真剣で一匹狼   作:はぐれ社会人

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はじめまして。

小説投稿を初めてやってみました。
まじこいの二次小説がもっと流行ってほしいと願っています。

...ネット上で見れるまじこい関連の二次小説はほとんど読み終わって虚しくなり、この作品を供養することにしました。

うろ覚えの状態ですが、それでもよろしければどうぞ。


(1)起源

古くは13世紀、銃は中国で発明された火薬を兵器に応用したことが起源とされる。

その後、ヨーロッパに伝わって以降様々な技術が開発され無駄を排除し、現代の完成された銃の変遷の歴史がある。

その銃の歴史には、戦争という背景がありながら多くの人を魅了してきた。

 

「蒼井雷」という少年もまた、物心がついた頃には銃の存在に無性に惹かれていた。

 

4歳の時に、テレビでたまたま放送されていたガンアクション映画を見たことが始まりであった。主演の俳優が銃を構え、走り、高い場所から飛び降りるといったアクションを魅せていた。肉体で表現されるすべての動作から目が離せない。中でも、敵と銃を打ち合う・格闘しながら銃を奪い合う「ガンファイト」は、老若男女問わず観る者に強烈な臨場感を与える。

 

その映像を齢4歳にして見た雷が憧れ、そうなりたいと想うのは当たり前のことであった。

 

映画を見終わった後、彼がどのように両親に頼んだか不明だが、生まれた家庭は平均より裕福な環境であったこともあり、父親は初めて雷が自ら興味を見せたことに感動して、おもちゃの銃と世界中の銃が記載された図鑑を買い与えた。

 

渡されたのは、子供用とはいえ精巧に作られたプラスチック製のモデルガンと、ずっしりと重みのある一冊の図鑑だった。

雷は思わず息を呑んだ。パチパチと瞬きをするのも忘れて、その無機質な塊を見つめる。

 

震える小さな手が、ゆっくりとグリップに触れる。冷たい感触が指先から全身へ伝わり、その瞬間に雷の胸の奥でくすぶっていた小さな火種が、一気に燃え上がった気がした。

 

「わぁ...!」

 

言葉にならないほどの感動をそのまま伝えるように、雷は銃をギュッと胸に抱きしめる。まるで、長年探し求めていた片割れにようやく巡り合えたかのような、そんな感覚だった。

 

「パパ、ママ、ありがとう! ...これで、映画のあの人みたいに、カッコよくなれるかな?」

 

両親に感謝を伝え、期待に満ちた声でそうつぶやく。まだ幼い指先でグリップを何度も握り直し、脳内で映画の動きを必死に再生している。その瞳には、すでに敵と対峙し、華麗に駆け抜ける少年の姿が映っていた。

 

「早速練習だ!」

 

弾むような声で宣言し、雷は早速庭へと駆け出した。

 

両親が微笑ましく見守る中で、おもちゃの銃を小さな手で持ち庭の木を狙って構えてた。

彼の脳裏には先日見た映画の俳優が銃を撃つシーンが浮かんでいる。

 

「確かこうやって...」

 

引き金を引いて1発、軽い振動が手に伝わり幼いながらも銃を撃つことに成功したことを実感した。

 

初めて撃った弾は明後日の方向に飛んでいったが、引き金を引く指の感触に雷はひどく高揚したのだろう。

 

その後、気づいた時には付属品である弾を全て使い切っていた。

母親も、庭に落ちた弾を掃除しながら「カッコよかったねぇ」と雷に伝える。

 

ーーー雷の時間が銃と共に刻み出した起源である。

 

その後は、来る日も来る日も庭で木に当てる練習をしたり、図鑑を眺めては構造を脳裏に焼き付ける日々が続いた。

 

そんな雷を微笑ましい表情で見守る両親は、銃を使ったアクションがよく出る映画や漫画を見せたり、銃の的や障害物を日曜大工で作成して雷の興味が飽きないように工夫していた。

 

毎日のごとく銃に触れていたのも、この環境が大きかったであろう。

 

そんな彼の運命が狂ったのは2年経って6歳になったばかりの春だった。

実際に本物の銃を見てみたいとアメリカへ海外旅行へ行く。

 

到着後、父が予約していたのは、郊外に広大な施設を構える実弾射撃場を併設したガンショップだった。扉を開けた瞬間、充満するオイルと火薬の独特な匂いに、雷は陶酔したように目を細めた。

 

父親が店員とやり取りしているのを横目に、試し打ち場の射撃ブースに立ちイヤーマフを装着する。待っていると話を終えた店員が差し出したのは、玩具とは比較にならない重量感を持つ、鈍い金属光沢を放つハンドガンだった。

 

動作確認は必要無いと伝え、初めて実銃を持つとは思えないほど軽やかにセーフティを確認しマガジンをセットしてスライドして発射可能な状態にする。

 

鮮やかな銃さばきに、店員も「クールボーイ...!」 と思わず褒め言葉が漏れている。

 

周りを気にすることもなく離れた的に向かって、セーフティを外して躊躇うことなく引き金を引く。

その瞬間、鼓膜を突き破るような轟音、肩を殴打するような強烈なリコイル。玩具の銃では決して味わえない「本物の破壊」が、雷の全身を駆け巡った。硝煙の微かな酸味が鼻腔をくすぐり、雷の脳内で世界が書き換わる音がした。

 

「...すごい」

 

雷の瞳には、かつて見た映画以上の鮮烈な火花が宿っていた。

 

だが、その幸福な時間は呆気なく終焉を迎えた。

ガンショップを満喫した後に滞在していたホテルへ到着し部屋でゆっくりしていたところ、突如として緊急事態の放送が流れ、徐々に阿鼻叫喚の騒ぎが聞こえる。

 

ロビーへ確認しようにも電話はつながらない。

その後、廊下に出ると他の宿泊客がパニックになりながら非常口を目指しているのが確認できるが、逃げ惑う騒音とは別に下の階から昼間聞いたときより遥かに多く銃声が聞こえる。

 

「...テロリストの襲撃か!?」

 

迷彩服に身を包んだ武装集団の襲撃、テロリストが群衆がパニックに陥る中、両親は咄嗟に雷を客室のクローゼットへと押し込み、重い扉を閉めた。

 

「絶対に、音を立てるんじゃないぞ」

 

父の必死の形相と、外から聞こえる怒号と悲鳴。そして、間髪入れずに鳴り響いた数発の銃声が響いた。

 

静寂が訪れるまで、どれほどの時間が経っただろうか。クローゼットの隙間から覗いた先には、多くの人が血塗られた床で倒れており、その中には絶命した両親の姿があった。

 

「パパ、ママ...っ!!」

 

雷が駆け寄って肩を揺すっても、返事はない。いつもなら「どうしたの?」と優しく包み込んでくれた大きな手が、今は重力に従って冷たく床に投げ出されている。

 

雷がどれほど手を伸ばしても、二人の瞳はもう雷を捉えてはいない。

銃に興味を持つ自分をただ微笑ましく見つめてくれた眼差しが、どこにも存在しない。

 

雷は理解してしまった。

 

世界から、自分に「愛」を向けてくれる存在が消えたのだと。

昨日まで交わしていた日常の会話も、名前を呼ぶ温かな声も、これからの未来に積み重ねるはずだった約束も、すべてが物理的に閉ざされてしまった。

 

途方に暮れているその時、廊下に倒れている隣の人のポケットから、滑り落ちている黒光りの銃を見つけた。

 

視界に映るのは映画で最初に惹かれ、図鑑で何百回も構造を暗記した「ベレッタ」の無骨なフォルム。

雷の小さな手が自然と拾い上げる。

 

気づけば、複数の足音とテロリストと思われる言葉のやり取りがこちらに近づいて来ていることがわかった。

 

周りを確認して空いている部屋のドアの影に素早く身を隠して様子を伺う。スライドを引き、薬室に弾を送り込む一連の所作は、まるで数十年繰り返してきたかのように淀みがなかった。

 

足音が近づく。迷いなく引き金に指をかける。

飛び出すと共に、目の前の敵を確認して躊躇なく引き金を引くと、テロリストの額に風穴が開いた。噴出した鮮血が雷の頬を濡らすが、彼の心拍数は驚くほど平穏だった。

 

(...ああ、あの映画の続きなんだな)

 

殺人を犯したという倫理的な揺らぎよりも、ターゲットを排除したという目的の達成感が、雷の意識を客観的に支配していた。

それは、今振り返ると心理的な防衛だったのかもしれない。

 

その後、雷は覚醒したように動き回る。

 

雷は稲妻のごとくフロアを移動し、残るテロリストを次々と無力化していった。ホテルの静寂が戻った頃、雷は一人死んだ両親の元へ向かっていた。

 

(こういう時は何て言うんだっけ...あぁ、「Mission Accomplished」か...)

 

その時、ホテルの下から遅れて突入してきたアメリカ軍の特殊部隊が突入してきたが、誰しもがその光景に言葉を失った。

 

数多くの武装テロリストが、既に制圧されている。その中でただ一人、血に染まった銃を握り締めて立つ少年の姿。

 

部隊の隊長らしき人物が、膝をつき、蒼白な表情で雷に問いかける。

 

「...君が、一人で全滅させたのか? 」

 

隊長の問いに振り向いた雷はただうなずき、両親の遺体がある場所へと再度視線を向けた。

少年が纏う、あまりにも冷ややかで、あまりにも研ぎ澄まされた戦士の殺気。隊長は雷の境遇を察し、言い知れぬ同情と、それ以上に抗いがたい「才能」への畏怖を抱く。

 

「...帰る場所は、あるのか?」

 

隊長の問いに、雷は手元の銃の冷たさを確かめながら、まっすぐ隊長の瞳を見つめた。6歳児の子供らしさは、硝煙の中に消えていた。

 

「...ない。」

 

そう呟いた瞬間、雷の意識は音もなく深い闇へと落ちた。

両親の亡骸の冷たさ、頬を濡らす血の温かさ、そして銃を握り締めた時の硬質な感触――それらすべてが、急速に遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その意識が切り替わった後、彼の魂は不思議な世界に入り込んだ。

 

見知らぬ蒼い空、底抜けしている世界に浮遊する島々、見たこともない空を飛ぶ船。

ただし、戦場はこの世界でも存在していた。

見たこともない機会や魔法、そして怪物同士が交錯する戦場。

 

そこでは自分は星晶獣たる怪物を討伐する組織に属する仕事人であり、「ユーステス」と呼ばれ「特異点」とされる少女の騎空団に所属しており、彼女と共に世界の終焉を食い止めるために銃を撃ち続ける日々を重ねていた。

 

そこでの時間は、現実とは異なる流れ方をしていたのかもしれない。

星晶獣の咆哮が鼓膜を震わせ、魔導銃が放つエネルギーが空間を歪める。命がけの死闘、仲間との絆、そして世界の真理に触れる数年間の過酷な日々。

 

雷の幼かった精神は、ユーステスという存在を通じて、戦士として完成するために必要な全ての要素を過剰なまでに吸収していった。

 

あまりにも濃密な、蒼い世界の記憶。

雷の魂は、その記憶を自身のものとして完全に同化していった。

 

たどり着いた終わり無き旅の終着点にて、世界の終焉を食い止め、蒼き世界に平穏が訪れていく。

 

そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっと目を覚ますと、白い天井がぼやけた視界にゆっくりと映り込んだ。

鼻を突くのは、蒼き世界の騎空艇の上で感じていた心地よい風ではなく、ツンとした消毒液の匂い。

 

(ここは...?そうか、あの日の続きか...)

 

雷が重い目蓋を完全に開けると、そこは無機質な軍の医療所だった。

体にはいくつかの医療機器のコードが繋がれ、傷口には真新しい包帯が丁寧に巻かれている。

 

「...気がついたか」

 

重厚な足音と共に、二人の人物が部屋に入ってきた。

先頭を歩くのは、あの日自分に声をかけた威厳に満ちた佇まいの男性。

その後ろには、書類を抱えた実直そうな付き人の女性が影のように従っている。

 

男は自分が隊長であることを明かしながらベッドの脇に立つと、鋭い、だがどこか慈悲深い目で雷を見下ろした。

 

「君はあの後に1週間も眠っていた。...起きて早々に申し訳ないが、いくつか君の事情とあの日の経緯を確認させてもらいたい。」

 

雷はぼんやりとこの世界の記憶をたどり説明した。その内容を付き人が手元の書類に書き込んでいる。

事情を聞いた後、隊長は静かに言葉を続けた。

 

「結論から言おう。もし君が日本へ帰ることを望むなら、我が軍でその手配はすべて済ませよう。国への送還も、その後の生活も保証される。...ただし」

 

隊長は一歩ベッドに歩み寄り、視線をさらに鋭くしながら全てを覗き込むように伝える。

 

「私は、君のような『類稀なる才能』が、これからどこへ向かうのかが非常に気になっている。どうだろう、我が軍に加入する気はないか?...その選択が、君のこれからの運命の手助けになるかもしれない」

 

(これからの、運命...)

 

その言葉を反芻し、雷は自らの記憶の海へ深く沈み込んでいった。

 

日本へ帰る。

そこには、温かい両親との日常があったはずだった。

 

必死に過去を振り返ろうとする。

父の笑顔、母の優しい声。楽しかったはずの思い出。

 

しかし――それらすべてに、深い霧のような「もや」がかかっていた。

顔が思い出せない。声が聞こえない。まるで最初から存在しなかったかのように、記憶は白く濁ってすり抜けていく。

 

代わりに、脳裏へ鮮烈に、悍ましいほど鮮明にフラッシュバックしたものがあった。

 

それは、戦場の匂い。手に残る、銃器の冷たい鉄の感触。

そして、敵を蹂躙し命を奪い尽くした瞬間の光景だった。

 

(ああ、俺にはもう...戻る理由がないのか)

 

白く消え去った過去と、血に染まった現在。

いまさら平和な日常に戻る理由も、この誘いを拒む理由も、雷には何一つ見当たらなかった。

 

雷は目を開き、隊長をまっすぐに見据えた。

 

「わかっ...わかりました。よろしくお願いします。」

 

(...彼の雰囲気が変わっている?)

 

両親を失ったばかりのはずの雷の落ち着き過ぎている姿に眉をひそめるが、口に出すことはせず彼と握手をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの雷の成長は、この世界でも目まぐるしく稲妻のようなスピードで加速していく。

 

その才能の片鱗を数々の戦場で見せた雷は、軍の怪物として急速に昇進を重ねていく。

ーーー12歳。軍歴6年。彼は歴代最年少として曹長の肩章をその細い肩に乗せていた。

 

「雷曹長、次の指示を!」

「...中央から俺が単独で突破口を開く。お前たちはその左右から残敵を殲滅しろ。」

 

単独で戦場を圧倒し、寸分の狂いもない作戦で敵を壊滅させる。

 

「雷、相手を全員あの建物内に誘導完了した。」

「了解、後は任せろ。」

 

戦績は生涯無敗。

 

軍上層部は、この若き「英雄」を次代の最強兵器として祭り上げ、莫大な期待をしている。

部下からも信頼が厚く、年下だろうと関係ないといった様子で尊敬されている。

 

しかし、成長を続ける傍らで雷の心はどこまでも冷え切っていた。

 

(...何かが違う)

 

軍が用意する訓練も、指揮する任務も、彼にとっては「ユーステス」として経験したあの濃密な戦場に比べれば、あまりに平坦で、退屈な遊戯に過ぎなかった。

どれほど戦果を重ねようと、どれほど周囲が自分を崇めようと、雷の孤独は深まるばかりだった。

 

(あの世界では、戦場に明け暮れても戻る場所があった...)

 

さらに、彼には帰る場所が用意されていた。

蒼き世界で最も信頼できるパートナーの騎空艇。

 

彼の心に安寧をもたらす存在がこの世界にはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、戦場から帰還した後、日が落ちて軍内が静まっている中で雷は演習場の片隅で、自分の空虚さを埋めるように黙々と愛銃のメンテナンスを繰り返していた。

 

そこに、気配もなく一人の男が現れた。

その名を――ヒューム・ヘルジング。

 

ヒュームは、雷が放つ異質な「気」の乱れを、まるで獲物を嗅ぎつける猛獣のように一瞬で察知した。

 

「...随分と退屈そうな面をしているな、赤子。」

 

その声に、雷は反射的に引き金に手をかけ構えようとしたが、ヒュームの放つ圧倒的な威圧感に指が止まる。それは、こちらの世界の戦場では経験することのなかった、次元の違う個としての圧倒的な「殺気」だった。

 

「誰だ。...ここは軍の管理下だ。」

 

暗がりの中気配も無く現れた、高圧的な金髪で執事服を着た高齢の男に対して殺気を抑えつつ、対話を試みる。

 

「知っている。ここは俺からすれば、退屈なごっこ遊びに過ぎない。」

 

ヒュームは鼻で笑い、雷の目をじっと見据えた。

 

(軍の戦場に対してごっこ遊びか...よくわからないまま現れたと思ったらとんでもない事を平気で口にしてくれる...だが)

 

その発言に裏付けされた眼の前の男の強さを、雷は感じ取っていた。

先ほどから、明らかにこちらを挑発するかのように気を叩きつけられている。

 

悟られないように周りを見ると、一人物陰からこちらを観察していることを確認した。

 

(なるほどな...)

 

なぜよくわからない金髪の男が急に現れて喧嘩を売られているのか分からなかったが、何となく事情を把握した雷。

 

その後、静かに戦闘態勢を取り目の前の男と相対する。

 

「ほう...。」

 

その一連の行動を見て、ヒュームは静かに感嘆の声を漏らす。

今までヒュームが会った赤子は気をぶつけられるとすぐに逃げ出すか、反射的に戦闘を仕掛けてくるか...命乞いをする者でさえいた。

戦闘前の段階で雷の状況判断能力を感じ取った、これは良いと。

 

ヒュームは少しネクタイを緩めた。

 

その瞬間、雷は高速でヒュームに接近してホルスターから銃を取り出す...と見せかけて閃光弾を繰り出す。

 

あたりが一瞬で真っ白な空間となった、雷神の如きステップで0.1秒にも満たない速度で後ろに周り拳を打ち出す。

雷は気の存在を知ってから、銃だけでなく拳での近接戦を積極的に取り入れてきた。血の滲むような努力の末、リーチや筋肉量の問題もあってまだ完全体ではないが、蒼き世界で使っていた技を気を通じてこの世界でも放つことができるようになっていた。

 

打ち出しの瞬間に「気」を入れた後バチバチと白い稲妻を乗せたスピードでヒュームの背中にぶつける。

ヒットした瞬間に手榴弾が爆発したような音が鳴り、砂嵐が二人の間に巻き起こる。

 

一般兵なら一撃で意識を刈られ、並大抵の星晶獣なら半壊するほどの大ダメージを与える力。

だが、砂嵐が収まると衝撃を受けたはずのヒュームは、微動だにせずにその場に立っていた。

 

(...効いていない!?...っっ!)

 

冷静に状況を理解し攻撃の予兆を感じ取った雷は、素早いバックステップで後ろに下がる。

大気の衝撃を受け流して視線をやると、自分の立っていた場所には、微笑を浮かべた様子のヒュームの蹴りによって地割れが起きていた。

 

「これを避けるか...少しは楽しめそうだ」

 

そして、一瞬で雷の前に接近し矢継ぎ早に獰猛な気を纏った蹴りを連発する。

3発目までは、自身の肉体で何とかガードして対応したが、4発目に意識外からボディーブローをお見舞いされる。

 

「ぐっ...!」

 

彼はすぐさま訓練場の的をクッションに受け身を取る。

衝撃を吸収し終わる頃には、最後の的まで遠ざかっていた。

 

(馬鹿げた火力をしている...まともに食らったら終わりだな)

 

顔に付着した砂や血を拭いながら、少し空いた距離の先にただずんでいるヒュームを睨みつつ立ち上がる。

 

「悪くない威力をしている。が、俺には有効ではない。さて...次はどう動く?」

 

口角を上げたヒュームと目が合った後に雷は一つ息をつき、ホルスターから銃を手に取る。

常人であれば目に見えない速度で銃のリロードを終えて銃に気を通して構えた瞬間、ヒュームから微笑が消える。

 

(...この赤子が銃を構えた瞬間に、突き刺さるビリビリとした雷のような気が溢れ出している)

 

相対しているはずが、四方を雷雲に囲まれたような錯覚を覚える。

 

一瞬の静寂の後、雷が唐突に空に向かってトリガーを詠唱しながら1発引き金を引く。

 

「...フラメクの雷」

 

その刹那、ほとばしる稲妻がヒュームを襲いかかる。

ヒュームは自身に到達するまでのコンマ以下の世界で、冷静に稲妻に纏う気の流れを観察していた。

 

弾に込められた狩人の意思を纏った稲妻が、ターゲットに対して突き刺すように進行する。

 

ヴォンッ!!

 

光と音が同時にヒュームの身体を突き刺し、貫通した衝撃が後ろの防弾用ガラスを全て破壊する。

人間に放ってはいけない自然災害レベルの威力のそれは、まさしく一撃必殺の技である。

 

「むっ...!」

 

ヒュームが初めて目を見開き、片足を一歩下げ、構える姿勢を取った。

一般人では到底目で追えない速度で迫りくる稲妻の数々を両腕を使って格闘技の要領で受け流す。

 

ーーー稲妻たるエネルギーを全て消滅させた後、驚愕の表情でこちらを見つめる雷に対してヒュームが必殺の構えをしようと腕を動かした時、ビリッ!と音がする。

 

音のする方へ視線をやると、彼の手袋が破けていた。

この手袋は九鬼グループが作成した、どんな戦場でもナイフ一つ通さない特注のものであった。

 

...最強に初見の技で一歩退けさせ、構えを取らせ、彼の身につけている装備品を破壊することのできる人間が、この世に何人いるだろうか。

 

「...中々やる。褒美だ、受け取るがいい。」

 

下げた片足をさらに後ろへ下げる。

その足に気が急速に纏わりつき周りの大気が震え始めたと思った次の瞬間、雷は最悪の予感を感じ取り残存する雷気を纏ってガードの構えを取るが、ヒュームからすると対処が間に合っていない。...いや、この技は間に合っていようが関係がない。

一撃必殺の技は、どんな状況でも相手の体力を10割持っていかなければ、ただの技に過ぎないのだ。

ヒュームが何十年と試行錯誤を重ねた技が、彼に襲いかかる。

 

「ジェノサイド・チェンソー!」

 

大きく唸った脚がカッターのように鋭くガードの上から叩き込まれる。

その攻撃を受けた次の瞬間、雷は訓練場の壁にめり込んでおり、肺の中の空気が全て押し出され、視界が明滅する。

衝撃が収まる頃には全身の力は抜け、地面に倒れていた。

 

「なるほど、ここのトップが口うるさく褒める訳だな」

 

ヒュームは軍のトップと古くから顔見知りであり、ここ数年で酒の場で度々話題にあがる赤子の話を聞いていた。

最初は取るに足らないと一蹴していたが、別口でとある情報を入手して興が湧き、ある人物に今回の組手の許可を取ったという訳だ。

 

「ぐっ...とんだ規格外の男だな。」

(とんでもない星晶獣を相手にした時のような理不尽さだ)

 

数秒後、意識を回復した雷は上体を起こして壁に持たれながら口に漏らす。

必殺の一撃を受けてなお、意識を回復させ喋ることのできることに内心驚きながらヒュームは語る。

 

「『小僧』、経緯は知らないが、貴様は恐らく数多の戦場を経験してここにいるのだろう。...だが、貴様は今、軍に飼い殺しにされているだけだ。そんな薄っぺらい制服を着て、『赤子』どもの尻拭いをするのが望みか?」

 

雷は言葉を失う。なぜ、自分の内側にある異界の記憶や、現在の空虚さを読み取れたのか。

 

「九鬼一族を知っているな?」

 

こちらを気にした様子もなく、ヒュームは問う。

 

何度か雷も聞いたことがある。

以前は、日本国内の有数の財閥だったが、現当主である九鬼帝という人物が台頭して以降は世界トップの企業として九鬼グループを牽引していると軍の間でも度々話題に上がっていた程だった。

 

「このヒューム・ヘルジングと一緒に九鬼へ来い。...貴様が満足するほどの『地獄』を用意してやろう。」

 

ヒュームの瞳には、一切の迷いもなければ、軍のような打算もない。

ただ純粋な「強者」へのスカウトとこの若き芽がどこまで伸びるかに対する興味。

 

雷は、自身の曹長の肩章を手に取り見つめる。軍の期待も、英雄という虚名も、既に彼には何の価値もなかったが、軍には6年間世話になった義理はあった。

 

「雷、九鬼に行くんだ。」

 

その時、物陰でこちらを観察していた人物が顔を出す。

いつかの自分を軍へスカウトした隊長だ。彼はヒュームと視線を合わせた後、雷に向かって告げる。

 

「これからの運命の手助けになる...そんな言葉を君にかけたのは覚えているか?」

 

雷はその言葉に頷く。

自分の運命がまさに変わった瞬間に聞いた言葉であったからだ。

 

「私の想像を超えて君は成長を続けた。...正直、今の軍は腐りかけていてね。上層部の過激派の連中が、常人を遥かに超える力を持った君を各地の敵対勢力に対して最終兵器として徹底的に使用する予定を計画して実行しようとしている。」

 

雷も薄々感じていた。直近の作戦が全て自分の存在が核となり実行されていたのだ。

 

「九鬼に行くことで、君の運命はより輝くと考えている。...この軍で君のこれからの活躍を見れなくなるのは少々心苦しいがね。」

 

二人の会話を聞きながらネクタイを締めるヒュームに対して、雷は一つ問う。

 

「...九鬼に、俺が求めている場所があるのか?」

 

「そんなものは自分で探せ。...だが、貴様が退屈しなくなる場所であることは保証してやる」

 

ヒュームは攻撃的なまでに口角を上げてそう告げる。

 

ここで思考を数巡する。

いきなり現れ、自分のことをボコボコにしてきたこの男に内心リベンジをしたいと考える程は雷に効いていた。

...冷静に考えると腹が立ってくる。どう考えても、組手の名目でサンドバッグにされただけのような気がしてきた。

 

(だが、こんな規格外の男を従えている人物が九鬼のトップにいる...)

 

この手の男は、自分より上に立つ人物を作らない。それは、彼が蒼き世界で組織として任務にあたり、騎空団の一員として旅をした中でもそうだった。一匹狼であったり、長として自分についてこられる部下だけ面倒を見ることがほとんど。

 

...大抵女に見境のないことが多いが。

 

そんな男が主人と認める人物がいることに興味が湧いた。

以前自分がパートナーとして認めた「彼女」のような人がこの男にはいるのかと。

 

思考をまとめ、顔を上げた雷の目に迷いはない。

思考している間に、身体に「気」を流して回復をしていたこともあり、壁に手を伝いながら立ち上がる。

そして、返答となる言葉を、隊長に対して告げる。

 

「隊長、6年間世話になった。拾ってもらったこと感謝している。...機会があれば今度は戦場以外で会おう。」

 

彼は隊長に敬礼した後、画面端で既に歩み出していたヒュームの後を足早に追う。

 

「気にするな。...いつかまた酒でも酌み交わしてお前の物語を聞かせてくれ。」

 

フッと微笑み、去っていく雷を見つめる。

実の子どもと同い年でありながら、とんでもないスピードで成長していった彼との思い出が脳裏をよぎるが、頭をゆっくりとふり、背を向ける。

 

「とはいえ、この惨場を見るとUMAが夜な夜な訓練場で大怪獣バトルを繰り広げたとか抜かす若輩者も出てくる...きっちり修理代を九鬼に請求させてもらおう」

 

軽く愚痴をこぼしながら、熱くなった目頭に気づかないふりをして隊長はこの場を去る。

 

ーーー破壊された訓練場には、去り際に雷が外した曹長の勲章が月明かりに照らされてただずんでいた。

 




グラブルの主人公はジータ派でございます。

ヒュームの口調が迷子。

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