冴えない中年平社員、見た技と異能をコピーして企業代理戦で成り上がる 作:パラレル・ゲーマー
能力者チーム《BREAK LINE》人物プロフィール
《BREAK LINE》
登録区分:Tier4能力者チーム
構成人数:三名
活動歴:約一年
チーム戦績:十戦六勝四敗
勝率:六〇%
主な活動:企業代理戦、能力犯罪者の捕獲補助、危険区域の制圧、屋内警護
得意形式:廃ビル、倉庫、地下施設、複雑な構造を持つ屋内戦場
チーム名の由来:敵の陣形と合流経路を破壊し、戦線を複数に切断する戦闘方針から
《BREAK LINE》は、相互支援や能力の組み合わせを重視する一般的な能力者チームとは、根本的に成り立ちが異なる。
三人は強い信頼関係で結ばれた仲間ではない。
互いに私生活を共有せず、任務外で食事へ行くこともほとんどない。誰かが怪我をしても、必要な医療機関の連絡先を送る程度で、病室を訪ねるような関係ではなかった。
彼らを結びつけているのは友情ではなく、ただ一つ。
それぞれが、単独戦闘における相手の実力だけは認めているという事実である。
三人とも、能力者として活動を始めてから何度か既存のチームへ所属した経験を持つ。しかし、作戦中に細かく指示されることや、自分の戦闘へ味方が割り込んでくることを嫌い、いずれも長続きしなかった。
城戸岳人は、自分が作った戦場で自分の相手と戦いたい。
榊美雨は、自分が捕捉した標的を自分の手で追い詰めたい。
矢吹宗一は、自分の身を他人に守らせたくない。
その三人が妥協した結果として完成したのが、
「城戸が敵を分断する。その後は、各自が自分の前へ現れた一人を倒す」
という、極端なまでに単純化された戦術だった。
敵チームの連携経路を物理的に破壊し、戦場へ三つの一対一を作る。
そこまでが《BREAK LINE》のチームプレイ。
一対一が成立した後は、互いの戦場へ干渉しない。
先に勝利しても、積極的に仲間を探して援護へ向かうことはない。仲間が苦戦している可能性よりも、
「自分が倒せる相手なら、あいつらも自分の相手を倒しているだろう」
という個人への信頼を優先する。
その考え方は、傲慢ではあるが、これまで一定の成果を上げていた。
城戸の分断能力は屋内戦において極めて強力であり、美雨と矢吹も、並のTier4能力者なら単独で撃破できるだけの実力を持つ。能力情報が事前に伏せられた遭遇戦では、相手が自分たちの得意な距離や能力相性を把握する前に、一人ずつ押し潰すことができた。
チーム結成後の勝率は六〇%。
突出した強豪チームとは呼べないが、代理戦を継続できる水準としては悪くない。特に廃ビル、倉庫、地下施設での勝率は高く、逆に広い屋外や遮蔽物の少ないリングでは成績を落としている。
フィールドワークス戦における失敗は、分断戦術そのものではなかった。
作戦は予定どおり成功し、佐伯直人、羽田玲奈、水瀬蓮花の三人は、それぞれ別の区画へ引き離されている。
最大の誤算は、最も弱そうに見えた水瀬蓮花が、そもそも一対一という状況を成立させられない能力者だったこと。
そして、水瀬が自分の担当を倒した後、《BREAK LINE》の常識に従って待機せず、即座に別の戦場へ援軍として移動したことだった。
一人ずつ戦うことに慣れすぎた三人は、
「一つの戦場で勝利した敵戦力が、次の戦場へ流れ込んでくる」
という、チーム戦では本来当然考慮すべき危険を軽視していた。
それは明確な失策だった。
しかし、三人が弱かったわけではない。
単独戦闘への自信が、チームとしての視野を狭めていたのである。
◆
城戸岳人
年齢:三十四歳
身長:百八十三センチ
体重:八十八キロ
通り名:《城崩し》
発現区分:修練型
チーム内役割:リーダー、戦場分断、近接制圧
表の職業:解体工事会社・現場監督
主な格闘技:フルコンタクト空手
性格:寡黙、実力主義、頑固
本人による異能の呼称:《通し》
人物
《BREAK LINE》のリーダー。
ただし、仲間へ細かな指示を出す指揮官ではない。
城戸の仕事は、戦闘が始まった直後に相手の配置を見抜き、建物の構造へ衝撃を流し込み、敵味方をそれぞれ異なる戦場へ切り分けるところまで。
分断が完成すれば、自分も一人の戦闘員へ戻る。
城戸は仲間を信用していないわけではない。
むしろ逆である。
美雨と矢吹なら、対面した一人を自力で倒せると信じているからこそ、援護へ向かおうとしない。
本人にとって、戦闘へ横から手を出すことは、相手の実力を信用していないという意思表示に近い。
良く言えば武人肌。
悪く言えば、チーム戦に向いていない価値観を最後まで捨てられなかった男である。
口数は少ないが、強い相手を嫌いではない。
初見で《衝撃伝播》へ対応し始めた佐伯直人に対しても、苛立ちより先に評価を口にした。
最大奥義《三脈合震・城落とし》を使用したのも、追い詰められたからだけではない。
自分の通常攻撃を見切り始めた直人を、
「隠しておく価値がないほどの相手」
ではなく、
「奥義を見せてでも正面から倒す価値がある相手」
と認めたためである。
《身体能力強化》Tier4
能力者の間では珍しくない、基本的な強化異能。
城戸の場合は、空手と解体現場で培った身体操作に合わせ、
下半身の安定
腰と背中の連動
打撃時の関節固定
重い構造物へ力を逃がさない体幹
足場が崩れた状態での踏ん張り
へ重点的に出力を振り分けている。
単純な走力や跳躍力では、身体能力強化を持つ他のTier4に劣る場合がある。
その代わり、拳や踵から固体へ衝撃を流し込む瞬間の安定性は極めて高い。
城戸の異能は、身体能力強化なしでは完成しない。
《衝撃伝播》Tier4
自分の打撃によって生まれた衝撃を、接触した固体の内部へ流し、物理的につながった別地点から放出する異能。
ネクサスの登録上は《衝撃伝播》と呼ばれているが、城戸本人は単に《通し》と呼ぶ。
「床へ通す」
「右の壁へ通す」
「柱から梁へ通す」
といった使い方をするためである。
床を踏めば、数メートル離れた床から衝撃を噴き上げられる。
壁を殴れば、同じ壁の延長線上から衝撃を放てる。
柱へ拳を入れれば、接続された梁や天井へ振動を流し、離れた場所の天井材を落とすこともできる。
ただし万能ではない。
衝撃は、あくまで連続した固体の内部を伝わる。
切断された床、独立した瓦礫、隙間のある構造、接続が弱い異素材などを経由すると、威力と精度が急激に落ちる。
また、何もない空間へ衝撃を飛ばすことはできない。
城戸が廃ビルや倉庫を得意とするのは、その空間に攻撃へ利用できる床、壁、柱、梁が大量に存在するためである。
本人の感覚では、建物の内部に無数の道が走っている。
城戸が拳や踵を叩き込むたび、衝撃がその道を走り、離れた場所にいる敵へ届く。
それは異能というより、本人にとっては空手の打撃範囲が建物全体まで拡張された感覚に近い。
奥義《三脈合震・城落とし》
城戸が長年の訓練によって完成させた、《衝撃伝播》最大の応用。
床、壁、柱や梁という三つの異なる経路へ、別々のタイミングで衝撃を流し込む。
三つの経路は距離が違うため、そのままでは衝撃の到着時刻もずれる。
城戸は建物の構造、材質、距離、威力の減衰を感覚的に計算し、
最も長い経路へ最初の一撃。
中間の経路へ二撃目。
最短経路へ最後の一撃。
という順番で衝撃を送り込む。
結果、異なる時刻に放たれた三発が、標的一点へ全く同時に到着する。
一発ずつなら避けられる相手でも、足元、背後、上方から同時に衝撃を受ければ、受け身も回避も成立しない。
城戸が《城落とし》と名づけたのは、城を崩すほどの威力を持つからではない。
建物そのものを三方向から敵へ叩きつけ、相手の立っている一点だけを城の崩落地点へ変える技だからである。
強力だが、使用には条件が多い。
三つの連続した伝播経路が必要。
着弾地点は最初の一撃を放った時点で固定。
三回の打撃を正確な時間差で完成させる必要があり、途中で体勢を崩されれば成立しない。
さらに一度使った場所は、集中した衝撃によって構造が損傷するため、同じ経路を再利用しにくい。
城戸は、この技を一つの戦場で何度も撃つことを前提としていない。
本来は一度で決着をつけるための奥義である。
発現経緯
城戸は十代から空手を続けていた。
才能に恵まれた選手ではなかった。
試合で華々しい結果を残したこともなく、同門には自分より速く、強く、技術に優れた選手が何人もいた。
それでも城戸は、道場を辞めなかった。
高校卒業後は解体工事会社へ就職。
日中は建物を壊し、夜は道場で拳を振るう生活を十年以上続けた。
解体現場では、力任せに壁を殴っても建物は壊れない。
どの柱が荷重を支え、どの壁が構造へつながり、どこへ衝撃を入れれば亀裂が広がるのか。
城戸は現場経験によって、それを身体で覚えた。
転機となったのは、二十八歳の時に参加した非公開の格闘試合。
追い詰められた城戸は、相手へ放った正拳をかわされ、拳をコンクリート壁へ叩きつけた。
次の瞬間、数メートル離れた床から衝撃が噴き上がり、回避したはずの相手を転倒させた。
最初は偶然だと思われた。
しかし城戸は、壁を殴る角度と足元の構造を変えながら、同じ現象を何度も再現した。
修練型能力者は、それまで積み重ねた身体技術、認識、価値観に沿った異能が開花しやすい。
城戸の人生には、空手と解体しかなかった。
だからこそ、彼の打撃は建物の中を走る能力として開花した。
本人は、自分が異能を得たとはあまり考えていない。
「ようやく拳が、見えていた場所まで届くようになった」
というのが、城戸自身の認識である。
◆
榊美雨
年齢:二十九歳
身長:百六十八センチ
通り名:《追い針》
発現区分:覚醒型
チーム内役割:追跡、索敵、捕縛、中距離攻撃
表の職業:調査会社・契約調査員
主な武器:短棒、非殺傷用投擲針
性格:皮肉屋、疑り深い、独占欲が強い
本人による異能の呼称:《目印》
人物
細身で身軽な女性能力者。
言葉遣いは軽いが、戦闘では相手を執拗に追い詰める。
一度自分の標的と決めた相手が逃げることを嫌い、視界から消えても、遮蔽物へ隠れても、決して追跡を諦めない。
本人が最も嫌うのは、味方が横から標的を奪うこと。
かつて共同捕獲任務へ参加した際、自分が長時間追跡して追い詰めた能力犯罪者を、後から現れた別の能力者が倒し、功績と報酬の大部分を持っていった経験がある。
それ以来、
「私が見つけた標的は、私が仕留める」
という考えが強くなった。
既存の能力者チームへ所属していた頃も、味方へ追跡情報を共有しながら、実際には単独で先行してしまうことが多かった。
能力の性質だけを見れば、美雨は《BREAK LINE》三人の中で、最もチームプレイに適している。
しかし、本人の性格は三人の中で最も情報を独占したがる。
本人の資質と発現異能の方向性が噛み合っていない、覚醒型能力者の典型例である。
《身体能力強化》Tier4
速度、反射神経、投擲動作を中心に運用する。
城戸や矢吹のような正面からの力比べには向かない。
短い踏み込み、急停止、方向転換、障害物を利用した移動、投擲時の肩と手首の加速へ出力を集中する。
戦闘では短棒による急所打ちと、非殺傷用の投擲針を併用。
距離を取りながら逃げ道を削り、相手が焦って動いた瞬間に追い込む。
《標的固定》Tier4
視界に入れた生物一人を、追跡対象として固定する異能。
正式名称は《標的固定》。
美雨本人は、対象へ見えない《目印》をつける能力と認識しており、普段は《目印》と呼んでいる。
標的として固定した対象が壁、床、煙、暗闇などで視界から消えても、一定距離内であれば、
どの方向にいるか
おおよそ何メートル離れているか
どちらへ移動しているか
を感覚として把握できる。
さらに標的へ向けて投げた小型物体には、僅かな軌道補正が働く。
完全な自動追尾ではない。
壁の向こうへ直角に曲がることも、避けた相手を一周して追いかけることもできない。
それでも、投擲針が数度軌道を変えるだけで、通常なら外れていた一撃が肩や脚へ届く。
逃走者を追跡し、負傷させ、足を止める能力としては非常に優秀。
ただし、指定できる標的は原則一人。
一度固定すると一定時間は任意解除や変更ができない。
水瀬蓮花との戦闘では、最初に存在していた水瀬を標的へ指定したことで、もう一人の水瀬へ即座に切り替えられず、その制限を利用された。
本来の共有機能
《標的固定》の最大の特徴は、美雨一人だけが標的位置を把握できる能力ではないこと。
標的を固定した状態で美雨が味方へ触れ、共有を許可すると、最大三人まで《目印》の感覚を共有できる。
共有された味方も、
標的のいる方向
おおよその距離
移動方向
を把握可能。
複数人が別々の通路から逃走者を追い、位置を見失うことなく包囲できる。
本来なら《BREAK LINE》でも、
城戸が逃げ道を破壊
美雨が標的を固定
三人全員で位置情報を共有
矢吹が正面から追い込み
城戸が構造物越しに退路を塞ぐ
という、極めて強力な集団捕獲戦術を構築できる。
しかし美雨は、共有機能をほとんど使わない。
本人は、
「私が追えるなら、他の人間まで知る必要はない」
と考えている。
《BREAK LINE》結成後も、標的情報を共有したのは、逃走能力者を捕獲する依頼で一度だけ。
その任務では、三人が別方向から一人の標的へ正確に接近し、普段より遥かに短い時間で捕縛へ成功している。
能力の共有機能を常用すれば、チーム全体の勝率が上がる可能性は高い。
それでも美雨は、それを自分の追跡を補助する非常手段としか考えていない。
発現経緯
二十三歳の頃。
美雨は繁華街の路上で、能力者による傷害事件へ巻き込まれた。
犯人は人混みへ紛れ、複数の警備員と通行人が別方向へ追いかけたが、路地の多い区域で位置を見失いかけていた。
美雨は偶然、犯人が人を突き飛ばしながら路地へ入る姿を目撃した。
その時、彼女の近くには三人の警備員がいた。
しかし警備員同士も、どの道へ逃げたのか意見が分かれている。
美雨は苛立ちと恐怖の中で、近くの警備員の腕を掴み、
「あいつは、あっちにいる」
と叫んだ。
確証はなかった。
それでも美雨には、壁の向こうを走る犯人の位置が、光点のように感じられた。
さらに腕を掴まれた警備員も、同じ方向を指さした。
美雨が別の警備員へ触れると、その人物にも感覚が共有された。
四人は別々の路地へ分かれながらも、犯人の位置を見失わず、最終的に包囲して捕縛した。
これが《標的固定》の最初の発現。
本人は一人で追いたい性格だった。
しかし能力が生まれた瞬間、美雨が願ったのは、
「誰でもいいから、あいつを見失わないで」
という、複数人で標的を追うための願いだった。
修練型が積み上げた技術や人生に沿った能力を得やすいのに対し、覚醒型は覚醒した瞬間の恐怖、願望、環境によって能力の方向が決まる。
そのため、本人の普段の性格や志向とは、正反対の能力が生まれることもある。
美雨の《標的固定》は、その典型である。
一人で獲物を追いたい女が得たのは、仲間全員で同じ獲物を追うための能力だった。
◆
矢吹宗一
年齢:三十一歳
身長:百八十六センチ
体重:九十二キロ
通り名:《弾き屋》
発現区分:覚醒型
チーム内役割:対射撃、前進制圧、近接戦闘
表の職業:倉庫設備会社・保守作業員
主な格闘技:ボクシング、ムエタイ
性格:無愛想、慎重、自己完結型
本人による異能の呼称:《面》
人物
《BREAK LINE》の最重量級。
口数が少なく、他人へ弱みを見せることを嫌う。
誰かに守られることを好まず、
「自分へ届く攻撃は、自分で弾く」
という価値観を持つ。
城戸の分断戦術を受け入れているのも、一対一になれば味方を守る必要も、自分が守られる必要もなくなるため。
三人の中では最も現実的で、戦況が悪いと判断すれば降参もする。
ただし助けを求めるという選択肢だけは、本人の中にほとんど存在しない。
玲奈との戦闘でも、《圧縮射出》との能力相性によって優位に立った後、焦って突進せず、逃げ道を少しずつ削りながら距離を詰めている。
水瀬が加わった後も、三方向からの攻撃を即座に処理し、玲奈を先に倒すため膜を盾として前進するなど、状況判断は速い。
敗北原因は戦闘技術の低さではない。
一方向防御という異能の構造を、玲奈と水瀬の連携によって完全に利用されたことにある。
《身体能力強化》Tier4
筋力、耐久力、前進時の安定性を重視した運用。
ボクシングのガードと足運び、ムエタイの肘、膝、ローキックを組み合わせる。
遠距離攻撃を《反発膜》で防ぎながら距離を詰め、近距離へ入った後は、重量と強化筋力によって相手を押し潰す戦闘を得意とする。
素早さそのものは水瀬や美雨に劣る。
しかし一歩ごとの圧力が強く、狭い通路では後退する相手の逃げ場を確実に削る。
《反発膜》Tier4
自分の身体から数十センチ離れた位置へ、一方向だけ透明な反発領域を展開する異能。
正式名称は《反発膜》。
矢吹本人は、薄い防御面を空間へ立てる感覚から《面》と呼んでいる。
「正面へ面を張る」
「上へ回す」
「右へ切り替える」
といった使い方をする。
膜に接触した物体や打撃へ、進行方向とは逆向きの反発力を与える。
弾丸、投擲針、ボルト、小石など、質量が小さく速度の高い物体に対して特に強い。
拳や蹴りも弾けるため、近接戦闘者が不用意に触れれば、攻撃者自身が体勢を崩される。
一方で、全身を球状に守ることはできない。
展開できるのは一方向だけ。
正面を守れば背後が空く。
上方を守れば横からの攻撃に弱くなる。
矢吹は反射神経と訓練によって膜の方向を素早く切り替えるが、切り替えの間にはごく短い空白が生じる。
また、反発力には上限がある。
小さな高速物体は容易に弾けるが、大型空調ダクトのように重く、表面積の大きい物体を完全に押し返すことは難しい。
玲奈はそこを見抜き、ダクトを頭上へ落とすことで、矢吹へ上方向の防御を強制した。
《反発膜》は強い異能だが、守る方向を本人が選ばなければならない。
単独戦では、その選択を矢吹一人の判断力で処理できる。
複数方向から完全に同時攻撃を受けた場合、その長所は致命的な選択問題へ変わる。
発現経緯
二十五歳の頃。
矢吹は大型物流倉庫で設備保守の仕事をしていた。
高所へ積まれていた金属部品の棚が、固定具の破損によって突然倒壊。
工具、金属板、ボルト、部品箱が、作業中の矢吹へ向かって一斉に落下した。
背後には大型機械。
左右には資材棚。
逃げ道はなかった。
矢吹は咄嗟に両腕を顔の前へ上げ、
「こっちへ来るな」
と叫んだ。
直後、落下してきた金属部品が、矢吹の身体へ届く数十センチ手前で弾き飛ばされた。
最初の《反発膜》は、正面にしか展開できなかった。
矢吹は異能へ覚醒した後も、
「全部を守れないなら使えない」
と考え、左右、上方、背後へ膜を切り替える訓練を繰り返した。
現在では身体の向きと関係なく、任意の一方向へ展開できる。
それでも一度に一面という根本的な制限は変わらない。
矢吹本人は一人で完結した防御能力を望んでいるが、《反発膜》は本質的に、味方が死角を補えばより強くなる異能でもある。
誰かが背後を守り、矢吹が正面へ膜を集中できれば、突破力は大きく上昇する。
しかし矢吹は、人へ背中を預けることを嫌う。
そのため、本人の戦闘技術は異能へ適合しているが、チーム運用については十分に引き出せていない。
◆
三人の関係と今後
城戸、美雨、矢吹は、互いを友人だとは考えていない。
城戸は、
「分断は俺がやる。後は自分で倒せ」
と考える。
美雨は、
「私が追っている相手へ手を出すな」
と考える。
矢吹は、
「自分の身は自分で守れ」
と考える。
三人の思想は異なるが、最終的には同じ場所へ到達している。
だから《BREAK LINE》は、チームとして会話が少なくても成立した。
相手が個人戦へ弱く、分断された後に混乱するチームなら、三人の戦術は強い。
味方へ頼ることを前提とした能力者は、孤立した瞬間に実力を落とす。
指揮官からの指示を待つ人間は、通信が途絶えれば判断が遅れる。
《BREAK LINE》は、そうした相手を何度も倒してきた。
だがフィールドワークスは違った。
佐伯直人は、孤立しても自分で相手の能力を分析し、複数の技能と異能を組み合わせて戦える。
羽田玲奈は、相性不利の相手へ追い詰められても、環境を使って生存時間を稼ぎ続ける。
水瀬蓮花は、一人へ分断されても二人になり、勝利した後は自分の担当区域へ留まらず、最も危険な仲間の戦場へ移動する。
《BREAK LINE》が敗れたのは、自分たちの個人戦闘力が不足していたからではない。
敵を三つに切れば、自分たちが三つの一対一へ勝てると信じていた。
しかしフィールドワークスは、一つの勝利を次の戦場へ持ち運んだ。
切断したはずの戦線が、水瀬によって再びつながったのである。
特に皮肉なのは、美雨の《標的固定》だ。
本来なら、三人の感覚を一つの標的へつなぎ、分断された戦場でも相手の位置を共有できる。
三人の中で唯一、《BREAK LINE》を本当のチームへ変えられる能力だった。
それを最も拒んでいるのが、能力を持つ美雨本人だった。
フィールドワークス戦での敗北を経て、三人が戦術を変える可能性はある。
城戸は、勝った者が次の戦場へ動く合理性を理解した。
矢吹は、一方向しか守れない自分の死角を、他人に補わせる必要を突きつけられた。
美雨は、自分の能力が一対一で水瀬へ完封された一方、共有機能を使っていれば、仲間へ水瀬の位置と異常性を伝えられた可能性がある。
ただし、理解したことと、実際に他人へ頼れるようになることは別問題である。
三人とも一匹オオカミとして生きてきた時間が長い。
次に対戦する時も、急に友情と連携に目覚めることはない。
それでも以前より僅かに、
「自分が勝つこと」と「チームが勝つこと」は同じではない。
と考えるようになっている。
《BREAK LINE》は、初陣の引き立て役として消えるだけの弱小チームではない。
能力も技術も十分に高く、戦術上の明確な強みを持つ。
フィールドワークス戦では、自分たちが最も信じていた個人主義の隙を突かれた。
その敗北を受け入れられるなら、今後はさらに厄介な相手へ成長できる余地を残した三人である。