七星天の導くままに〜幼馴染の妹が魔法少女をやってるらしい〜 作:Ziz555
みんなが見たい話じゃない気がするわよ!!
「話すことは無い」
アリサの尋問に対する俺の第一声は、拒絶と否定だった。
「ふぅん」
「なのちゃんがお前に話してない以上、俺がお前に話せることはそう多くないんだよ、
「成る程ね」
背もたれに体重を預けながら、俺は両手を頭の後ろで組んだ。そんな俺の仕草を見て、アリサは両手を胸の前で組んで、俺の方へと乗り出していた身体を椅子へと沈める。
旅行の目的地への移動時間は1時間以上はかかる。だが、無限というわけでもない。
念話が使えない以上、話の是非をなのちゃんやユーノに確認することもできない。だが、何も話さない選択をすれば、それはアリサの機嫌を損ね、なのちゃんを傷つけることともなるだろう。
捌き切る、ここで、俺が。
「なのは、最近居眠りが多いの」
「居眠り?」
「そう。学校や塾の授業中はもちろん、お昼休みに私達とご飯食べててもね」
「……ちゃんと寝るように俺からも言っとくよ」
「アンタと一緒に、すずかの家の庭に消えた
「…………」
——居眠りが多い。その発言を聞いて俺が思い浮かべたのは、返事が無いというユーノの発言だった。成る程、確かに寝ていたのなら念話に答えを返せないのも道理だ。
だが、昼夜を問わず眠りに落ちてしまうような疲労をなのちゃんが見せたことは無い。たとえ、ジュエルシード集めに精を出していても、少なくともこれまでは。
「ユーノを見つけて連れて帰ってきた。……ソレだけ?たったそれだけのことで、なのはがあんなに何かを思い詰めるのかしら」
「ペットを飼うことの責任の重さでも感じたんじゃないか?」
「そうね、なのはは責任感が強くて、強すぎるぐらいだもの」
翡翠の眼が俺を射抜く。
「だから私は、アンタに“見てろ”といったのよ」
「お前の家に飼われる犬になった覚えは無いな」
「鮫島呼ぶわよ」
「すみません鮫島さんには話さないで貰えませんか……」
鮫島さんと言うのはアリサお付きの使用人だ。金に窮した時に、ほんの一瞬——1ヶ月の間ほど——バニングス家の使用人として雇われた事があり、その時に何かと面倒をみてくれた人なので俺は頭が上がらない。
「卑怯だぞアリサ」
「あら、ごめんなさい。躾の方法には覚えがあるの」
「く、くぅ……」
おほほほほ。と、わざとらしく上品に笑うアリサに対し、俺は顔を引きつらせる。小学校だと言うのに自分の立場の使い方が嫌に上手い可愛げのないやつだ。
「それで。なのはは何をしているのかしら」
「……答えは変わらない」
「別に具体的な事を聞いてる訳じゃないわ」
車がトンネルをくぐり、タイヤがアスファルトを蹴る音が車の中にも反響し、窓から覗くオレンジ色の照明の光がチカチカと車内を明滅させた。
「あの子は何を抱え込んでいるのよ」
「……知らない」
「アンタね」
「“俺も聞いてない”」
しびれを切らして再び身を乗り出したアリサは俺のその発言を聞き、目を丸くして振り上げていた手を下ろす。
「アンタも?」
「予想はつくが、俺にも教えてくれないんだ」
「…………」
——自慢じゃないが。俺は実の兄である恭也よりもなのちゃんに信頼されている。今回の魔法の件だって、家族は知らず、俺だけはこうして関われている。勿論、現場に立ち会っていたのは大きいが……、悩んだり不安な時になのちゃんが俺を頼らないというのは、コレがほとんど初めての出来事だった。
「アンタ、それでいいの?」
アリサの言葉が意味するのは、それで本当になのはを護れるのかと言う所だろう。
「俺は、それでもいいと思ってる」
「ハァ?」
眉間にシワを寄せ、アリサが俺を見ていた。
「俺はなのちゃんに笑っていてほしい」
「知ってる」
「それは“俺がいなくても”だ」
「……」
——なのちゃんは、1人では笑えない。
「アタシとすずかじゃ力不足って事?」
「俺もな」
——その証拠に、俺たちになのちゃんは何かを隠しているのだから。
「…………呆れた。アンタがそんな調子でどーすんのよ」
「さあな。でも、いつかは必要な事だ」
「親鳥にでもなったつもり?アンタ、なのはの何なのよ」
「……何なんだろうな」
……アリサの問いに、疑問を口にした。それは、俺自身へと向けられた問いの言葉。
“小城明日斗は、高町なのはの何なのだろうか”。
——夕暮れの日、なのはに出会った俺は、彼女にただ笑ってほしいと心の底から渇望し。彼女の為にその身と時間をすり潰してきた。
妹でも、娘でも、親戚ですらない。無関係の、ただの知り合いの、もっと言うなら、幼馴染の妹でしか無い。
どうして俺は、そんな無縁な彼女の為にここまでその身を使えるのだろうか。
「自分探しは
「そらそうだ」
まあ、その問いの答えが何であれ、なのちゃんが笑えるようでいられるならばなんでもいい。
「とりあえず。俺が言えるのはそのぐらいだ、悪いな、アリサ」
「ふぅん。なら、その左手の話でも聞かせてもらえる?」
そうして彼女が指を指し示すのは、指抜きグローブをつけた俺の左手。
「カッコよさに気付いたか?手袋のメーカーなら教えてやっても良いんだぜ」
「
「えー……、せっかくカッコいいのに」
「
「…………」
——見抜かれていた。俺の完璧なカモフラージュを。
「……見ないほうがいいと思うぞ?」
「つまり、ソレがアンタとなのはの話せない事と関係するのね」
「可愛げと言うものを学べお前は」
「あら?私、とってもかわいいって評判なのよ?」
赤み掛かった金色の髪をサラリと手で払い、得意げに笑う姿は確かに絶世の美少女だろう。中身を知っていると百年の恋も冷めるほどだろうがな。
「明日斗」
「はいはい……」
金色のお嬢様は、どうやら考え1つ許さないらしい。
「見せてもいいが、1つ約束しろ」
「ソレは私が見てから決めるわ」
「それでいい。……頼むから、これ以上深入りするな」
俺の左手を見せる。ソレが意味するところにそれ以上の意味を持たせない為に、俺は真っ直ぐアリサの目を見つめていった。
普段は何かと噛み付いてくるアリサは、俺の視線の意味に気づいたのか、怪訝そうな表情をゆっくりと真剣な物へと変えて——静かに、ゆっくり、頷いた。
「——行くぞ」
そうして俺は左手のグローブに手をかけて——。
「——ってな事があってだな」
「た、大変だったね、アスト……」
場所は代わり、海鳴温泉の旅館。その露天風呂にてユーノと2人、裸で言葉を交わしていた。……まあ、ユーノはフェレット姿なので、変身解いたら服は着てるが。
露天風呂にいるのは現在俺とユーノの2人だけ。半ば貸し切り状態となっていた。
故にユーノと直接口頭で会話を交わすことができ、とりあえずアリサに何を話したかの報告を兼ねて話を進めていたという所だ。
因みにユーノはなのちゃんに女風呂へと拉致されそうになっていた所を俺が救出した。流石に女の園に男が1人放り込まれるというのは……その、いくらなんでもかわいそうだ。
「結局、その手は見せちゃったの?」
「まあ、アリサは賢い子だ。こんなもん見せられて“話せない”と伝えてりゃ、それ以上は深入りしてはこないだろ」
——俺の左手に埋め込まれた蒼い宝石を見たアリサは、静かに瞳を閉じ、「そう」とひと言だけつぶやいた。
それ以降、俺に何を言うでもなく、ただ窓の外を何も言わずに眺めて目的地までの時間を過ごした。
蒼く輝くその宝石は、目をよく近づけてみれば俺の手に根を張るように筋を伸ばし、ズクズクと生き物のように脈打っている。
無機質な鉱石が、どこか生物的な拍動をする姿には生理的な嫌悪感を覚えん事もない。俺は別に苦しくも痛くも何ともないのでどーでもいいが。
「どーすっかね、これ」
「……この前見た時よりも、筋が広がってるように見えるけど」
「そうか?」
宝石を中心に脈打つ筋は、うっすらと青い血管のようにも見える。普通に考えたら宝石の分血流が阻害されていそうなものだが、俺の指先が痺れたりなどの不都合は感じたことは無い。
「医者にかかるのも避けないとだなぁ」
摘出手術だなんだと大げさな話になっても困る。そこから魔法の話が広がってしまうようなことも、当然控えるべきだろう。
「……めんどくせぇなぁ」
「また面倒事か?アスト」
湯船につかり、左の手を伸ばして甲を眺めていると、不意にそんな声が掛かった。
一般客に見られぬよう、一応気配は探っていたつもりだった。けれど、声の主は俺の気配察知をくぐり抜けた隠密で湯船の前に立っていた。
「覗きか?趣味も頭も悪いな、恭也」
「バカ言え。覗きをするのはお前の方だろう」
腰にタオルを巻き付けて、全身に生傷を持つ筋肉質な青年。俺のよく知る
「長風呂か?」
「話があるなら聞いてやるからとっとと身体洗ってこい」
「そうさせてもらおう」
俺は昔から長風呂だったので、10分やそこら風呂の時間が伸びた所で体調を崩したりはしない。風呂の温度も心地がいいし、何やら話がある様子の恭也へ身体を洗うことを促した。
ユーノと話していたことには気づいていないらしい。どうにかユーノは黙りこくって、俺の頭のうえにしがみついていた。
ざぁと汗を流して、手早く身体を洗った恭也は、腰のタオルを外してから俺と同じ湯船へ浸かる。
こうして肩を並べて風呂に浸かるのは、ずいぶん久しぶりな気がした。
「左手」
「ん、ああ。これか」
何事もなく恭也にソレを見せると、ユーノがバシバシと俺の頭を叩く。うるせぇコイツはイイんだよ。
「久しぶりだな、今度はなんだ?」
「言うかよ、タコ」
「そうだったな。お前は出来ないことはしない男だ」
露天風呂であるがゆえに、仕切りの上から吹き込む外気が風呂で温められた身体に心地よい。
静かに景色を眺めながら、俺達はしばらくそのまま風呂に浸かっていた。
「最近のなのはもそれ関連か?」
「まあな」
「お前がついているなら不安はないが、あまり無茶をさせるんじゃないぞ」
「なんだそりゃ。お前、実の妹だろ」
あまりにも無責任な恭也の発言に、俺は隣のバカの顔を見た。しかし、当のバカは随分くつろいだ様子で天井を見上げており、俺の方を見ようともしない。
「そうだな。確かに俺はなのはの実の兄だが……、情けない事に、俺はお前よりも信頼されていない」
「……」
「わかってるよ。自業自得だ。だから、恥を忍んでお前になのはを託したんだ」
翠屋が忙しく、士郎さんが仕事の事故で倒れていた頃。高町家の誰もが必死に自分のできることをやっていた頃。
何もできるはずもない幼いなのはが1人、家に残されていた頃。
——俺がなのはに出会った頃。
「心配ぐらいしたらどうなんだよ、クソ兄貴」
「信じているんだと言ってくれ。なのはの事を」
無責任なヤローだと、心の底から腹が立つ。そして俺よりコイツがモテるという事実にも、だ。
「それに」
「あ?」
チラリと、恭也の視線がこちらへ向いた。
「俺に相談してこないって事は。お前は自分で何とかできると思ってるんだろう?」
「…………」
こちらを見透かしたような物言いに。いや、
しかし、
「——お前ができると思ったことは、どんなことでもできるんだろう」
そんな投げやりな言葉が、妙に俺の耳に残った。
「なんだそりゃ」
「お前の事だろう。なんだ、自分で分かってなかったのか?」
「知るかよ。コッチは毎日必死だっての」
確かに、俺は天才に分類される類の人間だ。大抵のことはやればできるし、どんな事でも手を付ければ並以上の成果は出せる自信がある。
だが、だからといってそんな都合のいい様な存在な訳では無い。人間がそんな存在になれるはずが無い。
「本当にお前1人で手に負えなくなったなら、俺に声をかけるだろう?その時は俺も手を貸してやるが——そうでないなら、お前に任せる」
なのはの事もな、と。軽くつけ足して恭也は視線を天井へ戻した。
そんな恭也の姿にどうにも居心地の悪さを覚えた俺は、その場でゆっくりと立ち上がる。
「……先出るぞ」
「おう。なのは達は遊戯室の方に居ると思う」
「そーかい」
言外に“ちゃんと見てろよ”と言われたような気がして、眉間のシワが深まった。なのちゃんの事を見るのは構わないが、この男がこんなにも無関心だという事実がどうにも気に食わない。
「……はぁ」
ユーノを頭の上に乗せたまま、俺は露天風呂を後にする。
とりあえずスカッとしたい気分なので、冷えたコーヒー牛乳を1本買うことにした。
温泉回そのものはまだ続きます……。