あれから場所は変わって小田原市内、日中にも関わらず休みの日ということもあってか多種多様な車に家族連れといった人たちで幹線道路などは非常ににぎわっていた。
そんな最中、多くの行き交う交通量に紛れ込む形でカスタムツートンカラーのFDを載せた『松田レーシング』と書かれたタイタンと、その後ろについてくる形でna型ロードスターが走っている姿が…
そのロードスターの車内ではオーナーであるユキがステアリングを握っており、助手席では前の積車に乗せられたFDのドライバーである千景が腰掛けていた。
ブロロロ
パパーっ
どうやら今はユキのバイト先でありエンジントラブルに見舞われたFDを直すために前の積車に書かれている松田レーシングと呼ばれるロードスターやロータリーエンジン御用達の専門店へ向けて走っているらしい。
ちなみに先ほどからユキは、千景のFDの修理費用やレッカー費用を肩代わりしなさいと沙耶に言われ、何とも言えないような表情を浮かべていたが、ふと思い出したかのようにそういえばお互い自己紹介してなかったと呟く。
「あっそういえばお互い自己紹介とかしてなかったよね…!」
「……」
千景的にはどっちでも良かったらしいがここでもユキのペースにのまれる形で、気づけば互い名前などの簡単な自己紹介を挟んでいた。
まあほぼユキの一方的な会話ではあるものの、その中で千景は自分にとってかけがえのない存在だったハチロクが大好きな少女が何度も過っていき、彼女を突き放そうとしかけるもそれが出来ずにいた。
「私霧野ユキっ!歳は18歳でさっき話した通り松田レーシングでアルバイトしてるんだ!ちな高校3年生でこのロードスターのオーナーです!」
「…郡千景、歳はあんたと一緒」
「おぉ同い年!ってかいい名前だねー」
ー…はぁ…、うざいはずなのに…なんでかあの娘が過って突き放そうとしても突き放せない…ー
その後前を走る積載車のドライバーであるアルバイト先の先輩であり沙耶のことや、バイト先でありこれから向かっている松田レーシングについて話していたユキだったが、ふと思い出したように千景のことをなんて呼べばいいかと尋ねていく。
「あっ今前走ってて私が呼んだ人は松田沙耶先輩!私がアルバイトで働いてるとこの先輩なんだ!車はRX-8乗ってるんだって!ロータリーエンジン詳しいから遠慮せずに聞いて!」
「……」
「…ってあそうだ!千景さんのことなんて呼べばいいかとかある?」
とはいえ特にない上に変なやつで呼んでほしくない千景は今のままでいいと答えたものの、少し考えてからユキがそれなら郡ちゃんはどうかと初対面なのになかなか攻めた呼び名を提案。
流石にこれには千景もはぁ!?と声を荒げたものの、ここでもあの娘の言葉が脳裏を過ったことで強く言い返せずに声を詰まらせてしまう。
「…別に…今のままで…」
「あっなら郡ちゃんとかどう!?千景さんより良くない!?」
「はぁ!?いやいくらなんでもそれh…『じゃあ郡ちゃんってどう!?千景さんよりいいと思うよ!』…うっ…ぐ……」
こうしてなし崩しに千景の呼び名が郡ちゃんと決まったタイミングで、少し先の道路脇に『松田レーシング』と書かれた看板が目に入ってきた。
それが近づいて来ると、道沿いの展示場にはロードスターやFDやFC、ユーノスコスモとといったロータリーエンジンを載せた車が並べられており、その奥には整備工場らしき建物が確認出来る。
事前に聞いた通りのお店だな…ユキの自由奔放っぷりに頭を抱えかけていた千景は、ロードスターの助手席窓から眺めながらそんなことを思う。
「じゃあ決まり!今日から郡ちゃんね!あっ私はユキちゃんでもユキでもお好きな方で!」
「…はぁ……勘弁して……、ってここが」
ー表の展示車はロードスターにユーノスコスモ、FDとかFCっていった感じか…いかにもって感じね…ー
その間にも千景のFDを載せた沙耶が運転する積載車(タイタン)が左ウィンカーを焚きながら通りから外れる形で松田レーシングの敷地内に入っていき、それに続く形でロードスターも入っていくのであった。
ブロロロ
小田原市内某所、多種多様なお店が立ち並ぶ幹線道路沿いに建てられている『松田レーシング』。
主にロードスターやロータリーエンジンを搭載したマツダ車をメインに扱う専門の整備工場であり、専用機材なども豊富に整っていることから県内はもちろんのこと、県外からもオーナーが訪れているらしい。
もちろん今日も整備工場のラインやリフトには作業途中のロードスターやFDといった車が置かれており、整備士達がせっせとメンテナンスを行っていた。
そんな中唯一空いていたリフトにバックから突っ込む形で松田レーシングの積載車であるタイタンが停車、その近くの従業員用駐車場にユキのロードスターが止まっていき、2人が車から降りてくる。
キキッ
ウォンウォン
「ふいー、到着。ってかリフト空いててよかったねー。すぐ見てもらえるかも」
「…かなり繁盛してるのね」
「まあロードスターとロータリーエンジン御用達のお店だからねー、県内だけじゃなくて県外からも結構来る人がいるから」
駄弁りながら2人は積載車のほうに歩み寄っていくと、タイタンの運転席から降りてきた沙耶がユキにこっちはやっとくから、駄弁ってないでさっさと着替えてフロントのフォローに入ってあげてと告げていく。
それを聞いたユキはやべっ…という表情を浮かべると、後は沙耶に分からないことがあれば聞いて!と告げながら駆け足でその場を後にした。
「こらーユキ、駄弁ってないでさっさと着替えてフロントのフォローに入ってあげて。私はこっちをしばらく見るから」
「やべっ……んじゃまたあとで!分からないことあったら沙耶先輩に聴いて!」ダッ
その後積載車からFDを下ろし、バックで積み込んでいたためそのまま前進で千景に運転してもらいつつ、沙耶や近くのメカニックの助けも借りて埋め込み式のリフトに突っ込む。
それが終わると今度は慣れた手つきで彼女がFDのボンネットを開けていき、ライト片手にエンジンルーム内をチェックし始める。
「よーし、とりあえずこんなものかなー。あっボンネットのロックついでに解錠して貰える?」
「あっはい…」ガコッ
「さてと……、予想ではISCやそれに関係したプラグ被りが原因だけど…どうかしらねー」ゴソゴソ
その様子を後ろから見ていた千景だったが、思ってたよりも動きに無駄がないことや一からこのFDを直した自分に負けないほどの手さばきに少しおどろいた表情を見せていた。
そんな千景に自分で触った際何処まで見たかなど確認したりしながら数十分ほど作業を進めていくと、原因が分かったのか汗が流れる顔を拭いながら顔を上げていく。
ー…なんだろう…この人全然無駄がない……、下手したら私よりも車をみる動きがいいかも…ー
「プラグとかは外して見た?」
「あっはい…そしたらプラグかぶってたので清掃とかして……」
「なるほど………、よし。とりあえずは原因わかった」
それを聞いた千景が本当かと尋ねると、ええっと答えながら沙耶はアイドリング不調からのエンストを起こした原因はISCが全閉状態で固着、それによってプラグが燃料被りを起こしたのが原因だと明かす。
実際固定しているボルト(2本)を緩め、カプラーとホースを外して本体を車両から取り外したISCバルブ(ISCV)は、通路内にカーボン(黒いスス)がびっしり詰まり、内部の弁が動かない状態になっており、プラグも燃料ばかりが燃焼室に入ってきたことで燃料被りを起こしていた。
「あっえっ…本当ですか?」
「ええっ、今調べてみたらISCが固着して全閉状態。それによって燃料しか来ないからプラグ被り起こしてた、だから予想通りってとこかしら。ほらこれ」
「…あっ…確かに…」
プラグに関しては交換すればオッケーで、ISCもエンジンコンディショナー等での洗浄や綿棒や柔らかいブラシで、弁を傷つけないようにカーボンを優しく落とせば再使用は可能。
だがISCに関してはたまにECU(エンジンコンピューター)内部のパワートランジスタ(基盤)がパンクしている可能性があるため、清掃したからといって直らないパターンもあるらしく、そのへんはしばらく様子見だとか……
「これならプラグは新品に交換して、ISCは清掃したらなんとかなるかも。…まあたまにISCの方はECU(エンジンコンピューター)内部のパワートランジスタ(基盤)がパンクしている可能性があるから何とも言えないけど……」
「…なるほど」
そんなことを話していると、その子がさっき電話でユキが言っていたFDの子か?という声と共に一人の中年男性が整備士特有のツナギに身を包んだ状態でこちらにやってくる。
もちろんそうだと答えながら、沙耶は千景に対してこの人がここのマツダ車専門のチューニングショップ『松田レーシング』のオーナーであり、父親である松田 勇だと紹介していく。
「沙耶、その子がユキが電話で言ってたFDの子か?」
「あっお父さん、うんそう。紹介するね、この人はここの松田レーシングのオーナーやってて、私のお父さんの松田 勇」
「始めまして、マツダ車専門のチューニングショップ『松田レーシング』のオーナーの松田 勇だ」
その後そういえば自分とか千景の自己紹介とかしたり来てなかった…!と思い出した沙耶は、既にユキがしてくれてるとは思うけど…と付け加えると自分の名前と簡単な自己紹介を行う。
もちろん千景も自己紹介をしつつ、色々してくださってありがとう御座います…とあまり表情が分かりにくいがお礼を述べる。
「…ってあそういえば私もしてなかったし貴方の名前も聞いてなかった、多分ユキがしてくれてるとは思うけど一応。私は松田沙耶、さっき紹介したお父さんの娘で、大学生しながらここでフロント兼メカニックやってるの。よろしくね」
「…郡千景、18でこのFDのオーナーやってます…。あっあと…色々としてくださってありがとう御座います…」ペコッ
とまあそんな感じで双方挨拶をし終えると、沙耶が勇に対して新品のプラグって工場にあまりで残ってないか?と尋ねていく。
すると丁度使う予定が使わずに保管してる新品プラグが勇曰くあるらしく、それを聞いた沙耶は使っていいことを確認すると駆け足で部品庫のへと向かっていった。
「あっお父さん、工場に使ってない新品のプラグってあったりするかな?」
「ここでは社長だろ?あるぜ、丁度使う予定が使わずに保管してる奴が部品庫のほうに」
「それって使っても大丈夫かな?」
「おう、全然かまわないぜ」
「ありがとう…!ごめん千景さん、ちょっと部品取ってくるね」ダッ
こうして勇と2人っきりになった千景だったが、色々ときっかけがあって他人とほぼ話したことがない…というか避けていた弊害があってか、なんていえばいいか分からずつい気まずい雰囲気が流れてしまう。
…が先に口を開いたのは勇であり、このFDは君のかと全周を見渡しながらそう話しながら訪ねていき、千景もまあはい…と答える。
「……」
ーヤバい…他人と全然話してないからどう会話していいか……、ってかめっちゃ気まずい…ー
「そういえば、当たり前の質問になるがこのFDは君か?」
「あっえっ……まあ…はい……」
するとその直後勇の口からこのFDは一回燃えて焼けてないか?と指摘され、思わず千景はえっ…という声を漏らす。
確かに父親が心中した際に外装も内装も焼け焦げた、しかしその後コツコツとだがひとつひとつ直していき、ぱっと見は新車と変わらないような見た目に仕上げ、燃えた痕跡も消したと思っていた。
だが勇は腐ってもロードスターやロータリーエンジン御用達の専門店のオーナー、燃えた状態から復活した車を何台も見ていたこともあって、それもお見通しだったらしい。
「なるほどな…ところで失礼かも知れないが…、この車…一度外装とか内装が燃えてないか?」
「…あっ…え……」
ーなっなんで……、確かにそうだけど…燃えた痕跡は独学で直した時にしっかり消して…ー
「なんでって顔してるな、伊達にこっちはロードスターやロータリーエンジン御用達の専門店オーナーやってんだ。いろんな状態の車は見てきたつもりだよ」
ちなみにどうしてこのFDが燃えたのかということに至ったのかというとドアやボンネットの隙間(チリ)が大きく…とまでは行かないものの多少ズレており、それが熱による歪みで出来たものだと判断したからだとか…
とはいえ誰にも頼らず独学で直した割にはかなり出来はいいらしく、それを聞いた勇はいい腕してるな…と千景の技術を褒め称えた。
「…まあはい、そうですね…。一回外装と内装が燃えて……」
「だろうな、ちなみに気づいた訳だが、ドアやボンネットの隙間(チリ)が少しあってな。気になるほどじゃねぇが、それが熱による歪みっぽくて気づいたんだ」
「……そういう、…まあ独学で直したんで…出来る範囲のとこだけ…ですけど…」
「なるほどなー、てもそれでこれだけ直せりゃ充分だ。あんたいい腕してるよ」
「…ありがとう御座います」
だがそれでも独学で直した分気になるところもあるらしく、タイヤの減り方からしても走り屋やってるならもっと本格的にメンテナンスしないとこの先命がいくつあっても足りないような状況になるぞと勇は警告していく。
自分的にはしっかりメンテナンスしたりオーバーホールしていたつもりだったが、流石に知識がない状態からの独学は無理があったのかも知れない。
「けど独学でやった分荒いところもあるな、ぱっと見。タイヤの減り方からして走り屋やってるんだろ?」
「……はい」
「ならもうちょいちゃんとしないとな、じゃなきゃこの先取り返しのつかないことになるぞ」
とはいえ本人的には走れれば問題ないため、特に気にしてないと答えるものの独学でオーバーホールしたりレストアするほどの技術を若いうちから持っている上に、走りもタイヤの減り方で上手いドライバーだと見抜いていた勇はそれでは勿体ないと口にする。
「お気遣いありがとう御座います…、でも私的には一人で走れるなら何でもいいので…」
「いやいや、このFDをレストアするうえにオーバーホール出来るテクニック持ってるお嬢ちゃんみたいな走り屋は成長してなんぼだ。失うなんて勿体ない」
それにそのFDは大切にしてるんだろ?と指摘していき、千景も大切にしているかは分からないがシンパシーを感じて一緒に過ごしていると明かしていく。
ならもっとしっかりメンテナンスしないと…話した勇は、ここで一つ自身の娘である沙耶に専属メカニックをさせてもらえないか?と提案していくのであった。
「それにそのFD大切に乗ってるんだろ?」
「…そう…ですね、…シンパシーを感じてるので……」
「ならしっかりメンテナンスしないと…、とここで一つ提案何だが……」
「?」
『うちの娘、沙耶に君のFDの専属メカニックを頼めないだろうか?』
イメージエンディング
W_X_Y(Tani Yuuki Memorisさまより
霧野ユキバージョン モデルAOKUMORINカバーより)