― オリバー・クロムウェル
「さぁ、それでは二回戦の準々決勝に参ります!」
第1試合は知性チームVS無敵童貞軍の対決である。
大和と福本の戦力差は五十歩百歩のため、実質燕と鉢屋の西方出身同士の対戦となる。
純粋な戦力差では、燕の方が優勢であるが...
「...松永燕、この画像を見るがいい」
「!!おとんが捕まってる!?」
薄暗い空間の中、縄で身体中を雁字搦めにされた松永久信の姿だった。
「こちらが合図をするだけで火薬粘土が爆発する。助けたくば...降伏せよ」
「こ、こいつ...いい加減に」
「や、まぁ忍者はこういうのがお仕事な人だから」
憤慨する大和の肩に手を置き、燕が冷静に受け答えする。
「燕先輩、でもこれは...どうするんです?」
「ふふ、答えは一つだよん」
開始位置に踵を返す燕に大和が続くと、既に無敵童貞軍は準備が完了しているようだ。
「第1試合、知性チームVS無敵童貞軍。はじめっ!!」
「ではいくぞ松永...悪く思うな!」
開始と同時に鉢屋が凄い勢いで突撃してくるのを燕はーーー
「ほいっ!!」
思いっきり蹴り飛ばし、スタジアムの壁に叩きつけた。
「ふぐっ!!」
「これは瞬殺!勝者は知性チーム!!」
素早い決着に、スタジアムの歓声が湧いていた。
十秒程の気絶から復帰した鉢屋は、駆け寄った福本の肩を借りて燕に詰め寄っていく。
「き、貴様...忍者にハッタリは通じないぞ」
「分かってるよん。やるならやりなよ」
「でも先輩...」
「大和クン。私達親子はね、約束したんだ...こういう事があっても、共倒れしないように動こうねって」
「つまり...見殺しに?」
「うん」
覚悟を決めた表情を見せる燕を見て、大和は彼女の新たな一面に内心驚愕する。
「おとんは言ったよ。"僕が人質にとられても見捨ててくれ"って。だから、私もそうしてって言った...だってさ、なめられるの嫌じゃない?」
(ここまで燕先輩が覚悟を決めていたとは...この大会にそこまで賭けていたのか)
「だが、こちらも忍び。なめられたら終わりなのは同じこと」
「うん、だからやるならどうぞ。ただし、大好きなおとんであることに変わりないから...合図をするなら覚悟、してやってね」
「互いに後には引けぬ、か」
そう言い放ち、合図をするべく懐に手を差し伸べる鉢屋に対して。
「いやもういいって!こっちの負けで!」
依然、肩を貸した状態の福本から静止の声がかかった。
「しかし...」
「確かにエログッズは欲しいけど、最低限の品性は捨てたくねーんだ。それは多分、良い写真を撮るのに必要だから...」
相方の真剣な表情を見て、数秒程目を瞑り思案する鉢屋であったが...
「...分かった。助けに行くがいい、3番出口の倉庫に閉じ込めてある」
「...了解」
制裁することを辞め、居場所を伝える決断をした。
その言葉を聞き、燕と大和はリングから下りて急いで駆け走っていく。
「ふぅ、何とかハッタリが通じたねぇ」
「えっ、あれ全部嘘だったんですか!?」
「ふふっ、女の嘘はアクセサリーみたいなものだからね。大和クンも気をつけた方がいいよん?」
「...肝に銘じます」
続く第2試合。
デス・ミッショネルズVSザ・プレミアムズの対戦だ。
試合前の評価ではデス・ミッショネルズ優勢とされていた。
実際、開始早々に二人が猛烈に突撃してきたが...予想とは異なり、決着は未だ着いていなかった。
「何という光景でしょう!デス・ミッショネルズの開幕から続く猛攻を、ザ・プレミアムズは一人で凌いでいますっ!!」
「まさかっ、義経と同じくらい剣術に長けてるなんて、ね!」
正面の弁慶の錫杖による攻撃を刀で相殺し、横から迫る辰子の体術を足技でガードする黛。
「ふっ、やぁああーー!!」
そのまま流れるように、弁慶に対して反撃の一振りを繰り出していく。
「ほっ!...この子強いねぇ~、師匠との稽古を思い出すよぉ」
狙われた弁慶に刃が届く前に、辰子は刀の柄を蹴って強引に軌道を逸らす。
そこで黛が一歩後退することで何度目かの均衡状態へと戻る...と思いきや、両者同時に動き出してインファイトが開始された。
(なによこの人達...プレミアムな私が、全く入る隙もないじゃない!)
そんな中、黛のチームメイトである小杉はただ後ろで構えながらも心中で葛藤していた。
自分もあの戦いに参戦して武勲を上げたいと、じーっと戦局を見つめている。
「そこですっ!」
「ぐっ!」
黛が剣舞で針の糸を通すように相手の隙をつき、弁慶の姿勢を若干ながらも崩すことに成功する。
(!今よっ、合図を出すまでは待機の約束だったけど...チャンスを前に動かないのはノットプレミアム!)
戦局を変えるべく、小杉の出せる全力疾走で弁慶に詰め寄りにかかった。
「最高速度でぶち抜いてやるわっ!!」
「!小杉さんっ、今は駄目です!」
背後から迫る小杉に対し忠告するも間に合わず、既に勢いを乗せた全力の右ストレートを放つ瞬間であった。
「プレ~ミアム・パン...」
「零距離当身!」
「ぐえっ!!」
画面外から辰子の当て身による一撃をくらい、そのままリング外へ吹き飛びスタジアムの壁に衝突した。
「そこまでっ!勝者はデス・ミッショネルズ!!ザ。プレミアムズも素晴らしい戦いでしたが、最後は焦ってしまったか!」
「あぁ、間に合いませんでした...開始から弁慶さん達の狙いは小杉さんだと気づいていましたが、情報をお伝えできず...」
「いやぁ、そこまで読まれてたか。ま、明確な隙は狙わないとね」
「頑張ったよぉ、これで準決勝進出だねぇ」
第3試合は源氏紅蓮隊VS大江戸シスターズ。
第一回戦で見せた源氏紅蓮隊のコンビネーションによる猛攻を受け、大江戸シスターズも反撃の機会を狙いつつ耐える展開が続いていた。
「あ~っと、軍人のコンビネーションでもこの猛攻を凌ぐのは厳しいか!義経と椎名の繰り出す剣と弓の攻撃は一切の隙を与えてくれませんっ!」
(眼帯を外しているというのにお嬢様をお守りするのが精一杯とは...自分が情けないッ!)
義経の剣術を己の得物で確実に相殺しつつ、死角から放たれる京の弓を回避できる人物はそういないのだが、このチームに勝利するためにはどこかで攻めに転じる必要があった。
「くっ、このまま押し切られるぐらいなら...マルさんッ!」
クリスがギアを最大まで上げ、飛んできていた弓を交わし義経に急接近する。
「えぇ、お供します!」
突撃するクリスに向かって放たれる弓を、確実にトンファーで払い落とす。
「椎名さんの弓を掻い潜るとは、見事だ!」
「はぁーーー!!!」
そのまま勢いを最大まで乗せたレイピアの一突きを繰り出していく。
刀より長いリーチを持つレイピアの一閃は、体感よりもワンテンポ早く対象に到達する。
この渾身のクリスの攻撃に対してーーーーー
「短刀投げッ!!」
「なっ!?」
懐から素早く取り出した短刀をレイピアの先端に投げつけられ、クリスは体勢を崩す。
(!まずい、お嬢様を守らければっ!)
「行かせないよ、矢雨!」
急ぎクリスの元へ駆け寄ろうとするが、椎名からマルギッテとクリスの間へ的確に矢の雨が放たれる。
回り込んで向かおうにも、前方には体勢を崩したクリスに対して必殺技を繰り出そうとする義経の構えが見える。
「遮那王...一閃!」
(くっ、お嬢様に攻撃されるぐらいならッ!)
「!マ、マルさんッ!?」
「グハッ!!」
矢が身体に突き刺さるのも承知の上で、クリスの前に飛び出していった。
そのまま義経による渾身の一振りを背中に受け、一撃で戦闘不能となる。
「そこまで!やはり強かったか、勝者は源氏紅蓮隊!!ここまで戦い抜いた大江戸シスターズにも、惜しみない拍手を!」
鮮やかな義経の剣術にスタジアムの歓声は一際強く湧いた。
負けてしまったが、強敵相手に食らいついた大江戸シスターズにも拍手が鳴り響く。
「マルギッテ、大丈夫?」
「すまない、マルさん...自分のせいで」
「ぐっ...最後まで計算されたコンビネーションでした、敵ながらあっぱれと言わざるを得ません。ですから、私に謝罪など必要ありませんよ。お嬢様」
(それに、お嬢様に怪我させようものなら...今も中継を見ているであろう中将が間違いなく暴走します。そうなれば、平和は終わってしまう)
国際問題まで配慮したマルギッテによって、無事に平和は守られた。
「...ありがとう、マルさん。精進あるのみ、だな」
「その意気です、次こそはリベンジしましょう」
「二人とも強かった!さらに強くなる二人の次戦を、義経は楽しみにしているぞ!」
そうして迎えた準々決勝最後の第4試合。
今までの3試合とは、既にリング周辺の様子が異なっているようだ。
「リーよ、そっちの配置は足りとるかの?」
「恐らく問題ないかト。...ここまで万全に人数を置くのは、総代と百代の本気稽古の時ぐらいですヨ」
「そこらの武闘家は気づいとらんが、あのヒュームが開始前から闘気を出しておるんじゃ。万全を期して損はないわい」
今まではリングの四方を4名が囲うのみだったが、川神院の修行僧や九鬼の武闘派の従者達も多数派遣されている。
スタジアムの観客達もその光景を見て、次の試合が今までとは一線を超える内容になると予感していた。
「観客の皆様には大変申し訳ありませんが、第4試合の準備が整うまで今暫くお待ちください!」
決戦を前にした控え室にて。
雷は制服ではなく九鬼の執事服に着替え、銃の手入れを静かに行っている。
しかし、内に秘める闘志は抑えきれておらず、横で待機している葉桜にもその緊張感は伝わっていた。
(私が闘う訳でもないのに、この緊張感...雷君とヒュームさんの本気の勝負が目の前で見られるのは、多分すごい経験...だよね)
激しく鼓動する心臓を両手で抑え身体の奥から溢れる高揚感に浸りながら、葉桜は目を瞑り時間が来るの待つ。
「清楚...清楚、聞こえているか?」
「っ!ごめん、気づいてなかった...何か緊張しちゃって」
「..すまない、俺のせいだな」
「う、ううん、私が勝手に緊張しているだけだから...それで、どうかした?」
「いや...目に見えてソワソワしていたから、声をかけただけだ。改めてだが、始まったらすぐにリングの端に避難してくれ」
「ご、ごめんね、ありがとう...でも、やっぱりドキドキするなぁ」
「雷さん、葉桜さん。試合の準備が整いましたよ」
未だ緊張している様子の葉桜をフォローする前に、出場者の案内役である桐山から声をかけられる。
仕方なくその言葉に頷き、リングへの通行路を先導し始めた桐山に着いていく。
「そうそう、雷さん。あの方から一つ伝令があります。・・・・・」
耳打ちされる伝言を聞くと、雷は鋭い眼光で睨み返した。
「悪いが、ここは成り行きに身を任せてもらう。...それに、だ。それはお前が独断で考えたんだろう、桐山?」
「!?な、何を根拠にそんな」
「それをお前に言う必要は無い...疾く去れ、今なら報告しないでおいてやる」
雷の纏う気が目に見えて獰猛になるのを感じ、作戦は失敗したと内心冷や汗をかく桐山。
「くっ...後悔しますよ、これが一番良い結果だったと」
そのまま捨て台詞を残して足早に控え室の方向へ戻っていった。
「だ、大丈夫だった雷君?」
「あぁ、何も問題はない。心配は不要だ」
(星の図書館みたく、自分もコントロールできると勘違いしたか...あるいは)
「だが今は...序列42番に用事はない」
後方の桐山に視線をやることもせず、目の前の道を進んでいく。
歩を進めるにつれて、スタジアム内に通じる入口の光が強くなっていった。
「大変長らくお待たせしました!準々決勝最後の試合です、ミステリータッグVSチーム雷公っっ!!!」
実況の宣言を聞き、歓声が一際強くなった。
「どちらも第1試合は圧倒的な武力で戦力差を対戦相手に見せつけて勝利しています!ただ、ミステリータッグは勝ってもその後に棄権すると公表されていますが...果たして試合の内容はどのようになるのか!?」
解説の二人も以前の試合より目に見えて前傾姿勢となり、固唾を飲んで試合開始を待っていた。
「ふむ、雷が強いことは重々承知しているが。あのヒュームとかいう爺の底知れぬ強者の気配。この俺でも、勝敗の予想は分からぬ...武神よ、この試合をどう見ているのだ?」
「ヒュームさんは九鬼の序列零番にして最高戦力だからな、百代スカウター的にもそっちが優勢だ。とはいえ、結果は始まってみないと分からないんだが...羨ましいなぁ、今からでも混じっちゃダメかな?」
「いや、解説が試合に乱入するのは前代未聞だろう」
先程までは解説として一歩引いた雰囲気で観戦していた百代だったが、両者の闘気を感じて疼きを抑えきれていなかった。
そんな孫娘の様子を見て、"まだまだ精神修行が足りないのぅ"と溢す鉄心であった。
リング上では、既に雷とヒュームが中央で対峙していた。
両者の後ろでは、心配そうな表情をする清楚と真剣な表情を浮かべ腕を組む揚羽が映る。
「ふん。予選で見せていた閃光頼りならば、即赤子に出戻らせてやるところだったが...その心配はいらないようだな」
ネクタイを締め直し、手袋を深く引っ張るヒューム。
スタジアム内は先程まで吹いていた風がぴたりと止んでいたが、彼の金髪は溢れ出る闘気によって静かに揺れていた。
「序列零番がそんな心配をしていたとは...しばらく稽古をしていない間に耄碌したんじゃないか?」
雷もヒューム同様に闘気を全面に出しており、銀髪を靡かせながらゾズマ譲りの皮肉を繰り出していく。
先に視線を外したら負けると思わせる程、張り詰めた空気がリング上に漂っていた。
「くっくっ。この俺にそんな口を叩けるのは、今やお前ぐらいなものよ」
挑発を一蹴し、余裕の笑みを浮かべ続けるヒューム。
しかし、見る者が見れば...彼の目が本気であることを確認できた。
「久々の稽古だ、どうなっても知らんぞ...年老いた故に、加減を忘れてしまったからな」
「ふっ、なら思い出させてやるさ...挑戦者の立場をな」
「はっ、クソガキが」
「開始前からバチバチに睨み合っている両者!構図はまさに、新進気鋭の若きエリート従者を迎え撃つ九鬼上層部の対戦といった模様!!果たして、序列1番を掴み取るのはどちらのチームかぁ!!」
「いや序列1番はあたいだっての!!」
既に熱気溢れるスタジアム内でも、しっかりとツッコミを入れるあずみであった。
「なお、この試合に限り鉄心さんによるコイントスで着地した瞬間が開始の合図となります!...準備はよろしいでしょうか、それではお願いします!」
「うむ...では、投げるぞい」
親指で弾かれた硬貨が、キィンと高い音を立てて宙を舞った。
銀色の光が何度も反転する瞬間をスタジアムの全員が見守る中、対峙する両者間の視線は一切逸らされることはなかった。
ーーーやがて地面に着地する瞬間、二つの影は同時に動き出す。
「ジェノサイド・チェンソー」
「フラメクの雷」
ズドォォォーーーーォォン!!!!!
スタジアム内に、二つの衝撃がぶつかったことによる轟音が鳴り響いていた。
ヒュームは当たれば即KOとなる一撃必殺技。
雷は1試合目の時以上の威力を持った稲妻の雷撃。
二人ともコイントスの着地と0.00秒の狂いもなく動き出していたが、壁越えでなければ肉眼で追えない程の凄まじい加速であった。
ヒュウーーンッ...バシッ!!
両者の必殺技による衝撃がその場に留まることができず観客席に向かっていくが、マスタークラスの達人達によって何とか鎮圧される。
(!あのヒュームが、開始早々にフルスロットルじゃと?しかも、それを平然と受け流して...いかんのう。年甲斐もなく、ワシも血が疼き始めたわい)
一瞬の攻防を見て鉄心の片目が開眼し、川神学園の学園長の顔から川神院の総代としての表情に切り替わる。
逸る気持ちを抑えて他人の試合を見るのは、何十年ぶりの事であろうか。
「ふっ!!」
リング上の衝撃が収まる前に、雷が攻め手を緩めず肉弾戦を仕掛ける。
全力の横フックは難なく回避されるが、間髪入れずに蹴りを繰り出してヒュームを一歩後退させることに成功する。
雷はその隙を見逃さず追い込みのストレートを放とうとするが、強烈なプレッシャーを察知して全力で横にジャンプする。
ドゴゴォォォーーーン!!!!
轟音が鳴り響くと、自分の立っていた場所に踵落としによるクレーターができていた。
その穴を視認して間もなく、背後からエネルギー弾が急接近していることに気づく。
「!ちっ、スロー・キル!」
ドドドドドドォォォォォ!!!
後ろを見ることなく背後に向けて雷弾を放ち、気のエネルギー同士相殺させる。
エネルギー弾が終わると同時に執事服が横に瞬間移動してきたことを目視し、もう片方の手に構えていたナイフを繰り出して拳の一打を受け流すと、ヒュームはニヤリと口角を上げた。
「フハハ!そうだ!もっと俺を楽しませてみせろっ、雷!!」
並大抵の武闘家なら確実に通る攻撃が次々と相殺されるが、ヒュームには全く焦る様子もなかった。
むしろ目の前の闘争を余すことなく喰らい尽くさんと、獰猛な笑みを浮かべて攻撃し続けている。
「その割に血が頭に上ってるぞ!思ったより余裕ないんじゃないか、ヒューム!!」
「抜かせっ、百式羅漢殺ッ!!
「!ちっ、アシッドレイジ・アロー!」
ヒュームが目に追えぬ速度で拳の乱打を繰り出すと、即座に雷気を纏った短剣の乱撃で一打一打を相殺する。
拳と短剣が衝突する度に、周囲のスタジアムに衝撃波が飛び交っていた。
「ホッ!ヨッ!凄まじい攻防戦だネッ、落ち着いて観戦する余裕もない、ヨ!!」
「どうなってんだこりゃ、っ!これで昨日と同じ給金だったら、容赦しねぇ、ぞっ!!」
リーと釈迦堂も衝撃波から観客を護衛するのに必死であり、リングとスタジアム間の範囲はマスタークラス達による稼働で忙しない様子であった。
「開幕と同時に雷とヒュームによる激しい乱打戦が続いていますっ!!モニターの中継も、二人の姿をカメラが追うのに必死です!!」
「あのとんでもない執事の爺に一歩も遅れをとらず応戦している...俺が目指すべき男の背中は、やはり遠い...!」
自身との力の差を改めて突きつけられ、無意識に拳を力強く握る石田。
しかし、それ以上に目の前の試合に感情を揺さぶられ、逸る心を抑えきれていない者が隣にいた。
(おいおいおい、なんだこの戦いはっ!!特に雷の強さが想像以上だ!あのヒュームさんが、闘争心剥き出しで戦える相手がジジイ以外にもいるとは...ハハッ、こんな試合を見せられて、疼きを抑えるなんて無理だろッ!)
もはや解説という仕事を放棄し、スタジアムの手すりをメリメリと握り潰しながら観戦している百代。
普段なら鉄心が即座に注意しに来るのだが、鉄心も疼く心を抑えて護衛に稼働しているため、そんな孫娘の状態に気づいていなかった。
やはり、武闘家の血が繋がった二人である。
控え室では、勝ち残っているチームの全員が共有部にある巨大モニターの前に集まっていた。
「す、すごい試合ですね...姉さんの攻撃を日常から見ていても、目で追えない速度だ」
「そうだねぇ、私でもギリギリ確認できるかどうかって感じだし...ちなみに、義経ちゃん達はどう?」
「義経も何とか追えるぐらいだ、恥ずかしい話だが...」
「私も主と同じだねぇ。何せ、私達も初めて雷の本気を見るから」
「そうなの?...てっきり、九鬼の訓練とかで日常的に見てるものかと」
「椎名さんの言う通り、訓練自体に参加したことはあるのだが...」
「ここまで雷の本気を引き出せる人って、訓練に参加するような従者にはまずいないしね~」
武士道プランの公表前に、一般的な九鬼従者のカリキュラムを義経達が体験した時があった。
逃げ出そうにも行く先々にヒュームが先回りしているため、あの与一でもサボることはできず参加させられていた。
「1回戦でも滅茶苦茶強かった九鬼揚羽さんですら、端で見てるだけですもんね」
モニターに映るリングの中央では、ヒュームが仕掛けては雷がガードし、カウンターに雷撃を矢継ぎ早に打ち込んでは体術で相殺する...といった中で、左端と右端のそれぞれに両者のタッグである葉桜清楚と九鬼揚羽がその場で待機していた。
(清楚ちゃんは完全に見ているだけだけど、揚羽さんの方は隙があれば参戦する気満々だね。モニター越しでも、闘気を抑えきれていないし...そうだ)
「でも、何で雷君は清楚ちゃんとタッグを組んだんだろうね?...義経ちゃん達は、何か知ってる?」
ふと思いついたといったような感じで、燕は義経達に問いかける。
「それが、義経達も予選当日まで知らなかったんだ。急遽出場することになったとか...」
「与一の誘いにも、当日の仕事があるからって断ってたし。何なら、出ないのはもったいないぐらいに思ってたよ」
「ふぅ~ん、そうなんだねぇ。でも、雷君達のチームが勝ち上がった場合、次に当たるのは義経ちゃん達のチームだけど...勝算はありそう?」
「...厳しい戦いになるだろうな。でも、負けると思って試合に出るなんて武士の名折れ。この試合を見て作戦と方針を決めるつもりだ!」
「京はどう?」
「う~ん。色々考えてるけど、あんまりしっくりこないね。まぁ、そうなったらやれるだけのことはやるよ...大和こそ、決勝であたる前に負けないでね」
「そうだねん。私達はその前に、弁慶ちゃん達と準決勝だから」
「お、お手柔らかに頼みます...」
「フフッ、こちらこそ...まぁ、それにしても。私の相方はこんな状況でも相変わらずだ」
「Zzz...」
モニター前にあれこれと話をしている5名の後ろのソファーで、一人対戦前にも関わらずぐっすりと眠っている辰子であった。
知り合いの面々がほとんどのため、準決勝を控えていても終始和やかな雰囲気であった。
九鬼本社の巨大モニターの前では、引き続き局とマープルが観戦を続けていた。
「あのヒュームにここまで食らいついているとは、流石雷だ。これなら、九鬼の未来も安泰だな」
「はい、局様。雷は、今の若い世代で数少ない信用できる人物ですので」
「...ほう?若者嫌いのお前が、そこまで太鼓判を押すとはな。まぁ、この力を見せられては流石のお前も認めざるを得ないか」
鋭い指摘をする局に対し、取ってつけたような苦笑いを浮かべるマープル。
しかし、マープルがモニターに向ける視線は雷とヒュームの戦闘ではなかった。
(ふむ、良い感じに戦場の空気感を経験できてるね...あの二人の本気の戦いを間近で見て感じられる機会としては、狙い通り絶好のポジションだ)
マープルの狙いはここにあった。
今大会を通じて彼女に武闘家同士の試合を見学させ、さらには壁越え同士の闘いの場に配置することだった。
(当初の計画からはちと早いが。トーナメントの内容を見ても、今の世界に目を引く程の若者は居そうにないからねぇ。まぁ、私が基準点を高く見積もり過ぎた故だが...これもひとえに、お前さんが優秀すぎるのがいけないんだよ。雷)
この試合が成立している時点で、マープルにとってもはやこの試合をどちらが勝とうが何も問題なかった。
ヒュームと雷が互いにしのぎを削る関係であることを知っている上で、使えるものは何でも使おうという訳である。
(とはいえ、この試合がどういう決着になるかは流石に気になるところ。まぁ見たところで、どちらが優勢かなんて全く分からないがね)
千日手のような応酬が続く中、雷は攻撃の手を緩めることなくリングの四方を飛び回っていた。
「フラメクの雷ッ!!」
「フハハ、覇王咆哮拳!」
その雷撃に対して、ヒュームは無尽蔵とも言える気の総量から惜しみなくエネルギー弾を撃ち放ち、鋭いカウンターを返し続ける。
これを避けつつ飛び回りながら攻撃を続けているため、雷の体力をジワジワと確実に削られていく。
「小賢しく周囲を動き回るのはいいが、こんな手では俺を崩すことはできんぞ!」
「ちっ!」
今度は一転して、ヒュームからの猛攻が始まった。
中央からヒュンヒュンと絶え間なく気弾をマシンガンのように発射され、せっかくリング上の配置に成功したスロー・キルによる雷気の誘爆エネルギーを自身の防御に使用することに精一杯となっていた。
「おーーっと!ここで戦局はヒュームの方が有利に傾いているか!?先程までは攻守が交互に続く展開だったが、今はヒュームの猛攻をひたすら雷が耐え忍ぶ状況だ!!」
「ここに来て流れ弾が多くなってきたのう...鍋島よ、そっちは大丈夫かの?」
「あぁ、問題ない!...とはいえ、余裕はねぇ、な!」
鍋島も忙しなく稼働しているが、流石というべきか鉄心は一人涼しい表情で流れ弾を捌き切っていた。
かつてのライバルであったヒュームの攻撃は知り尽くしているため、他三人よりも対処できているだけであるが。
「ぐっ!!」
そのまま迅速に動き回る雷だったが、追尾してくる気弾の一つが足に掠り姿勢を崩してしまう。
「ハッ、詰めの甘さが治っていないな、雷!」
凝縮された気のエネルギーが、ヒュームの掌の中で迅速に練り上げられていく。
「これで終いだ、エネルギーウェイヴ!!」
そのまま極太のエネルギー弾が姿勢を崩したままの雷に向かって放たれる。
これには、誰もが勝負あったと思ったが...
「ふっ、その技を待っていたっ!!」
「なんだと?...っ!」
ヒュームの目から見えた光景は、自身の繰り出した必殺技を前に何故かバチバチッと今までで一番雷気が充填されている銃を構えている雷であった。
(!そういうことか、さっき飛び回っていたのは全て銃に気を込めるためのカモフラージュ!)
「デッドエンド・シュートッ!!」
最大まで充填が完了した状態からトリガーを引き、極太の稲妻を放出する。
ヒュームのエネルギー弾に覆い被さると、その気を吸収して凄まじい加速を見せた。
「だが、この程度!」
コンマ0秒の世界で、ヒュームは瞬時に判断し動き出す。
「フハハハハハハハッ!!!」
迫る極大な稲妻のエネルギーに対して、全力の気を込めた乱打を打ち込み続ける。
後ろへジワジワと後退するが、一打一打を押し込み続けることで目に見えて威力は弱まっていく。
「むんっ!!」
最後に多量の気を乗せた渾身の右ストレートを解き放ち、爆発と共に稲妻のエネルギーは霧散した。
「ハッ!悪くない攻撃だったが、これで俺を倒せるとでも...!?」
衝撃による煙が消え、視界が開けたヒュームの目にはーーーー
ーーーーリングをドーム状に覆っている、稲妻のバリアが映っていた。
「なんという事でしょうか!?ヒュームが雷の繰り出す稲妻の必殺技を後ろに押し出されながらも対処した後に、リングを覆う巨大な稲妻のドームが現れました!!」
すると、リングの中央で地面に対して銃を押し込み気を流し続けている雷の姿が映る。
「...!そういうことか」
「武神よっ、この状況はいったい!?」
「この若獅子タッグマッチトーナメントの勝利条件を振り返ってみろ!」
「勝利条件?対戦相手のどちらかを戦闘不能にした方か...!っ、10カウントか!!」
「そうだ。今大会はリング外に出ること自体は禁止されていないが、そのまま10カウントを取られると敗北になる。そこを雷は狙っていたという訳だな」
(とはいえ、ヒュームさんをリング外に押しやる状況を作り出すのは戦闘不能にするのと同じくらい難しい)
「やっぱり...お前とは早く戦いたいなァ!!」
解説席の百代からリングの雷に対して獰猛な闘気がぶつけられる...前に稲妻のバリアによって弾かれていた。
(!...気も弾かれるのですか。もしかすると、初めてヒュームの負けが見られるかもしれませんね)
観客席で戦局を見守るクラウディオは、百代の闘気が弾かれたことを冷静に確認していた。
その上で、クラウディオの頭脳を持ってしてもこの状況を覆す一手は思い付かなかった。
「おいおい...マジで勝っちまうのか、雷のやつ!」
「最高にクールじゃねぇか!これぞ、ロックン・ロールってな!」
「流石の私も、ギャグを考えている場合ではありませんね...そのままファイトです、雷」
お馴染みの同僚達も、職務を忘れて目の前の試合に集中していた。
「...なるほど、考えたな」
バリアの前で試しに打撃や足技をぶつけても、稲妻の反動によるダメージとして返ってきてしまう。
ならばと気のエネルギーで突破しようにも、バリアと接触した瞬間に弾かれていた。
「これには為すすべなしなのか!カウントは依然として進んでいますっ!9...8...」
(これはまずそうだな...雷には悪いが、我も参戦させてもらうぞ)
未だリングの外側で思考を続けるヒュームを尻目に、バリアを解除するなら発動している術者を叩くのがセオリーだと、内側で待機していた揚羽が中央に急接近する。
「だ、ダメですっ!!これ以上は行かせません!」
そこに、葉桜が間に割り込みに入った。
「葉桜よ、我はお前に攻撃するつもりはない。...そこをどいてもらうぞ」
そう言って、強引に突破しようとする揚羽だったが。
「!?」
直後に猛烈なプレッシャーを感じ、咄嗟に大きく後退する。
頭を上げて確認すると、先程まで自分が居た位置に葉桜が目を瞑った状態でタックルを仕掛けていたようだ。
(な、なんだ今の悪寒は。かつて、百代と本気の稽古をした時と同じぐらいの圧を感じたが...)
「あ、あれ?今、身体が勝手に動いて...?」
揚羽による助け船は、非力なはずの文学少女によって阻止されていた。
(体術による突破はまず不可能。気を使っても生半可な攻撃では...このようにエネルギーを吸収されて弾かれる、と)
ヒュームは焦った様子もなく、目の前の障壁に対して数秒間で何十発と技をぶつけその性質を理解する。
「カウントは半分を切りました!4.....3.....」
緩んでいたネクタイを締めて顔を上げると、先程までの真剣な表情から一転して凶相な顔つきを見せた。
(!...あの威圧感は、もしや!?)
鉄心の背筋に、何十年ぶりの緊張が走る。
「クックッ...フハハハハ!!...まさか、そこまで至っていたとは!」
その言葉と共にヒュームの目が赤く光り、同時に彼から放たれるプレッシャーが数段階強くなって周囲に放たれる。
リングの四方にいる修行僧や九鬼の従者は、その獰猛な圧を間近で受けて立っていられずにその場で膝をついていた。
「まさか、この俺に奥の手を使わせるとはな...光栄に思うがいい、最強の力を見せてやろう」
腰を深く落とし右足を大きく後ろに引くと、足先で急速に気が練り上げられていく。
そのまま赤いオーラを纏った気は、チップソーのような実体となって顕現する。
「真ジェノサイド・チェンソーォォッ!!!!」
蹴り上げたと同時に高速で回転したチップソーが、リング中央に向かって放たれる。
そのまま雷の展開するバリアに到達すると、ギリギリと高速で回転する刃先に対して稲妻のエネルギーが押し寄せるが...
(!この強烈なエネルギーは何だ!?...しかし、今突破される訳にはッ!?)
ギュイイイイイン...バキッ!!
(!まずい...っ!)
数巡の抵抗虚しく突破されてしまい、バリアを展開するのに全集中していた雷が顔を上げるとーーーーーー
すぐ目の前に赤いオーラを纏ったチップソーが迫っていた。
「ぐっ、カハッ!!!」
自分の持つ気のエネルギーを全て注ぎ込んでいた雷に、もはや止める手立てもなかった。
そのまま攻撃を受けてしまい、一撃で意識を刈られる。
「そ、そこまでーーー!!!勝者は、ミステリー...」
「いや待て、田尻よ」
実況が勝者チームの宣言をしようとしたところを、審判である鉄心が止めに入る。
「この大会はタッグのどちらかが戦闘不能になるか、10カウント取られたら負けのルールじゃ。...雷が戦闘不能になるのと、ヒュームが10カウント取られたのは、同じタイミングだったと思うんじゃが」
「ジジイの言う通りだな、VTRをスローで見てみろ...ほら、カウントが0になった時と雷が倒れた瞬間は全くの同時だ」
モニターに映像が映し出され、両者の敗北となるタイミングが一致していることが確定する。
「ふんっ...あのバリアを突破するのに、少々手こずりすぎたか」
眉をひそめ、珍しくどこか悔しそうな表情を見せるヒューム。
圧倒して勝利をするつもりが、ルールを上手く利用され引き分けに持ち込まれてしまった。
「となると、両者引き分けとなるが...」
「ミステリータッグはこの試合を最後に棄権すると公言しているし、チーム雷公は雷がこれ以上戦える状態じゃないからな」
その場に倒れ伏していた雷は、駆けつけた修行僧や従者達によって担架で運ばれていた。
担架の横では葉桜が心配そうな表情をしながら、早足で並走して着いていっている。
「な、なんという劇的な幕引きでしょうか!?ヒュームが逆転の一手を放ちそのまま勝利かと思いきや、雷が執念の粘りを見せて10カウントで引き分けに持ち込みました!!しかし、ミステリータッグはここで棄権。チーム雷公も奮闘した雷が治療のため、ここで棄権となります!」
スタジアムの観客の中には両チームの試合がこれ以上見られないことを残念がる声を聞こえるが、素晴らしい戦いを繰り広げた両チームに惜しみない拍手が送られていた。
そんな拍手喝采の中、スタジアムの壁に持たれかかっていた揚羽は真剣な表情で何かを考えていた。
(葉桜清楚...正体は我にも知らされていなかったが、あれがただの文豪な訳がない...マープル達は何を企んでいるのだ?)
揚羽は意図せずして対峙した清楚の正体に対して疑問に感じていた。
(どうも胸騒ぎがする...小十郎は頼りにならぬ、我が調べるしかあるまい)
「どうされました、揚羽様。...何か、考え事でも?」
いつの間にか横に移動していたヒュームに内心驚きつつ、平常心を心がけて返答する。
「いや、何でもない。...それにしても、あんな攻撃手段を持っていたとはな。流石の我も、負けたと思ったぞ」
「最強は奥の手の一つや二つ、隠し持っていなければなりませんので」
(とはいえ、あそこまで雷が強くなっていたとはな。知らない間に、我でも届かぬ領域に到達していたようだ)
「ふむ、次の予定まで暫く時間があるな...では、この大会の行く末を最後まで見届けるとしようではないか」
「畏まりました。せっかくですから、紋白様と一緒に観戦されてはいかがでしょうか?」
「それはいい案だ、早速向かうとするか」
「御意、紋白様も喜びます」
先導して歩いていく揚羽の一歩後ろで控えるヒュームだったが...
(流石に気づくか。とはいえ、俺に悟られるようでは...まだまだ赤子よ)
揚羽の考えていることは、ヒュームには筒抜けであった。
小さい頃からの師弟関係のため、隠し通すのは至難である。
「続いては準決勝となりますが、ただ今損傷したリングの交換やスタジアムの修繕を行っております!試合が始まるまで今暫くお待ちください」
(これで俺の任務は終いだ。後は、あの方の依頼が達成されるかどうか...見届けるとしよう)
若獅子によって大いに盛り上がりを見せるスタジアムの影で、未だ計略が張り巡らされていた。
某稲妻サッカーの帝国学園キーパーの技から構想しております。