七星天の導くままに〜幼馴染の妹が魔法少女をやってるらしい〜 作:Ziz555
このペースで上げてますけど、ストック一切ないのでどっかで更新空くと思います。
人々が寝静まった夜。俺達は光を放つ危険な宝石と対峙する。
「一矢神速」
「ジュエルシード……封印!!」
闇夜に放った俺の一矢は、翡翠の光で夜空に尾を描き、暴走するジュエルシードを封印した。
「成功だね、アスト!」
「応、ナイスアシストだぜ、ユーノ」
「うん!!」
左手の弓を右手に持ち替え、右肩に乗るユーノへ左拳を向ければ、ユーノの小さな手が俺の拳に重なった。
完全勝利の喜びを、俺とユーノが分かち合——。
「ずぅぅぅぅるぅぅぅぅいぃぃぃぃ!!!!」
「うわぁっ!?」
「おっと……」
背後から突如聞こえた怨霊のような声に驚き、肩から転げ落ちたユーノを即座に左手でキャッチする。
振り返って声の主を確認すれば、そこには白いドレスに身を包み、どこか機械的な魔法の杖を両手で握る魔法少女——なのちゃんが恨めしそうに俺達を見ていた。
「悪ぃな、なのちゃん。今日は俺の勝ちってことで」
「ずるいずるいずるい!いつの間に2人は仲良くなったの!?」
「あそっち?」
キャッチしたユーノを
モノクルのように俺の右眼に展開された魔法陣をユーノが閉じて、とりあえず封印したジュエルシードの回収へ向かうことにした。道中は、ご機嫌斜めのなのちゃんを宥めながらだな。
海鳴の街を侵食する樹の1件から、なのちゃんの魔法少女活動の傍らで俺とユーノはコンビを組み、狙撃による封印のサポートを行うようになっていた。
俺の狙撃と、ユーノの視覚補助と封印魔法。
なのはとレイジングハートの連携に負けず劣らずの連携を見せる俺達は、ジュエルシード回収のための確かな戦力として完成しつつあった。
毎晩の戦闘も、一部を俺達が受け持つ事でなのちゃんの負担軽減にもつながっているし、何よりぼさっと見ているより余程
そんなこんなでここ数日の夜は、なのちゃんの活躍よりは俺達の活躍が目立つジュエルシード集めが続く事となった。
労働力が倍になった影響は案外大きく、このペースなら恐れていた事態も起きずに済みそうだと、俺は内心安堵しながら、何が不満なのかわからないなのちゃんのご機嫌取りに勤しんでいた。
ジュエルシードの感知ができない以上、俺1人でジュエルシード探しが出来ないことは気になるが——まあ、適当やってりゃそのうち終わるだろう。
サクッとシバいて、サクッと封印。サクッと回収まで済ませれば、後は帰ってぐっすりお休み。寝る前のちょうどいいランニングぐらいの疲労感はむしろ健康的とさえ思える。
そんなこんなで封印し終えたジュエルシードを回収して今晩は解散となり。順風満帆絶好調と、気分の乗った俺はなのちゃんを見送った後、軽い足取りのまま夜の散歩と洒落込むこととした。
両手をポケットに突っ込んで、夜の街を鼻歌交じりで歩いていく。
自慢じゃないが、俺は自分の機嫌を取るのが上手い。だから常に絶好調だし、いつでも面白可笑しく人生満喫している勝ち組野郎の自覚もあった。
けれどここまで気分がいいのは——やはり、なんだかんだ久しぶりに射れる弓矢が楽しいのだろうか。
夜空を見上げると、七つの星がふと目についた。
「北斗七星か」
空に浮かぶ、柄杓のような形を作る七つの星。柄杓の先端を伸ばした先へ、そのまま視線が吸い寄せられた。
そこに浮かぶのは、天の軸ともいえる星。北の極みに小さく輝く2等星。
「……懐かしいな」
——昔のことを思い出し、そっと右眼の傷に触れた。
あれは……もう、何年前の話だろうか。
士郎さんも、恭也も。桃子さんも美由希ちゃんも忙しくて、なのちゃんが1人だった頃。俺が、恭也からなのちゃんの事を頼まれていたあの頃の話。
楽しいことを知ってほしくて、大人に内緒で2人で山を登り始めて。
足を滑らせ崖から落ちたなのちゃんを庇って——俺の右眼がやられたあの事故の日。
バカなことをしたものだと、あれは、起こるべくして起きた事故だと今なら思う。子供だけで不用心に山に行くなんて事をした俺が全面的に悪い話だ。
けれど、後悔はしていない。何もいい子にしてたからって、得られるものは何もないと俺はやっぱり思っていたし、実際なのちゃんには傷一つつけてないんだからそれでいいんだ。
——帰り道を見失って、暗くなる山の中。夜空に浮かんだ北斗七星から北極星を探し出し、俺達2人で山から降りたあの日の事は。忘れられない思い出だった。
「あの日、俺はお前に導かれたみたいなもんなんだよな」
北斗は死を意味する。北斗に向かうものへ死を、そして逆に——北斗を背負う者に勝利を。
「ってなると……俺は今不吉な方角に歩いてんのか?」
感傷に惹かれて、自然と山の方へと向かって歩いていた俺は、思わずその足取りに苦笑する。別にただの迷信に過ぎないが。
「なんでもいいさ、俺の事なんて」
俺1人の事なんて、どんな様にもいくらでも出来る。やろうと思えばなんだって楽しくおかしく生きていくぐらい、俺なら簡単に出来るだろう。
「だけどさ」
そんなどうでもいいことなんかより。
「なのはの事は……ちゃんと導いてくれよ」
俺は、なのはが1人で笑えるようになるまで。あの子の笑顔を守らないといけないから——。
視界の端に、青い光がキラリと見えた。
「……ん?」
視線を向ければ、道端の草むらの中、なにかがそこに転がっていた。
まさかと思い、そこに歩いて近寄れば——予想通りと言うべきか、ジュエルシードが転がっていた。
「運がいいのか悪いのか、コレで今日は2個目だな」
コレも北斗の導きなのかね。なんて、そんなことを思いながら俺はその青い小石に左手を伸ばす。
——不用心な話だった。
俺は、
見て知っているのは、起動中のジュエルシードと、封印処理が施され、沈黙しているジュエルシードの姿だけ。
今目の前に、俺が手を伸ばしているのは——
そんな単純な事実に気づかず、拾い上げんと左手を伸ばして……その手に石を握りしめた。
「とりあえずユーノに——?」
瞬間。
俺の左手が、強い光をその場に放つ。
「——うおっ!?」
放つ強い輝きに、俺はそこでようやく自分の失態を悟る。そうだ、このジュエルシードはいわば
——なにも、起こらない。
「……うん?」
パァと放たれた青い輝きは、一瞬の内に消えて収まり、夜の闇が辺りを満たす。発動したかに思えたジュエルシードは沈黙を貫き、周囲にも、俺の身体にも何の変化も——。
「……ん????」
——おかしい。
左手に何かを握っていた感覚がない。いや、指先に触れる冷たく硬い石の感触はある。だが、ソレは握っていると言うか、なにか触れているだけというか。
そんな疑問のままに俺の左手を見ようとして、
間違いなく、俺の左手の甲だった。
「は?」
青いひし形の、何か硬い石のような——。
左手を開き、手のひらを見る。
指先に触れた硬いものの正体が見える。青いひし形の、何か硬い石のようなものだ。
——ただし。
「お、おいおいおい……!」
それは、手に
「どうなってんだ、コレ……!?」
——俺の左手に、埋め込まれていた。
色々あった夜の翌日。今日はなのちゃんの約束に付き添う事となっていた俺は、月村邸を一足先に訪れていた。
西洋風の大きな屋敷に備えられた、今どきのインターフォンタイプの呼び鈴を鳴らしてしばらくすると、俺の身の丈より大きな作りの扉が開いた。
そこから現れたのは、クラシックなメイド服を着こなした1人の見目麗しき女性。
「お久しぶりです、明日斗様」
「久しぶりですね、ノエルさん。やはりいつ見てもお美しい……」
「滅相もない、私には過ぎたお言葉ですよ」
彼女は月村家メイド長のノエルさん。何ヘクタールあるんだよというクソバカデケェ庭を持つ月村家に仕えるメイドさんだ。
……もうちょい踏み込むと、メイドっていうか——まあ、この辺の話はいいか。
月村家とは、恭也からめて昔一悶着あったもんで、ノエルさんとはその縁もあり昔からの付き合いだったりするのだが。
「ずいぶん早い到着ね、明日斗」
そんなふうに玄関先で話していると、屋敷の奥から1人の女性が現れた。
紫色の髪を長く伸ばし、落ち着いた雰囲気と全く落ち着きのない魅力的なスタイルを持つ彼女は月村忍。なのちゃんのお友達であるすずかちゃんの姉であり。……ひっじょーに、納得いかない話であるが。
「ま、バカより早く来ておかないと、忍と話す時間が無いからな?」
「ふふ、“あの頃”の話でもするの?」
「やめてくれ……」
いたずらっぽく笑う忍に、俺は肩を落として首を振る。
負けた話をほじくり返されるのは、さすがの俺でも居心地が悪いのだ。
ノエルの先導のもと、忍と屋敷の中を歩きながらいくらか言葉を交わして進み——いつ考えても、歩きながら雑談できる広さの屋敷が恐ろしい——ノエルの開いた扉の先で待っていたのは、大量の猫が集まるテラスだった。
「アストさん、いらっしゃい」
「げ、アンポンタン……」
その中央のテーブルに座っていたのは、今回のお茶会を主催したすずかと……。いや、すずか1人だった。
「邪魔するな、すずか」
「なのはちゃん達はまだだから、少しゆっくりしていてください」
「他が来るまで1人でのんびりさせてもらうよ」
「ちょっと!!私もいるんだけど!?」
なんだかキンキンとした声が聞こえる気がするが、俺は無視して荷物を置いてその場に屈み込む。
すると、数匹の子猫が俺の方へと近寄ってきた。優しく背中や顎を撫でてやると、ゴロゴロ可愛らしくこちらへ身体を擦り寄せてきた。
「おー、どこかのちんちくりんとは違って大人しくて可愛いなぁ」
「誰がちんちくりんですって!このアンポンタン!!!!」
俺の背中めがけて投げつけられたハンカチを、振り返らずに左手で掴んで止める。
やれやれ、同じお嬢様でも、ずいぶんおしとやかさに差があるらしい。
「……なんだ、騒がしいと思ったらお前もいたのか、ちんちくりん」
「ムキーーーーッ!すずか!私こいつ嫌い!!」
「まあまあ……」
「相変わらず元気ですね、明日斗様は」
「明日斗はやっぱりこうじゃないと」
恭也となのちゃんがその場に着くまで、俺とアリサのじゃれ合いは延々と続くのだった。
「じゃあ、恭也」
「ああ、……なのは、迷惑をかけないようにな」
「はーい」
その後、恭也となのちゃんが到着すると、忍さんは恭也と共に別室へと消えていった。まあ、恋人なのだから、子供の世話を焼くのは召使いと俺の役割だということだろう。
「邪魔だから帰っていいわよアンポンタン」
「酷いこと言うなぁアリサ。楽しくお茶会しようじゃないか」
「あんた、10も離れた女の子達に1人混じって居づらくないの?」
「うーん。マジレスされると流石にキくから、ここら辺で手打ちにしようぜ」
「ほんっと……最悪……」
呆れたように頬杖をついて紅茶を口につけるアリサに、すずかとなのちゃんが苦笑を零す。
俺達4人が揃った時のいつもの光景だった。
——そうしてしばらく、他愛のない会話が続いた。
最近なのはが何かに打ち込んでいること。恭也と忍さんの関係のこと。……思い出したくもない俺が恭也に負けた時の事。
「やーい!負け犬〜!」
「ちんちくりんがァ……、1回本気で痛い目見せてやろうか……?」
「あー、やだやだ!コレだから野蛮な野良犬は躾が成って無くてダメね!」
「コイッツ……!」
脳の血管が切れるかと思わんばかりの苛立ちを、子供の言葉とどうにか自分を宥めて落ち着かせていると。
「……あれ?アストさん、その左手……?」
すずかが目ざとく俺の左手の異変に気づく。……いやまあ、確かにパッと見変だろうな。なぜなら——。
「……なんで指抜きグローブ?しかも片手だけ」
「ホントだ」
——左手の“アレ”を隠すために俺がつけたソレは、流石にあまりに不自然だからだ。
「……」
「アストさん?」
3人の怪訝な——その内1人は軽蔑の視線でもあったが——が俺を貫く。
だが問題ない、この件を問い詰められた時の対策はすでに俺のなかで考案済みだ!
左手のグローブを見せびらかすように顔の前へと持ち上げて、その左腕をささえるように右手を組んで、そのまま傷の見える右眼がわずかにのぞくよう見せつつ左手を顔へ被せ、一言。
「——カッコいいだろ」
凍る空気。
「ダサいよアストさん」
短くなのはが。
「というかキモい」
切り捨てるようにアリサ。
「うーん……私も……ちょっと……」
引きつった笑みのすずか。
「キュー……」
ユーノォ!?
「アレェ!?」
総スカンを食らった。
……と言うのは計算通りだ。正直、俺とてこの格好がセンスが良いと言えるかと言われると些か、いや、大いに無理があると感じている。というか、右眼の傷と前髪の白髪も合わさって、“相当ヤバい”。
両手に付けることも考えたが、ソレだとむしろなんか間違ったオシャレをちょっとしちゃってるのかな?みたいな雰囲気が出てきたもんだから、あえて片手に押さえることで突き抜ける方向性を選んだのだ。
その方が“マシ”なので。
「うう……俺の渾身のファッションが……」
「デリカシーもセンスもないなんて、そりゃ恭也さんに勝てるわけないわよね」
「好みは人それぞれですから……」
「あまり落ち込まないで、アストさん……」
演技のために膝を抱えて体育座りをしていると、なのちゃんとすずかちゃんが優しく背中を擦ってくれた。
……演技だと言うのに、年下の女の子たちに優しくされてなんだかとっても惨めな気持ちになってきた。
泣きたいよ、俺。
何はともあれ、どうにか左手のジュエルシードはごまかせた。後は解決策をどうにかユーノに相談しないといけないのだが——。
——この時の俺は、そんな腑抜けた事を考えていた。
その直後に、思いもよらぬ展開が待ち受けてるとは——知りうる由も無かったのだから。
後編へ続く。