Reichs Adler   作:Aa_おにぎり

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#8

「校長。只今全教育艦が出航いたしました」

 

ヴィルヘルムスハーフェン校から出港をして行った学生艦艦隊。その一報を目的地である大西洋上の海上フロートの校長室で一人の女性が窓辺に立って聞いていた。

 

「たしかこの中にクロイツェル家の娘が居るらしいな」

「はい。アドミラル・グラーフ・シュペーの艦長を務めております」

 

副官はその問いに答えると、質問をした初老の女性は笑う。

 

「そう…」

 

彼女の名はケルシュテイン・ロッテンベルク。

現在、ヴィルヘルムスハーフェン上等学校の校長を務める人物だ。

 

「それと、プリンツ・アーダルベルトはどうかな?」

「そちらも出港を確認しています。予定通りの航路を進んでいます」

 

そこである艦艇を確認すると、彼女は言う。

 

「新任早々、楽しくなりそうね」

 

その時、彼女の目は遠く大海原を見る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

艦長室でアレクサンドラは髪を櫛で梳かしてもらっていた。

 

「どうですか?」

「バッチリ」

 

エーリカは椅子に座らせて髪を梳かし終えると、丁寧に髪が整えられた。時折これが航海員として配属された同室だったヘルミーナ・フォン・グレーナーと喧嘩になるのだ。何故だ?

 

「上手くなったな」

「突然です。慣れていますから」

 

エーリカは胸を張って答えると、二人はそのまま食堂に向かう。

 

「おはよう。諸君」

「「「「おはようございます」」」」

 

食堂では当直以外のクラスメイト達が制服を纏って朝食を採っており、訪れた

 

「艦長、どうぞ」

「ありがとう」

 

そこでエーリカがトレーも持って運んでくると今日の朝食はブルスト盛り合わせセットであった。

 

「美味い…」

 

航海から五日目の朝、アレクサンドラは満足げにブルストを頬張っていた。

 

「これは何の肉を使っているのだ?」

「鹿肉です。試しに使ってみたんですけど、うまく行って良かった…」

 

そう答えるのは給糧員のウルズラ・フォン・マイヤー。五年前、アレクサンドラの指揮であの部屋で舵を握った生徒だ。

 

「他にもブルートブルストなども試作してみたのでどうぞ」

「ありがとう」

 

そこで朝から試作したブルストを堪能していると、アンネリーが食堂に降りてくる。

 

「艦長、航海科からシュペーをレーダーで捕捉したそうです」

「了解。一応打電をしておいてくれ」

 

そこでタブレットを受け取って一通り見通してから返す。

 

「んっ、んっ…」

 

そして最後にコップに注がれた牛乳を一杯飲んでトレーに戻す。

 

「艦長、毎回飲んでいますね」

「三食必ず飲んでいるよ」

 

彼女達はそう言い、ウルズラ達に『必ず一杯の牛乳を用意してほしい』と言ってその通りに食事毎に牛乳を飲んで縄跳びでジャンプをして骨に刺激を与えている彼女。

 

「背が大きくなりたいんだ。曽祖母のダウン症が原因なのではないかと思うほどに余は背が伸びていないのでな…」

 

そう言いしゅんと肩を落とすアレクサンドラ。その仕草といい雰囲気といい、毎回牛乳を飲んでいる可愛らしい理由にクラスメイト達は一様に同じことを思う。

 

「「「「「(神様、どうかこのままでお願いします)」」」」」

 

本人の意思とは裏腹に、クラスメイト達は子供のような姿であるアレクサンドラをマスコットとしてみていた。

 

「艦長って、案外お茶目だよね」

「大人びてるかと思ったら悩みもちゃんとあるわけだしさ」

「むしろここで背も大きかったら怖いわよ」

 

そんな事を言いながらナイフとフォークを使って丁寧に食事をしていく彼女達。しっかりとした教育を受けた者達の所作であった。その為、長机で食事をするとまるで何処かの食事会のような厳かさが自然と発生していた。

 

「食事を終えたらナイフとフォークはお皿の上、真ん中に揃えて並べますの」

「は、はい…!」

 

そこで貴族出身の生徒がよく知らない生徒に食事のマナーを教えながら食事を摂っていた。

 

「ナイフをペンのように持ってはいけませんわ」

「はい」

 

食事中の手の動きというのは、どうしてもどう言った教育を受けたのかが如実に出てくる場面。故に貴族出身の家が多いプリンツ・アーダルベルト乗員はマナーがなっていないと感じて気になった生徒に指導を始めていた。

 

「こ、こんなに厳しいんですね」

「あら、本職はもっと凄いわよ?」

 

周りを貴族出身の生徒達に囲まれていたある生徒はそう言いながら教えてもらった方法でナイフで切り分けていく。

 

「これに舞踏会の踊り方に狩猟をするならルールの暗記や、貴族の内情の話とか…」

「やる事はいっぱいよ」

「特に私たちは来年くらいからデビュタントをしなきゃならないし」

「わ、私には無理だぁ…」

 

そこで貴族の壮絶な仕事量に彼女は表情を引き攣らせて尊敬して見る。

 

「ああ、そう。この前弟から聞いたけど、あの伯爵の次男坊、寄宿学校でやらかして停学ですって」

「はっ!」

「ザマアミロってのよ。散々女に手出しバチが当たったんだ」

 

そうした貴族の面倒な諸々の仕事から逃れるために海洋学校に通い始めた生徒が多数であり、確証はないがアレクサンドラもそれに似たような雰囲気があった。

そんな噂話で盛り上がりながら彼女達は朝食を摂っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、アドミラル・グラーフ・シュペーではプリンツ・アーダルベルトの話題が上がっていた。

 

「プリンツ・アーダルベルトに乗ってみたらどうなんだ?貴族ばかりで旧貴族のアルノー家なら似合うんじゃないのか?」

「お馬鹿ですか?私に死ねと?」

 

ミーナに軽くキレ気味にリーゼロッテは返す。相変わらず些細なことで喧嘩になりかけていたのだが、リーゼロッテはミーナに言う。

 

「そもそも分家とはいえあの艦にはバイエルン王の関係者がいるのですよ!?他にも現役の貴族も集まっていて、魑魅魍魎な空間になってるに決まっているではありませんか…!!」

「あー、向こうの書記?なんか偉いんだっけ?」

「優しい人ですよね」

 

レターナは何度も食事をした中であるアンネリーを思い浮かべると、隣でローザが彼女の印象を話す。

 

「そもそも現役貴族が海洋学校に来るなんて『家の行事が面倒だから』なのですのよ?」

「ふははっ、その様子じゃあこの食堂が晩餐会なってそうだな」

「それが洒落になりませんのよ…」

 

リーゼロッテはそう言うと、ローザが電信室からの連絡を見た。

 

「あっ、プリンツ・アーダルベルトから通信です。現在、我が艦の後方約二〇マイルを航行中だそうです」

「おっ、噂をすれば何とやらじゃないか」

 

丁度噂となっていた艦艇が近くを航行していることにミーナは軽く笑うと、そこで片手に激辛ブルストを食べる。すると食堂にテアや夜間任務を担当していた生徒達が入ってくる。そしてテアも交えて談笑をする。

 

「艦長、プリンツ・アーダベルトから連絡です」

「ああ、後方を航行しているのをさっき確認した」

 

テアは頷くと、レターナはそこでプリンツ・アーダルベルト関連で一つ思った。

 

「ザーシャ…じゃないか。アレクサンドラ艦長って、不思議だよなー」

「?何がだ?」

 

テアはそこでレターナの言葉に少し興味が湧いた。

 

「ほら、あの人って食事をするとフランクフルトすら高見えするからさ〜」

「ああ、あれか」

 

テアはそこで何でも美味しそうに食べている事で、出店料理ですら高級料理のように煌めいて見える摩訶不思議現象を思い出す。もはや慣れてしまったので何も言わないが、あれはあれでなんか変な魔法でもかけられたのかと思った。

 

『はっはははっは!アドミラル・シュペーの諸君。おはよう、実にいい朝だね!!』

「この声は…」

 

その時、食堂にいてもよく聞こえる壁を貫通してきた音を耳にすると、ミーナ達は驚愕しながら艦橋に上がった。そこではビスマルク級戦艦が並走していた。

 

 

 

無論、その貫通した声はアレクサンドラ達も耳にしていた。

 

「あんの馬鹿…」

 

その光景を見ながらアレクサンドラは呆れていた。

 

「あーあー」

「またベロナの娘?」

「本当、クロイツェルさんにご熱心な事で…」

「仲がよろしいのではなくて?」

 

そして露天艦橋に登って双眼鏡を使って覗き込んだ他の乗組員達は呆れた様子で見ていた。

 

「…喧嘩するほど仲が良い」

「それ言ったら二人から怒られるから絶対言うんじゃないわよ?」

 

ヘルミーナの呟きに見張員のフリーデ・フォン・ヒッパーは言う。

 

「…彼奴は子供か」

「「「「ぶふっ」」」」

 

彼女達の前で双眼鏡を覗き込んでいた、子供のような容姿のアレクサンドラに言われ、全員が吹き出してしまった。

そして彼女達の視線の先で並走するアドミラル・シュペーとビスマルク。

 

「さあ、このビスマルクに道を明け渡しなさい」

「勝手に横を通ればいいだろう!!クローナ!!」

 

艦橋越しでクローナとミーナは怒鳴り散らし合う。

 

「え〜」

 

怒り調子のミーナにクローナはつまらなさそうに反応する。

 

「それじゃあつまらないでしょう。豆戦艦で遊ばないと」

「帰れっ!!暇人が!」

 

怒鳴り散らしていると、後ろでリーゼロッテが言う。

 

「豆っていちいち嫌味な奴ね」

 

そんな彼女達の反応を見て、クローナはやや考える。

 

「あらあら、嫌われたものね」

「そんなことありません。きっとクローナ様を羨んでいるんですよ。ザスキアもそう思うでしょう?」

「…」コクリ

 

その彼女の後ろでビスマルク乗組員のビアンカ・フォスとザスキア・ラウデールは静かに頷く。

 

「やっぱり?」

 

クローナはそんな二人に後押しされるように叫ぶ。

 

「さあ、成績下位の艦は隅に寄りなさい!!この学年主席に与えられるビスマルクの邪魔よ!」

「魚雷の一発でも当ててやろうか!」

 

カッとなってミーナは叫ぶと、その後ろでテアは冷めた様子で指示する。

 

「取舵二〇度」

「って艦長!?どこに行くんですか」

 

ミーナは冷めた様子で艦橋を去るテアを見る。

 

「そんな奴と話していても腹の足しにならん。それにザーシャの艦とぶつかりたくもない」

 

彼女はそう言い、後ろからなおも接近中のプリンツ・アーダルベルトの事を案じる。

 

「随分聞き分けがいいわね」

「ふんっ!基地に着いたらたっぷり相手してやる!」

 

ミーナは怒鳴ると、クローナは言う。

 

「あらあら余裕ね」

「…何がだ?」

 

そこで彼女はいつもの如くな様子で彼女に言う。

 

「それとも知らないのかしら?本当に能天気な連中よね」

 

クローナはそこで優しさなのか、悪役ムーブなのかミーナに話す。

 

「あはっ、毎年初航海の後に出される課題は最初の難関と呼ばれているのよ」

「なに?」

「なぜだか分かる?」

 

彼女は問いかけるようにミーナに行った後、その訳を伝える。

 

「絶対何人か艦を降りちゃうの。地獄を見てね」

 

クローナはそう言い、ミーナに噂の話をする。

 

「テア艦長もいなくなったし、先行くわ」

 

そして次に接近してくるプリンツ・アーダルベルトを一瞥する。

 

「あなた達もせいぜい気をつけることね」

 

彼女はそう言うと艦橋を後にする。

 

「(地獄…?)」

 

ミーナは首を傾げてクローナの言った『地獄』に少し警戒をした。

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