夜のヤビツ峠にけたたましいエキゾーストサウンドを響かせながら飛び出した2台は、まずはヒルクライムを駆け登るように疾走していた。
尚130 馬力のNA仕様のロードスターではアップダウンの激しいヤビツ峠のヒルクライムはしんどい。
対して沙耶のRX-8は240馬力、パワーもそれなりにあるためロードスターにぴったりと張り付く。
ドギャァァァ
ゴァァァ
もちろんユキもそれは分かっているため、やっぱパワー勝負じゃ勝てないよねーと内心思いながら、ならコーナリング勝負でその分取り返さなきゃ!と意気込みながらロードスターを操る。
ーやっぱヒルクライム勝負じゃ勝てないよねー…、まっでも!その分コーナリング勝負で取り返さないと…!ー
そのRX-8の助手席では、右へ左へアップダウンの激しいコーナーが続く中落ち着いた表情を浮かべた千景が冷静にユキの走りを分析していた。
とは言えヒルクライム区間ではターボ化していない低パワーなロードスターではしんどいものがあるのは千景も分かっており、本番は折り返しのダウンヒル区間に入ってから…と思っているらしい。
ドギャァァァ
「……」
ーやっぱヒルクライム区間はしんどそうね、低パワーにターボ化してないってなるとそんなもんかしら。…まっ本命は折り返しのダウンヒル区間…それまではのんびり見させて貰うわー
まあこれが出来るのも沙耶の安定した走りのお陰というのもあり、当の本人は落ち着いた表情を浮かべながらもユキのペースに合わせるようにアクセルの踏み加減やステアリングの操作を行っていた。
ゴァァァ
「っと…!」
やはりずっと一緒に走っているというのもあるのだろう、ユキの走りにぴったりと合わせておりその様子を見ていた千景は上手いわね…と称賛の言葉を内心送っていく。
ーにしても…沙耶さん、あの子の走り合わせるの上手いわね…。…ここまでぴったりな走り屋は見たことないかも…、伊達にずっと一緒に走ってきたんでしょうねー
その後再び視線を前に向けた千景は、ユキのコーナリング技術を冷静に分析しており、今のところの評価としては、走り自体は悪くないとのこと。
とは言え最近走りたてということもあってかまだまだ未熟なところもあるらしく、特にタイヤなどのマネジメント管理は甘いらしい。
ー……まあそれより…今のところ走りとしては悪くないかしら…、っても走りたてだからマネジメント管理とかはまだまだ甘いけどー
まあそう言ってもまだ始まったばかり、恐らく本命であろうダウンヒル区間でのテクニックを見てからでも遅くはないだろう…そんなことを千景は思いながら冷静な眼差しを見せていく。
そんな千景を横目にステアリングを握っていた沙耶は、これだけアップダウンの激しい峠で一切表情を崩さない彼女に驚きを見せていた。
ーまっでも…まだ始まったばかり、本命のダウンヒル区間を見てからでも遅くはないでしょうー
ゴァァァ
ー……これだけアップダウンの激しい峠で一切表情を崩さないって…なかなかに肝が座ってるわね…ー
普通ならいくら落ち着いた人でもアップダウンの激しい峠となると多少でも表情の変化やリアクションを見せるというもの、極端な話ユキなら満面の笑みを見せながらこの場面では絶対にはしゃいでいる。
しかし千景には一切その反応どころか気配すら感じられず、本当にその意識がユキに向けられているようにも感じていた。
ーユキとは対照的というか…あの娘なら絶対満面の笑み浮かべながらリアクションしまくる…、それとは対照的ね…ー
そんなことを思っている間にも2台はヤビツ峠のヒルクライムを駆け上がっていき、所々ではギャラリーたちがたむろっており、2台が通過する際に各々のリアクションを見せていた。
ギャァァァ
「おっ今度はロードスターとRX-8か、攻めてるなー」
「ってもやっぱロードスターの方はヒルクライム苦しそうだな、張り付かれっぱなしだぜ」
「まあダウンヒルが本命だろ、あーいうタイプの車は」
その間にも2台は折り返し地点兼ダウンヒルのスタート地点に到着、まずはユキがサイドブレーキを使って鋭い反転を見せ、間髪入れずに沙耶もRX-8を反転させてロードスターの後ろへ張り付きながら停車していく。
「っと!」ガッ!
ギャン!!
「よっと」
ギャン
いよいよ本命のダウンヒル区間、お手並み拝見といきましょうか…と内心そんなことを思っていると、ふと沙耶がここまでの走りはどう?と尋ねてくる。
ーさてと…いよいよダウンヒル区間…、お手並み拝見といこうかしら…ー
「どう?千景さん、ここまでの走り」
聞かれた千景は別に走りたてにしては今のところ悪くはないことと、タイヤのマネジメント管理はまだまだだと答えていき、ダウンヒル区間でどうかによって評価する旨を伝えていく。
「そうね…、走り自体な悪くはないかしら。走ってる年数に対しては…まあタイヤのマネジメント管理とかはまだまだ未熟だけど」
「なるほどねー、でも本命はダウンヒルってとこかしら?」
「ええっ、ロードスターの性能を考えればダウンヒルでの評価が妥当でしょう」
そんなことを話している間に準備を整えた沙耶は、今度は先ほどのヒルクライムより少し激しいと思うからしっかり捕まっててと伝えながら、スタート合図を知らせるパッシングを送る。
「んじゃそろそろ行くわよ、ヒルクライムとは少し違って激しいから…しっかり捕まってて…!」
チカッチカッ(パッシング)
もちろんパッシングを受け取ったユキは頷きながら素早くブレーキからアクセルに足を踏み変えると、弾かれたようホイルスピンをさせながらスタートダッシュを決めていく。
ー合図来たっ!よーし行くよっ!群ちゃんにいいとこ見せなきゃ!ーゴクッ
ギャァァァ!!
それを確認すると沙耶も弾かれたように最低限のホイルスピンでスタートダッシュを決めていき、先に飛び出したロードスターの後に続く形で暗闇のダウンヒルへと飛び込む。
「っと!」
ドギャァァァ
標高761m(表ヤビツ全体では獲得標高約767m)の山岳峠であり、低速から中速のコーナーが連続するヤビツ峠。
ハイパワー車よりもローパワーで小回りが聞く車が輝くとも言えるダウンヒルを駆け下りるロードスターは、コーナーに差し掛かるとハードなブレーキングで減速。
ウォンウォン!!
ゴフッ
最近覚えたてのヒールアンドトゥで2速にギアを叩き込みながら、ステアリングを切り込むとリアを滑らせながらド派手なブレーキングドリフトでコーナーを流していく。
「っと…!!」
ドギャァァァ
ユキのロードスターがコーナーを難なく立ち上がってから間髪入れず、進入してきたRX-8では沙耶が慣れた手つきでヒールアンドトゥでギアを2速に叩き込む。
その後ステアリングを切り込むとこちらも派手なブレーキングドリフトでリアを滑らせながらコーナーを立ち上がる。
「よっとっ」
ウォンウォン!!
ドギャァァァ!!
その様子を助手席から見ていた千景は、沙耶の安定したドリフトを横目にしつつ上手いわね…そんなことを思っていた。
ー……上手いわね…、要所をちゃんと押さえてるっていうか…走りが安定してるー
ちなみにもちろんユキの走りもしっかりと見ており、評価としては多少荒さは要所を抑えきれてないものの、それでもドリフトや安定した走りが出来ているらしい。
ーまあそれよりもあの子の走りよ…、多少荒さや要所を抑えきれてないないけど…悪くは無さそうね。ドリフトもしっかりできてるしー
とは言えやはり上りで気にしていたタイヤのマネジメント管理は出来ていないらしく、このペースでは1本走っただけでタイヤを消耗させてしまうとのこと。
ーでもタイヤのマネジメント管理はやっぱり出来てない…これじゃ1本走っただけでタイヤが消耗しちゃう…ー
後でその辺のアドバイスとかは必要かもね…そんなことを思っていた千景に対して、沙耶はまるで走り屋のコーチみたいな目をしてるわねとステアリングを操りながらそんなことを思っていた。
ー後でその辺のアドバイスは必要かしら…ー
ーふふっ、千景さん。なんだかユキちゃんのコーチみたいー
その間にも2台はダウンヒルを疾走していき、コーナーに差し掛かるたびにヒールアンドトゥからの四輪ドリフトでコーナーを流していく。
もちろん折り返しなので先ほど見ていたギャラリー達も再度その様子を見ており、2台ともやるなーとそんなことを話し合っていた。
ドギャァァァ!!
「おっさっきの2台、ドリフトうめーなぁ」
「俺はあんなドリフトできねーぜ…、出来る奴は羨ましいぜったく…」トホホ
しばらくそんな感じで走っていると、ふと千景がそういえばドリフトがここまで上手いのはどうしてなのだろう…という疑問が浮かび上がる。
ー…そういえば…あの子こんなにドリフト上手いのはどうして何故かしら…?ー
というのもユキの年齢は自分と同じ、無免許でテクニックを磨いていた自分とは違って彼女はまだ免許を取ってから間もない上に、走り屋デビューをしたのは話の雰囲気的に最近。
本来ならドリフトどころか走るのもやっとなはず、なのに今の彼女は多少の荒さこそあるもののそれなりに走れている。
それが千景にとっては不思議で仕方ないのだ。
ー少なくとも免許を取ってからそこまで日は経ってないはず…、本来ならドリフトどころか走るのもやっとなはず…。でも今のあの子は多少の荒さこそあるけど…ー
するとそれを察したのか沙耶がステアリングを握りながら、今の彼女があるのは兄と自分が免許を取る前から走りを教え込んだからだと告げていく。
「…なんで免許取って間もない娘がこんなに走れるのか…って顔をしてるわねー」
「あっえっと…はい」
「それはね、免許取る前から私とかあの子のお兄さんが教え込んだから…ってのが理由かな」
どうやらユキにはお兄さんがいたらしく、元々免許を取る前から走り屋に興味があった関係で、よくサーキットなどで一緒になって教えてあげていたらしい。
「…お兄さんいたんですか?あの子に」
「えぇ、ユキちゃんのお兄さんも走り屋やってて。あの子もそれで強い憧れ抱いてたの、だから空いてる日があればよくサーキット連れて行ってあげてたなー」
そのお陰もあってか、免許を取ってからロードスターを買い走り屋デビューをしたあとも、その辺の走り屋相手なら互角にやりあえる実力を持っているとか…
「今のあの子があるのもそのお陰なの、あれでもその辺の走り屋相手なら互角、もしくは優位に戦えるのよ?」
「…なるほど、だから道理で」
どんな人なのか?と少し気になった千景が尋ねると、明るくて話やすい人だったよと沙耶は答えていく。
ユキも明るくて話しやすいタイプではあるものの、どちらかというとかなりズカズカいくタイプらしい(まあその通りではあるが)。
「ちなみにお兄さんってどんな…」
「そうねー、明るくて話しやすいタイプだったかな?ユキちゃんもそうなんだけど…。どちらかというとズカズカいくタイプだから…」汗
ー確かに…ー
そんなことを話している間にも2台はダウンヒルを駆け下っていき、甲高いエキゾースト音やスキール音を夜のヤビツ峠へ響かせていくのであった。
ドギャァァァ
それから少し経ち、菜の花台展望台の駐車場には他の車に混じる形で見慣れたロードスターとRX-8が止まっており、近くにはユキたちの姿もあった。
どうだったと興奮気味に尋ねる彼女に対して、千景は思ったことをそのままぶっちゃけることに。
ボムッ
「ねぇねぇ群ちゃん!どう!?どうだった!?」
「ちっ…近い…、…まあそうね…走り自体は悪く無かったわよ…走り屋の年数に比べて」
するとそれを聞いたユキは嬉しそうな表情を浮かべるものの、千景はすぐにダメだしをしていき、これには流石の彼女もえぇーと不服そうな雰囲気を浮かべていく。
「本当!?やっt」
「でも、それ以外は駄目駄目ね。走りも荒いし…なによりタイヤのマネジメント管理が出来てない」
「えぇー…」
まあ裏を返せばちゃんと見てくれていたということであり、沙耶がフォローするようにそんなことを口にする。
「まあでもちゃんと見てくれてたってことなんだし、いいんじゃない?ユキちゃん」
「まあそれはそうなんだけどさー…」
とは言え別に下手というわけでないためそれぐらいなら隣に乗ってあげてもいい…と答えていき、それを聞いたユキは満面の笑みを浮かべるとありがとう!と勢いよく抱きついていく。
「…まあ別に下手って訳じゃないから…、隣に乗ってあげても…いいかも」
「本当!?やったありがとう!」
「あば…!?ちょ…!ここで抱きつくな…」
そんな2人を見ながら、相変わらずユキには甘いんだから…と微笑ましい表情を浮かべながら沙耶はそんなことを思うのであった。
ー本当っ、ユキちゃんには甘いのよねぇ…千景さん…ー