猿島フロートから事件の救援の為に出港をしたアーダルベルト。
彼女は真雪からの勅命を受け、彼女は叛乱認定を受けようとしている学生艦の拿捕を目的に展開していた。
叛乱嫌疑が掛けられつつある晴風に対し、彼女達の行動を予測しながらアーダルベルトは彼女が向かう海域を推察していた。
「コリブリ、発艦できる?」
「はっ。観測要員を乗せて飛ばします」
その目標海域に到着したアレクサンドラはエーリカに聞くと、彼女は敬礼をしながら答える。
現在時刻は四月八日 一六:〇〇、出港してから十二時間が経過していた。
「他の手隙要員は晴風突入に備え武装せよ」
「了解しました」
そこでテキパキと指示を行うアレクサンドラにやや不安げにオリヴィアが聞いてきた。
「あの艦長、一応お聞きしますが…拿捕でよろしいんですね?」
「ああ、停船命令を送る。その後、ドラグーン隊を使って艦橋、機関室を制圧する」
彼女は断言すると、丁度観測要員としてコリブリに乗せられたフリーデが発艦して行くのを見た。
『嫌だぁ!怖いぃいいっ!!』
無線機で全開で聞こえる彼女の悲鳴は今の彼女達には届かない。
「無論殺さない。あくまでも一時的な拘束だ。晴風乗組員から事情聴取をしながら横須賀に帰港する」
「了解しました」
オリヴィアはアレクサンドラから方針を聞かされると、そのハッキリとした物言いに感謝をしながら発艦して偵察に向かったコリブリを双眼鏡で捉えていた。
「無人機も発艦し、できるだけ広い目を持たせよ」
「了解しました」
そこで艦載機として格納されていた
「射出用意良し!」
『無人機発艦!』
そして防空指揮所でカタパルト点火装置のボタンが押されると、埋め込み式のカタパルトのレールを伝って飛行船が射出された。
「無人機、発艦を確認しました」
「よろしい。以降、発見の報告があり次第、発見機の誘導に従え。ビーコンの発していない艦影のみを探せ」
彼女は一連の行動から晴風が事前にビーコンを切っている事を把握していた。その為、飛行船や哨戒型のドラッヘなどに搭載されていた小型レーダーを用いての捜索を指示していた。コリブリは肉眼での捜索となる為、アーダルベルトからの指示に従って飛行を行う予定であった。
「航海長、了解」
「航空管制長、承りました」
そしてエリスとエリーミルの両名は承諾をすると、エリーミルは後部艦橋下に用意された航空管制室まで移動しようとする。
「あとそれから、全員に最初に晴風を見つけた者には余からビールを一本奢ると伝えろ」
「はっ!」
そこでアレクサンドラからの言付けを聞き、エリーミルは承諾をした。
「う、羨ましい…」
「マ、マイン・カイザーのビール…」
艦橋要員は発艦していった航空科に羨望の目を向けていると、彼女は言う。
「別に諸君等も見つければ権利はあるぞ?『全員』と言ったからな」
「「「「っ!!?」」」」
直後、艦橋や聞いていた面々は一気に湧き立ち、彼女達は目を皿にして晴風を探し始めた。
ーー《一七:〇〇》ーー
晴風捜索から一時間が経過した。
アーダルベルトから発艦したコリブリ、コールサイン『ドワーフ1』は洋上の偵察飛行を実施していた。
『ドワーフ1。現在本艦より包囲二二〇。距離二〇キロ。高度八〇〇メートルを飛行中』
「ドワーフ1了解」
偵察・哨戒の訓練も兼ねて彼女達は宗谷学校長の密命である晴風捜索任務を行っていた。無論、国の方針とは真っ向から歯向かう形になりかねないため、極秘で行わなければならない。
『…ら……し!こ…らむ…し!』
「?」
本船との定時連絡を終えたあと、
「今、何か聞こえなかった?」
「え?」
そこで彼女の呼びかけにパイロットのリディア・リトヴァクヤは首を傾げた。
「気のせいじゃ無い?」
「え、そんな訳…」
その時、再び通信が聞こえた。
「っ!やっぱり…」
即座に彼女は聞き間違いでなかったことを認識すると、無線機の録音を作動させて周波数を合わせる。
ザザッ『非常事態発生。至急救援を!…至急救援を!』
「!?」
その無線の内容に聞いていたフリーデは驚愕した。周波数を合わせてさらに鮮明な音声を拾おうと努力する。
『現在。…北西、……西!至急救援を!…至急救援を!』
しかし発信元が遠いせいか、肝心の所在地が聞き取れなかった。そして救難信号を伝える広域無線だけが海に静かに響いていた。
「どう言うこと…?」
通信が切れ、録音をしたフリーデは困惑気味にその通信を反芻していた。
「母艦に報告!」
「了解」
そこで打電すると、ドワーフ1はアーダルベルトに着艦命令が降った。
帰還したドワーフ1が持ち帰った情報は、アーダルベルト船内教室で放送された。
「…どう言うことだ?」
そしてその内容にそこで集められた面々の当惑を呼んだ。
「本当に反政府系の生徒が乗っ取ったとでも言うのか?」
「いや、海賊が占拠した可能性も…」
その無線を聞いた面々は困惑していると、そこでアレクサンドラは言った。
「いずれにしても、そのような行動があれば何かしら犯行声明が出されるはずだ。今の所、そのような連絡は受け取っていない」
「「「…」」」
彼女の話にフリーデやリディアなどは納得してしまった為に黙ってしまう。彼女の言うことは尤もであった。
「この無線は本物かどうかも分からん。迂闊な行動は避けるべきだ」
しかしこの声、曇っていたことで分からないが、どこかで聞いたことがあるような気がしてならなかった。
「我々は当初の予定通り、晴風の捜索と拿捕を行う」
アレクサンドラは様々な情報が錯綜している中で、最も確実性のある情報のみを彼女は選定して判断を下す。すると丁度良く一報が来る。
『艦影視認!』
アーダルベルトの先で哨戒飛行していたドラグーン2から連絡が入った。
「水平線上に照明を確認。航海灯も点灯しています」
コックピット脇に座るクルーチーフ役のロッティが搭載レーダーで艦影を視認した。
「ビーコンに反応無し。…もっと接近して」
「了解。高度上げるわよ」
そこでヴェロニカ・メルダースは操縦桿を引いて機体を上昇させると、ビーコンに反応の無い艦船を確認する。
「現在、高度二五〇〇メートル。停止する。ホバリング移行」
「了解。これより偵察を開始します」
そこで全面が球体の強化プラスチックで作られたコックピットでロッティは望遠鏡を用いてレーダーで探知した艦影を確認する。
本来の実用高度は二四〇〇mであるが、今回は少ない搭乗員と発見されにくい高度を目指して比較的高高度を目指していた。
「…」
ロッティ自慢の一眼レフカメラを取り出して拡大を行ってその座標に照準を合わせると、水平線の少し先辺りに一直線の中にある小さな違和感を撮影した。
「撮った」
「降下する。これ以上は向こうの電探に引っかかる」
すぐにヴェロニカは機体を降下させると、その最中でロッティは自分が撮影した写真を確認する。
「赤い識別帯…横須賀校所属艦…」
ロッティは撮影された写真を拡大して確認をすると、その船体に塗装された識別帯を確認してそれが横須賀校所属の学生艦であると把握する。
「母艦に打電。方位二二〇、距離五五キロ付近に横須賀校所属の航洋艦を確認。ビーコンの反応無し」
そして打電された情報を参考に飛行船が追跡を行う。後部艦橋に用意された航空管制室で、両手に操縦桿を握りながら搭載されたカメラを用いて水平線上に見えた艦影を視認する。
「水平線上に艦影視認」
『電探は?』
『捉えました』
そこで電探室でエリーザが報告をあげてレーダーで探知した艦影を確認する。
「向こうのレーダー性能は?」
「日本の航洋艦ですからね、それなりに高いと思いますよ」
レーダーに映るギリギリの海域で晴風を補足し続けているアーダルベルトでは、その艦艇にさらなる調査を続行していた。
『船体番号視認。Y…4、6、7…』
「直ぐに確認を」
そこでアンネリーが船体番号の検索をかけると、直ぐに調べが付く。
「…確認しました。横須賀女子海洋学校所属、Y467…陽炎型航洋直接教育艦、晴風です!」
彼女はそこで晴風の諸元を確認する。一発で目的の艦艇を探し出せたことの歓喜しながら次に報告を聞く。
「晴風は他の陽炎型
「なるほど、だから
エリーザはそこで電探を見ながらそう呟いた。するとアレクサンドラは質問をした。
「何節だ?」
「大体、十二節ですね。向こうの巡航速度よりも低いです」
そこで彼女は電探で探知し続けている晴風を見て言った。その報告を聞いたアレクサンドラは、向こうはこの壊れやすい機関が故障しているのだろうと推察した。
「ドラグーン2より続報。目標は照明も航海灯も点灯したままだそうです」
「そうか…」
その報告を聞いて部屋の中で全員の顔が引き攣る。
「夜間航行中は消灯をしないのね」
「向こうは乗り込んで二日目の初心者だ。分からないことの方が多いのだろう?」
「まあそうですけど…」
悪い事をした自覚がないのか?と思わせるような行動に全員が苦笑していた。そして報告を受けたアレクサンドラは直ぐに指示を出す。
「よし、とりあえず展開していた航空機はすべて収容しろ。我々は夜襲を仕掛ける」
「…また夜間発艦ですか?」
「ああ、できる人間にさせる。ハンネとエーディトを呼んでくれ」
そしてアレクサンドラの招集に応えて二人のパイロットは作戦室に呼ばれる。
「諸君達はそれぞれパイロットとして晴風上空まで夜間飛行を担当してもらう」
「了解」「了解しました」
そこで彼女は経験者でもある二人を招集し、夜間の発着艦を下命した。
「完全装備の生徒を乗せる。誤って堕ちるんじゃないぞ」
「無論です」
「ええ、後で説教は喰らいたく無いですからね」
二人はそれぞれそう話すと、アレクサンドラもそんな意気込みすら感じた彼女達に全面的に信用して不敵に笑みを浮かべてから彼女達に話し出した。