パパーッ
神奈川県、それは関東地方の南西部に位置し、東京都に次ぐ全国2位の人口(約920万人)を抱える政令指定都市3市(横浜・川崎・相模原)を持つ都道府県。
横浜・川崎の工業地帯や鎌倉の歴史観光、箱根の温泉など多様な特色を持ち、交通の便が良く温暖な気候の住みやすい県として知られて知られている。
そんな神奈川県でも有数の温泉街として知られ、同時に走り屋の聖地としても知られる箱根峠某所。夏ということもあって日差しがよく照る中、1台の赤色のボディーカラーが特徴的なスポーツカーが走っていた。
「マツダ ユーノス・ロードスター」(型式名NA6CE/NA8C)、通称NA型ロードスターと呼ばれるこの車は、リトラクタブルヘッドライトと軽量コンパクトな車体が特徴で、「人馬一体」の運転する楽しさを世界中で大ヒットさせたオープンライトウェイトスポーツカーとして知られている。
そのロードスターの運転席には、ラフな私服姿に身を包んだ金髪のショートヘアーの少女が腰掛けており、上機嫌な鼻歌を歌いながら箱根のダウンヒルを気持ちよさそうに走らせている姿が…
「〜♪」
彼女の名前は霧野ユキ(きりの ゆき)。神奈川県西部の中心都市小田原市の某高校に通う3年生(18歳)の女子高生である彼女は、このロードスターのオーナーだ。
毎日バイトや学校終わりの合間を見つけてはこうしていろんな神奈川県内の峠にぶらりと愛車のロードスター足を運んでは、昼間はのんびりとドライブ。
しかし夜は他の走り屋に混じってダウンヒルをハイスピードで攻めるという、女子高生ながら走り屋をやっているというあまり公には言えない二面性を持っている。
ちなみにロードスターは少し前に免許を取ってから初めて買った愛車。元々この車が好きというものはなく小さくてキビキビ峠で走れる車なら何でもいいという気持ちだったため、ロードスターを買ったのも安くて状態がそれなりに良かったからというもの。
だが走ってみるとかなりどツボにハマったらしく、今では日常使いでも欠かせない相棒となっているようだ。
尚走り屋になった理由は、父親と母親が両方走り屋の経験があり小さい頃よく峠やら連れて行って貰っていたお陰で物心が着いた頃には走り屋に対して強い憧れを抱くようになったから。
そんなことを説明している間にも運転席と助手席窓を空けて気持ちよさそうな表情を見せながら走っていたユキは、ふとロードスターのカーオーディオに設置された時計に目を落とすと、そろそろバイトに行かないといけない時間であることに気づく。
ブロロロ
「…ってやば、そろそろバイト行かないといけない時間だ…」
幸い小田原方面の下りを走っていたためそのまま下ってバイトに直行するか…そんなことを思いながらロードスターを走らせていたユキだったが、ふと何かに気づいたのかん?という表情を浮かべる。
「…まあ幸い小田原方面の下り走ってるからそのまま走ってバイト先に…ってん?あれは……」
彼女の視線の先、そこには峠途中に設けられた退避スペースにボンネットを空けた状態で停車しているカスタムツートンカラーのFD3Sの姿が…
ぱっと見エンジンルームを覗き込む人影も確認できることから、どうやらエンジントラブルに見舞われて立ち往生しているようだ。
いかにもそれっぽい走り屋の車が峠の途中で立ち往生していることは時たまよくあることではあるが、だいたいの走り屋は知り合いのレッカーやチューニングショップと交流を持っているため、この峠で基本声をかけても無駄足に終わることが多い。
ーエンジンルームを空けてるFD…?あーなんか覗いてるしエンジントラブルっぽい、…ってもだいたいここの走り屋や車屋のつてある人がほとんどだし…声かける必要も…ー
なので今日もいつものようにスルーしようかと思っていたユキだったが、よくよく見るとナンバープレートがあまり見ない横浜ナンバーであることに気づく。
もちろんここは神奈川県内なので横浜ナンバーも見ないわけではない…。…が何処となく気になって仕方ない彼女は左ウィンカーを出すと共に、退避スペースへとロードスターを突っ込ませ、FDの後ろへと車を停めた。
ー…ってあれ横浜ナンバー?…うーん…ちょっと気になるかも…一応声かけて見るかー…ー
その後車から降りたユキはその足取りでFDの前に歩み寄っていき、ボンネットを空けてエンジンルームを覗き込んでいた前髪を自然に下ろし、長めの髪を後ろでまとめたスタイルの同年代っぽい少女に声をかけた。
ボムッ
「よっと……(スタスタ)あのすみません…いかが…なされましたか?」
すると声をかけられたことで少女はユキに気づいたのだが、あまり表に顔を出さないタイプなのか顔を上げながら何?と冷たい視線を見せながら話しかけてきた。
本人はそんなつもりはないのだろうがまるで怪しい人を見つめるような雰囲気にも感じたユキは、慌てて弁明する形で怪しいものじゃないことを先に伝えながら、こんなところでボンネットを空けてどうしたのかと尋ねていく。
「……何」ギロ
「あっいやー、別に怪しい人じゃないです…!(汗)こんなところでエンジンルーム開けてどうしたのかなって思って、気になって声をかけただけでー」
「……」
それで怪しい人ではないか伝わったかは定かではないが恐らく同じ女性やと歳が近いことが功を奏したらしく、相変わらず冷たいままではあるが見ての通りエンジントラブルに見舞われた胸を明かしてくれた。
「別に、エンジントラブルでここに止まっているだけ」
どうやら走っている途中にアイドリング不調になったらしく、車をここに止めたタイミングで力尽きてエンジンがかからなくなったとのこと。
顔などを見ると汗や汚れみたいなのがついてること、足元に工具が置かれていることからどうにか応急処置をしようと試みてはいたらしい。
何か手伝おうか?と尋ねたユキに対し、FDの彼女は自分でどうにかするから手助けは不要と相変わらず冷たくあしらうように否定する。
「走ってる途中にアイドリングがおかしくなって、ここに止まったらエンジンがかからなくなった」
ーなるほど…、ってか直そうとはしてるみたい。工具箱あるし…顔も汗だくで汚れついてるし…ー
「あの、良かったら手助けしましょうか?」
「結構、自分でなんとかするからそんなの必要ないわ」
ちなみにレッカーとかは呼んだのかも尋ねたものの、そんなのなくてもどうにかなると突っぱねるように質問を弾き返す。
なんか一癖ある人だなー…内心そんなことを思いながらみていたユキだったが、ふともしかしてこの人もしかして知り合いが居ないのか?とかなり失礼なことが頭に過る。
「ちなみにレッカーとかは」
「いらないわ、ってか邪魔だからどっか行ってくれない?」
ーうーんなんか一癖強いっていうか…、ってまてよ?まさかこの人頼れる知り合いが居ない?ー
まあ普通の走り屋ならここまで調子がおかしくなった時点でレッカーなりなんなり誰かを呼ぶはずなのに、ここまで頑なに誰も呼ばないということはその線も確かにあり得なくはない。
ただどストレートに聞くには無礼にもほどがあるというもの、なのでもし聞くならばかなりオブラートに包んだ状態で尋ねるのが普通…
…がユキはそんなの全てすっ飛ばしてどストレートにそのことについて尋ねてしまった。
「あのもしかして、頼れる知り合いが居ないとかですか?」
「…」ギクッ
まあ案の定というか図星だったのか、先ほどまで冷たい態度を取っていた少女の反応が一変、…痛いところを突かれたかのような雰囲気を見せていく。
流石にいっていいことと悪いことがあるんじゃない…とブリキのおもちゃのような動きで呆れた表情を見せる少女だったが、その反応をみてやっぱりそうなんだ!と追い打ちをかけるような反応をユキは見せる。
「……あっ…アンタ…、言っていいことと悪いことあるんじゃな…」
「あっやっぱりそうなんですねーっ!ならそうって言ってくださいよー」
グサッ
もはや先ほどの雰囲気が見る影もなくまるでギャグ漫画みたいな反応を見せていた少女は、少しぷるぷると身体を震わせていたのだが、観念したのか涙目の表情を浮かべながらユキの言った通りだと白状した。
「………(ぷるぷる)はぁ…、えぇそうよ…!デリカシーの無いアンタの言った通りよ…!」
どうやら1時間前からずっとここで愛車のFDを直そうと努力していたものの、全く治らない状況にお手上げみたいな感じになっていたらしい。
ちなみに彼女が来る前にも何人かに声をかけられたものの、ツンケな態度をしたことでほとんどの人が折れて立ち去ったとか…
それを聞いたユキは困ってるなら誰かの助けを借りればいいのに…そんなことを呟きながら、ならうちのバイト先にみてもらえれば?と提案していく。
「やっぱりーっ!ちなみにかれこれどれくらいここに?」
「…1時間前ぐらいから、アンタ以外にも見かねて何人か声かけてきたけど…全部跳ね返した」
「んもー、困ってるなら助けてもらえばいいのに…。あっならうちのバイト先はどうです?」
どうやら彼女がアルバイトで働くお店はロータリーエンジンやロードスター専門『松田レーシング』らしく、そこに持っていけば変な整備工場に持っていくよりかはなんとかなるかもしれないとのこと。
…が他人に触られるのが好きじゃないのか、それなら自分で直すからレッカーで家まで持っていってくれるだけでいいと少女は頑なに断る。
「うちのバイト先、ロードスターとかロータリーエンジン専門のお店やってるのでもしかすれば…!」
「…そこまでしなくていい、家まで運んでくれたらなんとかするから」
しかし気持ちは完全にそっち方面にいってしまっているユキは、ちょっと麓の公衆電話でお店に電話して積車でお店まで連れて行ってもらえないか相談してくる…!と告げながらロードスターの運転席へと飛び乗る。
もちろんそこまでしなくていい少女はちょっと…!と慌てて制止しようとしたものの、その前にエンジンを始動したユキのロードスターはそのまま退避スペースを後にする形で走り去ってしまう。
「ちょっとお店に相談して積車で迎えに来てもらえないか麓の公衆電話で相談してみるね!すぐ戻るから!」
「あっちょ!そこまでは流石に(ブロロロ)……行っちゃった……」
話始めるまでは良かったのだがその後は嵐のような怒涛の展開に、完全にペースを乱されたFDの少女、郡千景(こおり ちかげ)は思わずため息を零しながら愛車のバンパーに腰掛けていく。
まあ確かに宛がなかったのも事実ではあるためありがたい提案ではあるが、せめて人の話は聞いてほしいんだけど…と内心千景はそんなことを思う。
ー…はぁ…まあ正直宛がなかったから助かってはいるんだけど……人の話ぐらいは聞いてほしいわ…ー
だがそんなことを思っている最中、ふと彼女の脳裏に昔の記憶が過っていく。過去にここ神奈川に来る前に住んでいた場所で知り合った赤髪の少女、その娘もあんな感じで人の話を聞かずに自分を振り回してたっけ…そんなことを思いながら懐かしむのであった。
(フラッシュバック)
『へぇー郡千景ちゃんっていうんだ…!じゃあ郡ちゃんだね!』
『ほらほらハチロク一緒に乗ってドライブ行こうよ!大丈夫夕方までには帰ってこれるから!ねっ!お母さん!』
「……そういえば、あの娘もそんな感じだったわね…。人の話を聞かない上に振り回して…ふふっ」
それから少しした頃例の退避スペースには千景のFDとユキのロードスター、そして2台の前に停車する形で『松田レーシング』と書かれた積載車(マツダ タイタン)が止められており、FDのエンジンルーム近くにはユキと千景の他に、加える形で覗き込むブラウンの髪にセミロング女性の姿が…
松田沙耶(まつだ さや)松田スピードと呼ばれるロードスターやロータリーエンジン御用達の専門店を営む父親の娘であり、同時にそこで働くユキの先輩的ポジションでもある。
しばらくFDのエンジンルームを見つめていた沙耶だったが、ボンネットを閉めると共にエンジンがかからなくなった原因が恐らくISCバルブ(アイドルスピードコントロールか、それに関係してプラグ被りではないかと推察した。
ボムッ
「なるほどねー、多分だけどISCやそれに関係したプラグ被りが原因かもね。アイドル不調からエンジンがかからなくなったの」
とはいえ一旦車をお店まで持って行って正確に見てみないと分からないらしく、積載車で自店舗まで運んで精密検査してみるけどいいかしら?と沙耶は尋ねていく。
もちろん当初は家(工場跡地)に持って帰ってもらって貰うだけ貰って自分で直すつもり(設備とか工具はある)だったが、専門店なら部品もすぐ出るだろうし…直してもらってそのまま帰れるならその方がいいということで、千景はそれでお願いしますと答える。
「まあでも持って帰って見てみないと分からないかも(ボムッ)とりあえず、一旦うちに持っていくけどいいかしら?」
「…まあそれで、お願いします…」
ー本当は家に持って帰ってもらえればいいんだけど…、話聞く限りロータリーエンジンとロードスター御用達みたいだし…そのまま直してもらったほうがいいかしら…出費は痛いけど…ー
それを聞いたユキがわざわざ電話したかいがあった…!と嬉しそうな表情を見せるが、沙耶がレッカー代と修理費用はコイツに払わせるから気にしないでと告げた途端ギャグ漫画みたいな勢いでズッコケた。
どうやら持っていっていいか分からないのに話を聞くことなく呼んだことはバレていたのか、不服そうを浮かべる彼女に対して当然と言わんばかりに指摘していく。
「良かったー、わざわざ電話した甲斐があったよー」
「あーちまみにレッカー代と修理費用はこの子に払わせるからー」
「…(ズコー!!)、えっあっ私が!?修理費用とレッカーを!?」
「とーぜんよ、アンタ話聞かずにうちに電話してきたんでしょどーせ。来たときにバレバレだったもん」
「ぐぬぬ…」
そのやり取りを見ていた千景はそこまでしなくてもそれぐらいは自分で払うと答えたものの、沙耶は費用とかはこっちに任せて大丈夫と答えながら、積載車にFDを載せるためにまだ不服そうなユキを使って作業を開始していくのであった。
「あっえっ…そこまでしなくても…」
「いーのいーの、お金とかはこっちに任せて。ほーらユキ、この人のFD載せるから手伝って」
「はーい……」渋々
イメージオープニング曲
STAR LINER(東方EUROBEAT A-ONE)
(キャラ紹介は専用の回を設けますのでしばしお待ちを)