七星天の導くままに〜幼馴染の妹が魔法少女をやってるらしい〜 作:Ziz555
俺の無様で散々騒いで落ち着いた頃。突然、ユーノがテーブルの上から飛び退いた。
「ユーノくん!?」
そんな彼の突飛な行動になのちゃんが驚いた表情を見せた。……念話で会話のできるはずの2人が、意思の疎通を図っていないとは思えない。おそらく、ユーノの行動には何かの意味があるのだろう。
直後、何かに気づいた様子のなのちゃんがちらりと俺の顔を見た。
一瞬のアイコンタクトだったが——十分意図は汲み取れる。
「ユーノくん、何か見つけたみたい。ちょっと私行ってくるね!」
「大丈夫?私もついていこうか?」
「いや、俺が行くよ。この場じゃ俺が保護者だ」
話しながら席を立ち、ユーノの後を追いかけていくなのちゃん。そんな彼女の行動に説得力を確保する為、それらしい理由をつけて俺も同じく席を立つ。
「アスト」
「ん?」
珍しく俺の名を呼んだアリサに足を止め、頭だけを振り返る。向けた視線のその先で、どこか真剣な面持ちのまま彼女は俺の背中を見ていた。
「なのはのこと、アンタがちゃんと見ていなさいよね」
……そこだけ聞けば、友達思いの良い子の言葉だ。
その目に帯びた、どこかこちらを責めるような意思さえなければ。
「……言われなくてもちゃんと見てるよ」
全部終わったらちゃんと話させるさ。わざわざお前に言われなくても、な。
心配性のお節介焼きをその場に残し、俺はユーノとなのちゃんの消えた庭の奥へと進んでいくのだった。
ユーノ君を追いかけた先、ジュエルシードの反応があった場所に辿り着いた私が見たのは、見上げる程に大きな子猫ちゃんでした。……大きいのに子猫ちゃんというのも、どこかおかしいと言いますか……、いや。おかしな事にはなってはいるのですが……。
「あ……えっ……と……」
「あれは……多分、あの子の“大きくなりたい”って願いが正しく叶えられた……んじゃないかな」
「そういう事じゃねェだろ。融通効かねぇ願望器だなホント」
コレまでの凶暴で危険な暴走に比べたらマシかも知れないけど……コレはなんかちょっと、困っちゃうかも……。
「とはいえ、このままだと危険だ。僕が結界を張るよ」
「結界?」
「空間内の時間の流れをずらして切り離すんだ。ほら、最初に僕らが出会ったのも」
「そうなんだ」
確かに、動物病院の近くで戦った時もなんだか少し周囲の雰囲気が違ったような……。
なんて、そんなことを思い出していると、早速ユーノ君が結界を張ってくれました。
「じゃ。今日は弓は持ってないから、全面的に任せるよ、なのちゃん」
「うん。任せて!」
『Of course』
お出かけの予定だったから、アストさんは弓と矢が無くて戦えないし、今日は私が頑張らないとだね。
そんな気持ちと共にレイジングハートを握りしめると、レイジングハートも私の気持ちに応えてくれました。
「レイジングハート!行く——」
——その時でした。
金色の光が何処からともなく飛んできて、子猫ちゃんの身体へ突き刺さったのです。
「何——!?」
「コレは……魔法の光!?」
——飛来した方向、その先の電柱の上。1人の少女が立っていました。
明るい金色の髪と、風になびく漆黒のマント、先端が斧のようになった杖。
「魔法、少女……!?」
「……レイジングハート!」
『Set up』
攻撃の意思を見せない大きな子猫ちゃんへ向けて、再び放たれようとしていた攻撃を防ぐ為。レイジングハートの力で魔法少女へ変身した私は、魔法のチカラで空を飛んで子猫ちゃんの上にお邪魔します。
これ以上、やらせない——!
『Wide area Protection』
私の意思を汲み取って、大きな防護幕をレイジングハートが展開してくれました。
襲い来る金色の魔法弾の衝撃はコレまで受けたどんな攻撃より強力で、でも、だからといって破られるわけにはいかないから……!
目の前の攻撃に必死になっていた私は、私の防御の範囲外の子猫ちゃんの足を狙った攻撃に気づかず、子猫ちゃんがよろけてしまいます。
「うわっ……ととっ!」
再び私は空を飛んで、今度は地面に降りました。
視線を上げると……、さっきの子が少し近くの樹の上でこちらを見下ろしていました。
「……魔導師、それも私と同じタイプ」
「私と……同じ」
——金色の髪の子の持つ杖の先には金色の宝石。そして、女の子の目は宝石のような赤い瞳。目を引くほどの整った容姿。……けれど。
「……どうして?」
「ロストロギア……ジュエルシードは、私が貰う」
「——ッ!?」
魔法の杖が変形して、金色の刃を備えた鎌を形作り、それを構えた彼女が私に襲いかかります。
「どうして、あなたは——!!」
「なのちゃん!!」
「あの杖、あの衣装……間違いない。僕の世界の住人が、なんでこんな所に……!?」
突如として襲いかかってきた黒い魔法少女に、なのちゃんは防戦一方だった。
鋭く放たれる魔法弾と、迷いのない鎌の一振りは、少女が見た目にそぐわぬ経験を持つ戦士であることを示していた。
一方、なのちゃんはここ最近魔法の力を手に入れたばかりの少女。対魔法戦闘はそこそここなしてきていても、
「クソッ……!こういう時に限って備えが悪いな、俺は!!」
何も持たない両の手に自然と力が籠る。
戦えない事がもどかしい。恭也と暴れていた頃は、そんな事迷う事すら無かったのに。……俺には結局、
視線の先で、立ち止まったなのちゃんが防御の姿勢をとった。対する黒い魔法少女は、攻撃の姿勢で
……まずい!
「なのちゃん!!避けろ!!」
「え——」
俺の声になのちゃんの気がブレる。防御が——甘くなる。
——やられる。
——なのはが?ここで?
——それは。
「そんなの——!!」
——そんな事!!
「させるかァァァァァァ!!!!」
——俺の左の掌が、激しい輝きを放った。
ジュエルシード集めの最中。白い魔導士に出会った。
私と同じ空戦タイプ。魔法の威力には見所があるけど、それだけ。
単調な動きに、防御ばかりの戦闘スタイル。適当にあしらって、ジュエルシードを回収しないと。
防御に足を止めた彼女に、防御の上からでも抜ける攻撃を準備する。受けていい攻撃と、受けられない攻撃の判別もつかない彼女はその場で足を止めたまま動かない。
「コレで——」
「なのちゃん!!避けろ!!」
「え——」
瞬間、男の人の声がした。……あの魔導士の連れの大人?魔力は感じないけれど、私の攻撃を読んだ……?
でも、もう遅い。緩んだ防御のその隙に、フォトンランサーを放ち——。
「させるかァァァァァァ!!!!」
——青い輝きが、辺りに満ちた。
「この輝きは……!?」
「ジュエルシードの反応!?それもこんなに近く……!?」
目の前の大きな猫のソレとは別の反応。蒼く、強く輝きを放つ、まっすぐな——。
周囲の注目を他所に、発射シークエンスまで至っていたフォトンランサーが放たれる。完全な直撃コースのソレは。
蒼の閃光に横から貫かれ、白の魔導士に直撃する前に爆散した。
「何……!?」
予想外の攻撃に、私の視線が横槍の根源へ向かう。
「——我が放つは、
詠唱——!?
「駆けろ——」
視線の先に映るのは、傷のある右眼に青い炎を灯し、左手から光の弓を形成した、ソレを構える先ほどの男性。詠唱も、蒼の矢も。すべては彼から……!?
「蒼き
彼の番えた蒼い矢が、その弓から放たれた。
「速——」
『Protection』
回避が間に合わないと判断したバルディッシュが防護壁を張り。
けれど。
「ぐ……ッ!?」
パキン。という、何かが割れる軽い音とともに防護壁を容易く突き破り、蒼い矢が私の胸を貫いた。
弓と矢の使い方は自然と分かった。手や指先を意識せずとも動かせるように、左手に握る光の弓も、右手に取る蒼の矢も。生まれた時から備わっていたかの様に俺に馴染んだ。
「アスト……!?その、光!左手!」
「ナイスキャッチだ、ユーノ!」
どうにか攻撃を横から射抜き、直撃を防いだものの、爆発に巻き込まれたなのちゃんは空から墜ちた。
走り出したユーノになのちゃんを任せ、追撃を防ぐために俺は黒の魔法少女へ弓を射る。
左手の輝きにユーノが困惑を示すが、今はそんなの後回しだ。
「ジュエルシードの力を、人間が……!?」
「テメェ……なのちゃんに手を出して生きて帰れると思うなよ!?」
「アスト!?さすがに殺しはダメだからね!?アスト!?」
俺の矢を胸に受けてなお、意識を保って空を舞う黒の魔法少女に対し、再び俺は矢をつがえる。
ブレる筈の右目の視界は、酷く冴え渡っていた。熱く、強く、燃えるような熱を宿した俺の右眼に映る世界は。俺の射る矢の進む先を現実のように俺に見せた。
今の俺なら、1,000km先の的だって射抜いてみせる。
「
鋭い気を込めた一矢を再び放つ。
放った弓が着弾するまで1秒もなく、再び黒の少女が射抜かれた。
「ぐぅっ……つっ!!」
貫いた矢は霧散して消え、肉を裂いたり貫いたりはしていないようだった。外傷が……ないかは見えないが、彼女の身にまとう衣服を破る様子もなく、ただ肉体の内面に直接ダメージを与えている。
本気で心臓や眼球、脳天を直撃させなければ——死ぬことは無い。
そして、狙った場所に
「——バルディッシュ!!」
『Arc sabre』
「我が放つは……蒼き
黒の少女の魔法の杖が金色の刃を持つ鎌へと変形し、その刃を振るいこちらへと放つ。
対する俺は再び右手に蒼く輝く矢を生み出し、それを番えて撃ち出した。
寸分違わず両者の一撃が空中で衝突し、形を保てなくなったエネルギーが一気にその場に広がった。
魔力の爆発だ。
相殺されるのは互いに百も承知。ならば当然、続けて放たれる第2撃こそが本命で——当然早い方が勝つ!!
早さ比べが目的ならば、魔力を練って撃ち出すだけの魔法射撃が有利だと。撃ち出す前の弓に矢を番える一手が差になると。
——普通ならば思うだろうな。
「フォトン——」
「疾ッ!!!!」
「——早い!?」
少女の詠唱が終わるより先、矢を放ったのは俺だった。
お生憎様、弓の速射は俺の十八番だ。威力は劣るが、攻撃動作を中断させる程度なら!
「あぁッ……!」
攻撃のために構えを作っていた少女へ矢が突き刺さり、待機状態となっていた魔力弾が霧散する。
当然、2射の直撃を確信していた俺は既に3射目の構え作り終えている。
そして、それだけの時間があれば。
「——我が放つは、
弓を構え、矢を番え、心を作り……心意を乗せる。
構えた鏃が激しい輝きを放ち、星のように煌めいた。
「駆けろ!!」
「まずい……バルディッシュ、緊急転移!!」
『Escape』
「蒼き穿煌!!」
俺が矢を放つ、ほんの一瞬前に少女がその場から消えた。
いくら俺の矢が優れていようと、“存在しない”物には当たりようがない。
放たれた蒼い流星は、天へと昇り雲を突き抜け、宇宙の果てへと消えていった。
「……逃がしたか」
矢を打ち切った俺の左手から、光の弓が消えてゆく。
右手に宿っていた矢も、右眼の燃えるような熱も、まるで嘘のように消え去った。
黒の少女が消え去った空の先を睨みつけながら、じっと空を見上げていると、カサカサと足元の草が動く音がした。
「あ、アスト……今のは……一体……?」
音のした方を向けば、いつの間にかユーノが足元におり、呆けた顔で俺のことを見上げていた。
……なんと言葉を伝えるべきかと頭を回し。コレでいいかと適当に決め、左手につけた黒い指抜きグローブを右手で摘んで引っ剥がす。
「わり、ジュエルシード。拾っちった☆」
「え……」
俺の左手に埋め込まれ、わずかにズクズクと蒼く鳴動をするその石に。ユーノがわなわなと震え——
「えええぇぇぇぇぇぇぇーーーーッ!?!?!?!?」
——小さな身体からは想像できない絶叫が、結界の中を大きく揺らした。
光の白刃ではないのでセーフとさせて下さい。
別に音声無くても矢は出ます。はい、いや、鼻歌とかでダメとかでもないです。
〜次回予告〜
突然現れたもう1人の魔法少女。
何か使えた俺の左手のジュエルシード。
うーん……なんかいきなり話が変わって面倒事になってきたな……。
腕を組んで頭をひねったところで答えは出ない。こういう時は──いっちょ温泉浸かって頭も身体もほぐしてみますか!!
七星天の導くままに、次回!
『向き合う気持ち、裸の心で。ここは湯の町海鳴温泉!(前編)』
なんでお前と同じ車に乗るんだよ……。
※7/25追記