その家は、最後に俺たちが立ち去ってから、どれほどの月日が流れたのだろう。
窓から差し込む斜陽が、静まり返った室内に積もった薄い埃をきらきらと光らせていた。
「……」
シドは、足音もなくその部屋へと戻ってきた。
深くかぶったフードの奥、白髪の隙間から、赤と紫のオッドアイが部屋を眺める。
普通の人なら、懐かしさや寂しさを感じるのだろうと思いながら。
ふと、テーブルの上に一通の手紙が置かれているのを見つけた。
シドは歩み寄り、埃をかぶった木製のテーブルからそれを取り上げ、開いた。
そこに書かれていたのは、短く、しかし見覚えのある筆跡だった。
> シドへ
> 黙って消えてしまってすまない。
> 久しぶりに話をしよう。
> 場所は、この地図の示す場所だ。
> シルバ
手紙の最後にある、その名前。
そして、同封されていた見慣れない国の地図。
たしかその国は世間が「現代最悪の独裁国」というほど恐ろしい国だと言われていた気がする。
だが、そんなことはどうでもよかった。
シドの思いは、ただ一つ。
(またシルバに会える)
という、純粋な期待だけだった。
シドは手紙を丁寧に折り畳み、上着のポケットへとしまい込む。
一度も後ろを振り返ることなく、彼は踵を返し、外の世界へと向かって歩き出す。
埃の舞う静寂な家を後に、シドは光の中へと踏み出した。
─────
一方、その手紙の送り先──世界中から恐れられている独裁国家。
重々しい警戒態勢が敷かれた街の片隅、薄暗い部屋の窓辺に、一人の少年が佇んでいた。
名前はシルバ。
彼は窓の外に広がる、今にも雨が降り出しそうな空を、ただ静かに見つめている。
世界から隔絶されたこの冷たい国で、彼の周囲だけは、まるで時が止まったかのように穏やかで、どこか儚い静寂に満ちていた。
彼が送った手紙は、もうあの家に届いているはずだった。
「……ふふ」
シルバの薄い唇から、ふっと柔らかな笑みがこぼれる。
「本当に来てくれるだろうか」などという不安は、彼の心に微塵もなかった。
感情を失い、他人の生死にすら心を動かさないあいつが、自分からの手紙を読んだなら、どんな危険を冒してでもここへやって来る。
そのひたむきで、自分にしか向けない純粋さを、シルバは誰よりも深く知っていた。あいつは必ず、この場所へやって来る。
もう、自分に残された時間はそれほど多くない。
己の最期がすぐそこまで迫っていることを肌で感じながらも、シルバの心は凪いでいた。
「待っているよ、シド」
愛おしそうにそう呟いた彼の瞳には、ただ一人、大切な親友の姿だけが映っていた。