。
とくに親の目がない海洋学校ともなると彼女はドイツのアニメマーケットに飛び出してはホクホク顔で帰ってくる。この可愛らしい子供の顔つきをして中々にキツめのソッチ系を持って来るので艦長室にゲームを借りに来る乗組員もいる始末である。しかもかなりの高確率で貴族系の生徒なのがまた救えない。
「日本語検定も一級を取ったんだ。原文掛け流しで楽しめると言うのは最高だぞ?」
「あー、はい。そうですね」
長年の友人でもあるエーリカもこれに関しては救えない部分であり、もう諦めていた。と言うよりも、艦内にもアレクサンドラと同様の嗜好を持った面子がいることの方が大問題であった。
「さて、まずは何処の店に行くべきか…」
「護衛はつけますか?」
「いると思うか?この私に」
「あなただから必要なんですよ」
エーリカは言うと、シフト表を確認してから彼女達は猿島フロートに降りる。
「おお、ここが横須賀女子海洋学校か…」
そして校舎を歩いて彼女は学内の施設を見て回る。
「施設自体は江田島という場所にあった施設と同様のようですね」
「へぇ」
アンネリーも付いてきて彼女達は入学式の前の学校というものを見る。
「ここには今年から新入生が来るそうです」
「なるほど、三月の初めに卒業式をしたわけか…」
基本的に日本の学制というものを事前に調べていた彼女は、そこでまた新たに訪れるであろう新たな生徒達を前に先輩として少しばかり胸が張るものだ。
「と言ってもまだ一年生ですよ、私たち」
「シンプルに心を読むな、アンネリー」
アレクサンドラはそう言って彼女には不満げに言った。
「だってザーシャはすぐに顔に言葉が浮かんできますから」
「…おかしいな。ポーカーフェイスは教育の中に入っているはずだというのに…」
そこで少し自信を無くすアレクサンドラであったが、この二人が異常なのであって他の面々からすれば『何を考えているのかさっぱりわかんない怖い人』という印象を与えていた。
「まあ、我々は入学式の後は暫く学校に残るのだがな」
彼女はそう言い少し残念そうにする。
アーダルベルトはこの横須賀においてブルーマーメイドのお偉いさん型を相手に積み込んだ艦載機のヘリコプターの実演を行うためにこの新入生の参加する海洋実習には参加しない予定であったのだ。
「シュペーと同行できないのが残念ですね」
「特にビスマルクもいるとなると面倒極まりありませんしね」
そこでアンネリーが言うとアレクサンドラ達はため息を吐いてしまう。
「カッツヒェンには苦労をかけるな…」
「一回ベロナの生娘をシバキますか?」
「やめろ、あんな奴に骨を折る必要もないだろう」
アレクサンドラは本気でやりかねないアンネリーに軽く言った。しかし彼女は今までかけられてきたストレスは舌を動かす。
「でもこのままですと、いずれやらかすかもしれませんよ?」
「勝手に自滅なら両手をあげて喜ぶぞ?」
「その時に周りに迷惑をかけられたら困りますって」
そんな彼女の懸念に、アレクサンドラは怪訝に感じる。
「クローナもそれほど馬鹿じゃないだろう…流石に」
「はっ、どうだか?」
鼻からこれっぽっちも信頼していない様子でアンネリーは言うと、三人は一通り校舎を散策してから自艦に戻った。
それから十日ほどが経過した四月三日。
アレクサンドラは岸壁でシュペーを見上げていた。
「カッツヒェン」
「今行く」
そこで甲板の上からテアが答えると、そこで彼女はエリザベートと共に待っていた親友を見る。するとエリザベートを見てもう検疫は終わったのかと軽く驚いていた。
「エーリカは?」
「自艦でシフト中だ。他の乗員もシフトに合わせて横須賀や東京に出かけておるぞ」
彼女はそう答えてその絶妙に嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「…ザーシャは?」
「もちろん、目的は果たしてきたぞ?」
彼女はそう言い、この十日間で秋葉原をはじめとした諸々のアニメの聖地を巡る旅をしていた。そのために彼女はスッキリした様子だった。
「随分楽しまれておりました」
「そ、そうか…」
アンネリーがやや半眼でアレクサンドラを見ており、その様子を前にテアもやや引き気味に見ていた。彼女の腐った部分をまだ知らないが、何処となく危険な香りは感じ取っていた。
「ミーナ」
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
そこでローザに残りの業務を任せたミーナが降りて来ると、そこで四人は岸壁を歩く。
「まだ母上は見つからないのか?」
「…ああ」
アレクサンドラが言うと、そのことにミーナは一瞬ギョッとなった。
この十日間、日本に到着するや否やテア達は母親を探しに母親の居るような場所を探し回っていたのだが、いずれも空振りに終わっていた。
「まるで風のような人だな」
「…ああ、全くもって同感だ」
そんな表現にテアは割と切羽詰まった様子で頷く。
「それに話では、明日にはアメリカに行ってしまうらしい…」
「ふむ、であるなら益々この気を逃すわけにはいかんな」
苦労して日本まで訪れたのだ。ここで目的の母親に会えないとなれば、本末転倒も良いところである。
「ふむ、ではどのように移動するのか考えてみるか…」
「分かるのか?」
「行動心理学の本は一通り読んだぞ?」
ミーナに少し自信ありげに答えていた。
「あの…もしかして、道にお困りですか?」
するとその時、日本語で話しかけられて彼女達はその方を見た。
そこでは見慣れない生徒が話しかけており、ミーナ達はすぐに彼女がこの学校の生徒であるとわかる。
「
「?」
ミーナはそこでその生徒に話しかけるが、母国語で聞いてしまったので少女は困惑していた。
「(あ、いかん、ここは日本語でないとな…)」
少し失敗をしたと彼女は思うと日本語に言い直した。
「お主はここの生徒か?」
「は、はい。あっ、でも正式には来週からですけど…(お主って…)」
そこでキツめの広島弁の話し方に少女は苦笑した。
「ミーナ、その日本語は訛っておるぞ」
「ん?別に話せれば十分じゃろう?」
「(二人ともでは?)」
それには思わずアレクサンドラは言ってしまうが、今は時間がないので軽く言うだけで終わる。
「失礼、学園の事は知っているか?」
その問いに少女は頷く。アレクサンドラも入国と同時に学校を散策はしていたが、満足に案内できるかは自信がなかった。そもそも学校にいた時間謎数えるほどしかいなかった。
「大丈夫ですよ。三年ぶりに再会する友達と入学できることになったので、待ちきれなくて探索していたんです」
「そうか、ありがたい。面倒をかけるがよろしく頼む」
ミーナが言うとその少女は軽く首を横に振る。
「それで目的の場所はどこですか?」
「第二教員棟の大会議室だ」
「ああ、それならこっちです」
場所の名前を聞いて彼女は理解した様子で四人を案内していく。その途中でその少女は聞いてきた。
「あそこに停泊しているドイツ艦の方ですよね?ドイツの海洋学校から来られたんですか?」
「ああ、わし等はヴィルヘルムスハーフェン海洋学校から来た。そう言えば名前は何と言う?」
「(わし!?)」
ミーナは訛った日本語を使って聞くので、その少女はやや違和感を感じながら答える。
「知名もえかです」
そこで名前を聞かれて少女は答えると、アレクサンドラは記憶する。
「すまんな、新入生の説明会か何かがあったのだろう?」
「いえ、もう必要な話は事前に聞いていましたので、他には特にありませんよ」
彼女はそう話すと、そんな彼女にアレクサンドラはふと目の前の少女から少しばかり危険な香りを嗅ぎ取った。
「(何だろうか、この…縄を持たせたら似合いそうで怖い雰囲気)」
そう言い彼女は脳裏で少し前に見てドン引きした束縛系のアニメを思い出す。無論『十八禁』なんて見たら色々な人から怒られる事は確実なので我慢しているが、日本のコンプラゆるゆるのアニメ業界は『え?これをテレビに流すのか!?』と言うドン引きする内容を出すことが多々あった。
「(下手に地雷を踏まないようにせねば…)」
そして四人は目的地に到着をすると、そこで予想外の話を聞かされる。
「学会ならさっき終わったわよ」
受付で女性が答えると、その事にミーナ達は驚く。
「えっと…マリア・クロイツェルと言う方は!?」
「えっ?ああ、あの外国の方ね。確か食堂に行くって言って、食堂に行きましたよ」
ミーナの質問のその気迫に驚きながら受付の女性は言うと、五人は次に目撃情報のあった食堂の方に向かった。