四月八日 一九:〇〇
紀伊半島沖合某海域
航洋直接教育艦 晴風 見張台
その時、深夜近い時間に当直をしていた晴風見張員の野間 マチコは潮風を感じていた所で違和感を感じた。
「…?」
潮風や波の音で空間が支配されている中を、波を切る音が聞こえたのだ。
何の音かとその音のする方角を見張台を出て確認する。
「…」
そこで彼女は目を良く細めて海域を確認する。
「っ…!!?」
そしてその瞬間、晴風の後方で
「後方一七〇度、距離一〇マイル。艦影視認!!」
その声は直ぐに艦橋に届き、当直を行っていた宗谷 真白と岬 明乃の二人は驚愕していた。
「何!?」
「えっ…!!?」
二人はその距離に驚愕していると、次に真白は伝声管を使って怒鳴った。
「おい、電探室!何をしていた!?」
『っ!!ふぁい…!!?』
そこで電探室では今の怒号で起きた様子で電測員の宇田 慧が答えた。この二日連続で戦闘に巻き込まれたり、叛乱認定をされたりで様々な心労が重なっていたことが原因の様子であった。
「野間さん!艦種は!?」
『…駄目です!確認できません!!』
深夜ということもあり、晴風の後方に接近していた艦艇がどの艦艇何かは判別できなかった。
「どうしてここまで気がつかなかったんだ!?」
「と、取り敢えず…戦闘用意!」
艦橋から身を乗り出して真白は双眼鏡を使って接近中の艦艇を視認しようとすると、岬は直ぐに下命した。
「っ!」
するとその艦艇から発光信号と英語による通達が行われた。
『接近中の艦艇より発光信号です!』
「なんと言っている?」
そこで岬は野間に聞くと、同時に電信員の八木 鶫からも報告が上がる。
『接近中の艦艇から通信です。『横須賀女子海洋学校所属艦、晴風。貴艦は叛乱の嫌疑が掛けられている。直ちに機関を停止し、降伏せよ』…です』
そして野間も発光信号を呼んで同じ内容を読み上げた。
『ビーコンに反応。識別確認!』
すると電測室で宇田が報告をあげた。
『接近中の艦艇は、プリンツ・アーダルベルトです!』
「プリンツ・アーダルベルト?」
知らない艦名に岬は首を傾げた。
「シュペーと同じ、ドイツからの留学生艦です!」
そこで着替えて艦橋に上がってきた記録員の納沙 幸子が伝える。
「基準排水量二八,九〇〇トン。全長二五六メートル。最大速力三五ノットは出る高速艦です!」
「んあ〜っ…」
「どふしたのこんな時間に〜?」
彼女が諸元を読み上げると、眠たげな様子で艦橋に砲術長の立石 志摩と水雷長の西崎 芽依が艦橋に上がってきた。
「武装は?」
「主砲は四七口径三八cm連装砲を三基六門。
副砲は四八口径十五cm連装砲三基六門。
他に六五口径一〇.五cm連装砲四基八門。対空兵装に三七mm機関砲十二門、二〇mm機関砲二〇門を備えるハリネズミみたいな兵装ですね。船体には五三三mm魚雷発射管を両舷に三門ずつ装備しています」
納沙は諸元を読み上げて段々と顔色を悪くして行く。
「…どうしてそんなのが此処に?」
「シュペーと同じで、ドイツからの遠洋実習ですよ」
諸元だけを聞くと、現状の自分達よりも圧倒的に上回る諸元を誇る艦艇の登場に誰もが沈黙する。眠気など吹き飛んでしまっていた。
「何でそんな巨体で駆逐艦並みに早いの?」
「装甲を対八インチ砲並の装甲まで削って、そこに戦艦と同様の機関を乗せていますからね…」
西崎は表情を引き攣らせて晴風の最大船速と同等の速度を出せるその艦に絶句する。
「ど、どうするの?に、逃げるの…?」
そこで艦橋で舵を握った航海長の知床 鈴は涙目を浮かべていた。
「向こうの最大速力は三五節。こっちは出せても十八節…」
岬は現状の晴風の機関の状況を前に緊張して接近してくる艦艇を見る。
「そもそも、まともに戦って勝てる相手だと思いますか?」
「「「……」」」
その時、納沙の一言で全員が黙り込む。
「火力、装甲、速度…何もかも向こうが圧倒的なんです」
「うちが勝っているのは旋回半径くらいか…」
「昼間に戦ったシュペーの設計改良型のようなものですからね」
納沙はそう話すと、岬は現在も接近中の艦を前に決断する。
「…機関停止」
「良いんですか?」
真白は岬の決断に驚くと、彼女はそう判断したわけを話す。
「向こうは今までと違って、事前に連絡があった。私達が無実ってことを証明する為にも…」
その時、けたたましい騒音が艦橋や艦全体に響いた。
「何だ!?」
真白はその轟音に驚愕してその音がした方を見た。
『右舷より高速で接近中の飛行船接近!速い…っ!?』
「飛行船?!」
「うわっ、眩しっ!!?」
その直後、灯りのついた艦橋ですら白光りするほど強力な探照灯が照射された。
「なになになに!?」
「ヒッ…!!」
そこで轟音と共に照射され、混乱する艦橋。
「目標到着」
「これより作戦を開始する。送れ」
機内で無線で連絡を取ると、機内でドアが開けられる。
上部に居た見張員は機首から覗かせる
「突入用意!」
銃口に
「何も見えない!」
「何が起こっているの!!?」
「視界真っ白なんだけど〜!!」
測距儀を潰され、砲術員の小笠原 光、武田 美千留、 日置 順子の三名は行動不可能にされる。
「
後ろでは機体のハッチから極太のファストロープを蹴り落とした。
「
そして極太のロープにしがみついて降下を始める搭乗員。八名の完全武装した兵士は手早く艦橋上に降りると、空砲を装填して煙幕弾を艦橋内に叩き込んだ。
「煙幕!?」
「ゲホッゲホッ!」
「何にも見えない!!」
叩き込まれた煙幕は一瞬で彼女達の視界を奪うと、直後に艦橋に複数の人影が現れる。
「
そこで
「っ!!」
「これは…ほ、本気ですね…」
突きつけられた銃口を前に納沙も冷や汗をかきながら両手をあげた。
「突入せよ!」
そして甲板から船内に侵入をした部隊は銃を持って煙幕弾を放つ。
「何々!?」
「訳分かんな〜い!!」
船内でその煙幕を前に大混乱に陥る晴風乗組員。その間に次々と突入をした部隊は制圧を開始して行く。
「ちょっと!上はどうなっているの!?」
機関室で機関助手の黒木 洋美が伝声管に向かって叫ぶと、艦橋の状況に困惑していた。
「うわっ!?」
その時、機関室の扉が開くと雪崩れ込むように銃を構えた生徒達が突入してきた。
「
銃口を向けながら突入してきた彼女達に機関長の柳原 麻侖は目を見開く。
「何でいお前ぇら?!」
「マロン、伏せて!」
柳原に黒木は言うと、次々と艦内は制圧されて行く。
『艦橋制圧』
『機関制御室、制圧しました』
『射撃指揮所、及び電探室。制圧しました』
無線で次々と報告が上がる中、艦橋で聞いていたアレクサンドラは目の前に浮かぶ航洋艦を見る。晴風上空には二機のドラッヘが探照灯を照射しながらゆっくりと旋回しており、晴風を照らしていた。
「宜しい。突入要員は拘束した晴風乗組員を船内教室にまとめろ」
「了解しました」
「宗谷学校長に暗号打電せよ。『パンドラの箱を捕らえた』と」
「了解」
晴風の主要施設を制圧し、持たせたガンカメラで晴風乗組員が船内教室に集められて行く様を見ながら彼女は指示を出す。
「本艦はこれより晴風に接近し、一人ずつ聴取を開始せよ」
「はっ、了解しました」
敬礼をすると、彼女は被っていた艦長帽を脱ぐ。
「余は晴風の艦長と話がしたい。頼めるか?」
「危険です。容疑とはいえ、叛乱の可能性がある艦ですよ?」
エーリカは少し表情を険しくして言った。
「もし本当に叛乱したのなら、我々が降伏命令を送った時点で撃ち返しでもするはずだ。それがなかったと言うことはだ、彼女達はすでに我々を前に心を折られたと見て良い」
「しかし…」
「突入要員のガンカメラで彼女達が反抗的でないことは把握している。それに、余とて自衛手段はある。護衛も連れるぞ?」
「…」
そこまで言われてしまってはエーリカは強く止めることはできなかった。
「私が付きます。どのみち、彼女達は一人ずつ聴取をしなければなりませんので」
そこでアンネリーが前に出て言うと、アーダルベルトは晴風の横に接近する。晴風の甲板では突入要員を担当したハイデマリーやマルグレートが手を振って合図を送り、後部甲板では発艦したドラッヘが着艦作業を行っていた。そして間に緩衝バルーンが展開されてタラップが設けられる。
「ご苦労であった」
「はっ!晴風乗員は船内教室に集めさせています」
そこで艦長帽をエーリカに託して晴風に乗艦したアレクサンドラは、そこで背中に突撃銃を構えるハイデマリーの案内を受けながら船内に入る。
「人数に差異はないか?」
「はい。猫一匹以外は事前情報との差異はありません。既に事情聴取も始めています」
「了解した」
そこで彼女は足元に付いてくるエリザベートを肩に乗せてから照明がついた船内を歩く。
「何とか見つかってよかったですね」
「ああ、発砲をするような事態にならなくてよかった…」
アレクサンドラはそう言い、心底安堵していた。抵抗をしてきた場合、弾倉一つしか持たせていなかった突入部隊やヘリコプターに損害が出ていた可能性があったからだ。
「あとは横須賀まで帰還しながら彼女達に事情を聞くしか無いな」
そう言うと、次にこの真夜中には眩しすぎる廊下の照明を見て言う。
「後でこの艦の者に連絡して、照明を落とすように言っておけ」
「分かりました」
制圧した船内は換気装置を使って展開した煙幕を外に吐き出し、使用した煙幕弾の回収を行っていた。
「こちらです」
「うむ」
事前に無線で連絡をとっていた為、彼女はそのまま船内倉庫として使われていた場所のドアを三回ノックした。
「艦長が入ります」
ハイデマリーはそう言うと、そこでは聴取を行っていた航空整備員のドーラ・シュニッツがバインダーを持って一人の生徒と話していた。
「後は私がやろう。二人は部屋の外に」
「はっ」
「分かりました」
そして部屋で目の前の少女の前に座ると、そこで話しかけた。