真剣で一匹狼   作:はぐれ社会人

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評価・お気に入り登録等ありがとうございます。
大変励みになっております。

随分と時が経った原作ですが、見てくださる方がまだまだ沢山いらっしゃってとても嬉しく思っております。

週に1度の更新で申し訳ないですが、引き続きよろしくお願いいたします。


(7)決着

東の陣地、川神学園の総大将が控える最奥部。

その場所に敵である3人の天神館の生徒、それも西方十勇士の突入を許してしまっていた。

 

「ふっ、まずは名乗るとしよう。俺が西の総大将、石田三郎だ」

 

帯刀した刀の柄を握ると同時に、溢れんばかりの闘気が川神学園にぶつけられる。

その気に当てられたのか、2年生の生徒は続々と武器を握りしめて石田を睨みつける。

 

「もっと早く到着する予定だったが、位置を知らせる訳にはいかなかったのでな」

 

そう語りながら一息つくと、川神学園の大将である九鬼英雄に視線を向ける。

 

流石と言うべきか、こんな状況になっても英雄に取り乱す様子はなかった。

堂々たる様で腕を組み、敵の大将である石田の一挙一動を冷静に観察していた。

 

「さて、東の総大将よ。その首を差し出してもらおうか」

 

「フハハ、大将自ら乗り込んで来るとは。敵ながら、豪胆なものよ。だが、そう易々と首級を渡す訳にはいかん」

 

そのやり取りを皮切りに、残存兵達は英雄の前で壁となって構える。

この集団を撃退しないことには、英雄との一騎打ちはお預けだろう。

 

そんな一触即発な舞台の幕開け前に、一組の集団が到着できたようだ。

 

「!何とか間に合いましたか、攻めてきたのはあの3人だけのようです」

 

「ああ、だが状況は芳しくないな。...応援が来るまで、この面子であの3人の攻撃を耐えるしかない」

 

前線に出ていた仲間達への要請を終えた大和達だ。

川神百代に挑む数多の挑戦者を観察してきた大和の見立てによると、西の総大将の力は中々のモノであり、武に嗜みがある程度では相手にならないだろうと推測している。

 

「ですね。ユキ、英雄の所へ行ってくれますか?」

 

「任せて~!」

 

二人の護衛をしていた小雪が、自慢の脚力を活かして英雄の近くに着地する。

その隣には、”にょわわわ”と動揺した様子の不死川心もいるようだ。

 

それと同時に、大和達が自陣へ戻る道中で声を掛けた他の生徒達も、石田を横から囲うように広がっていく。

 

「我が友冬馬よ!早急な援軍、感謝するぞ」

 

「ここからですよ、英雄。踏ん張りどころです」

 

囲まれることになっても、増援に対して特に妨害することもなく様子を見ていた十勇士。

阻止しようと思えばできたが、それ以上に優先すべきことがあった。

 

それは、総大将の攻撃準備である。

 

「気の充填は完了した。...では、お前らに武の頂点を見せてやろう。これぞ我が奥義、光龍覚醒!!」

 

そう技を宣言した途端、石田の髪が逆立つと同時に金色へと変化し、彼を纏う気の総量が大幅に上昇する。

覚醒後の石田が放つプレッシャーに、大将を守る生徒達が無意識に一歩後ずさっていた。

 

「この技は1ヶ月に1回、それも5分間しか発動できないと縛りを設けてある。だが、その間は壁越えまで能力が引き上げられ、並大抵の攻撃は効かぬ」

 

例えるならば、限られた空間の中で相対する敵が大熊となり、こちらを撃墜せんと向かってくるということだ。

大半の人間は、そのまま為すすべもなくやられて終わりである。

 

「なに、5分間耐え忍ぶことに集中していればよい...できるものならば、な」

 

耐え忍んだ先に、果たして勝利が待っているのか。

大将を守る川神学園の生徒達の背筋に嫌な汗が伝う。

 

「技の開示も終えた。島、後ろは任せたぞ」

 

理由もなく技の効果をわざわざ敵に開示した訳がなかった。

この行動によって、自身の能力の上昇効果が底上げされるのに加えて、側近1名にその恩恵を少しだが与えることができる。

 

「御意。...必ず成し遂げましょう、御大将」

 

交流戦までの1ヶ月間、血の滲むような努力を重ねて改造した奥義であった。

石田の勝者に拘る異常なまでの執念が無ければ、ここまで到達することのはなかっただろう。

 

「っ、来るぞ!何とか堪えるんだ!」

 

各々の業物を持って、迎え撃つべく構える残存兵達。

 

「石田流の極意...その身に刻んでやるとしよう」

 

鞘から抜刀し"稲妻"の気を纏った刃を構えて先陣を切る石田と、その背中を守るべく槍を構える島。

あの刃から放たれるエネルギーをぶつけられては、とても自軍の生徒達では長く持ちそうにない。

 

何か打つ手はないかと脳をフル回転してその光景を観察していた大和であったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー違和感。

 

 

(ん?突入してきたのは確か"3人"いたはず。残りの1人はどこに消えた?...まさかっ!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大和から援護を頼まれたクリスは、他にも招集された生徒達と合流を果たしながら自陣の近くまで到達していた。

 

「早く自陣へ守りに行かないと!」

 

「うちの総大将には"専属メイド"がいるからすぐにやられることはないさ。とはいえ、若とユキのことも心配だから急がないとな」

 

川神一子と井上準が後方から着いてきている。

二人と合流する前からマルギッテを探していたクリスだったが、結局見つかることはなかった。

連絡も依然として繋がらないままであるため、一抹の不安を覚えるが...

 

(マルさんがやられたとしたら、相手に相当の実力者がいることになる。気を引き締めなければ!)

 

流石と言うべきか、ドイツ軍中将の娘なだけあって既に意識を切り替えていた。

他の生徒達にも声をかけつつ自陣への一本道までたどり着くと、見覚えのある人物達がこちらへ向かってきた。

 

「一子、クリス!それに、井上も。状況は大和達から聞いてるか?」

 

「キャップにゲンさん!あぁ、要請を受けて駆けつけたぞ!」

 

「ひとまず、お前らに怪我がないようで何よりだ」

 

風間翔一と源忠勝の二人である。

大和から要請を受けて、彼らも残っている生徒達を引き連れながら自陣へ向かっていたのだ。

合流を果たしながらも、足を止めることはなくそのまま道を進んでいく。

 

「後はこの道を一直線だ。...っと、あいつは誰だ?」

 

自陣まであと少しといった場所に、パソコンを持った天神館の生徒がいる。

見たところ、マスクもしており病弱そうだが。

 

「!気をつけろ、前に遺跡で最奥部にあったヤバい罠と同じ匂いを感じるぜ」

 

随一の危機管理能力を持つ風間の忠告を聞き、クリス達は足を止めて目の前の男に対して構える姿勢を見せる。

 

冷静に考えれば、敵の本拠地に貧弱な男が辿り着ける訳もない。

故に、その光景は異変としてその目に映る。

 

「ふむ、東の中にも目の肥えた奴がいるようだな」

 

こちらを警戒する様子を見て、男は一瞬の間にマスクと制服の上着を外して両手を構えた。

先程とは明らかに別人のような強者の佇まいであり、相対しているだけで彼の放つ威圧感が肌に突き刺さる。

 

「西方十勇士が1人、この大村が相手になろう。この道を通りたくば、かかってくるがいい」

 

そう語りながら、手招きをして挑発する仕草を見せる。

 

底しれぬ気味の悪さを感じるが、その先は既に戦闘が始まっているようで喧騒がここまで聞こえてきている。

自陣を目の前にして、ここで時間を取られる訳にはいかないと焦る気持ちが芽生える。

 

「...言っても相手は1人だ。倒して、英雄達の応援に向かうぞ!」

 

そう準が檄を飛ばし、残っていた生徒達と一緒に突入する。

その様子を見て、大村は口角を上げていた。

 

「我らの総大将が勝利のために己の信念を賭けたのだ。...なればこそ、この力を使うのが道理」

 

そう大村が深く腰を落として構えると。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー相対するクリス達の背に戦慄が走る。

 

 

 

 

「っ!下がれ、お前達!」

 

大村から放たれる膨大な気のプレッシャーを感じるも、後には引けず他の生徒達は突っ込んでしまった。

しまった、といった表情で準は急ブレーキをかけるが。

 

「ガトリング・クロゥ!!!」

 

瞬時に繰り出された圧倒的な手数の連続の拳に、突撃した兵達は声を発する間もなくその場に倒れ伏せた。

 

(何という必殺技!...攻撃される瞬間が肉眼で追えなかった)

 

紙一重で一歩引くことのできたクリスの脳裏には、無数の拳が繰り出されるイメージから千手観音が顕現したような錯覚を抱いた。

 

クリスのレイピアを握る手の力が、無意識に強くなる。

 

大村の一撃で、残りはクリス、一子、風間、源の4名まで一気に減らされてしまった。

 

「怖気付いたか?...ならば、回り道をすれば良い。辿り着く頃には、我々が勝ち鬨を上げているだろうがな」

 

九鬼英雄のいる本拠地の場所は工場のパイプラインで複雑に囲われているため、間を縫って侵入することができない。

 

簡単に突撃されないようにと選んだ立地だったが、ここに来て仇となってしまった。

狭い道のため、誰かを犠牲にして大村の側を通るのも難しいだろう。

 

「こいつ手強いぞ。一子、やれるか」

 

「もちろんよ!どんなに強い相手でも、逃げる訳にはいかないわ。勇往邁進よ!」

 

「ふっ...聞くまでもなかったか」

 

窮地でありながら、天真爛漫な輝きを放つ幼馴染の言葉に笑みを浮かべる源。

どんな時でも諦めない気高き心を持つ彼女だからこそ、あの九鬼英雄も惚れ込んでいるのだ。

 

「そうこなくちゃ!クリス、協力してあいつを倒すぞ!」

 

その言葉を聞いて、嬉しそうに風間も同意する。

 

「あぁ、強大な敵を前にして諦めるなど、騎士の恥晒しだ!...全身全霊で挑む!」

 

相手との戦力差を感じようと怖気付くことなく、互いに発破をかけて構える2-F組の4人。

 

それらのやり取りに大村は一つ頷き、次の技を繰り出さんと構えた。

 

「敵ながら、その心意気は見事なり。ならば、抗ってみせろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西の門番によって入り口が塞がれており、現状は応援が望めない状態とはつゆ知らず。

自陣では、石田の攻撃によって半数以上の生徒が薙ぎ払われて戦闘不能になっていた。

 

「石田流一閃!ふんっ、他愛もない連中よ。これならば、奥義を使うまでもない」

 

壁越えの能力者から放たれる鋭い刀捌きに耐えられる訳もなく、残り少数の兵が英雄を守るのに必死であった。

そんな中でも、小雪と心は敵の猛攻を捌きつつ打開のチャンスを伺っていた。

 

「そこだっ、はあぁーー!!」

 

隙を見て小雪が決死の足技を仕掛けるが。

 

「御大将には指一つ触れさせぬっ!!」

 

側に控えていた島の槍捌きによって難なく振り払われ、逆に英雄との距離を離されてしまった。

劣勢の状況下では、一人の行動によって大将への穴道を与えることになる。

 

「!...道筋が見えた。島よ、俺が敵大将を討ち取る様をそこで見ているといい」

 

「御大将、ご武運を」

 

その穴を見逃すこともなく、九鬼英雄の元へ駆け抜けようとする石田。

簡単には行かせまいと、心も柔道の構えを取るが...

 

「邪魔だ、石田流斬撃っ!!」

 

「にょわわぁぁ!刀使いに柔道は無理なのじゃあぁぁ!」

 

飛んでくる斬撃を避けることに精一杯で、ろくに反撃もできない状態であった。

そのまま刀の柄で突き飛ばされ、とうとう九鬼英雄の元へ接敵を許してしまう。

 

「その首もらったぞ、東の大将よ!」

 

「天晴れだ、西の大将よ。ここまで到達した褒美だ、我が直々に相手をしてやろう!」

 

その言葉と共に、着衣していた制服を脱ぎ捨ててふんどし一本の姿になる英雄。

 

「むっ!まさか服を脱いで俺の視界を塞ぐとは、やるではないか...ん?」

 

意図せず石田の構えを解除させ、一歩引かせることに成功する。

しかし、傍から見てもこの状況は絶望的であった。

 

(このままでは、我はこの男に敗れてしまうだろう。...神よ、それが運命だというのか)

 

自身の武力では太刀打ちできないことを冷静に判断しており、何か策はないかと周囲を悟られぬよう見渡すが。

 

「っ、このままでは英雄がやられてしまう。大和君、私達も行きましょう!」

 

「あぁ!せめて時間稼ぎぐらいには役立たないと...!危ないっ、一歩下がれ!」

 

次の瞬間、島の槍が回避する前にいた大和達の位置を薙ぎ払っていた。

 

「ここから先は御大将の領域。踏み入るならば、某が相手になろう」

 

「くっ、厄介な。気合で避けても、次の薙ぎ払いで吹き飛ばされるオチが目に見えている!」

 

「応援どころか、あずみさんもいないですし。...これは本格的にまずいですね」

 

冬馬達もこちらに向かおうとしているが、槍を構えた島に阻まれているためその場から身動きが取れない。

その他の生徒は小雪や心も含めて負傷しており、とてもすぐに動ける状態ではない。

 

(万事休すか...だが、"大将"として諦める訳にはいかぬ!)

 

打つ手無しの状態だろうと、何もせずに学び舎へ敗北の文字を刻む訳にはいかない。

護衛術として習った武術の構えをし、改めて西の総大将と目線を合わせようとするが...

 

当の本人は、こちらではなく何故か上空をじろりと睨みつけていた。

よく見ると、九鬼のヘリコプターが丁度この決戦の場所の真上を飛び続けているようだが。

 

(あれは九鬼のヘリではないか。この交流戦を中継しているのか?)

 

思案する間もなく、急降下したヘリコプターのドアがスライドし、中から一人の人物が飛び降りた。

工場のパイプラインを足場にして、勢いを殺すことなくその影は石田に向かって来ていた。

 

「突き刺すような気を感じたと思えば、まさか上空から参戦してくるとはな」

 

「っ!御大将、ご注意を!」

 

「分かっている...そこだっ、イナズマブレイド!」

 

先手必勝とばかりに、稲妻を刃に纏わせて影を一閃すべく技を繰り出す。

この技は、石田が光龍覚醒した状態でなければ放つことはできない強力な一撃だったが。

 

「ふっ!」

 

「なにっ!?」

 

駆け付けた少女らしき人物の刀捌きによって、見事に相殺されてしまった。

刀同士が衝突した勢いで周囲に突風が突き抜け、周りの生徒達は反射的に目を覆って衝撃を耐える。

 

次に目を開けた時には、九鬼英雄を守るように長髪の少女が刀を構えていた。

 

「...貴様、何者だ?」

 

得意の必殺技を難なく受け流されたことから、石田は警戒度を引き上げて目の前の少女を見据える。

その佇まいは堂々たるもので、強者特有のオーラを感じさせる。

 

「源義経、川神学園へ助太刀に参った」

 

「源...義経、だと?歴史の人物と同名ではないか。まさか、俺と同じように偉人の名前を冠した者が東にもいるとはな」

 

「義経は義経だ。同名どころか、源義経そのものだ」

 

「...よもや、生まれ変わりとでも言う気か?」

 

「そのまさかだ。その者は、我らが九鬼のクローン技術によって現代に再び蘇った源義経である」

 

英雄がそう答えると、流石の石田も動揺したのか少し構えが甘くなってしまう。

その隙を見逃すことなく義経が仕掛けた。

 

「そこだっ、せいっ!」

 

(!早い動きだ。だがこの距離なら間に合う)

 

何とか刀で受け止めるが、その細身からは考えられないような力強さを感じ取る。

 

「ぐっ...やはり、そう簡単に勝ち鬨を上げさせてはもらえぬか!」

 

「(!しっかり見られて対応された、この者は手強い)...源義経、推して参る!」

 

そうして激しい鍔迫り合いが始まった。

互いに一歩を引かずに刀の打ち合いを続けており、その衝撃から周囲の生徒達も戦いの手を止めて義経達の勝負に目線を向ける。

 

そんな中、大将たる英雄は両者を見届けながら別の思案を続けていた。

 

(義経がこのタイミングで参戦するということは、例のプランが動き出したということ。聞いていた予定より随分早いものだ。...そうか、雷が天神館側で参戦した理由はこれか)

 

戦場で起こったイレギュラーのピースを、九鬼の誇る英雄の脳内で組み合わせて一つの答えに辿り着く。

 

(マープルめ、我らを手の平で踊らせよって。しかし、今は義経に頼るしかないのも事実。我は大将として、この結末を見届けるしかあるまい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けっ。中継用のヘリとか言って、目的はそれかよ」

 

画面外に吹き飛ばされた屋根の上にて、義経の参戦を確認したあずみもその思惑に気づいた。

なお、現在は雷によって稲妻の鎖が彼女の周囲を纏っている状態だ。

 

普段のメイド服を着ていれば話は別だが、水着の状態では下手に動くことはできない。

よって、その場で英雄を見守るしかなかった。

 

「ようやく気づいたか」

 

「あのババア、ほんと好き勝手しやがって。序列1番を無視して行動するんじゃねえよ!...そうそう、雷。てめぇは、命令とはいえこのあたいを除け者にしたんだ、今度の飲み会は地獄コース確定な。それで許してやるよ」

 

「・・・・・・・」

 

こうなることは火を見るより明らかだったが、事情を説明したところでその罰が覆ることはなく、無駄な足掻きにしかならない。

ため息を飲み込んでこの場はスルーすることにした。

 

「とはいえ、お前がここまで協力するとはねぇ?やっぱり、クローン組に情が移ったんだろ」

 

「さあな」

 

「あぁ、そうかよ。答える気がねえなら...李が”1年間”溜め込んだギャグ500連発を聞かせてやろうか?」

 

「...はぁ、察している通りだ。俺にとっては重要な1年だったさ」

 

クローン組のお目付け役として命じられた1年間の任務のことである。

 

その任務の前後で、雷に変化があったと彼に近しい人物は皆感付いていた。

平たく言えば、以前よりも雰囲気が少し柔らかくなっていたのだ。

 

厳しい指導の中でも所々に暖かな気遣いを感じさせ、一緒の任務にあたった後輩からは一番頼りになる上司として全員から慕われている。

 

癖の強い九鬼従者部隊の中では珍しく男女問わず人望があり、例のファンクラブに入っている人数も右肩上がりで伸びていた。

 

「やっぱり、お前が序列1番になるべきだっただろ」

 

「...まだ気にしているのか?」

 

「ただの客観的な事実だっての。実際、今から若手の代表として序列1番に引き上げる者を発表するって言われた時、その場にいた全員がお前を意識していた。あたいもまさか、自分の名前が呼ばれるとは思ってなかったさ」

 

あのヒュームが認める圧倒的な武を持ち、その仕事ぶりについては他の者に引き継ぐまでミスターパーフェクトであるクラウディオが見誤っていた程である。

 

上層部から明らかに群を抜いて一目置かれている男を差し置いて、若い従者達は自分が選ばれる訳がないと思っていた。

 

「前にも言ったが、突っかかってくる奴は無視しておけ。構うだけ時間の無駄だ...向こうから手を出してくるなら、話は別だが」

 

「本当に年下なんだよな?」

 

「何なら未成年だ」

 

どんな局面でも冷静に対応し、今となっては困ってる他の従者のフォローも徹底している。

その隙の無さから人によっては最初に冷たい印象を持つ者もいるが、時間が経てば総じて尊敬の念に昇華する。

 

(にしても、同世代とはいえクローン組との”1年”であの雷狼に変化が起こるとはねぇ...そう考えると、癪だが武士道プランに意味はあるのか?)

 

「まぁもう少し上手いこと立ち回るか。名実共に序列1番へなってやるよ」

 

「気にしすぎだ。そもそも、俺はあずみを序列1番だと認めている」

 

(...そういうところだっつってんだ。こいつ、絶対いつか背中刺されるだろ)

 

とても素面では聞いていられないと、自陣の戦場へと目をやるあずみであった。

 

「...少し喋りすぎたな。引き続き、この戦場の結末を見守るとしよう」

 

九鬼の思惑が交差した東西交流戦は、間もなくクライマックスへと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあああーーー!!!」

 

「おぉおおおーーー!!!」

 

東と西の勝敗を賭けた戦いは、未だ石田と義経の真っ向からの斬り合いが続いていた。

両名の叫びとともに、剣嵐が巻き起こっていた。

 

義経の踊るような斬撃に対して、己の力と技の切れ味で食らいついていく石田。

互いに攻め手に欠ける膠着状態が続いているが、義経には一つ勝算があった。

 

(相手の覚醒状態は、5分で終了すると言っていた。後少し...)

 

義経は中継で石田の奥義に対する説明をしっかりと聞いていたため、時間管理を行いながら強引に攻めるようなことはせずに消耗を防いでいた。

 

「くっ、攻めきれないか。...これならばどうだっ!」

 

時間切れが近いことを感じて、石田は少し焦ったように斬撃を繰り出した。

 

(!技の切れ味が落ちた。今が好機)

 

時間も丁度5分が経過する頃だ。

実際、石田の金髪が少し淡くなってきていることを確認し、観戦している生徒達ですらも今がチャンスだと確認できる。

 

ここだと確信し、目の前の男を倒さんと鞘に手をかけギアを一つ上げようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー違和感。

 

 

 

 

5分経てば元の状態に戻るはずだが、一向に漂う気の強さが変わる気配がしない。

 

...武士としての本能が警鈴を鳴らしている。

その知らせに従って、瞬時に攻撃から防御の構えに切り替える。

 

そして瞬きをした次の瞬間、目の前で"赤髪"の石田が刀を振りかぶっていた。

淡く光った髪色は、やはり黒色に戻っていなかった。

 

刀を合わせて受け流すことは無理だと瞬時に判断し、全力で回避することに専念する。

 

「くっ!!」

 

 

ドゴオオォォーーーン!!!!

 

 

義経が紙一重で後方に跳躍すると、衝撃による轟音が鳴り響く。

石田が振りかざした場所は、直径3メートル程のクレーターが出来ていた。

 

(!何て力だ...先程とは別人と考えた方がいい)

 

金髪から赤髪に変化した石田は先程よりも獰猛な気を纏っていた。

そのプレッシャーは、中継の画面越しで見る者達にも突き刺さる程の大きさである。

 

「ふっ、5分はあくまで"奥義"の制限時間だ。奥の手は別で用意してあったという訳だ」

 

「!やはり、気づいていたのか」

 

「これは最終奥義...光龍覚醒のその先、天に立つための力。故に、発動するには寿命を削る必要がある」

 

「なんと、そこまでの覚悟で...!」

 

以前の石田では最終奥義は使えず、それどころか光龍覚醒の使用時に寿命を削っていた。

見かねた序列5番による助言と1ヶ月間の稽古、そして本人の狂気じみた努力の成果もあって大幅に改善されたのだった。

 

奥義を縛りによって発動できるようにすることで、その先の領域に寿命を代償にして踏み入ることができる。

 

「奥の手は、発動できなければ意味がないのだ。...ウチの阿呆共の中には、ペラペラとしゃべる奴やそのまま隠してやられる奴もいたがな」

 

宇喜多と尼子のことである。

本来は宇喜多が東の陣地をかき乱した隙を見て、一気に攻め込む算段であった。

 

「とはいえ、今の俺ではこの力を長く保てぬ。義経よ、次の一撃を最終ラウンドとしようじゃないか」

 

赤い稲妻を刀に纏わせて、刃の先を義経に向けた。

 

「...敵ながら天晴だ、義経はその提案を受け入れる」

 

(ここで使う予定は無かったが、全力を出さねば押し切られる)

 

義経は一つ息をつくと、今まで以上に腰を深く落として視線も下に向けた。

刀を帯刀したまま、精神統一している様子。

 

「貴様もまた、奥の手を持っているということか。ふっ、いいだろう。その上で、ねじ伏せてやる」

 

ビリビリとした刃を構え、力を一振に集中する石田であったが。

 

「...薄緑、剣神解放」

 

そう言い放つと同時に光が戦場を包み込み、刀から膨大な気が放出されて義経に集結する。

 

(っ、あの刀のどこにそんな量の気が蓄えられていたというのだ!?)

 

神に捧げたとされる名刀"薄緑"には、長い年月を経て神聖な力が宿っていた。

だが、その力を引き出すことができるのは使い手である源義経本人のみだ。

 

突き刺さる威圧感を振り払うと、相対する少女の背後に赤い甲冑を着た男が石田の目に映る。

こちらのことは全てお見通しだと言わんばかりに構えている様は、まさに歴戦の武人として完成された姿であった。

 

「!震えているのか...この俺が...?」

 

ーーー源氏の総大将を前に、石田の武者震いが止まらない。

 

「...だが、ここまで来たのだ。一人の武人として、後には引けぬっっ!!!!」

 

「はあぁああああーーーー!!!!」

 

互いの矜持を賭けた二人の刃が交差する。

次の瞬間、衝撃による暴風が辺りを吹き飛ばさんとしていた。

 

(!これはまずい、周囲に危険が及ぶ)

 

高台で戦局の様子を見ていた雷だったが、両名の繰り出す技の威力による被害をいち早く察知した。

見物している場合ではないと、あずみを封じ込めていた鎖を解放する。

 

「英雄を頼んだ、俺は先に行く」

 

「誰に言ってやがる、早く行け!!」

 

周りの人や建造物を守るため、瞬時に戦場へ移動し気のバリアを張って周りの生徒達へ声掛けをする。

 

「全員、頭を下げて地面に張り付け!」

 

突如現れた天神館の制服を着た銀髪の男に困惑するが、こちらを守ろうとしてくれているのを確認して迅速に指示に従う川神学園の生徒達と。

 

「雷よ、某には御大将の勇姿を見届ける責務がある!」

 

槍を構えて、その場から動こうとしない側近の島だ。

 

「...なら、俺の後ろで構えていろ!」

 

その言葉に頷き、地面に槍を突き刺して支えにする構えを見せた次の瞬間。

 

 

ドガゴォオオオオオーーーーーーーン!!!!!!

 

 

気のバリアで押さえつけた上でこちらまで衝撃が伝わってくる程の威力であり、工場に備え付けられているパイプがギシギシと音を鳴らしている。

 

(中々の衝撃だ...まさかここまで二人が成長するとはな)

 

バリアの中は砂嵐が巻き起こっており、どんな様子であるか外からでは確認できない。

嵐による衝撃が収まり、周囲の人間が頭を上げて確認した時には。

 

 

ーーー義経は膝を着いており、対する石田は刀を構えたまま立っていた。

 

 

「!まずい。葵、英雄のところに向かうぞっ!!」

 

状況から義経が負けたと思い、急いで英雄の元へ向かおうとした大和達であったが。

 

「良い勝負だった。...川神学園へ入学する前に、貴方のような強者と戦えたことを義経は誇りに思う」

 

その言葉を皮切りに、石田はその場で倒れた。

...とっくに意識を失っており、こうして立っていたのも奇跡だったのだ。

 

「御大将!!...くっ、無念だ」

 

島は急いで石田の側へ駆け寄ったが、静かに首を振って項垂れた。

 

「...ということは。俺達が勝ったのか?」

 

「えぇ。そういうことでしょうね」

 

「よく分からないけど、やったね!」

 

呆気にとられていた川神学園の2年生達は、自分達が勝ったことを徐々に噛み締め始める。

そんな中、英雄は堂々たる様で義経に語りかけた。

 

「義経よ!此度の勝利は、お前によってもたらされたものである。勝ち鬨を上げるがよい」

 

「だが、まだ義経は川神学園に入学していない。...良いのだろうか?」

 

「フハハ、何を遠慮している。この場にいる誰もが認めていよう。その状況で他に誰が上げるというのだ」

 

「!そうか、ならば...えい、えい、おー!!」

 

「「「えい、えい、おー!!!!」」」

 

工場地帯に川神学園の勝ちを知らせる声が響き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!この勝ち鬨は、俺達の勝ちってことじゃないか!?」

 

「やったじゃないか!それにしても...誰が討ち取ったんだろう?」

 

「はぁ~。結局、敵大将を一人も撃破できなかったわ...」

 

「そう気を落とすなよ、一子。お前の力が無ければ、俺達はとっくに崩壊していたさ」

 

聞き覚えのある声の勝ち鬨を聞いて、自分達が交流戦に勝ったことを知る4人。

 

「...そうか。我らの総大将は敗れた、か...無念である」

 

門番として守り抜いてきた大村も、結果を知って静かに首を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、この勝ち鬨はまさか!?...おいっ、羽黒!」

 

「これって、ウチらの勝ちじゃない~。イケメンとレスリングしてたらいつの間にか勝ってたとか、ウケるんですけど~?」

 

「...なんて事だ。このブサイクを沈めるどころか、東の女一人すら口説けぬまま交流戦に負けていたとは。やってられんっ!!」

 

勝負にも試合にも敗北し、龍造寺はそのままどこかへ走り去っていった。

 

「あっ、あいつ逃げた!」

 

「ちっ、逃がしたか。運の良いヤツ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!!...って、おい!いつの間にか勝ち鬨が上がっているじゃねえか!?」

 

「にわかに信じられないが、我々は負けたのだな」

 

お互いに実感がないまま、オイルレスリングは中断される。

 

「にしても、お前も中々やるじゃねぇか!」

 

「ふっ、それはこちらのセリフよ。東にも、ここまで根性のある者がいるとは」

 

勝ち鬨を聞いて勝負は引き分けた両名だったが、激しい体のぶつかり合いで親睦が深まっていた。

 

 

 

こうして、東西交流戦は川神学園の勝ちで幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東西交流戦を終え、九鬼本社に帰還した雷はすぐにマープル達に呼び出されていた。

 

「よくやってくれたね、雷。中継で見てたけど、あの映像は使えるよ。明日のテレビで流したら、世間に与えるインパクトとしては十分お釣りが出るくらいだ」

 

珍しく嬉々とした様子で、マープルが饒舌に語っていた。

自身の想像する以上の成果を得られることができて、好物のワインがいつもより進んでいるようだ。

 

「最初から心配はしていなかったがな。それにしても、あの石田とかいう赤子はお前が仕込んだのか?」

 

「あぁ。良い能力を持っていたから、それを表に出す手伝いをしただけだが」

 

「ふんっ、なるほどな。良い判断だったと褒めてやろう。そうでなければ、交流戦はただのごっこ遊びで終わっていただろうからな」

 

珍しく褒めたかと思えば、やはりヒュームは相変わらずの様子であった。

 

「中々の素質をお持ちのようでしたねぇ。ただ、彼は石田鉄鋼の御曹司。九鬼にスカウトするよりも、良き取引先として雷には関係を継続してもらいたいですね」

 

「言われるまでもない」

 

 

交流戦終了後、天神館へ戻る十勇士達へ別れの言葉を告げたことを思い出す。

僅か1ヶ月間のことであったが、雷の予想以上に皆から惜しむ声をもらっていた。

 

そんな中でも石田は、交流戦の悔しさを隠そうともせず終始無言を貫いていたが。

 

「雷。次会う時、俺はお前すらも超えて強くなってやる。...達者でな」

 

「あぁ、その時を楽しみにしている」

 

その言葉を交わすのみであったが、この2人にとっては意味のあるやり取りであった。

 

鍋島とも少し話をした後で握手をし、天神館の生徒達を見送った。

 

 

 

「さて、明日からクローン組は川神学園へ転入する。お前さんは2年生の3人の護衛に任命されているから、一緒のクラスだ。まぁ、3年の清楚も護衛の対象だがね」

 

「安心しろ、俺も紋白様と同じく1年生のクラスに転入する」

 

(...本当にギャグじゃなかったんだな。ステイシーが爆笑していたぞ)

 

1-Sに転入することになった紋白様の護衛として、明らかに老けた学生が1年生のクラスに転入してくることになるが、川神学園はそれで良いのだろうか。

 

「その前に、雷には武士道プランの真の目的もお話しましょう」

 

「今回呼んだのはそれが理由さ、よく聞いておきな。ーーーーーーーーー」

 

「...その話は本気か?」

 

「大マジだよ。何なら、帝様からは許可をもらっているさ」

 

「今の話を聞いて貴方はどうしますか、雷。...返答はこの場でお願いしますね」

 

瞬間に、ヒュームから感じる圧倒的な殺気。

嫌な予感がして周囲を見ると、クラウディオが既に糸を張り巡らせていた。

下手な回答をすれば、この場で"始末書"を書かされるということだろう。

 

対抗しようにも、交流戦から直接この部屋に向かっていたため、今は銃を保有しておらず腰に下げた短剣の一つのみ。

その状態で戦闘したところで、この二人相手には十中八九勝てない。

 

 

ため息をつき、目を瞑ってしばらく数巡した後。

 

 

雷の出した答えはーーーーーーーーー

 

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