七星天の導くままに〜幼馴染の妹が魔法少女をやってるらしい〜 作:Ziz555
よろしくお願いします。
ここは日本、街の名前は海鳴市。山も海もあり、それなりに発展した街並みの、遊ぶところも暮らすところもすべてが綺麗に整った最高の街。
そんな最高の街に暮らす、精悍な顔つきで艷やかな黒髪に、右前頭部で僅かにまとまる白い髪がアクセント。右眼に残る、縦に大きく引かれた一文字の大きな傷も凛々しさに拍車をかけるナイスガイ。それが俺、
桜が散り終え、まだ肌寒さを感じさせつつ新緑が深まるこの季節。遊びに学びにアルバイト、万事青春バッチコイなこの俺が、ただいま現在何をしているかと言いますと——
「……で、君。
「えー、っと。その……人を待っているといいますか……」
「家族の送り迎え?名前は?」
「いやー……、家族ではないと言いますか、その。複雑な事情がありましてぇ……」
「人には言えない事情と言うことかな?」
「いえいえいえいえ!滅相もない!日々
「なら、言えるよね?」
「ええっとぉ……」
——小学校の前で、職質を受けていた。
私立聖祥大附属小学校、所謂エリート小学校と呼べるその学校の校門の前でとある少女の下校を待っていた俺は、余計な善意を働かせたらしい誰かの通報を受けた警察官にとっ捕まって職務質問を受けていた。
確かに親と言うには若すぎるし、面にキズのある男が校門の前で待ち構えているという絵面にいくらかの問題があると言うのは、客観的に見て分からんでもない範囲だ。
だが別に俺はロリコンと言う訳でも、当然ショタコンと言うわけでもない。至って健全な異性愛者だし、むしろナイスバデーなお姉さんの方が好み……げふんげふん。
「とにかく、別にやましい事は無いんですよ」
「……怪しい人はみんなそう言うんだよ」
「怪しくなくてもそう言うでしょう!?」
クソッ……、俺の面の良さが優男風じゃない事がこんな形で裏目に出るとは……!チィッ!顔の傷が似合うなんて、俺はどれだけ罪な男なんだ……!
「とにかく、詳しい話は署で聞くから」
「
警官が俺の腕を捕らえ、それに抗議しようと声を荒げたその瞬間。
「アストさーん!!」
元気な少女の声が響き、小さな身体が俺の身体めがけて飛び込んできた。
聖祥大附属の白い制服に身を包んだ栗色の毛の小さなそれを開いた右手で抱きとめてやると、両手でシッカリと俺を捕らえた毛玉がグリグリと俺の腹に押しつけられる。子供特有の温かな体温は、じわじわと熱くなる5月の気温に負けず劣らずの熱を俺に伝えてきたが、別にそれが不快と思うほどのことはない。むしろ、生命としての力強さに心地よさすら感じる程だ。
可愛らしいその仕草に思わず頬が緩むのを感じながら、その頭を優しく2、3回撫でつけてやると、少女が笑顔で俺を見上げた。
「学校は楽しかったか、なのは?」
「うん!」
少女の名前は高町なのは。俺の幼なじみの妹であり……まあ、俺にとっても大事な妹分だ。
「いやー、誤解解いてくれてたすかったよ、なのちゃん」
「どういたしましてなの♪」
なのちゃん——当然、なのはの事だ——の説得もあり、何とか事なきを得た俺は、そのままなのはの下校に付き添っていた。
なのちゃんと俺は、名前からもわかるように家族という訳ではない。こうして送り迎えに来ているのも、別になのちゃんの家族に頼まれているからと言うわけでもない。
じゃあ俺たちの関係は何か?とそう問われれば……、俺の幼なじみの妹でしかなくて。俺から直接の関係性で言うならばまあ、可愛い可愛い妹分だ。
俺達がこうして仲良くなった経緯を話せばそれはもう長くはなるのだが——。
そんなことを考えながら、俺は隣を歩くなのちゃんの方へ視線を向ける。すると、ご機嫌ニコニコご満悦といった様子でじっと俺を見上げていたなのちゃんとバッチリ目が合った。
「なのちゃん、ちゃんと前見て歩こうね」
「はぁーい」
俺の注意を真面目に受けてるのかも怪しい声音で、軽い足取りのまま街を行くなのちゃんに、俺は思わずため息を付いた。
こうして俺と出掛けることを喜んでくれているのは嬉しいのだが、どうにも浮かれすぎて危なっかしい所があるのが気になる所だ。まあ、俺が傍に居る限り、なのちゃんの事は絶対俺が護り抜くけど。
「先に荷物を置きに家に戻る?それとも、先に翠屋行く?」
「うーん……、じゃあ、翠屋でデート!」
「はいはい、デートね」
「わーい!」
“デート”と言う言葉に苦笑しつつも、俺はなのちゃんのその言葉を否定するような無粋な真似はしない。それで彼女が喜んでくれているならそれでもいいと思うし、別に俺にやましい気持ちがあるわけでもないのだから、少し
総じて言えば——なのはが笑ってくれているなら、俺はそれでいいと思えた。
そのままなのちゃんを連れ、繁華街方面へと足を運び、目的地の翠屋へと辿り着く。
ケーキの味が評判のこの喫茶店は、店内で甘味を味わう客だけでなく、テイクアウトを目的に訪れる客も多い、海鳴市ではちょっと有名な喫茶店だ。
小学生であるなのちゃんがデートの場所に指定するにはいささか大人びすぎている様にも思えるが、これにはちゃんとした理由がある。
俺が扉を押し開けると、来客を知らせるベルがカランカランと音を鳴らし、その音に気がついた男女2人の店員がこちらへ視線を向けた。
「いらっしゃい——って、明日斗くん」
「どうも」
「なのはも一緒なのね、いらっしゃい」
「お父さん、お母さん、おじゃましまーす」
……なのちゃんの言葉の通り、ここの店は彼女の両親が働いている店舗であり、カウンターに立つマスターの男性、高町士郎が彼女の父。その横に立っているのが翠屋のお菓子職人をしている女性、高町桃子。なのはの母だ。
実の両親の仕事場に“お邪魔します”という言葉を使うのは、なんとも奇妙というか……もう少し子供らしくしててもバチは当たらん気もするが、まあなのちゃんはこういう子なのだ。
ともかく、俺となのちゃんは時折こうして2人で翠屋に足を運び、学校であった事や、近況を互いに話す“デート”をして居る。という訳だ。
士郎さんに軽く頭を下げてから奥の喫茶店コーナーに進み、空いている席へ2人で座ると、お決まりのケーキと紅茶を注文した俺達は、そのまま互いの近況に関して話を始めた。
「でねでね、今年はアリサちゃんとすずかちゃんが同じクラスだから——」
学校での出来事を楽しげに話すなのちゃんの姿を眺めながら、俺は静かに相槌を打つ。
アリサちゃん、すずかちゃんと言うのは、なのちゃんの大事な友達であり、クラスメートの少女達だ。少年だったらただじゃ——ゲフンゲフン。ともかく、今年からは同じ塾にも通い始めたお友達であり、学校での話はもっぱらこの2人の事ばかり。
2人と出会う前のなのちゃんの事を知っている俺からすれば、アリサちゃんとすずかちゃんには感謝してもしきれない思いがある。
「——でね。今、将来のお仕事に関しての勉強もしてて」
「将来?」
「そう、将来、どんなお仕事がしたいかって話」
お父さんやお母さんがどんな仕事をしているか。そう言えば、小学校の社会学習の一環でそんな事を調べさせられたなぁ、等と過去に思いを馳せる。
「アリサちゃんはお父さん達の事業を継ぐつもりで、すずかちゃんは工学系の技術者になりたいって言って」
……嫌に具体的だなぁ!?君のお友達は!?
「……アストさんは将来どんな仕事がしたいの?」
「そう言うなのちゃんは?」
「アストさんのお嫁さん!」
「はいはい……。そういうのは良いから」
「むぅ……。冗談じゃないのに……」
ひらひらと手のひらでなのちゃんの冗談を躱しながら軽く流すが、……そうか、俺の将来か。
「……将来ねぇ」
「考えてないの?」
「まあな、この眼じゃ弓道やらアーチェリーの選手ってのも無理だし」
——自慢じゃないが、俺は昔弓道の天才選手だった。
弓と矢を番えれば、的を外した
けれど、右眼に残る大きな傷と——左の黒い眼と異なる右の赤い眼が、俺にその道を許さなかった。
後天的
とある事故で右眼に治らぬ傷を持った俺は、右眼の視力が極端に悪い。となれば当然、矢を射るなんてできない体になっていた。
「……マジでどーしよ」
「なら、ウチの事業でも継ぐかい?」
頭を抱えて将来に思いを馳せたその瞬間、士郎さんが配膳のためにテーブルを訪れた。
彼が運んできたケーキの甘い香りと、コーヒーの豊かな香りが鼻腔をくすぐり、俺の頭に思い浮かんだ重い悩みを軽くほどいてゆく。
「事業って……翠屋を、ですか?」
「ああ。明日斗くん、手先は器用で鼻も利くだろう?」
「まあ、人並み以上に自信はありますが……」
「僕のかわりにコーヒーを淹れてみないかい?」
「このツラで接客業は冗談でしょう」
ピッと俺が指差すその先は、深く残る右眼の古傷。清潔感が売りの喫茶店で、顔に傷のある男が働いているのは幾らなんでも空気が悪い。
「男の古傷は勲章、だろ?」
「いや、確かにこれは俺の自慢の勲章ですが」
「なら、良いじゃないか。まずはアルバイトからでも」
「なんですかその猛アピール。青田買いされる価値は有りませんよ」
「その方がなのはも喜ぶ。だろ、なのは?」
「アストさんも翠屋で働いてくれるの!?」
両手をテーブルについてその身を乗り出し、キラキラと輝く期待の視線で少女が俺の顔を見る。
これが俺の弱点とわかっちゃいるが——この視線にはめっぽう弱い。
配膳されたコーヒーに口をつけながら、俺は2人の視線から逃れるように視線をそらして、しばし考えて。
「……アルバイトなら」
「なら、決まりだね」
「やったー!」
無垢に喜ぶ少女の姿と、したり顔で微笑む大人の笑みに、なんとも複雑な心境になりながら溜息をつく。
……まあ、なのちゃんが笑ってるからいいかぁ。
案外単純だなと思いつつ、俺は決まってしまった新たなアルバイトの予定を組み込む。
……今のバイト、辞めないとなぁ。
研修期間中でまだ良かったな等と、些細なことに安堵を感じた。
その後、ひとしきりなのちゃんと話した俺は、日が沈む前には彼女を家へと送り届けて、俺も自分の家へと帰った。
俺の家には現在、俺が1人で暮らしている。両親が居ないという訳では無いが……、何かと多忙で国外を飛び回る2人は、俺を日本に残して仕事に付きっきりという塩梅だ。
親子仲が悪いという事もなく、年に1度は帰ってくるし、月に1度は便りをくれるいい両親で。高町夫妻が俺の事を気にかけてくれる事を知っているから家を心配なく空けている。
月明かりが照らす中、俺は1人、家の縁側にて座禅を組む。
古い日本家屋らしい作りをしているこの家は、手入れは面倒だが俺は結構気に入っている。中学時代、俺が弓道に導かれたのもこの家の風貌が理由の一端だろう。
座禅を組んでいるのは、弓道をしていた時代の名残で、俺に根付いた習慣だ。
己を静かに落ち着かせ、凪いだ心が世界と自分の境を曖昧にしていく。
弓を射る事も無くなった身の上でこの精神統一に意味が無いのは分かっているが……、付いた習慣というのはそう簡単には取れないもので。一種の脱力から来るこの時間は俺の唯一の趣味とも言えるモノだった。
風の音が、静謐たる夜の世界に色を付けていた。
——じくりと、右眼の古傷が疼く。
「——なんだ?」
僅かに焼けるような熱い感覚は、俺に嫌な予感を
そっとその傷に触れ——思い浮かべるのは、なのはの姿。
「……何もなければ良いんだが」
その予感が何を示すのか、今の俺に知る由もなく。
怪しく光る月光の夜、俺たちの運命が——誰も知らない間に、動き出していた。
懐かしさとか、香ばしさとか、そういうものを感じてくれたならって思います。