七星天の導くままに〜幼馴染の妹が魔法少女をやってるらしい〜 作:Ziz555
平成は平成でも1990年代のタイトルコールなきがしますねコレ。
放った矢が化け物の右眼に刺さる姿を目にし、磨いた自分の腕は案外まだまだ死んじゃいないと事実を知って、俺は自然と笑みを作った。こんな力は無くてもいいと思っちゃいたが——なのちゃんを護れると言うなら話は別だ。
右眼を閉じたそのままで、俺はその場を駆け出した。右眼を射抜かれた怪物は呻きはしても倒れはしていない。目を貫かれたなら脳にも傷がついて即死しそうなもんだが……どうにもそういう常識が通じるタイプじゃ無さそうだ。
「GYAOOOO!!」
「そう焦らなくてもたらふく食わせてやるよ……!」
大きく口を開け、怒りをにじませた咆哮と共に化け物がこちらへ駆け出した。
獣の四足と人の二足で速さを比べれば、当然四足が速度で勝る。リーチが武器となる弓で距離が詰まれば当然俺が不利になる。
加えて、俺の身の丈と同じかそれ以上の体躯を持つ大型肉食獣の爪や牙が襲いかかればこちらは即死。対する俺の弓矢は当てたところで即死にならないとなれば、圧倒的に不利はこちらについている。
だが。
「
獣の牙など——
俺が駆け出した先にあるのは1本の大樹。こちらを追って駆け回る獣の背後にそのまま幹へと駆け込んで——。
——そのまま大樹を駆け上がる。
そびえる樹木を2、3歩足で蹴り、獣の頭を飛び越すほどの高度を稼いで幹から飛び上がる。
垂直の樹から飛び上がれば当然、俺の身体は地面と水平方向に宙へと放り出され、俺を追いかける直進していた獣の真上を飛び越える軌道に乗った。
「今——ッ!」
身体を捩ってその身を捻り、右手の矢を番えて放す。瞬間交差に高速3射。狙いをつけて、
パパパと続けて音が鳴り——それら全てが獣の硬い表皮に弾かれた。
「アリかよ、そんなん……!」
捩った身体をそのまま回し、矢と弓を離すことなく両の足で再び地面へ脚をつく。
弓引く時間が短い連射は、確かに威力で劣るだろうが、
逃した
こちらも相手の出方を注視しながら、次の戦略を練る。
——放った3射の着弾位置は、俺の狙いと僅かにズレていた。
片目で狙う射撃では、角度と距離の感覚にどうしたってズレが生じる。
足を止めて、息を整え、心意を乗せる一矢なら、“慣れた手つき”でそこのフォローをすることもできるだろうが……射る俺が走りながらや、動く標的にピンポイントで狙撃をするのは現実的ではないだろう。
体表へ放つ矢が意味を持たぬなら、こちらが狙うは残された臓器——左眼の1点のみ。
——やれるか、俺に。
元々神弓は神事のための祭具でしかない。矢筒に納められていた矢は合計7発、4発放って残りは3本のみ。
右手の指先でそれらの矢筈を撫でてから、次の一矢を弓へと番える。
——
必要ないと、後悔はないと言ったその日の内に俺は思わずそんな悪態を心に浮かべた。
けれど、心の芯は変わらない。
——なのはは、必ず護り切る。
例えこの眼の様に俺の命が喪われようと。彼女だけは必ず。それが俺の唯一の望み。たった1つの己の約束。
矢を番えて構えを作る。体を開いて、大きく弦を引き絞る。
——差し違えてでも。俺は。
心と狙いを研ぎ澄まし、番えた弓矢へ心意を乗せる。
回避は——しない。右眼の瞼の裏に浮かぶ、己の身体に突き立つ牙や爪の幻は、しかし俺の心を動かすには至らない。
その程度で、俺の一矢は揺らがない。
息を整え、心に凪を作り出す。研ぎ澄まされた意識の中、世界の色が失せていた。音が遠く取り残されて、時の流れが引き伸ばされてゆく。
極限の集中が俺以外の全てを置き去りにする。
——風が、吹いた。
獣が大地を蹴るとともに、俺の弓矢が放たれる。
一瞬の交差、刹那の瞬間。
——視界の端に映ったなのはの姿に、俺の指先が僅かにズレた。
「なのは——っ!?」
なぜ逃げていなかったのか。——そんな邪念が、俺の一矢を惑わせた。
放たれた弓矢は獣の頬をかすめて空を切る。
外した——っ!?
「なのは——ッ!!」
弓と矢を捨て、俺はなのはの元へと駆け出した。せめて、彼女を護らねば——!!
——『Set up』
その場にそぐわぬ平たい機械音声が、やけにはっきり耳に響いた。
「——お願い!レイジングハート!!」
『——Set up』
「レイジングハートを……無詠唱で!?」
アストさんへ怪物が襲いかかった瞬間、私は自然とそう声を上げていた。
私の意思を汲み取ったレイジングハートが起動して、杖となって私の手に収まって。私はそれを構えてアストさんの前に立つ。
「させない!!」
『Protection』
光の魔法陣が壁を生み出し、飛び込んできた怪物を弾き飛ばした。
「なの……ちゃん……!?」
「大丈夫?アストさん!」
「大、丈夫……。ありが、とう……?」
アストさんはぽかんと口を開けたまま、私へ右手を伸ばしたその姿のまま固まっていた。
そのまま行けば、危なかったのは自分なのに。私の方へと手を伸ばして——。
「行くよ、レイジングハート」
『All right』
これ以上、アストさんを傷つけさせない。
イメージするのは光の弓矢、私がよく知る敵を撃ち抜く強い力。
桜色の輝きが私のイメージを形に変えて穂先を獣へ差し向けた。
「いっ……けぇ!」
『Fire』
ジュエルシードの怪物へ3本の矢が放たれる。光の速さで貫くソレに身を捩るだけで回避の間に合わなかった怪物は、短いうめき声を上げてその場に倒れこみました。
力を失ったのか、みるみる身体が縮んでゆくと——そこには小さな傷だらけのワンちゃんと、淡く輝く蒼くて小さな宝石が。
「す、すごい……なのははやっぱり魔法の才能が……」
「……お前、喋れんのかよ」
「あっ」
「にゃはは……」
振り返れば、地面に座って胡座をかいたアストさんと、気まずそうな顔で彼を見上げるユーノ君が居るのでした。
とりあえず、化物になってたらしい野良犬をさすがにそのままほっとく訳にもいかずに保健所へと連絡だけ済ませた俺達は、神弓を神社に返してからその場を離れて——俺の家へ訪れていた。
居間に置かれたちゃぶ台を囲む様にして2人と1匹……3人なのか?とにかく、俺達はその場に顔を突き合わせてフェレットの話を聞いていた。フェレットが昨晩から今に至るまでのざっくりとした経緯を話し終えた辺りで、俺は一度コップの麦茶に口をつけた。
「……で、そのジュエルシードとやらを集める為に魔法の力をなのはに貸した。と」
「はい……」
人語を話すフェレット……ユーノと名乗ったこの珍獣は、どうやら別の世界から来た存在で。はた迷惑な事に危険なブツを事故で地球に落っことしてしまったらしい。
ブツの名前は“ジュエルシード”。小さい宝石のような形をしたソレは、なんとびっくり、7つ集めずとも1粒あれば願いのかなう願望器とのことだ。そりゃまた汚いオトナがこぞって欲しがりそうな危ない代物だこと。
「獣が触ればあんな危険な化け物になる代物がこの海鳴の街のそこかしこに散らばってる訳だ」
「だからその、僕が責任を持って集めないと」
申し訳なさそうに首をもたげる姿を見るに、この珍獣にも責任感と罪悪感と言うものはあるらしい。ありゃ許されると言うもんでもないが。
「一回負けて、偶然お前のテレパスを受け取れたなのはに魔法使いの素養を見出したのが昨日。事故の噂もジュエルシード絡みか」
「え、ええ……そのとおりです」
「アストさん、凄い……探偵さんみたい」
「
右手の肘をつき頬杖で重たい頭を支えながら、死ぬかと思ったドタバタ劇を思い出し、思わず眉間にシワが寄る。結局得すんのはいつもアイツで、俺は骨折り損のくたびれ儲けだったがな。
しかし……“魔法”か。
気功や吸血鬼もどきが隠れながらも実在して、その光景を目視した以上存在を疑うような真似はしないが。となると1つ気になる点が出てくる。
「警察組織はねぇのかよ」
「警察……?」
「“別の世界”からの移動中で“地球に落とした”んだろ。なら、その“異世界航路”を管理してる連中の話だよ」
「…………」
「…………なんだよ」
「その……本当に頭の回転が速いな、と……」
「バカにしてるなクソイタチ?」
「いやいやいやいやいや!!!違います違います!」
小さい体で器用にブンブンと首を振るう仕草は、フェレットというより人の仕草そのものだった。今はこうして獣の姿を取ってはいても、元の身体は案外俺等とそうは変わらないのかも知れない。
「とにかく!……時空管理局へは、一応通報はしましたが……おそらく動いてくれる事は無いかと」
「……無関係の人々の命が危険に晒されてるってのにか?」
「
「世界規模じゃよくある事故、って事か」
「え?え?何、何?どういう事なの!?」
話の筋の見えないなのちゃんが俺とユーノの顔を見比べる。確かに、小学生が聞くには些か複雑な話をしている。
「簡単に言うと、俺達がその“時空管理局”を知らない以上、“時空管理局”も“俺達のことを知らない”んだよ」
「……知らないとどうなるの?」
「事故がおきたことも“知らない”となる」
「そ、そんなのって……」
「組織って事は管理してるのも働いてるのも同じ人間だ。“手に負えない”事までは背負えねぇって事だよ」
“
内心そんな言葉を付け加えながら、俺は頭の中で事情を整理する。
「勝手に事態収拾にあたって問題無いのかよ」
「はい、現地の問題を現地の人の力で解決する……と言うのは、よくある事例なので」
「えらく古風な考えですコト……」
要するに、
・海鳴市は現在。危険な代物、ジュエルシードがそこかしこにあって。いつ何時誰が危険にさらされるか分かったものじゃない。
・ジュエルシードの回収には魔法の力が必要であり、ソレは現在ユーノ本人か、素養のあるなのはにしか行えない。
・警察組織は当てにならず、“自力でさっさとなんとかしろ”と言うのが通例。
というのがざっくり今の現状らしい。
「…………はぁ、とりあえずあのバカ巻き込むか」
「ちょ、ちょっと待ってアストさん!!」
面倒事と力仕事言えば
「どしたの、なのちゃん」
「そ、その!お兄ちゃんやお姉ちゃんには……その、内緒にしてて……」
確かに。なのちゃんは現在、この重大な問題を家族に相談している素振りを見せていなかった。と言うか、確かに
「……もしかして、なのちゃん。自分だけで何とかしようとか思ってる?」
俺の言葉になのちゃんはビクリと肩をすくめて固まる。どうやら図星だったようだ。
「……だ、だって……、魔法の力があるのは私だけだし、お兄ちゃんやお姉ちゃんが危ない事に巻き込まれるのは、私は——」
「
「————っ」
なのちゃんは優しい。優しすぎる位に、
「なのちゃんはみんなを大切にしてるのと同じぐらいか、それ以上に。俺はなのちゃんの事を大事にしてるんだよ」
「それは……」
なのちゃんが俯きながら口籠る姿を見て、俺の心が僅かに痛む。ズルい言い方をしている自覚はある。けれど、ここは譲れない。
「で、でも、ジュエルシードが暴走したらみんなが危なくて……」
「戦うだけなら俺と恭也がやればいい。無力化したあとに封印だけそこのフェレットにやらせる手だってある」
俺を魔法で守ってくれたのは確かになのちゃんの活躍だが、
「た、確かにアストさんの戦闘力は凄かったですけど……。なのはがいなければ危なかったみたいに、魔法の力無しで戦うなんてさすがにはい——」
「
——御神流。高町恭也の修める剣術の正式名で、古くから伝わる
「お兄ちゃんが……?」
「そうだ。だから、この件は俺と恭也で——」
バカをやってたあの時よりも俺は確かに弱くなったが、アイツの腕が錆びちゃいないのは見てれば分かる。今のあいつに護るべきものがあるのは知ってはいるが、今回ばかりは——。
「——だ、だめ……!」
——俺の言葉を遮って、否定の言葉を口にした彼女の声に。俺は思わず言葉を失い、目を見開いた。
「ダメ……なの。これは、この事件は。私が、やるから。お兄ちゃんも、お姉ちゃんも。お父さんも、お母さんも。……みんな、みんな私が護るから」
「なの——」
「アストさんを、護るから——!」
震える声で、僅かに涙を滲ませ潤んだ瞳で、首にかけた赤い宝石を握りしめ。
けれど確かに、強い決意を秘めた瞳で。なのはは俺の事を見ていて——。
「……その、すみません。アストさんの意見も最もなんですが」
申し訳なさそうに声を上げたのは、元凶ともいえるユーノその人(フェレットだが)だった。
「この件は、あまり多くの人に伝えるべきではないんです。魔法の力が一般的ではない場所でこういう事態を広めすぎると、それこそ時空管理局が動くハメになりまして……」
「数人の死者より酷い始末になるってか」
「……漏洩がきっかけで戦争が起きた世界もあると聞きます」
そんなもん、俺にバレてる時点で少しでも多くの仲間を作ってとっとと終わらせた方が防げるもんだと思ってしまうが……、ユーノの態度を見る限り、“魔法の力”が無ければまともに戦力として数える訳には行かないらしい。
事実、“魔法を持たない”俺は——本来あそこで死んでたはずだ。
「ハァ」
俺は大きく溜息をつく。
恭也が腰を落ち着けて、“そういう話”を聞かなくなった。厄介事を呼び寄せてるのはあの朴念仁だとばかり思っていたが——。どうやら俺のイケメン具合は、イタズラ好きの女神の目にも止まっていたらしい。
「わかった。この件は他言無用にしておいてやる」
「それって——」
「ただし」
ぱあっと顔を明るくしたなのちゃんへ、ずいと人差し指を向け、乗り出す身体を押し返した。
「条件が1つ。……事件に対応するなら、必ず俺の見てるところで。だ」
「で、でも。それじゃ魔法の使えないアストさんが……」
「自分の身を守るぐらいは出来るんだよ。あんまり俺を舐めんじゃねぇ」
なのちゃんへ指していた指の矛先をユーノへと変え、ペしりとその鼻先を軽く叩いて黙らせる。悪いがそんなに俺はヤワじゃねぇ。
「約束、守れるよな?なのちゃん」
俺は視線をなのちゃんへと戻して言葉を投げかける。
本当ならこんな約束でさえかなり譲歩をしている方だ。俺はなのちゃんを必ず護り抜くと決めている。それなら、危ない事には近付けないのが一番だからだ。
けれど、それでも。なのちゃんが危険に晒されるとしても、俺がそれを許すのは。
俺が彼女に——笑っていて欲しいから。
「——うん!」
なのちゃんは満面の笑みを浮かべ、大きく深く頷いた。
どんな理由があるとしても、“やりたい事”に挑戦するのを応援するのも……きっと、“護る”ということなのだろう。
「じゃあ、指切り」
「うん、わかったの」
そっと差し出す俺の右手の小指へと、なのちゃんが右手の小指を絡ませた。
「ゆーびきーりげーんまん」
俺と彼女の声が重なる。心に誓うのは、あの日と同じ誓いの言葉。
——俺が必ず、君の笑顔を護ってみせるよ。
中学時代の恭也や明日斗は何やってたんやろなぁ……
〜次回予告〜
なのちゃんが魔法少女になって数日、やはりというかなんというか、頑張りすぎて熱を出して寝込んじまった。
仕方ないから翠屋JFCの応援は代わりに行ってやる事に。
華麗なシュートを見届けてたら、今度はシードが暴走してる!?
ここはいっちょ、俺の華麗なShootを見せてやりますか!
七星天の導くままに、次回!
『放てシュート!ゴールへ描く放物線!!』
お楽しみに!
※7/20追記