本当に時間が経つのはあっという間です。
川神学園に通う生徒が過ごす島津寮。
風間ファミリーや源さんは、この寮で生活している。
昨晩の東西交流戦の疲れが溜まっており、大和は泥のように眠っていた。
「...8時間ぐらい寝たかなぁ」
「んーっ。爆睡したね、私達...」
隣で京がグーッと伸びをする。
道理で甘い、いい匂いがしたのだと大和は思った。
「天井裏の鳴子、あれじゃ仕掛けが単純すぎるよ」
深夜に警戒網を飛び越え、忍び込んできたようだ。
「しくしく...最近京の行動が過激になっている」
「うん、だって大和誰とも仲良くなってないし。フリーの男に猛攻撃を仕掛けて何が悪いッ、好きだッ!」
京のタックルを、横に跳んで何とか回避した。
「動物的な求愛行動だな...お友達で」
「相変わらずキッパリと言いなさる」
「そういえば、もう怪我は大丈夫なのか?」
「うん。モモ先輩が気で処置してくれたから」
「さすが姉さんだな...」
布団を片付けて1階の共有部に向かい、寮の管理人で岳人の母親である麗子さんに挨拶をして朝ごはんを受け取る。
そのまま皆と談笑しながら食べていると、ニュースの時間になったようだ。
「エグゾエルNo.1のイケメン寺ちゃんと!」
「雪広アナがお送りする、ニュースDEドゥーン!」
「龍造寺か...昨晩羽黒と死闘を繰り広げてたのに頑張ってるな」
「どこの局でも武士道プランの事で持ちきりですよ」
麗子さんを手伝いながらまゆっちが答える。
「新聞も一面だぜ、見てみろ。よく記事間に合ったもんだ」
新聞を広げていた源さんから、こちらに向けられる一面を見ると。
(...本当だ。"壇ノ浦の興奮再び!"というタイトルで昨晩の義経と石田の一騎打ちの場面が記載されている)
「えー、今朝から世界を激震させている武士道プラン。具体的にはどういう事かといいますと、寺ちゃん?」
「ふっ。世界最大の財閥と言われる九鬼は本日未明...源義経、武蔵坊弁慶、那須与一ら過去の英雄を、現世に転生させたと発表した。これが騒ぎの原因だな」
「えー、現在総理とテレビ電話がつながっています。総理、お忙しい所すいません。転生とは何なのでしょうか」
「つまりクローンだな。九鬼財閥はヒトクローンに、20年ぐらい前から成功していたんだろ」
「漫画や映画では見た事ありますが、まさかそれが現実になるなんて。よく義経の遺伝子情報が手に入ったものですね」
「九鬼財閥はあくまで過去の偉人を転生させるだけであり、通常のヒトクローンには着手してないと明言しているが。こいつは倫理・技術両面で世界が揺れる事は間違いないわな...俺もより忙しくなるから、失礼するぜ」
「総理、わざわざありがとうございました」
「義経さん達は川神市の川神学園が、本日から受け入れるとの事です。ここは武士の末裔も多いでしょうから、皆大喜びでしょうね」
「ぐぅっ、川神学園と聞くと昨晩のことを...」
「なに、寺ちゃん...また浮気したの!?」
「ばっ、生放送!生放送だ、雪っち!」
「あ...ごほん!今後は、九鬼財閥企業の株価の動きも注目されます☆」
俺たちはテレビを消した。
「ということで、今日から源義経達と授業らしい」
「随分と熱いプランだよな、退屈しないにも程があるだろ」
ワクワクした表情で、キャップは語る。
「ともに学び競おうと思う!」
クリスも過去の偉人と交流できるということで、どこか嬉しそうだ。
「あいつらSクラスだろうけどね、多分」
「クローンか。これからは機械の時代かと思ったけど、それにはもうちょっとかかりそうだねぇ」
そう話すのはロボットのクッキーだ。
元々は九鬼財閥が開発したもので、英雄から一子にプレゼントされたが、当の本人が要らないと言ってこちらに横流しされた。
今は、キャップこと風間翔一がマスターとなっている。
最新の技術を搭載しているだけあって、コミュニケーションもバッチリとれる。
「SFとかだと機械の時代って酷い事になってるよな」
「なんでそういう事言うんだよ!僕は、人間に親しみを持ってるのに...!!」
「...許せないな。久方の光のどけき春の日に、しず心無く散ってみようか?」
だが、気に入らない事を言われると直ぐに戦闘型の血気盛んな第2形態へ移行する。
「行ってきまーす」
「スルーかい!!」
そういう時はスルーするのが1番と、大和達は長年の付き合いもあって理解していた。
ーーー島津寮の皆で登校中。
キャップが武士道プランにワクワクして、バク宙を決めながら進んでいると。
「やぁ、キャップは思った通り元気になっているね」
「おうモロ。お前は週刊ジャソプ読んで、マイペースだな」
風間ファミリーの一員である、師岡卓也だ。
彼は、島津寮に住んでおらず実家から登校しているため、いつも道中の河川敷で合流する。
「川神では何が起きても、不思議じゃないからね。今回も偉人のクローンかぁ、何でもアリだねって感じ」
「住民もいつもと変わらない雰囲気だ。慣れたものだな」
「じゃあクリスやまゆっちが口数少ないのはなんでだ?」
「...昨日とは風が違うというのかな、ピリッとくるんだ」
「それはつまり、どういうこと?」
「昨夜のうちに強い奴が何人も街に入ってきて、川神に闘気が満ちてるって意味なんだぜ」
ゆらゆら揺れている松風が答える。
「それはまた嫌な予感がするな...京も察知しているの?」
「なんとなくね。クリスの風が違うって表現分かるな」
鍛えられた武士娘達は、強者の気配をある程度察知することができる。
壁越えした実力者達が集まると、その地の闘気に影響が出るのだ。
「弁慶が男なら、絶対パワータイプだよな。俺様だまっちゃいられねぇぜ、力比べで勝負してやる!」
「逆に女版の弁慶って想像できないね」
「きっと俺様のかーちゃんみたいなゴリラだぜ、うげぇ」
まだ見ぬ弁慶に対して、好き勝手想像を膨らませる風間ファミリーであった。
「そういや、ワン子はどーしてんのかな。ピィーー!」
「呼んだー!?」
キャップが一子専用の犬笛を吹くと、スクール水着を着た彼女が川から出てくる。
「うわっ、川から出てくるとか新しいねぇ」
「あはは、我ながらびしょびしょね...ん〜〜〜」
ワン子はプルプルと体を揺らして、水気をきっていた。
「どうした?川に入ったって食いもん落ちてねぇぞ」
「違うわよ、鍛錬してるの。重り背負って多馬川くだりよ。かつ、水中にいる外来種の数を確認するバイトね」
「鍛錬しつつ環境に優しい。凄いなワン子、いいこいいこ」
「うはは、褒められたわ〜」
「いいことしたら、いっぱい褒めるからな」
「じゃあアタシ、もっといいことするわ!」
同い年だが、大和と一子の間には躾けによる上下関係が築かれていた。
「なんだか親子みたいですね」
「おとーさーん!」
「あなた!来世でもあなた!前世でもあなた!」
横入りするチャンスを逃さず、京が追撃する。
周りもいつもの光景だと笑っていた。
「微笑ましいけど、そろそろ切り上げて登校しないと」
「おおっとそうだったわ。そんじゃ後でねー!1、2、3、着水、とりゃーー!!」
ワン子は勇んで、再び川の中にダイブしていった。
入れ替わりに、一つの強大な気がこちらに接近している。
「天から美少女とうじょーーーう!!」
すると、今度は川神百代が空から降ってきた。
「この姉妹、普通に現れようとしねぇ...」
ツッコミ役として、頼りになる松風である。
「皆が見えたから、大ジャンプして合流しにきたぞ~。安心しろ大和、皆に下着は見えない角度で跳んだ」
「貞淑だね、おはよう姉さん」
「ふふっ、お姉ちゃんちょっとハイなんだ」
「まぁ、格好のバトル相手が来たからねぇ」
「ああ、美少女らしくゾクゾクしてきたぞ」
武士道プランのことは、ニュース等は普段見ない百代でももちろん知っていた。
そのため、昨晩からずっとうずうずしている状態である。
「...遠目で見てたけど、義経は相当な使い手だよ」
「私も中継で観てたさ、最後の技は痺れたなぁ。さすがは日本が誇る英雄、是非ともお相手願いたい...まあ、1番気になるのは違う奴だけどな」
(姉さんが言ってるのは、もしかして最後に現れた人のことかな?)
「あぁ〜、早く闘いたいなあ...ん?誰だあいつら」
ウキウキした様子で周囲を見渡すと、橋の上でメイド服を着た女性二人がこちらを見ていた。
「みたか李、あれが百代だとよ。もぐもぐ」
「ステイシー、ハンバーガーの食べ歩きは行儀が...」
李とステイシーであった。
武士道プランの始動によって、彼女らも動員されている。
「にしても相変わらずロックな街だぜ、最高で最低だ。アタシらが歩いていても、皆写メも撮らないってのは相当だぜ?」
「異質な者達に慣れているんでしょう。さ、学校へ」
「李もポテト食えよホラ、アメリカンに生きようぜ」
「私が言うのも何ですが、会話は成立させてください。...あと、今はダイエット中です」
「ファッーク。これ以上どこを痩せるってんだ?」
「スマートなほど暗器が所持できるのですよ...暗記しましたか?」
「(スルー)しっかし、今年の夏もあっつくなりそうだなこりゃ」
「...ギャグに反応ぐらいして下さい」
そのまま、川神学園への方向へ歩いていった。
「九鬼のメイド達か、今日はやたら目につくなぁ...」
(あいつらは...決闘に応じるってタイプじゃないしなぁ)
「うはっ、なんか新顔が多くなって余計ワクワクしてきた!」
「...どうなることやら。俺は嫌な予感しかしないぞ」
武士道プランの始動によって、川神学園の生活はどのように変化していくのか。
大和は一抹の不安を感じていた。
ーーー朝のHRは、臨時で全校集会が開かれた。
「皆も今朝の騒ぎで知っているじゃろう、武士道プラン」
全学生達を前に、学長である川神鉄心の説明が始まっていた。
「この川神学園に、転入生が7人入る事になったぞい」
学長が示した人数に、皆がざわめく。
「あれ?確か武士道プランの人数は、3人じゃなかった?」
「まだ他にいる系?...イケメン系?じゅるり」
まだ見ぬイケメンへの期待に、2-Fの羽黒と小笠原は色めき立つ。
「武士道プランについての説明は、新聞でも見るんじゃ。重要なのは学友が増えるという事。仲良くするんじゃ。...競い相手としても最高級じゃぞい、なにせ英雄」
(確かに。英雄達と切磋琢磨できれば、驚くほどのレベルアップに繋がるはず。先人に学ぶの究極系だ。...これを機に力をつけてリベンジしなければ)
昨晩の交流戦で予期せぬ敗北をしたマルギッテが、情報を逃すまいと腕組みをして鉄心の言葉に耳を傾ける。
「武士道プランの申し子達は、全部で4人じゃ。
残り3人は関係者。まず3年生、3-Sに1人入るぞい」
「ほう。私のクラスか...物好きな奴もいるものだな」
「なんだSクラスか。私達F組には来ないのかー」
「残念で候。しかしこの時期にSとは、随分な学力で候」
「それでは葉桜清楚、挨拶せい」
鉄心の声とともに、女の子が1人しゃなりと前に出た。
そのまま、ゆっくりと壇上にあがっていく。
「...これはこれは。なんという清楚な立ち振る舞い」
男子達からは、ほーっというため息が漏れた。
「こんにちは、はじめまして。葉桜清楚です。皆さんとお会いするのを、楽しみにしていました。これから、よろしくお願いします」
ふわり、と挨拶した後、男子達の歓声が巻き起こった。
「やべっ、名前からして清楚すぎるんですけど!?」
「なんか文学少女ってイメージだね!いい感じ!」
「すっげぇ!宴にグッズ出したら、価値は間違いなくSR確定だぞ!」
「なんだよカワユイのにSクラスとか...Fにきてくれー」
...一部、女子からの歓声もあがっていた。
「あーあ、皆色めきたっちまって...ま、無理もねぇか」
「ハイハーイ、気持ちは分かるけど静かにネ!!」
全校生徒が騒めいているのを、2-Sの担任である宇佐美先生と体育教師で川神院の師範代でもあるルーが宥めていると。
「が、学長、質問がありまーす!!」
静かになりかけた時に、福本が大きな声で発言する。
「全校の前で大胆な奴じゃのう、言うてみい」
(確かに...彼女には大きな謎が1つある)
「是非、3サイズと、彼氏の有無を...!」
どこまでも性欲に真っ直ぐな男であった。
「全校の前でこの俗物がーー!!皆、私の教え子がすまん」
2-Fの担任である梅子先生に、鞭で一閃される福本。
「あぅぅうんっ!...ウッ!」
かなりの衝撃音だったが、気待ち良さそうな表情で沈んでいった。
「アホかい!...まぁ確かに3サイズは、気になるが」
「...ええっ」
思わず赤面する葉桜。
少し慌てたような感じだったが、一瞬彼女は自分が出てきた所の奥をチラっと見ていたようだ。
福本の処刑に目線を奪われ、大半の生徒は気づいていないが。
「おいジジイ死ね!」
「ごほん...皆さんのご想像にお任せします」
少し落ち着きを取り戻したようだが、まだ恥じらいが残っている様子だった。
「かーわーいーいーーー!」
「ああいう恥じらいは素敵ですね!!」
「やれやれ、若までおおはしゃぎだこと」
「テンション低いねー、この男は」
周りの男子生徒達が雄叫びに近い歓声を上げる中、準は静かに首を振った。
「三年ってさ、言ったら女としてもう腐ってるじゃん。やっぱり女は小学生までだろ、変な意味じゃなくて。それ以上はなんていうか...さようなら、だよね」
「腐ってるのは準の頭だよーん!この不毛地帯!」
彼のセンサーは、もう手遅れである。
「総代、真面目にやってくださイ!」
「おぉ、すまんすまん。つい、のう。...葉桜清楚、という英雄の名を聞いた事がなかろう皆」
「うん、そんな名前の偉い人は聞いた事がない」
大和の疑問はそれだった。
名前は日本人っぽいが、そのような人物は過去の偉人として存在していないはずである。
「あ、いないのね。知らなくてビクビクだったわ...」
「実はいます。ワン子、こんな常識知らないのか...?」
「ひいっ!?」
「大和のサドな冗談だよ、ワン子」
「よ、良かったぁ...お仕置きされるかと思ったわ」
鉄心の言葉を受けて、葉桜が発言する。
「これについては、私から説明します。実は私は他の3人とは違いまして、誰のクローンだか自分自身ですら教えてもらってないんです。葉桜清楚というのは、イメージでつけた名前です」
「そうなのか、自分が誰だか分からねーのか」
「25歳ぐらいになったら教えてもらえるそうです。それまでは、学問に打ち込みなさいと言われてます」
「それで、彼女はいったい誰のクローンなんです、英雄?」
説明を受けて駄目元で聞いてみる冬馬だったが。
「我が友冬馬よ。彼女に限り、我も知らぬのだ」
「おっ、人類の宝である九鬼英雄が知らなくていいのか?」
「フハハ。正体が誰であろうと、葉桜清楚は葉桜清楚でよい」
「...そいつはごもっとも」
彼女の正体は、九鬼トップの息子にも秘密であった。
「私は本を読むのが趣味なんです...だから、清少納言あたりのクローンだといいなと思ってます。何かおすすめの本があったら教えてください。改めて、よろしくお願いします」
そう話すと、彼女は一礼して1歩後ろに控えた。
「清少納言かぁ、そうなら確かにイメージ通りだよね」
「しかし存在感ある人だな。大勢の前で声もよく通る」
「正体が謎だから、テレビでは放送されなかったのか...」
「皆、テンションが上がってきたようじゃな、良いぞ良いぞ。次に、2年に入る4人を紹介じゃ。全員が、2-Sとなる」
鉄心が微笑みながら、次の紹介を進める。
上からの順番で、今度は2年生のようだ。
「ほー。此方達のクラスとは命知らずの奴ら」
「まず源義経、武蔵坊弁慶。両方女性じゃ」
「うげぇ、マジで弁慶女バージョンかよ」
「僕みたいな体格の人なのかなぁ」
大食漢である2-Fの熊飼がそう呟く。
「誰が得するんだよ。ノーサンキューもいいトコだろ」
「では、両者登場せい」
2人の女性がスタスタと歩いてきた。
1人は東西交流戦で見た少女。
...もう1人は。
「こんにちは。一応弁慶らしいです、よろしく」
遠目からでも分かるほど抜群なスタイルをした、どこか色気のある人物だった。
「結婚してくれーーーーー!!!」
「死に様を知った時から愛してましたーー!!」
「あんたら、アホの極みだわ...」
瞬時に手の平を返す馬鹿2人に呆れた様子の小笠原だったが。
「しかし、なんてーの...清楚とか見ちまうとアタイら自身汚く思えてきてさー。今度あんな色気溢れるのきちまって消えてぇ系」
「ほんとにね...なんだか自信なくしちゃうよ」
羽黒と同じ括りにされていることにも気づかないほど、クローン組の女性陣にインパクトを受けていたのであった。
「...ん、ごほん、ごほんっ」
「義経ちゃん、落ち着いて。大丈夫だよ」
「ん、義経はやれば出来る。ーーーも言ってたよ」
「!...よし。はじめまして、源義経だ!"性別は気にしない"でくれ」
そう話した時、チラリと奥の方を見ていたようだが気のせいだろうか。
「義経は武士道プランに関わる人間として、恥じない振る舞いをしていこうと思う。よろしく頼む!」
「うぉおおー!こちらこそよろしくだぜ!」
「女なのは気にしない!俺達にとってはご褒美だぜ!」
男子学生の怒号が、大地を揺らした。
「気持ちのいい挨拶だな、話が合いそうだ」
「確かに。クリスもはじめはああいうタイプだと思ってた」
「なんだ、今は違うとでもいうのか!」
自己紹介を終えた義経は、勢いそのまま弁慶の方へ。
「挨拶できたぞ、弁慶!」
「義経、まだマイク入っている」
全校に2人の会話は筒抜けであった。
義経は育った環境もあって、未だ大人数の前で話そうとすると緊張が中々抜けないのが課題である。
「...失礼した、しきりに反省する」
「緊張しすぎないことだね...はー、美味しい」
義経の反省した様子を見て、腰に下げたひょうたんを口に運ぶ弁慶。
「おおーーい!ひょうたんが気になってたが、後ろで弁慶が酒飲んでるぞーー!!」
「弁慶、我慢できなかったのか?」
「申し訳も」
1ミリも反省した様子のない弁慶であった。
そんな様子を見て、義経がフォローをしようとするが。
「こ、これは...皆も知っている川神水で、酒ではない」
「なんだ、そうか...って、川神水なら飲んでいいわけじゃないぞ!」
全校生徒から少しづつ非難の声が出ると、弁慶が発言する。
「皆さん、すいません。私はとある病気でして。こうして時々飲まないと、体が震えるのです」
「なんだそうなのか、なら仕方がないな」
「っていうかそれはア...むぐっ」
「空気読めよモロ。いいんだよ、美人なら川神水ぐらい」
「それにしても、特別待遇すぎる気もします」
当たり前だが、その他の学生は学園内に居る時に川神水を飲んではいけないのだ。
それを弁慶だけ許可されるというのは、偉人の生まれ変わりとは言え不平等ではという意見も出る。
「その代わり、弁慶は成績が学年で5位以下なら即退学で構わんと念書ももらっておる。じゃからテストで5位とかだったら、サヨナラじゃ」
「弁慶、お前は5杯で壊れる。これ以上は...」
「わかってる、そもそも今飲んでるのはわざとだし。全校の前で1度この姿を見せておく...こういう人間だと認識してもらうと、いつでも好きな時に飲めるわけで」
「無用に敵を作っているようで、義経はハラハラだ...」
「競走意識を刺激しているわけ。良しとして」
実際に、加入予定の2-Sでは弁慶の宣言に対して既に闘志を燃やしていた。
「常に学年4位以内ぃ?ようもそんな大口叩けるのぅ」
「さすがは偉人のそっくりさんだね、優秀だ〜」
「弁慶って頭がいいイメージはないんだが...」
「それでも、この学校ならいけると踏んだのでしょう」
「ほーうそれはそれは...ほんにいい度胸じゃ」
「引きずり落としたくなると理解しなさい」
「確かに、弁慶に勝ったって響きはカッコいいよな」
(お、早くもライバル視...プランの効果が出ているな。いいぞ、どんどん競って高め合ってくれ。疲れない程度にな...オジサンも楽でいいや。後は、仲良くやってくれれば万々歳だ)
宇佐美はこの流れを歓迎していた。
人の成長は、どれだけ周りの人間と切磋琢磨できる環境があるかで左右されるからだ。
「なんだか、皆に不快感を与えたかもしれないが...仲良くやっていきたい、よろしく頼む」
義経はまた深々とお辞儀した。
葉桜先輩も、たおやかに頭を下げる、
弁慶はしゅた、と手をあげる程度だった。
「女子諸君。次は武士道プラン、唯一の男子じゃぞ。後、もう1人の関係者も男子じゃ」
「ほう、女子ばかりでは味気ないと思っていた」
「まぁ、これが問題児なんだけどなー。(小声)...あいつ、上手くやったのか?」
「2-S、那須与一!でませい!」
「与一と言えば...恐らく弓使いだぞ京」
「女の子じゃないなら、弓使いでキャラ被りもアリ」
「どんな男だ。ダルやヒロみたいな奴だったら爆発しろ」
大串スグルが、まだ見ぬ偉人に対して悪態をついた。
後ろにいる岳人も頷いている。
皆が固唾を飲んで登場を待った。
すると、快晴だった空に突如雷雲が立ち込める。
「なんだぁ?予報じゃ、今日は晴れだったはずだが...」
「いや違う。アレは全て気で練り上げられている。...やっぱり面白そうな奴じゃないか」
百代は鋭い眼差しで、その正体を見抜いている。
その口角は、無意識に上がっていた。
「おい、前を見てみろ!」
皆が上空に目線を向けていると、いつの間にか朝礼台に弓を構えた男が立っていた。
「...兄貴の登場だ、刮目せよ。スターブレイカー!」
そのままエネルギーを纏わせた矢を雷雲に放つと、雲は破裂し空が元通りの快晴になった。
すると、上空から一人の影が与一の傍にすたっと着地する。
「ふっ、完璧に決まったな。これで組織の奴らは手を出してこないだろう」
「はぁ...お前が良いなら、もう何も言わん」
強烈な登場で共に現れた2人の男。
1人の弓を持った男は分かるが、もう1人の上空から現れた男は...?
「随分と豪胆な登場をしたが、そっちは武士道プランの関係者じゃな。ほれ、お主ら。自己紹介せい」
「俺の自己紹介など不要。後は頼んだぜ、兄貴」
そのまま壇上を去ろうとする与一だったが...
「弁慶がもの凄い目つきでお前を見ている、本当に良いのか?」
その言葉にビクッとした与一は、弁慶の方へ視線を向けずにできるだけ自然な流れで背を向けてマイクをオンにした。
「...那須与一。俺に構うと、深淵に立ち入ることになる。死を近づけたくなければ、俺に関わるな。以上」
先程とは打って変わって、とんでもない自己紹介が繰り出された。
後ろで般若の表情をした弁慶と、アワアワした様子の義経が映る。
流石の葉桜も苦笑いを浮かべていた。
「というか...あの感じどこかで見たことあるよなー?」
「何なら、絶賛悶え苦しんでるね」
「こっちを見ないでくれぇ...羞恥心で死にそうなんだ」
「恥じらい苦しむ大和もラヴ!」
過去に同じ厨二病を患っていた大和が一人苦しんでいると、もう1人の関係者らしき男がため息をついてマイクをオンにする。
「あれ、昨晩の交流戦で最後の義経と石田の衝撃から守ってくれた人じゃない?」
「!本当だ。あの時は天神館の制服を着てたけど、転入してきたのかな」
昨晩の情景を思い出しながら、朝礼台へ目線を戻す。
「...2-Sに所属する、九鬼従者部隊の蒼井雷だ。クローン組の護衛ではあるが、年は同じだから安心してくれ。よろしく」
簡単な挨拶だったが、女子生徒達から歓声があがる。
「ちかりん、あの人めっちゃイケてない~~?」
「ね!ようやく、新しいイケメンが来てくれたよ~」
反対に男子生徒は一部の生徒を除いて、水を差されたような気分になっていた。
「ちっ、あの登場からスマした挨拶してくれるぜ」
岳人がそう呟くも、武士娘達は雷をその目で見て確かな強さを感じていた。
「でも、あの人とんでもない実力者よ。底が知れないというか...」
「犬もそう思うか、気の感じがマルさんと同じだ。あの男、間違いなく数多の戦場を経験してるぞ」
「うん、私らじゃ多分敵わないね。モモ先輩なら勝てると思うけど...」
一子達から見ても、把握できない程の実力者のようだ。
「本人も言っておったが、雷は武士道プラン4名の護衛じゃな。あと、九鬼内部の序列はこの若さで5番じゃ。こんな強者と共に学ぶ機会は中々ないから役立てるのじゃぞ」
そんな2-Sは、雷が壇上に上がってからーーー
「!ライ、やはり貴方でしたか...フッ、こんなにも早くリベンジの機会があるとは。猟犬の名に賭けて、必ずお前を叩き潰してやります」
「おい、何してるんだあいつは...与一を引きずり出せば良いって話だってのに、本人がクローン組より目立った登場をしてどうすんだ」
「フハハハ!流石は雷よ。こちらの想定を優に上回ってくるな!」
「あずみさん、彼は貴方の同僚ですか?」
雷の観察を十分に終えた冬馬が、同じ九鬼従者に探りを入れる。
「あぁ。...言っとくが、あいつはウチよりも遥かにつえーから余計な喧嘩を売るなよ?」
「まさか、そんな事はしませんよ。...むしろ、彼とは是非とも仲良くなりたいですね、色々な意味で」
「私達を守ってくれた人だー!後でマシュマロあげよー」
そんな新たな強者を前に、武神こと川神百代は逸る闘気を抑えるのに必至であった。
(ここから見ただけでは完全な実力は読めない...ふふっ、まさか同年代にここまでの奴がいるとは。流石九鬼だな!あ〜〜、早く闘わせてくれっ!)
そんなこんなで、与一と雷は朝礼台から下がる。
「後は、1年生じゃな。共に雷と同じ武士道プランの関係者じゃ」
「!お友達をゲットするまたとない好機ですね松風!」
「イェア〜。寂しい心を狙い撃ちしてやるぜぁーっ!」
「2人とも1-Sじゃ!さぁ、入ってくるが良い」
「私のクラスね。使えそうな奴だったら部下にしよっと」
すると、鉄心の宣言を皮切りに執事服を来た者達が道を作り始めた。
...互いに肩を組んで、その上を歩いて行けるように。
「お?なんか行儀良さそうな奴がいっぱい出てきたぞ」
「あれは高名なウィー〇交響楽団...何故こんな所に」
彼らは、そのまま流れるように演奏をはじめた。
「これは、登場用BGMというやつ?」
「この雰囲気...なんだか嫌な予感しかしないわ」
ふと、後ろの方からどよめきが起こった。
なんだろうと皆の視線が集中すると、そこにはーーー
額にバツの入った少女が黒服の作った道を歩いていた。
「ふっふっふっ、はっはっはっ!!」
そのまま朝礼台まで辿り着くと、軍配を掲げて堂々と構えた。
「我、顕現である!」
「フハハハ!何を隠そう、我の妹である!!」
「分かっとるわー!それ以外何があるというのじゃ!」
「九鬼が2人も揃うとは、カオスすぎる...」
突如現れたキャラの濃い人物に困惑する生徒達だったが、この男だけは歓喜に震えていた。
「見た瞬間に心が震えたっ...圧倒的カリスマッ...!」
「あーあー、お前にとってはそうじゃろうな」
「...自分が、恋に落ちる瞬間を、認識してしまった」
「我の名前は九鬼紋白。紋様と呼ぶがいい!我は飛び級する事になってな。武士道プランの受け皿になっている、川神学園を進学先に決めたのだ。そっちの方が、護衛どもの手が分散せんからな」
ちらりと雷の方に目線をやる紋白。
当の本人は、弁慶から詰められていた与一を庇って場を宥めていた。
「...我は退屈を良しとせぬ。1度きりの人生、互いに楽しくやろうではないか!」
"フハハハーーーッッッ!!!"と、九鬼家特有の笑い方で自己紹介を締めた。
「凄ーく強烈な人が来たね...」
「寂しいという概念が存在する人なのでしょうか」
「そもそも会話が成立するのか怪しいんだぜ...」
「...おい、じじい。もう1人の転入生はどこだ?」
「さっきから紋ちゃんの傍におるじゃろう」
「...おいおい、やっぱりそんなオチなのか」
紋白が壇上に上がったと同時に、背後に現れた金髪のことである。
「そうだな。自己紹介しておけ」
「新しく1年S組に入る事になりました。...ヒューム・ヘルシングです、皆さんよろしく」
「そんな老けた学生はいない!」
全生徒の思いを代弁したツッコミであった。
「ヒュームは特別枠。紋ちゃんの護衛じゃ」
「別にクラスに入らなくても教師でもいいのにねぇ」
「そんな年配の方が来ても話題も合いませんよ」
「お嬢さん。こう見えて私はゲームなど好きですよ。スプライト型機体が、私のロボです」
「それPC98のゲームじゃねーか!何年前だよ!」
そんな中、百代はヒュームをじっくりと観察していた。
「...今の爺さんがヒューム・ヘルシングとは」
「強いで候?」
「強いなんてもんじゃないぞ、九鬼家従者部隊の零番だ。だが想像しているよりは強くは...お年かな」
(全盛期はジジイと三日三晩やり合ってたって聞いてたけど、あの感じでは無理だろうし)
前情報から大分ハードルを高く見積っていたため、雷を見た時のような高揚感を百代は感じていなかった。
だが、そう話していると...
「ふん...打撃屋としての筋肉が足りないぞ?川神百代」
「っ、いつの間に後ろに」
「ふん、大体分かった...お前もまだ赤子よ」
「消えた?」
そう言い残して、再びさっと瞬間移動した。
ヒュームもまた、川神百代をしっかりと観察していたということである。
「えーここで僭越ながら、ご挨拶させて頂きます」
「なんだあのご老人、いつの間に壇上に...?」
「私は九鬼家従者部隊の序列3番。クラウディオ・ネエロと申します。私達九鬼家の従者は、紋様の護衛と武士道プラン成功のためにちょくちょく川神学園に現れますが...どうか仲良くして頂きたい。皆様の味方です」
「フハハ、ちなみにクラの好みはふくよかな女性だ。未婚らしいので惚れた奴が口説いて良いぞ」
「ご解説ありがとうございます、紋様」
そう微笑み、クラウディオは一礼して紋白と共に壇上から降りた。
「さすが紋。堂々としたものではないか」
こうして全校集会は終了し、HRの時間になる。
教室に向かう生徒達は、転入して来たクローン組とその関係者達を思い浮かべながら、これからの生活への期待に胸を膨らませるのであった。