七星天の導くままに〜幼馴染の妹が魔法少女をやってるらしい〜 作:Ziz555
温泉回に存在しないイベントが生えて伸びております(?)
「あ、アリサちゃん……その……」
「何?」
明日斗が風呂で恭也と話すより少し前の頃。女湯では2人の少女が湯船に肩までつかっていた。
旅館自慢の露天風呂は、彼女たち2人の他にも美由希や忍、ノエルやすずかといった面々が浸かってなおかなりのスペースがある大きな露天風呂であり、その端でアリサとなのはは並んで腰を下ろしていた。
「……ごめんなさい」
「何が?」
「何が、って……。それは、その」
しゅんと肩を落としながらも、なのははアリサに謝罪の言葉を述べて。しかしアリサの問いへの答えが分からずにいた。
「……居眠りしてたこと、とか」
「別に。アンタの寝不足なんて私には関係無いでしょ」
「でも」
「アンタが謝って、私が許して。それで何が変わるの?」
「………………それは」
アリサの指摘は尤もだった。今ここでなのはが謝罪をした所で、アリサが彼女を許した所で。
「居眠りなんて小さい事を怒ってるわけじゃない事ぐらい、わかってるくせに」
意地の悪い言い方だと、アリサも自分で分かっていた。けれど、彼女もそれしか自分の気持ちを表す言葉を分からずにいた。
アリサの言葉に、なのはは何も返せない。
「……なのは、私はね。あんたの事、大切な友達だと思ってる」
「アリサちゃん……」
「アンタもそう思ってくれてるんだと。そう思う」
たぶん、その考えに間違いはないとアリサも思っていたし、なのはもその考えや気持ちがわからない訳ではない。
「……だから、悔しいのよ。私は」
「……くや、しい?」
「アストから聞いた」
——その言葉に、なのはの背筋が凍る。
まさか、いや。そんな筈は。そんな考えがなのはの脳裏をよぎる。
——アリサちゃんに、魔法のことを話しちゃったの……?
「私にはもう、よくわからなかった」
「え?」
「わかんないわよ、何もかも」
アストはアリサに、事の真相は語らなかった。ただ、その断片を見せただけ。何も語らず、ただその左の掌を。
「好きにしなさいよ」
「アリサちゃん……!」
「勘違いしないで。別に、アンタと友達辞めるって話じゃないから」
露天風呂の縁に右手の肘をつき、決してなのはの方を見ようとはせず、アリサは言葉を続ける。
「全部終わったら、また前みたいに遊びましょう。……それまで、私は待ってる事に決めたから」
——アストの左手に蠢く怪しい碧の宝石に、アリサは本能的に恐怖した。
どうしてそんな物がアストの左手にあるのか、どうしてアストがそれを隠したまま過ごそうとしているのか、どうして——その石が脈動しているのか。
何もかも、アリサ・バニングスという少女には見当もつかなかった。
けれど賢い彼女は——“どうしてアストが自分に
「怒ってないのよ、もう」
感じたのは、冷めた感情。この日その瞬間に、猛る感情を冷たく御する己の優れた理性と知性をアリサは初めて疎ましいと感じてしまった。
怒れる訳がない。だって、話せないのは——
「アリサちゃん……私」
「ごめん、……楽しい旅行なのに、水を差しちゃったわね。……少しだけ1人にして欲しいから」
ほんの少しだけ、時間をちょうだい。
そんな言葉を残したアリサは、そのまま湯船から上がってゆく。離れゆく彼女の背中を、なのははただ見ていることしか出来なくて。
「…………アリサちゃん」
静かに、彼女の名前を口にした。
結局、アリサは1人で風呂を後にしていたようで、なのはとすずかが露天風呂から上がった頃には、アリサの姿はそこにはなかった。
1人にしてほしいと言われ、納得できない気持ちはあれど、アリサの願いを尊重しようと決めたなのはは、すずかの提案で卓球をしに遊戯室へと向かっていた。
「はぁーい。おチビちゃん達?」
そんな最中、廊下を歩くなのはとすずかの元へ、1人の女性が声をかける。
「えっと……」
なのはが視線を上げた先、声がしたのは正面から。
長いオレンジ色の髪をなびかせた見るからに外国人という風貌。大きな胸を締め付ける事を嫌ったのか、着物を大きく着崩した長身の女性がなのは達へと手を振っていた。
「えっと……私達……?」
「そうそう、キミだよ、キミ♪」
こんな女性はなのはは勿論、すずかの知り合いにもいない。2人の家族の知り合い……と言う記憶もなければ、目の前の女性は2人にとって完全に未知の存在だった。
しかし、女性はそれを知ってか知らずか、ズカズカと歩いて距離を詰め——なのはの顔を覗き込む。
「な、何か……?」
思わずなのはは半歩その身を引いた。不躾な態度に対して感じるのは不信感と、わずかな恐怖。
「うーん。なるほど、キミか。ウチのアレをアレしちゃってくれたのは」
「なのはちゃん、知り合い……?」
「えっと、私は……」
敵意は感じない。しかし、意図の読めない距離感の近さがそこにはあった。
本来ならばこういう時、すぐに明日斗が助けに来てくれるし、なのはもそれを望んでいる。それが2人の関係性……なのだが。
今、この瞬間だけは。なのはの気持ちは真逆であった。
——お兄ちゃん、早く来て……!アストさんが来る前に……!
ヒーローであるアストより。頼りのない兄へ助けを求める。
だって、この人——
「へぇーーい!!そこのかァーのじょォーーーー!!」
大きく弾んだ声音の聞き慣れた男の声がした。
なのはの肩から力が抜けて、すずかが途端に苦笑を浮かべる。
何事か。とそう思ったのは声をかけられた張本人、オレンジ髪の女性が背後を振り向けば……。
「キミ!可愛いねェ!!俺とお茶しなーい!?」
——それはもう、にっこにこの笑顔を浮かべて上機嫌のアストが跳ねながらこちらへ近づいていた。
さて。ここで1つ小城明日斗と言う青年について紹介しておこう。
彼は常々公言している物がある。それは、彼自身の
小城明日斗はとにかく——“ナイスバディのお姉さん”に弱い。
それはもう、メロメロという言葉は彼のこの瞬間のためにあるのでは無いかと思う程に、だ。
「は?」
「お姉さん、どこから来たの?見たところ日本人じゃないよね」
「いや、ちょっと」
「凄い、日本語上手なんだね。あぁ、もしかしてハーフ?ふふっ……海や国の垣根を越えた愛の結晶なら、こんなにも美しいのも頷けるよ」
「アタシはそういうんじゃなくて……」
「そうなのかい?なら、……やっぱり海の向こうからはるばる日本へ来たんだね。なら、せっかくの日本…楽しい思い出をいっぱい作らないとね。どうだろう、俺がこの街を案内しようか?こう見えてもこの温泉街には毎年来てて、隠れた名所も沢山——」
お前そんなに舌回ったのかよと言わんばかりの饒舌さを見せつけながら、黙っていれば心を奪われるであろう凛々しい顔つきでずいずいと女性へ距離を詰める明日斗。そんな彼に女性はしどろもどろになりながら数歩後ずさり。
「——アストさん」
女性とアストの間に、いつの間にやらなのはが立っていた。
何かを察したユーノがアストの頭を飛び退いて、なのはの肩へと移動していた。
「あれ、なのちゃん。どうし——」
「フンッッッ!!」
気合のこもった一息。繰り出される鋭い拳が不埒な男の腹を襲った。
低く重くその場に響くのは、拳が肉を叩いた鈍い音。
「ごっ……ほぉぁ……ッ!?」
不意の一撃にアストは肺からすべての空気が叩き出され、一瞬白目を剥いていた。
内臓を打ちのめされた感覚と共に、吐き気を伴う強烈な衝撃を浴び、言葉の全てを失った。
「ウッ……」
言葉どころか意識もなかったわ。
「あ、え、えーと……」
「ごめんなさいお姉さん、ウチのバカがご迷惑を……」
「ああ……いや、別に、大丈夫だよ……?」
突然の出来事に、立場が完全に逆転していた。
意識を失いその場に蹲るようにして崩れ落ちたアストの横でなのはは女性へ頭を下げて、同じようにすずかも「ごめんなさい」と謝罪をしていた。すずかはこの光景に慣れていた。
「すずかちゃん、ごめん。今回も運ぶのお願いしていい……?」
「大丈夫だよ。……でも、階段とか……」
「アストさん頑丈だから大丈夫だよ」
「大丈夫かなぁ……?」
さも当然のようにすずか——見た目が大人しげな彼女はアストの浴衣の襟を掴み、その肉体を引きずり始めた。
その光景に、女性は再び目を丸くする。まあ、月村すずかが力持ちであるということを初見で見抜ける人間はまずいないので仕方のないことだ。
「ごめんなさい、一度戻らないといけなくなっちゃったので、私達はここで……」
「日本旅行、楽しんでくださいね?」
「あ、あぁ……うん。ありがと……ね……?」
意識のない男は1人、ずるずると廊下を引きずられていく。彼より遥かに小さい少女2人に連れられて。
「……なんなんだい、アレ……」
そんな異常な光景を、女性はただ見送ることしかできなかった。
俺が再び目を覚ました頃には天高く月が昇っていた。
「い、いてぇ……なんか、全身が……いてぇ……」
自室に突っ伏すようにして寝かされていた俺の身体は全身が痛みを訴えていた。未だに抜けない腹の痛みの他にも、腰から下があちこち打撲したかのような痛みがあるし、踵は妙にヒリヒリとする。軽い火傷してないこれ?
「なのちゃん……相変わらず容赦無いんだから……全く……」
俺がナンパをしている所になのちゃんが居ると、なのちゃんは必ず不機嫌になる。
ヤキモチ……なのだとしたら可愛いものだと笑って済ませてやれるのだが、そのたびにこうしてぶん殴られていたのではどうにもこちらの身が持たない。
え?ならナンパを諦めたらどうかって?バカお前据え膳食わぬは男の恥だろ。え?据え膳じゃない?俺にとってはナイスバディの皆々様は等しく至上のご馳走なんだよ。うーん、思い出しても眼福だった。
「……あれ?俺の夕飯は?」
俺1人が突っ伏している部屋を見回した所でそこに残されているのは男勢の荷物ばかり。どうやら俺は置いてけぼりを食らったらしい。
携帯電話の時刻を見れば——あらまびっくり夕飯もう終わってるじゃない。
「はぁ……コンビニ行くか……」
この街の夜は殆どどこの店も閉まりきっているのだが。コンビニだけはこんな夜更けでも開いているのが唯一の救いだった。
宿の出口で挨拶をして、夜の街へと繰り出せば、辺りは一切静かなものだった。街の明かりはほとんど消えて、ポツポツとついた街灯が夜の街をぼんやり白く照らしている。
「流石にコッチのほうが星は綺麗だな」
都会の空気……と言うにはわりかし海鳴の街の夜空は綺麗なものだが、辺りを山に囲まれたこの温泉街の夜空はその比ではない。
無数にかがやく満天の星空とはまさにこの事で、普段見慣れた星座の1つ2つを探すのもちょいと手間がかかってしまう。
自然とまた、北斗七星を探していた。
「……別に北知ったってしょーがねぇんだけど」
缶の炭酸ジュースを飲みながら、俺は宿への帰路を行く。どうせ帰って後は寝るだけなのだから、適当に夜の散歩と洒落込むのも悪くはないが、そんな気分でもない。
ただ、何の気なしに北斗七星を見て、そこから探せる北極星を目で追って——。
「——ん?」
——視界の端で、光が見えた。
何かが明滅する光。灯ると言うより、弾ける光。
「……まさか、まさかな」
こんなところまで来て、そんなことに偶然なる確率が一体どれだけあるのだろうかと。それは自分の見間違いだと鼻で笑おうとして——。
——桜色の光が見えた。
「——なのちゃん!!」
自然と足は駆け出していた。
懐かしさを浴びに来ている方々や純粋になのはの二次創作を楽しみに来ている方々、色々いらっしゃるとは思いますが、ページを開いていただき恐悦至極でございます。
恐れ多さついでに、感想なども気軽に一言二言いただけましたら励みになりますゆえ、ぜひともよろしくお願いします、はい。
As編とか、RefDet、後はEXCEEDSとかまでのんびりやりたいですねぇ。