潜水艦の発見の報を晴風にも通達すると、そこで晴風艦橋に次々と要員が上がってくる。
「ふぁぁぁぁぁ〜…」
「如何したの、こんな時間に…?」
暗い赤色灯が点灯した艦橋で西崎と立石があくび混じりに上がってくる。
皆が就寝をしていたところを叩き起こされた為、少々事故が発生していた。
「「?」」
一瞬暗くて見えなかったが、灯に照らされて岬と納沙はその正体に反応する。
「シロちゃん、それ!!」
「何やっているんですか…」
そこで艦橋に上がった真白を見て岬は声を上げると、隣で納沙は糸目になって呆れていた。
「ん…?わぁっ!?」
そこで指摘をされ、自分が寝惚けて両腕で鮫のぬいぐるみを抱きながら出てきてしまっていた事に驚いて赤面する。
「こ、これは…その…み、見るな!!」
鮫のぬいぐるみを隠すように彼女は言うと、次々と報告が上がってくる。
『主砲、配置良し!』
『機関はまだ修理中。巡航以上は出せねぇぜ!』
『見張り異常なし!…何も見えませんが』
そこで推測員の万理小路 楓は聴音室で音紋を照合していた。
「か、各部…配置に、着きました…//」
そして真白は先ほどの失敗で少し恥ずかしげにした様子で岬に報告をあげた。
『音紋照合を致しましたわ』
そこで万理小路が結果を報告する。
『東舞校所属艦、伊201ですわ』
音紋から追尾艦の正体を判明させると、岬は頷いた。
「至急、プリンツ・アーダベルトにも報告して」
『分かりました』
そして発見した潜水艦の情報を共有した。
「伊201…201…あ、ありました。日本の潜高型潜水艦だそうです」
「何それ?」
アンネリーがタブレットで検索を行うと、すぐに学生艦の情報が出てくる。
「基準排水量一〇七〇t。全長七九m、水中速力二〇節を出す高速艦です」
「ふむ。概ね我が国のⅩⅩⅠ型と同じと見て良いか?」
「そのように見てもらってよろしいかと」
伊号第二百一型潜水艦は、水中での高速性能を重視しすぎたフェラーリのような艦艇である。高速性能を発揮できる分、バッテリー火災や潜航速度の低下など諸々の諸問題を抱えた『危険極まりない』と関係者から言わせた潜水艦である。
しかし設計思想自体はドイツが長年運用していたUボートⅩⅩⅠ型と似通っており、地中海で対潜戦闘を経験したことのあるアレクサンドラ達は『また潜水艦かよ』と内心でゲンナリしていた。
「武装は?」
「艦首に五三cm魚雷発射管四門。二五mm単装機銃二挺。魚雷、一〇本です」
諸元をあらかた聞くと、そこで暗闇の広がる大海原を見つめる。
「果たして撃沈なのか、警告なのか…」
「浮上して降伏勧告がくるでしょう。まずは」
アレクサンドラ達の懸念にエーリカはそう答えると、艦橋の中で絶妙な緊張感が芽生えた。
「とうまいこ?」
その頃、晴風では西崎が聞きなれない名前に首を傾げていた。
「男子校みたいですね〜」
そこで納沙がタブレットを使って学校を調べると、そこで『東舞鶴男子海洋学校』と検索結果が出た。
「へぇー、男子校なんだ」
そこで左舷監視員の山下 秀子が反応すると、右舷監視員の内田 まゆみが言う。
「潜水艦は全部男子校ですもね。でも暑くて、狭くて、臭くて…」
「わ、私にはムリ〜…」
そして潜水艦の中の過酷な環境を口にすると、その壮絶な様子を乙女としての矜持が消えてしまいそうな環境に知床は悲鳴を漏らした。
「全体追っ手だよ!撃っちゃおう!」
そこで潜水中の艦艇を前に西崎は先手必勝と言わんばかりに進言をすると、彼女の交戦的な意見に少し岬は判断を躊躇った。
そして少し時間をおいて考えて、現状の晴風の状況を確認してから納沙に聞いた。
「ココちゃん、伊201と交信できないかな」
「普通の電波では、海水で減衰するので届きませんね」
納沙はそこで潜水艦に事情説明をしようと考えている岬の思惑を理解した上でそう答えると、岬は首を傾げた。
「じゃあ普段はどうしているの?」
「潜水艦だからっていつまでも潜っているわけじゃない」
真白はそう答え、岬は納得して頷く。
伊201の作戦行動日数はおおよそ一ヶ月ほどで、基本的にこの時代の潜水艦は
「そうだよね、時々は海上の様子を見ないと怖いよ〜」
知床は常に周囲の状況を見ることができないと言う不安を想像して泣き目で操舵する。その時、岬は潜水艦の情報収集方法を聞いた。
「シロちゃん、潜っているときは向こうも外の様子をソナーで探っているんだよね?」
「当然だ」
真白は常識的なことを聞いてきた岬に呆れ気味に答えると、彼女はそこで提案した。
「じゃあ此方からアクティブソナーをモールスの代わりにしたら?」
『恐らく可能だと存じますが…』
万理小路は少し懸念する様子で返答すると、真白はそこで叫んだ。
「そんなことをしたら間違いなく攻撃したと思われるぞ!!」
本来は潜水艦や周辺の海底状況を探るための装備を、この広い太平洋洋上で…しかも黒潮と言う深い海底があるこの場所でアクティブソナーを使用したとなれば、潜水艦からすれば自分達を探している。と判断される可能性がある。
特に晴風は叛乱容疑が掛けられている現状、潜水艦からすれば『アクティブソナーを使った?では俺たちを探しているに違いない』となり、攻撃準備の可能性すら考えるだろう。
「ソナーでも何でもいいからうっちゃえ!」
「馬鹿なことを言うな!!」
西崎に真白は怒鳴ると、岬は少しでも味方を増やして自分達の潔白を証明するべきだろう、と伝声管に向かって言った。
「万里小路さん。艦名と所属、戦闘の意思がないこと伝えて」
『一切、承りました』
そこで晴風の船底にあるソナーからアクティブソナーが発射される。
「っ…晴風がアクティブソナーを出してます!」
『何だと!!?』
フローラが叫ぶと、艦橋でアレクサンドラ達は目を見開いて驚愕する。
「晴風に繋げ!」
「分かりました」
そこで慌ててアレクサンドラは晴風に通信を行う。
「艦長、プリンツ・アーダベルトからです」
「?繋いで」
通信を前に岬は首を傾げながら受話器を取る。
『愚か者!!ソナーを打つとは何を考えている!!?』
その時、耳を劈く怒号が岬の鼓膜を叩きつけると、その声は真白達も聞いて驚いてしまう。
『何故ソナーを使った!』
「モ、モールス信号でこちらの状況を伝えようとして…」
『馬鹿者!モールス信号をソナー使って伝わるか!!』
アレクサンドラはあの小柄な体格からは想像も付かないほど大声で怒鳴っており、岬も思わず耳から距離をとって受話器を握っていた。
「で、でもこれでもし状況が伝われば…」
『ド阿呆!こんな状況でソナーなんて使えば潜水艦を探していると誤解されるに決まってるぞ!!』
アレクサンドラは岬に容赦なく怒号を浴びせると、そこで岬は聞いた。
「万理小路さん、伊201の状況は?」
『目標進路変換。急速に深度を増していますわ』
「だから言っただろう!」
真白からも言われ、岬は失敗だったかと経験者でもあるアレクサンドラに相談すればよかったと軽く後悔をした。その通信の先でアレクサンドラは指示を出す。
『あー、くそっ。両舷前進微速!ソナーの邪魔にならない程度に航行しろ!』
そこでアレクサンドラはドイツ語で指示を行うと、晴風も同様に速度を落として航行を行う。
『岬艦長、これから横須賀に帰るまで何か行動を起こす際は
「はい。分かりました」
そもそも指揮権を委任したと言うのになんで独断で動くんだと軽く叱責を受けて岬は電話越しで頭を何度も下げていた。
「なんか、上司に怒られた時みたい…」
「まあでも向こうのほうが経験者ですし、実際これからは彼方に聞いた方が良いかもしれませんね」
そこで納沙は遠洋実習中であるプリンツ・アーダベルトを見ると、そんなことを話した。
その晴風とプリンツ・アーダベルトの後方で静かに潜望鏡が海面から突き出た。
「伊201の状況は?」
『急速に速度を落としています』
「くそっ、不味いな…」
「完全に向こうは臨戦体制取ってますよ」
艦橋でアレクサンドラは着実に悪くなって行っている状況に顔色を悪くする。
「コリブリの発艦用意させて」
「分かりました」
エリーミルに下命すると、後部甲板でコリブリの発艦作業が行われる。
「集束手榴弾持たせて!即席の爆雷代わりよ!」
「はい!」
そして船内では
「これで魚雷迎撃でもしてやりたいもんだね」
「できるならやってみろってんだよ」
ハンネは自作した手榴弾を前に言うと、航空整備員のイングリッド・シューマッハが鼻で笑った。
『魚雷音探知!方位二七〇度!数二!!こちらに接近中!』
フローラが叫ぶと、アレクサンドラは指示を行う。
「最大戦速、面舵一杯!」
「宜候、面舵一杯!最大戦速!!」
彼女の指示にエリスは舵を回して回避行動を行うと、夜中に見えた航跡がアーダベルトを通過する。
『魚雷、右舷通過を確認!』
「狙いは晴風か…!」
その先の晴風の艦尾に二つの水柱を確認する。
「晴風艦尾で二発爆発!」
「マジか…」
「あの威力は実弾だぞ…!?」
そこで発射された魚雷を前にアレクサンドラ達は顔を青くさせる。
「二発の爆発…時限信管だ」
それだけ距離と速度を測る時間をとっていたと理解すると、すぐにアレクサンドラは言う。
「戦闘配置!対潜戦闘用意!」
「了解、対潜戦闘用意!!」
すぐにアーダルベルトは攻撃を行ってきた伊201に対していつでも攻撃できる状態にすると、この艦橋でアレクサンドラは歯噛みする。
「無警告射撃だと?この国は戦争状態か…!!」
「ですが広域通信で晴風に対する無警告射撃は通る可能性があります」
「…さっきのアクティブソナーか」
彼女は言うと、エーリカは頷いた。
「はい。あれで伊201は『晴風が攻撃を画策している可能性有り』と判断した可能性があります」
「…やっかいな」
そこで軽く悪態を吐いて彼女は大海原を見ると、指示を出す。
「全副砲は洋上に照準合わせろ」
「了解しました」
エーリカは敬礼すると、アーダルベルトの砲塔が旋回を行って仰角をマイナス値に取った。