基準排水量:二八,九〇〇トン
全長:二五六メートル
全幅:三〇メートル
吃水:八.七メートル
最大速力:三五ノット
武装
砲熕兵器
38cm SK C/34×6
15cm SK C/28×6
10.5cm SK C/33×8
3.7cm SK C/30×12
2cm SK C/30×20
水雷兵器
533mm魚雷発射管×6
これが大まかなO級巡洋戦艦こと、プリンツ・アーダルベルトの諸元である。元は通商破壊を目的に設計されており、背負式に二連装主砲が搭載されている。
ビスマルク級と同じ四七口径三八cm連装砲を搭載した巡洋戦艦であり、名前の通り装甲は格下の条約型重巡洋艦の砲撃を防げる程度の装甲しか持ち合わせていない。
蒸気機関とディーゼル機関から捻出される一八七,〇〇〇馬力の主機関は最大速力三五節を記録する快速艦である。
「これが新しい艦艇か…」
「寮の荷物は既に艦内に運び込まれているそうです」
内火艇から甲板に上がって艦橋を見上げるアレクサンドラ達。早速アンネリーが書記らしく仕事をしてくれる。
「まるでシャルンホルスト級を見ているようだ」
「実際、この艦艇の設計はシャルンホルスト級を参考に作られていますからね。似ているのも無理ないかと」
平甲板型の船体にアトランティック・バウを備えた艦首。艦首甲板は強めのシアがつけられ、目に見えて分かるほどに傾いていた。
「艦橋はビスマルク級に酷似していますね」
「なるほど、通りで人気のある艦艇な訳だ」
飛行船対策でハリネズミの様に取り付けられている
「流石に大きいですね」
「中は完全自動化だ。余でも動かせられるぞ?」
「撃たないでくださいね?艦長が撃つと民間船に当たりそうなので」
「なんて事を言うんだ貴様は」
エーリカに反論をしつつも、以前のシミュレーション演習で間違えて民間船を撃ったことでドッカーバンク事件を再現してしまっていた。元々航海科で、砲術についてはからっきしだったがための災難な事故であった。
「海洋演習は三時間後。それまでは自由時間ですね」
「うん、その後に親睦会でも行って顔合わせをしておきたいな」
片手にクラスメイトの名簿表を確認しながらアレクサンドラは言うと、彼女はそこで首を傾げた。
「…?」
「どうかされましたか?」
「いや…クラスメイトの人数が多いなと思ってな」
「?」
そこで彼女の言葉に首を傾げてエーリカは自分持っていた資料を読み返すと、そこにはクラスメイトの人数が通常の三〇名ほどではなく、五〇名と大増員された人数が印刷されていた。
「本当だ。普通より二〇名も乗組員が多いですね」
「しかも追加される二〇名は約三ヶ月後に合流予定らしい」
アレクサンドラはどう言うことなのだろうかと首を傾げると、続きがあった。
「航空部隊を専門にした新しい兵科の実証実験を行う様ですね」
「なるほど…」
アレクサンドラはその新しい兵科と聞き、興味本意で渡される年間予定表を確認する。
「…見たまえ、新しい兵科が来る前に改装工事が入っておるぞ」
「え?ドック入りするんですか?」
年間予定表に埋め込まれている改装工事にエーリカは驚いた。
「二ヶ月ほどドック入りをして、新兵科を迎え入れるための準備をするらしい。その間は我等も特別実習として訓練が入っている」
「CQBとはまた…何をするのでしょうか?」
そこで首を傾げて特別演習期間に行われる訓練に首を傾げていた。すると甲板を小走りで走ってアンネリーが近寄ってきた。
「艦長、全乗組員の乗船を確認しました」
「了解した。十分後に船内教室に集まる様に伝えてくれ」
「了解しました」
アンネリーは了承すると艦内放送でクラスメイト達を船内教室に集めさせる。
「艦長はまだなのか〜」
「どんな人なの?」
「優しい人って感じだよ」
「あ、知っているんだ」
教室の机に座って赤いセーラー服や士官服に身を包んだ生徒達は話していた。この艦の艦長と副艦長の話をしながら待っていると、教室のドアが開けられた。
「失礼する」
そこで軍靴を鳴らしながら教室に一人の士官服に制帽を被った生徒が教壇に立つ。堂々と胸を張り、絶妙な緊張感が場を支配したことで一目で彼女が艦長であるのだと理解する。
「起立」
そこでアンネリーが言うと、教室で座っていた生徒達は一斉に立ち上がる。そしてアレクサンドラが手をスッと動かすと、生徒達は改めて座った。
「諸君、初めましての者も多いだろう。余がプリンツ・アーダルベルト艦長のアレクサンドラ・イレーネだ」
「副艦長のエーリカ・アレクセーエヴナ・ロジェストヴェンスキーです」
直立不動で彼女はマイクも使わずに教室にその声を響かせる。その印象というのは強烈で、彼女の少しゆったりとした雰囲気のある口調は耳に残っていく。
「今日は日差しが強くてな。申し訳ないが最初の挨拶はこちらで挨拶を取らせて貰いたい」
そう言うとクラスメイト達からは少し笑いが漏れる。
「諸君らと共に過ごせる事を余は嬉しく思う。
これから三年間、我々は同じ釜の飯を食べる事となる。
何事も最初の一歩が重要だ。その為に、今回の航海で諸君らの協力は必要不可欠だ」
彼女の演説はハッキリとした声色で、聴衆達の理解進めていく。
「是非、この初航海は我等にとって最高の思い出となるモノとしたい」
そして彼女の低い身長からくる容姿の幼さは、聴衆の乙女達の庇護欲を駆らせ、ついつい彼女の話を聞き入らせてしまう。
「また我等は乙女の高校生。この時期にできる友人はかけがえの無い思い出となり、深い友情で結ばれる事となる。余は諸君らとより深い関係を築きたいと願っている」
両手を大きく広げながら彼女は仕草も入れ、唾を飛ばし、熱烈に力を込めて話す。
「また、三ヶ月後には新たにクラスメイトが編入してくる。その時、是非彼女達も同じ海の仲間として迎え入れて貰いたい。余からは以上だ」
演説を締めくくると、生徒達からは拍手が上がった。
「では諸注意を伝達します」
そして入れ替わってエーリカが諸注意を行っていくと、他の生徒達もその注意を渡された資料に書き記していく。
そして諸々の伝達事項をエーリカが伝達する間、アレクサンドラは艦長室に入って、そこでまだ段ボールが積み上げられた状態の部屋からあのレイピアだけを取り出す。
「…よし」
真っ白の鞘が反射し、銘板には鷲の紋章が刻まれていた。
事前に許可を求めて認められ、これから彼女は帯刀をして校舎を歩く事となる。
「…」
そして帯刀をした自分の姿を確認をすると、内線が鳴って受話器を取る。
『艦長、各員配置につきました』
「了解。今から艦橋に上がる」
アレクサンドラは頷いてからエレベータを使って艦橋に出ると、そこでは士官服を纏う生徒やセーラー服を纏う生徒達が集まっていた。
「初めまして艦長。航海長のエリス・フィッシャーです」
「砲術長、マリー・ネーデルランド・フォン・リッペ」
「水雷長のエルフリント・フォン・デーニッツです」
「アンネリー・フォン・ヴィッテルスバッハ。書記を担当いたします」
次々と挨拶をされていく艦橋で、また相変わらず貴族の率の高さに苦笑してしまう。艦橋要員六名のうち、非貴族は一人だけと言う悲しいくらいに凄まじい状況に軽く嘆きつつも制帽を被り直して指示をする。
「宜しい。出港用意!」
「出港用意!錨上げ!」
エーリカが復唱すると、甲板をセーラー服を纏った生徒が走って何トンもある錨を巻き上げていく。
「主錨収容!」
そこで船体前方の錨が巻き取られると、後部甲板でも副錨が巻き上げられる。
「副錨、収容しました!」
そして漂流を確認すると、彼女は指示を出す。
「出港!機関、前進微速」
「機関、前進微速」
そこでカンカンと音を鳴らして速度を指示すると、機関運転室でベルタが監督をしながら機関員がディーゼル機関と蒸気機関の操作を行う。
轟音が耳を弄し、大出力機関を唸らせていく。
「航海長、操艦」
「「「航海長操艦」」」
「微速前進、赤黒なし。針路二六〇度」
「航海長、頂きました。微速前進、赤黒なし。針路二六〇度」
そして他の艦艇と同様に船舶はある一定までは艦隊を組んで移動し、そこから北海を通るルートでアイルランド沖合の海上施設まで向かう。期間は五日、初航海にしてはちょうど良い難易度と言えるだろう。
「艦長、そのレイピアは?」
「これは我が大叔父より賜ったモノだ。余の使いやすい様につくられておる」
「へぇ、そりゃあ凄いや」
ヴィルヘルムスハーフェン港から外洋に出ると、そこでエリスが聞いてきたのでアレクサンドラは頷く。
「五日間の航海。最初故に失敗はしたく無いものだ」
「あぁ〜、なんか今危ない気がした」
アレクサンドラにエリスは言うと、それにエルフリントとマリーが反応した。
「フラグ?」
「ちょっとやめてくださいよ縁起の悪い…」
マリーはそう言いながら色々とアクセサリーをつけていた携帯を取り出す。
「ほう、ナザール・ボンジュウか?」
その中の一つ、目玉の様なガラスのアクセサリーを見て聞くと、マリーはやや驚いた。
「艦長は知っているのですか?」
「トルコのお守りというのは聞いたことがある」
「そうなんですよ。私、結構お守りを集めるのが趣味でして…」
「へぇ、面白いな〜」
そこで興味津々に彼女は他にもジャラジャラとしていた携帯を見て聞いていた。
「はぁ、余にもこういう熱中できる趣味というのがあれば良かったのだが…」
「艦長はないのですか?」
エルフリントが聞くと、アレクサンドラは少し困った様子で答える。
「まぁ、強いて言うなら狩猟と剥製…?」
「え、あれですか?」
エーリカはそこで軽く表情を引き攣らせ、アンネリーは眉間に手を当てる。
「何、それ?」
「知らない方がいいと思います」
エリスが聞くとアンネリーは即答をしたので、これ以上は聞かない方が良いのかもしれないと思った。
「というか、この場所の貴族の令嬢率高くないですか?」
「私と艦長以外みんな貴族なんですけど」
「うわぁ、なんか凄い編成ですね」
改めてその事実が口から出ると、アレクサンドラは言う。
「貴族だろうがなんだろうが、余のすることは変わらぬ。目的地まで気を抜かずに行こう」
「そうですね」
そこで航行をする艦隊を見てエーリカは頷いた。