Reichs Adler   作:Aa_おにぎり

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#5

適性試験より数日後、ヴィルヘルムスハーフェン校で妙な噂が立っていた。

 

ーークローナがテアをいじめているのではないか?

 

出所不明の噂で信憑性はない。しかし女子校で噂というものは、時に真実すら塗り替えてしまう。

 

『そんな事する訳ないでしょう!?』

 

噂を前にベローナはそう言い、真っ向から否定した後にその噂を消すために奔走する羽目になった。

教師達も確固たる証拠もないので動こうにも動けなかった。

 

「汝等は『2:6:2の法則』と言うものを知っておるか?」

「?何でしょうか」

 

校舎の食堂でアレクサンドラはエーリカやアンネリー達と食事を摂っていた。そこで彼女からの話にエーリカは首を傾げた。

今は昼食の時間で、彼女達がヴィルヘルムスハーフェン校に入学をしてから二ヶ月が経とうとしていた。

 

「聞いたことがあります。確か、集団の構成比率が自然と上位・普通・下位に分かれるものですね?」

「そう。上と下が二割、真ん中は六割になる。経験則だから実際にそうかは分かっていない」

「…なるほど」

 

そこまで話したところでアンネリーは理解した様子で頷いた。

 

「失礼しても?」

「どうぞ」

 

そこでトレーを持って空いていた場所に座った。

 

「ベルタ・フォン・デア・ローンだ。私もその話に混ぜてもらっても?」

「アレクサンドラ・イレーネだ。構わないとも」

 

そこで座ったベルタは今日の昼食を摂りながらアレクサンドラに話しかける。

 

「貴女の事は噂で聞いている。先の適性試験で座礁寸前の航路を取ったとな」

「ふふふ、お褒めに授かり光栄だ。まあ、全てクロイツェルの者に持って行かれてしまったがな」

 

アレクサンドラはそう言うとベルタは先ほどの話の続きを聞いた。

 

「それで、その今の法則というのはこの集団でも適用されるのかい?」

「さぁ?余には分からぬ話。そもそもこの法則というのは余もかじって聞いた話だ」

 

彼女は軽く肩をすくめると、聞いたベルタは隣でブルストを食べるアレクサンドラを見る。

 

「ほう、噂じゃあ貴女の班だった子が言いふらしたと言う話もあるんですけどね。どうなんです?」

「噂は噂。基本的に噂というのは様々に膨らんで原型を覆い隠してしまうものよ」

 

アレクサンドラはベルタとそんな話をしていると、彼女は満足した様子でトレーを持つ。

 

「もう行くのかね?」

「ええ、友人に呼ばれてしまいましたので」

 

ベルタはそう言うと、他の生徒達も屯している食堂を移動する。

 

「どうだった?」

 

そこで別の場所でベルタを見ていた彼女の友人達が聞いてきた。

 

「スゲェぜ、あの人」

 

そして短く話しただけであったが、彼女はアレクサンドラを見て感動していた。

 

「ありゃ多分、相当に学んできているみたいだ」

「おお…」

「ベルタにそこまで言わせるんだ」

「伯爵様すら圧倒とは…」

 

彼女達はそこでベルタが興味を示したと言うその生徒のことで軽く話題になる。

 

「(まぁ多分…大方予想出来るけどな…)」

 

彼女は隣に座ったことでほぼ確信していた。あの二人が気がついているかどうかは分からないが、違和感は彼女の仕草の節々に感じているだろう。そう思いながら今も貴族の食事会らしい雰囲気すら併せ持っている三人を一瞥した。

 

「しかし上級学校は五年後か…」

「一体どんな艦艇になるのか、見ものではあります」

「余は君たちと同じ艦に乗れることを切に願うばかりだ」

 

アレクサンドラは言うと、エーリカとアンネリーは言う。

 

「でしたら、艦長はザーシャが良いですね」

「ええ、貴女でしたら大当たりですよ」

「おおそうかい?いやはや、信頼されるとは嬉しい限りだね」

 

そう言いアレクサンドラは嬉しげにフォークをブルストに差してナイフで一口大に切り分けていた。

 

 

 

そして放課後、ヴィルヘルムスハーフェン校に併設している学生寮に彼女宛に荷物が届いた。

 

「おぉ…!!」

 

その荷物を受け取ったアレクサンドラは嬉しげに細長い段ボールで包まれていたそれを部屋に運ぶ。なにせ待ちに待った荷物であり、自分を最も可愛がってくれた人からの贈り物であるため、早く開封をしたかった。

 

「ザーシャ、何それ?」

 

そして寮で同室であるヘルミーナ・フォン・グレーナーが聞いてきた。

思うのだが、アレクサンドラの周りでできる友人の多くは名前にフォンが付いている(ドイツ貴族の称号)。何というか、もっとこう…幅広い友人関係はできないのかと内心では思ってしまう。

 

『まるで貴族名鑑のような交友関係だな』

 

友人のミーナにすらこう言われる始末である。望んでもいないのにこれである。もっと一般家庭出の友人はいないのか…と願いたくなってしまった。

 

「余が敬愛する大叔父から、一〇歳の誕生日を迎えた際に下賜された家宝だ」

「へぇ」

 

アレクサンドラはそこで荷物の開封の儀を行うと、中から包まれていた荷物を取り出す。

 

「ん?何これ?」

 

そしてその中身にヘルミーナは首を傾げた。

 

細剣(レイピア)だ。大叔父は刀剣好きでな、余のために仕立ててくれたものなのだ」

「えっ!そんな凄いものを誕生日プレゼントに!?」

 

ヘルミーナは驚いた様子でレイピアを誕生日プレゼントにしてきた彼女の大叔父に驚愕する。

 

「余は上級学校に行くことがほぼ決まっておるからな。元々は寄宿学校に行くところを、お父上に嘆願して上級学校に通うことを許可してもらったのだ。大叔父もその時に余を後押してくれてな」

 

聞くところによると、彼女は上に兄姉と下に弟妹がいるそうだ。

 

「へぇ、ザーシャさんは次女なんだ〜」

「そうだ。まあおかげで両親は姉と妹にかかりっきりだったがな…!!」

 

そこで沸々と煮え沸る湯のように彼女はブツブツと文句を連ねる。

 

「そもそもお父上とて余ができるからと小学生の頃に家庭教師でーー…」

「ストップ!ストップ!帰ってきてザーシャ!」

「…んあっ」

 

自己嫌悪と家族への文句がブツブツと漏れてくる彼女に、慌てて静止をさせると彼女はトリップ状態から帰還した。

 

「いかんいかん。またか…」

「うん、まただよ…ザーシャ」

 

そこでやや同情も交えた視線を送る。確かに彼女も姉弟がいるので、真ん中に挟まれた兄弟の気持ちはわかるつもりでいた。

 

「気をつけてね?結構こういうこと多いから」

「あぁ…気をつけているつもりではいるのだがな…」

 

そこでレイピアを見ながら彼女は純白の鞘を前に柄に触れた。

 

「学生艦に乗れるようになれば、この剣を帯刀して乗り込みたいものだ」

「ふふっ、五年後が楽しみだね」

 

ヘルミーナは微笑んでレイピアを手に取るアレクサンドラを見ると、彼女は大いに頷く。

 

「ああ、まあ艦長になれるかどうかは分からぬがな」

「そんな事ないよ〜」

 

彼女はそう言い、噂ではかなりの成績上位者であるというアレクサンドラを見た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして、五年の月日が経過した。

アレクサンドラ達はヴィルヘムスハーフェン海洋準備校からヴィルヘルムスハーフェン上級学校へ、正式に入学が決定した。

海洋準備学校から上級学校に進学する際、一年生の際の適性試験を参考に彼女達は進学先を決めていた。

 

「ふむ、やはりこの面子が集まるか」

「入学以来の仲ですので」

「順当に行けばそうなるでしょう。普通は」

 

そこでアレクサンドラは校舎を歩くエーリカとアンネリーを見上げる。

この五年、悲しいことにアレクサンドラ・イレーネは身長の変化がほぼ見られず、どんどん身長で置いてきぼりにされる事例が多発していた。

 

『曽祖母がダウン症だったのが原因なのか…?』

 

思わずそう呟かざるを得ない程、彼女は身長と胸で悩んでいた。来年くらいまでに成長期が来てくれなければ割と大問題であった。

 

「来週は海洋準備校卒業…」

「来月からはいよいよ上級学校です」

「うむ。余も楽しみであるぞ」

 

いつもの三人は廊下を歩くと、そこで反対から見知った顔が姿を見せる。

 

子猫(カッツヒェン)!」

「っ!…ザーシャか」

 

そこではテアとミーナが居り、彼女達は歩いてきたアレクサンドラと共に歩く。

 

「もうすぐ卒業だな」

「ああ、あっという間の五年間だった気がする」

 

まだ海洋準備校ということで、海洋学校のセーラー服などはまだ纏っていない。

 

「ザーシャは上級学校に進むのか?」

「無論だ。余はお父上からも許諾を得たしな」

 

彼女は頷くと、テア達も改めて同じ学校に進学できることに安堵していた。

 

「残念なことに上級学校には通わぬ者もいるが、技術廠に進学する者もいるというしな」

「交友関係が広いことに問題は無いぞ」

 

アレクサンドラとテアは『身長』という問題において同じ悩みを抱える友であった。ゆえに二人の仲というのは特にここ数年では強くなっていた。

 

「(くそぅ、こうもテアと仲が良すぎるとは…)」

「(同じ悩みを持つ者同士、気の合う部分は多いのでしょうね…)」

「(やれやれ、身長が伸びないのは少しかわいそうではありますがね…)」

 

その様子を見ていたミーナは危機感を抱き、エーリカやアンネリーは微笑ましく見ていたが、そのことで自分たちのことが疎かにならないように注意をしていた。

 

「上級学校に入ったらどのような学生艦になるのか…」

「成績上位者はビスマルクでは無いのか?」

 

彼女達はあの学区内の食堂に入ってフランクフルターを頼んで席に座る。

 

「しかし、相変わらず君はその注文なのだな」

「粒マスタードは美味いぞ?どのような料理もさっぱりさせてくれる」

 

そこでテア達は苦笑気味に相変わらずたっぷりと粒マスタードをかけたフランクフルターを見る。

 

「余は上級学校進学前に一度帰郷せねばならぬのが面倒なところではあるのだがな…」

「ザーシャの家は大きいそうだからな。また我が家とは別の苦労があるのだろう?」

 

テアはそう言いながらミーナに食べさせてもらう。昔から変わらないが、ミーナが提供されてからテアの口元まで運ぶまでの所作に一切の無駄がなかった。

 

「まぁ、そうだな。いやはや、お父上も酷なことをしてくれるものだ」

 

疲れた様子でアレクサンドラは頷くと、相変わらず『本当の同じものを食べているのか?』と錯覚させてくる食事法を披露する。

この五年で、彼女の貴族としての所作が完璧になっていることは彼女達も理解していた。ミーナとしては『リーゼロッテに彼女の垢を煎じて飲ませてやりたい』そうだが…。

 

「卒業の一週間後には上級学校。…そこでいよいよ海洋実習ですね」

「ええ、一体どんな艦に乗せててもらえるのか…」

 

アンネリーとエーリカはうっかり自分たちが『我らの皇帝(Unser Kaiser)』と呼ぶアレクサンドラが服を汚さないように見ていた。

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