適性試験は午後に開始され、個人の能力がどのように生かされるのかをシミュレーションを使って実戦に近い状況を作り出される。
「ほぉ〜…」
使用されるのは艦橋を正確に模したシミュレーション台。そこにアレクサンドラ達は入った。
「随分と精巧だ」
そこで艦橋を見ながらアレクサンドラは言うと、試験官が言う。
「この艦橋模擬室で様々な天候や
説明を聞き、アレクサンドリナは説明を聞いて頷いてから他の組んだ生徒達を見る。
「まずは班内で役割を決め、各位置についてください。そして仲間と協力して目的地を目指すように」
説明を聞き、アレクサンドリナは緊急で組んだ生徒達を見る。
「では諸君。始めようか」
「組み分け、どうされますか?」
アンネリーが聞いてきたのでそこでアレクサンドラは顎に手を当てて考える。
「ふむ…」
彼女はそこで臨時で部下達となる生徒達を見る。
「ではザーシャさんが艦長役というのはどうでしょうか?」
そこでエーリカが提案をすると、他の生徒達も首肯して行く。この六人の中で最も芯がありそうで、新しい環境であるにもかかわらずどっしりと構えていた様子の彼女に、次第に仰ぎ見るようになっていた。
「私も賛成します」
「おっ、そうか?」
全員から推薦をされ、アレクサンドラは頷く。
「良かろう。では余がこの場で指揮を取らせてもらう」
直前で駆け回っていたため色々とごたついていたが、彼女は指示を出していく。
「では君は砲熕兵器を、君は水雷兵器を…」
「はい!」
「わ、わかりました」
そして指示を出していくと、彼女は言う。
「エーリカは副長を、アンネリーは書記を」
「了解です」
「承知いたしました」
そして全員に役割分担を与えると、彼女は前の画面を見つめる。
「では諸君。始めよう」
「「「「「はい!」」」」」
その時、彼女は気楽に…しかし雰囲気と反転してしっかりとした口調で言うと、海図を前に彼女は普段は限りなく糸目に近い垂れ目であったのが、目尻が上がって鋭くなる。
『それでは演習を開始します」
試験官のアナウンスと共にアレクサンドラ達は一瞬暗転した視界から画面に映し出される大海原の視界を見る。地図を見れば、正面が〇度を示していた。
「取舵一〇度。両舷前進!最大戦速!」
「両舷前進、最大戦速!」
「よ、宜候〜!」
声をやや張り上げると、舵を握った生徒が一瞬驚きつつも
「艦長、ここは…」
しかし操舵手が針路を聞いて驚いて聞いてしまった。
「最短距離だ。途中の岩礁も砲熕兵器で吹き飛ばせば良い」
「えっ!?」
「し、しかし艦長…この区域は岩礁が多く…」
「構わん!別に沈没するわけでもあるまい」
アレクサンドラは部下となった砲術長に言うと、続けて話す。
「今回は時間制限付きだ。向こうがどういった状況なのか不明だと言うのに急かされているのはなぜだ?」
彼女は言うと砲術長以下、部屋にいた面々は首を傾げていた。すると最大船速まで加速する中で彼女は答える。
「ーー救助だ。我々は現在、事故現場に向かうブルーマーメイドだと思え!」
彼女はそう言うと全員が理解した。そもそもが優秀な生徒達ばかり集められた学校だ。それだけでこの時間制限がどう言った意味であるのかを瞬時に把握した。
「岩礁視認!」
「主砲、発射用意!」
「りょ、了解しました…!!」
そして浅瀬の岩礁を抜けて艦艇は視界に見えた岩礁スレスレを航行する。
「バラスト排水!砲が撃てるギリギリで構わん!」
「了解。バラスト排水します!」
そうしてできる限り船体を軽くした上で最大戦速で浅瀬帯を航行する。
「主砲弾装填完了!」
「
そして主砲が発射されて船底を削りそうな危険な岩礁地帯に砲撃を敢行して浅瀬を抉り取る。
「なんて奴だ…」
「あんなの危険すぎる…!!」
そしてその様子を見ていた他の生徒達はやや引いて見ていた。少なくともそのような危険な博打は座礁の可能性を鑑みて『やりたくない』と言うのが本音だった。
「浅瀬を抜けます」
「右舷停止!」
「宜候。右舷、機関停止」
そして主軸を停止させると、その行動に生徒達は驚くが、何よりも関心が優った。
「早い…!」
「旋回半径が小さいぞ!?」
片舷のスクリューを停止させたことで、通常の旋回半径よりも小さく船体を滑らせることができた。
「あらっ」
しかし浅瀬を航行しており、船体の一部が岩礁とぶつかってしまい、船体にダメージ判定が出てしまった。
「まだ動ける?」
「はい、掠っただけです」
「よし、そのまま続行だ」
「宜候〜」
こんな艦長を前に彼女達は同じことを思ったに違いない。
ーーこんな博打、正気ではない。
しかし彼女の的確な指示は円滑に航行をせしめていた。それは次第に信用になり、団結力に変わっていく。
「岩礁地帯抜けました」
「よし、このまま前進!」
そして彼女達は目標地点まで無事に到着を果たした。
『試験終了。アレクサンドラ・イレーネ班、只今の記録三五分〇五秒』
「はぁ、やはり浅瀬でぶつかってしまったのが余の失敗であったか…」
船体をぶつけたペナルティーも課され、あいにくと新記録にはならなかった。
もう少し早めることができたはずと思いながら若干肩を落としていると、アンネリーが言ってきた。
「ザーシャ、目標を回収しました。試験官にお土産で欲しいと言ったらもらえましたよ」
「了解した。では後は優雅な見物と行こうか」
「はい」
アンネリーは頷くと、彼女達は部屋を後にする。
「ミーナ」
「ええ」
そして部屋の外で待機していた他の生徒達の中でアレクサンドラはある物を彼女に手渡す。
「次はベロナ家の御令嬢だ。妙技を余に見せてみよ」
「ああ、了解した」
不敵に彼女は笑うと、仕入れてきた制帽にその物品を入れた。
そしてクローナ達の班の試験が終わると、部屋からゾロゾロとクローナ達が出てくる。
『試験終了!クローナ・セバスティアン・ベロナ班、只今の記録二八分十二秒。
彼女が出てくると、どこぞのアイドルかよ言うほど黄色い声も出ている始末である。取り巻きの生徒達が労う間、試験官は言う。
『それでは最後!テア・クロイツェル班、前へ!』
その合図に合わせて艦橋模擬室にテア達の班が入ってくる。そして他の生徒達と同様の説明を受けると、入り口でクローナがヘラヘラとした様子で言った。
「艦長はクロイツェルさんが良いと思いま〜す」
そう言い、彼女は部屋の中央にあった海図を見せた。
「っ…!?」
だがその海図は無惨に破られていた。
「変に騒いだらお友達はブルーマーメイドになれないわよ」
それだけを言い残して彼女は去っていった。
「(どうする…海図はボロボロ。これでは右も左も分からない…)」
海図がなく、地図もGPSもない状態で道路もない洋上ではまともな操艦など不可能であった。
「(それにそもそも…この班はベロナに脅されている…)」
おまけに彼女はそこで自分の班に配属になった生徒達は全員が何かしら吹き込まれていると察する、
「(これじゃあまともに航海なんてできない…)」
ーー1人じゃ、海は進めない。
彼女は脳裏にその言葉がよぎった。
「艦長、ご指示を…」
「…このまま前方へ、微速前進…」
やむなく彼女はこの絶望的な状況を前に一寸先は闇の状況を乗り越えるしかないのかと覚悟を決めた時、
「しかしながら艦長、名簿のご確認は済ませられましたか?」
彼女の横から声がした。
「え?」
聞き覚えのある声にテアは驚いた様子で隣を見た。
「忘れ物です」
そう言い、帽子をかぶって目元を隠していたミーナは鍔を持って顔を見せると、不敵に笑った。
「お前は…!」
「直前に試験官に頼んで変えてもらったのさ」
そこで後ろから小声で話しかけられて振り返ると、そこではレターナが舵を握っていた。よく見れば書記も髪で前髪で目元隠していたが、ローザだった。
ベロナに脅されていたと思われる生徒達は、直前に組んでいたアレキサンドラの班とできる限り交代させていたのだ。
『どうせやる事は海図を奪うに決まっています』
この前、アンネリーは断言した。そもそも何も権力のない子供ができる嫌がらせなど限られており、適性試験で手っ取り早く妨害をできるのは紙で出来ている海図を消失させる事であった。
『我々は先に試験を行います。その時に海図はくすねるか貰ってきます』
『で、直前に余は試験官にメンバーの入れ替えを行う。出来ない場合は軽く変装でもして誤魔化すのだ』
アレクサンドラは笑みを浮かべて言うと、ミーナ達はその計画に乗っかって作戦を開始した。幸いにも試験官は全ての要望に答えてくれた。直前に行動をしたこともあり、クローナ達はまるで気がついていなかった。
「いったい何を考えて…」
テアはそんなクローナから報復をされるような行動に出た彼女達に驚いていると、ミーナは脇で締めていた制帽を渡す。
「これ」
「!!」
その帽子の中には折り畳まれた海図があり、運よくこのシミュレーターと同じ海図であった。
「テアがブルーマーメイドになれないなんて絶対嫌だから」
「だからって……お節介など」
テアはそんな危険を犯してまで海図を届けたミーナにその後のことが危険だと思っていると、彼女は首を傾げた。
「えっ?友達だからだろ?」
それは純粋な言葉だった。そのことが、テアの何かを突き動かした。
「アレキサンドラ…じゃなかった、ザーシャ達の手助けで三人潜り込ませれた。半々だがいけるか?」
「ああ、大丈夫だ」
その時、彼女の目は自信に満ち溢れていた。
その後、彼女の班は岩礁地帯に魚雷を撃ち込んで活路を見出し、九分五八秒と言う速度で目標に到達した。
「うんうん。良くやった」
「くくくっ、見てくださいよ」
満足げにアレクサンドラは頷くと、隣でアンネリーは笑いを堪えた様子でタブレットで呆然と負けたことをぼやき続けているベローナの写真を隠し撮っていた。
「おお、傑作だ」
「ええ、ホーム画面にできますよ」
そう言うと、今度は部屋でざわついた声がした。
「ん?」
すると中で緊張や疲労でテアが倒れたと言って大騒ぎになっていた。
「あらあら…」
「相当な無茶をしていたと言うことか…ふむ」
そして担架で担がれ、試験室を後にする彼女を見送ると、アレクサンドラはアンネリーに言う。
「アンネリー、
「?」
そこで彼女はとある名言を口にする。
「『やられたらやり返す。倍返しだ!』…ってね」
その時の彼女は実に良い笑みを浮かべていた。