「今、プリンツ・アーダルベルトから了承を得た。これから潜水艦捜索を行う」
受話器を置いてからミーナは告げると、今までの怒涛の地団駄混じりの会話から岬達も『おお』と歓声が上がった。
「まずは潜水艦を探す。水中で動くものを何か使えるものはないか?」
「え?うーん…」
ミーナのその問いに明乃は少し考える。すると、そこで彼女は椅子の上に乗せられたサメの人形を見た。
「…あっ!」
そして水中で動くものと聞いてふと思いついたのだ。
『掃海具用意!』
岬はそこで指示を出すと、後部甲板で一斉に乗組員達が動く。
「掃海具用意!」
「掃海具ってこれ?」
そこで等松 美海がハンドルを握って掃海具を吊るしていた起重機を回す。
「ほっちゃん、あっちゃん、手伝って!」
「「分かった!」」
彼女は手の空いていた杵崎姉妹に話しかけると、二人もハンドルを回して起重機を回し始める。
「お、重い…」
「腕が〜!」
「頑張ってぇ〜…」
苦労する二人に伊良子 蜜柑が励ましながら自分もハンドルを回す。
「う、うわぁっ…!!」
その時、掃海具を外そうと登った等松が足元を滑らした。
「魚雷はあと五本…」
彼女は先ほどの攻撃を思い出しながら双眼鏡で見つめる岬。
「このまま右に一八〇度回頭!」
そして艦橋を振り向いて指示を出す。
「さっきの発射方向に旋回して」
「りょ、了解!」
知床は頷いて舵を右に回していく。次に岬は艦橋の受話器をとる。
「掃海具どう?」
そして後ろ甲板の状況を聞いた。
『うわぁぁぁあああ〜っ!!』
しかし聞こえてきたのは等松の悲鳴だった。
「ミミちゃん大丈夫?」
彼女は今の等松の悲鳴を聞いて質問をした。
「うわぁぁああっ!」
その質問をされた等松は起重機にしがみついてぶんぶん振り回されていた。
「なんとか止めないと…」
「でも艦が揺れてて…」
その様子を見ていた杵崎姉妹は対応に困らせていると、伊良子が指示をした。
「掃海具外して!」
「「う、うん!!」」
それに頷いて二人はレバーを引いて掃海具を切り離すと、振り回された遠心力でやや乱雑に掃海具が海に投げ飛ばされた。
「はぁ、危なかった…」
「っ!掃海具良ーしっ!」
ほまれが安堵すると、起重機に両手で掴んでぶら下がった等松は叫んだ。
「あれで何とかなるのか?」
「…多分…」
その様子を見ていた真白が不安がると、見ていた岬は漠然とした信頼を持って頷くしかなかった。
「機関、一瞬だけ全速出せる?」
次に彼女は伝声管で機関室に問いかけた。
「て、言ってるんですけど…」
その質問に恐る恐る和住 媛萌が柳原に聞いた。
「仕方ねえ、十秒だけ!それ以上は責任持てねえな」
聞かれて彼女は足で何度か地面を叩きながら答えた。
『だ、そうです』
「お願い!」
『はぁ〜い…』
岬は返答を聞いて手を合わせて頼み込んだ。
その頃、プリンツ・アーダルベルトでも準備が進められていた。
「まさか艦長が魚雷発射を決意するなんて…」
「元々無警告でこっちに射撃されたし、まあ言っちゃああ悪いけどこっちも打って良い理由ができたってことよね」
左舷魚雷担当のゲオルギーネ・フォン・ルガーが右舷魚雷担当のヒルデ・シュマイサーとそんな事を言いながら魚雷発射管に装填されていく魚雷を見る。
船体に取り付けられた533mm三連装魚雷発射管に装填されていく魚雷は、そのうちの一本に魚雷が装填されていく。
『艦橋より発射管室。準備はどう?』
そこでエルフリントから質問を受けてゲオルギーネが答えた。
「大丈夫でーす!」
「予定通りに作戦を始められると思います」
それに手伝っていたヒルデも答えると、エルフリントはやや上機嫌に頷いた。
『よろしい。晴風が掃海具を降ろして潜水艦捜索を始めるそうよ』
「分かりました」
「音を辿って撃つと言うことですね?」
『ええそうよ。起爆のタイミングはこっちで行うわ』
「「はーい」」
そこで連絡が切れると、全員が装備していたインカムでの通信にやけにノリノリであったエルフリントに二人は苦笑していた。
その頃、水中を進んでいた伊201はちょうど晴風の真下を通り過ぎようとしていると、その艦橋に先ほど乱雑に投げ飛ばされた掃海具が轟音を立てて命中した。
「?」
その音を岬は耳にして途端に後ろにいた真白に聞いた。
「今、当たった?」
「さあ?」
真白は問いかけられて首を傾げてしまうと、困った様子で岬は考え込む。
「うーん…もう少し、速度を落としてみる?」
「いや、ここは誘い込め。さっきの手応えは間違いない」
そこでミーナが断言すると、その言葉に少々訝しむ様子で西崎達が彼女を見た。
「本当に?」
しかしその疑念に岬は疑うことなく頷いた。
「うん。分かった」
その直後、一報が入った。
『こちらプリンツ・アーダルベルト。これより攻撃準備を行う!』
「嘘っ…」
「本当だ…!」
そして今の僅かな音を頼りに攻撃を行おうとしていることに内田と西崎は驚いていた。
プリンツ・アーダルベルトでは大騒ぎとなって各所に連絡の確認をし合っている。
「急げ急げ!」
「聴音室!」
『見つけました!現在測距中、絶対に当てます!』
「向こうが撃つか、こっちが撃つかの勝負だぞ!急げ!」
そこで魚雷発射管室にエルフリントが怒鳴り声をあげていた。
「タマちゃん。砲戦準備!」
「うい」
岬は警戒をして指示をしたその直後、水中で気泡が噴き出ると伊201から四本の魚雷が発射された。
『魚雷音聴知!』
「「っ!!」」
『雷数四。真後ろからいらっしゃいました!』
万里小路が報告を入れると、直後に岬は指示をする。
「面か〜じ!」
「探照灯、照射始め」
ミーナが指示を行うと、晴風の船体に装備された
「見つけました!」
そして水中を滑走する四本の魚雷を内田が見つけて報告した。
「面舵一杯!戦闘、右砲戦!」
そこで
「撃え〜っ!」
立石が照準器を覗き込んで指示を送ると、二基の連装主砲塔から一斉に四発の砲弾が海面に叩き込まれ、起爆して命中寸前の魚雷を破壊して吹き飛ばした。
この際、魚雷は数が足りなく模擬弾であったためか、爆発がいささか小さく見えた。
「っ!」
その瞬間、その違和感に気がついて野間は双眼鏡を使って海面を見ると、伝声管に向かって叫んだ。
『潜望鏡視認!右一〇度、二五!』
「アーダルベルトにも連絡して!」
岬の判断は早かった。晴風を中心に方位と距離を聞いたアーダルベルトでアレクサンドラは指示を出した。
「測距完了!絶対当たります!」
「
「
その直後、船体側面の魚雷発射管から装填された魚雷が飛び出した。
「有線誘導、開始します!」
「よろしい。目標直前で起爆させたまえ」
「はっ!」
そこでエルフリントに厳命をすると、彼女は快く頷いた。
「イキイキしてるよ」
「仕方ないわよ。元々あんまり目立った活躍できてなかったし…」
そのあまりにも輝いて見えるエルフリントを見て艦橋で他の面々が小声で呟きあっていた。
『魚雷発射完了!』
「面〜か〜じ!」
「宜候〜!」
そこで知床が右に舵を切ると、晴風が船体を回したことで掃海具を繋いでいた鋼鉄ワイヤーが真下を通過しようとした伊201のスクリューが絡みとって轟音と共に止まってしまった。そこにアーダルベルトから発射された有線誘導式魚雷のTⅩが到達しようとしていた。
「起爆!」
「っ!」
アレクサンドラが叫ぶと、エルフリントは手元の自爆用スイッチの赤いボタンを強く押し込んで自爆させると、その爆発の水柱が大きく立ち上がって晴風の近くで魚雷が起爆した。
『右舷気泡確認!』
『浮上します!」
圧搾空気の展開と排水音を確認して野間と万里小路が報告をすると、探照灯に照らされて緊急浮上した伊201が現れる。
「今だ。晴風に逃走を命令!予定地点での合流を下命」
「はっ!」
その様子を見てアレクサンドラは指示を出すと、他の乗組員達も敬礼して命令を出す。
『伊201からの国際救難信号の発進と応答を確認。現在、東舞校教員艦が三〇節で接近しています』
マリアが通信の報告を上げると、その攻撃を行った側であるアーダルベルトは背を向けて逃走を始めた。
「はぁ、これはややこしいことになった…」
「後で説明をすればよろしいかと。証拠はこちらが持っておりますので」
頭痛の予兆を感じるアレクサンドラをエーリカが慰めると、アレクサンドラは良い方向に行くことを願った。
「そうだと信じよう…」
そう呟くと、逃げる中で彼女は次に言った。
「後で晴風に向かいたい。ミーナに事情聴取をしよう」
「分かりました」
そこでアンネリーが敬礼をしてアレクサンドラを見た。
その後、伊201との戦闘を終えて諸々の確認とミーナへの事情聴取のためにアレクサンドラはエーリカを連れて晴風に向かう。
「こちらに」
「ああ」
艦載スキッパーを使って彼女達は晴風に向かうと、そこで出迎えた岬は初めて見るアーダルベルトの副艦長のエーリカに驚いていた。
「プリンツ・アーダルベルト副艦長。エーリカ・アレクセーエヴナ・ロジェストヴェンスキーです」
敬礼をしながら自己紹介をすると、聞いていた西崎が真っ先に反応した。
「高っ!?」
「おっきい…」
「おお…おっきい…」
そして身長を見て立石が、胸元を見て内田が言葉を呟いていた。
「では岬艦長。ご案内できるかな?」
「あ、はい!こちらにどうぞ」
陽が登り、後ろ甲板で合流した彼女達はアレクサンドラ達を岬が直接案内していた。
「ミーナ!」
「ザーシャ!」
そこで船内教室のドアを開け、そこで座っていたミーナを前にアレクサンドラは安堵した様子で彼女に近寄った。
「無事であったか!」
「ええ、おかげさまでね」
ドイツ語で話す二人を見て岬達も知り合いの再会というシーンに間に入ることが許されない雰囲気であると理解していた。
「すごいっす。まるで映画のワンシーンのようっす」
その様子を青木 百々が見て呟いており、感動の再会であると見て取れた。
「元々、ミーナと私たちは海洋準備校…この国でいうところの中学校からの仲ですので」
「へえ、そうなんだ…」
そこでエーリカからの説明を聞いて岬は相槌を打って反応していた。