晴風で再会することとなったミーナとアレクサンドラ。二人は目下発生している問題に対して、見知った顔がいたと言うことに対して安堵した様子で話し合っていた。
「色々と聞きたいことはあるのだが…まずは無事であったことを喜びたい」
「ええ、私も色々とザーシャと話したいことがある」
二人はそこで顔を合わせると、その後に晴風に乗艦したアレクサンドラとエーリカの二人は、そこでミーナと話していた。
「しかしミーナ。これから我々と共に横須賀に向かわないか?」
「ふむ、その点に関してなんだが…」
ミーナはそこでアレクサンドラに言う。
「私は彼女達と行動を共にしようかと考えているんだ」
「ほう…」
「どうしてだ?」
エーリカはその申し出に少し驚くと、アレクサンドラは首を傾げた。
「私を救助してくれた恩もあるし、彼女達は経験が浅い。私が乗り込んで助言をしたいと思っている」
ミーナの考えを聞き、アレクサンドラは少し考えた。
現在、反乱の嫌疑が掛けられている晴風だが、事前の事情聴取で彼女達は白に近いグレーであることは分かっていた。だがそれでも一抹の不安が彼女の中にはあった。
「良いのか?晴風は駆逐艦だ。居住区画も小さいぞ?」
「問題ない。それくらいの事は苦労しない」
既に彼女は部屋を用意されており、ベッドがある環境に身を置くと言う。
「しかし、晴風は叛乱疑惑のある航洋艦だ」
「もし彼女達が本当に叛乱したというのなら、私は海に飛び込んでまた逃げてやる」
「…なら良いんだが」
アレクサンドラの話を聞き、一瞬驚きつつもそれが事実であると分かった上で返したことでミーナは晴風に残ることを決めた。
この少し前、伊201との戦闘を終えた後に晴風艦内では少し思いがけないハプニングが発生していた。
「えっと、部屋は……ココちゃん、何処が空いてたっけ?」
目を覚ましたはいいものの、宿無し娘であったミーナに倉庫で雑魚寝なんてさせる訳にはいかないので、何処か空き部屋がないかを岬は納紗に聞いた。
そこで質問をされた彼女はタブレットを操作して空きベッドの場所を探した。
「う~ん…ベッドの空きがあるのは…副長の部屋だけです!」
「うぇっ!?」
その回答に真白は不意を突かれたように驚愕した声を漏らす。
「……私の、部屋……!?」
真白は思わず固まる。
初めはなぜだろうと疑問に思う岬達だったが、それは真白の部屋を見て解した。
そこには大量に置かれたぬいぐるみの数々に、ファンシーに飾られた部屋があった。
「すごっ!」
「夜いた鮫さんもいますね」
「普段の宗谷さんからは想像できないです!」
そう言い、部屋の傍から西崎、内田、納紗の三人が覗き込んで驚いていた。納紗に至っては持っているタブレットで部屋の様子を激写していた。
「良い部屋だな…今日からよろしく頼むぞ!!」
部屋を見て、如何やらミーナは気に入ったようで真白に礼を言った。
「はぁ~」
真白は大きくため息を吐きながら自分の不運を呪っていた。
そんなハプニングがあったが、それでも晴風に一時的ではあるが、新たな乗組員が加わる事となった。
「新しい友達を紹介します!」
船内教室で岬は言うと、早速ミーナの紹介をした。
「ドイツの…ヴィナブラウシュガーインゲンマメ…」
しかし事前に聞いていた彼女の名前の長さ故にしっちゃかめっちゃかになってしまったミーナの本名。
「…あれ、何だっけ?」
岬は覚えられなくて手を頭の後ろにやって苦笑してしまうと、自分の名前をぞんざいに扱われたことに対して少し苛立った様子で叫んだ。
「サイシュン!!」
「「!?」」
その声の後に立ち上がると、晴風乗員は一斉にミーナを見た。
「ヴィルヘルムスハーフェン校から来た、ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクだ!
アドミラル・シュペーでは副長をやっていた!!」
そしてフルネームで自己紹介すると、岬は改めて名前を書いて思ったことを素直に口にする。
「うーん…長いから、ミーちゃんで良いかな?」
「誰がミーちゃんじゃ!!」
軽く地団駄を踏みそうな勢いでミーナは叫ぶと、隣に座ったアレクサンドラが言った。
「ミーナ、それは渾名というものだ」
「んなこと分かっとるわ!」
日本語で話していた二人にクラスメイトの注目が集まると、その後にアレクサンドラの一歩後ろで直立不動の巨躯の女生徒を見た。
「え、なにあの人?」
「おっきい…」
「いや、怖いって…」
口々に晴風乗組員はそんな感想を漏らしていくが、エーリカはアレクサンドラだけを見ていた。
「あっ、そうそう。アレクちゃん」
「?」
そこで岬はアレクサンドラを見ながら話しかけてきたので、どう言うことだと一瞬疑問に思った。
「アレクちゃん?」
「うん、アレクサンドラだからアレクちゃん!」
「なっ…!?」「…」
その時、ミーナは目を見開いて驚き、エーリカは僅かに眉を顰めた。
「失礼だぞ!」
「落ち着け」
そして言おうとしたミーナを制してアレクサンドラは言う。
「余は愛称は気にせぬ。好きに呼ぶが良い」
アレクサンドラはそう言ってから次に岬に聞く。
「しかし余のことをあだ名で呼んでくれるとはな」
「うん、だって『海の仲間は家族』っていうから」
「…そうか」
岬を見てアレクサンドラはゆっくりと頷いた。
「余?」
「変な一人称…」
その時、アレクサンドラの一人称を聞いて立石と西崎が呟いていた。
その後、晴風艦内の食堂に移動してミーナ、岬、アレクサンドラが席に座る。エーリカは外で立哨し、食堂に人が勝手に入ってこないように監視していた。
「それで……ミーナさん、シュペー内部で何があったかお聞かせ願えますか?」
「うむ… ワシもよくわからんが。聞いてもらったほうがいいな…」
そう言うとミーナは詳しい話を始めた。
「我らの艦も、貴校との合同演習に参加することは知っていたか?」
「いえ…初耳です…」
「…」
そこで岬からの返答に話を折られたかのような絶妙な間が生まれてしまうが、話が進まないのでミーナは話し続ける。
「……ワシらは合流地点に向かっていたんだが、突然、電子機器が動かなくなって調べようとしたら…
…誰も命令を聞かなくなった」
「それって叛乱?」
岬は自分たちが掛けられている容疑を懸念をしたが、アレクサンドラは海賊絡みではないことに訝しみ、同時にそう単純な事態ではないことや、普通のシュペーではあり得ないと断言できる事態に頭痛を感じた。
「ワシは、艦長から他の艦に知らせるよう命じられて、脱出してきた」
「大変だったね」
岬はミーナの苦労を労った。
彼女がシュペーから脱出した時の状況は岬達から事前に聞いており、海に投げ飛ばされたミーナに怪我がなかったことが奇跡だと思っていた。すると彼女は卓上に置いた真新しい艦長帽を見つめる。
「帽子を拾ってくれたのは、感謝している……これは、我が艦長より預かった大事な物……シュペーに戻って艦長に返さなければ…必ず……」
帽子を見ながらミーナはそう言う。すると納紗が食堂に慌てた様子でやって来て伝えた。
「艦長!!校長からの全艦帰港命令が出ました!!」
「え?」
突然の事に驚く岬。そこで納紗は通信の内容をそのまま読み上げていく。
「え~と……『私は全生徒を決して見捨てない。皆を守るためにも、全艦可及的速やかに学校に帰港せよ』との事です!!」
納沙からの通信を聞き、岬は後の事を任せると言ってから食堂を後にする。そして二人きりになったところでアレクサンドラは常に付けているインカムで外にいるエーリカに言う。
「エーリカ、暫く食堂に人を入れないで」
『畏まりました』
二つ返事で承諾を入れると、エーリカは人を警戒する。そしてその後に彼女は深刻な表情でミーナに聞いた。
「…ミーナ、本当にシュペー内部で叛乱があったということか?」
「分からない」
ミーナは首を横に振った。
「しかし皆が正気ではなかった…レターナも、皆んなが…」
その時、シュペーでの出来事を思い出して僅かに手が震えていた。
恐怖そのものでしかなかった屋外での一夜は今も彼女の脳裏に焼きついていた。そんな恐怖を感じていたミーナにアレクサンドラは深く聴取をするべきだと確信すると、その後に現状わかっている情報を伝える。
「現在、武蔵をはじめとしたいくつかの日本の海洋学校の艦艇がビーコンを切っている」
「っ!学校側に連絡がつくのか!?」
ミーナは驚いた様子でアレクサンドラを見ると、彼女は頷く。
「ああ、元々余が出港をした理由は晴風捜索の為だ」
「なるほど…通りで今回の演習に参加しないザーシャ達がこんな所にいるのか」
晴風の護衛をしていると聞いていて違和感を感じていたが、ミーナはその一言で納得していた。
「私はシュペーを…テアを置いて来てしまった」
「…」
ミーナは呟くと、アレクサンドラも頷く。少なくとも彼女がテアを残してシュペーから逃げおおせて来たと言う事実だけでアレクサンドラ達からすれば驚くべき異常事態であった。
「私は…見捨ててしまった…皆んなを…」
「ミーナ」
その時、アレクサンドラは彼女の声を覆い被せて口を開く。
「大義であった。よく無事に逃げ出してくれた」
「っ!」
彼女はいつも通りのどっしりとした構えを見せていた。あらゆる問題に対しても混乱の兆候すら見せない彼女の『王』としての素質だ。
「後は全て余に任せよ」
そして全てを受け入れ、施しを与える慈愛に満ちたような声色は、今のミーナにとってみればこれほど頼りになる事は無い。
なるほど、アーダルベルトの乗組員が彼女のことを崇拝する理由がわかる。
容姿以前に彼女のその堂々とした立場、仕草、話し方、全てにおいて彼女は常に先頭に立っているのだ。表すなら旗手と言うべきだろうか。
「っ…」
その直後、ミーナは声を上げる事はなかったが静かに涙を流した。
「ああ…すまない」
彼女は全てをかなぐり捨てたまま逃げ出して来た苦労や、親友たちを置いて来てしまったと言う罪悪感がついに彼女の中にあった栓を取り除いてしまった。
「だが、その為には情報が必要となる。シュペーでの出来事を時間も含めて詳細に教えてくれ」
「分かった…頼む」
ミーナは袖口で目元を拭ってから力強く頷いた。