冴えない中年平社員、見た技と異能をコピーして企業代理戦で成り上がる 作:パラレル・ゲーマー
基本プロフィール
氏名:深見渉(ふかみ・わたる)
年齢:三十七歳
職業:東嶺基礎工業・現場安全管理担当
所属:東嶺基礎工業/企業代理戦登録選手
登録評価:Tier4
能力者分類:直接授与型因果律改変者
保有能力:《身体能力強化》《還流》
戦闘類型:防御型・組み技制圧型
得意領域:屋内戦、構造物内戦闘、組み技、対打撃、足場と接触面の利用
企業代理戦績:勝ち越し
普段は、橋梁基礎、地下設備、止水工事などを扱う東嶺基礎工業で、安全管理を担当している現場技術者。
企業代理戦を専業とする選手ではない。
会社が工事契約や施工権を巡る代理戦へ参加する必要が生じた場合に限り、東嶺基礎工業の代表選手として出場している。
派手なKO勝利は少ない。
相手の攻撃を受けながら距離を潰し、投げ、関節技、絞め技によって降参またはレフェリーストップを取る。
戦績だけを見れば堅実な防御型選手だが、能力の詳細を公開せず、強打を正面から受けている映像もほとんど残していなかったため、対戦前に《還流》の正体を突き止めることは難しい。
穏やかで礼儀正しく、試合前後にも相手へ丁寧に接する。
ただし、相手を傷つけたくないから戦いを避ける人物ではない。
自分の技術で相手を壊さず制圧できるという確信を持ち、必要であれば躊躇なく組みつき、関節を極め、絞め技による失神寸前まで追い込む。
◆
直接授与型因果律改変者
深見は、生まれつき現在の能力を持っていたわけではない。
長年の修練によって自力で能力へ到達した修練型でも、生命の危機や強い感情をきっかけとして能力を生み出した覚醒型でもない。
十五歳の時、別の能力者が保有していた能力を直接授与された、
> 直接授与型因果律改変者
である。
能力の授与は、単なる技術の教授ではない。
授与者が保有している因果律改変の構造そのものを、別の人間へ移す行為。
授与方法、授与可能な能力数、授与後に元の使用者へ能力が残るかどうかは、能力者ごとに異なる。
深見の場合は、致命傷を負った能力者から、
《身体能力強化》
《還流》
の二つを受け取った。
授与者が死亡した後も能力は消滅せず、二十二年が経過した現在まで深見の能力として定着している。
ただし、能力を受け取ったからといって、授与者が持っていた技能、経験、判断力まで同時に継承したわけではない。
十五歳の深見が得たのは、《還流》という因果律改変能力の構造だけ。
それをどのように使うかは、能力を受け取った後の深見自身が一から学ばなければならなかった。
◆
能力を授与された事故
深見が十五歳だった頃。
父親が勤務していた地下放水施設を見学していた際、局地的な豪雨による急激な浸水事故が発生した。
設備の一部が破損。
防水区画の隔壁が閉鎖され、深見は地下通路へ取り残された。
救助へ入ったのは、当時その地域で災害対応へ協力していた能力者、鳴海慎吾。
四十代の元消防士で、
《身体能力強化》
《還流》
を保有していた。
鳴海は、落下する設備や崩壊する隔壁の衝撃を、自分の身体を通して床や側壁へ逃がしながら、深見を出口へ運んだ。
しかし、最後の防水扉付近で大規模な崩落が発生。
鳴海は深見を庇い、《還流》の処理限界を超える外力を受けた。
能力によって衝撃の一部を逃がすことには成功したが、すべてを処理することはできず、鳴海自身が致命傷を負った。
出口までの通路にも、なお浸水と崩落の危険が残っていた。
鳴海は、自分が地上まで生きて戻れないことを理解。
生き残るためには深見自身が《還流》を使う必要があると判断し、自分が保有していた二つの能力を、その場で深見へ授与した。
深見に特別な才能を見出したわけではない。
自分の後継者として選んだわけでもない。
十五歳の少年を、地上へ帰すための手段だった。
鳴海が最後に深見へ伝えた言葉は、
> 「返そうとしなくていい。帰れ」
それだけだった。
深見は、授与されたばかりの《身体能力強化》と《還流》を使用。
落下物の衝撃を床へ流し、浸水する通路を抜け、鳴海の遺体を抱えて地上へ帰還した。
◆
鳴海慎吾との関係
事故以前、深見と鳴海に面識はない。
親族でも、師弟でも、以前から交流があったわけでもない。
深見にとって鳴海は、
自分を助けた人。
自分へ能力を与えた人。
自分を生かすために死亡した人。
ではある。
しかし深見は、
> 鳴海の意志を受け継いだ。
とは言わない。
深見は、鳴海がどのような人生を送り、なぜ消防士になり、退職後も能力者として災害対応へ参加していたのかをほとんど知らなかった。
事故後、深見は鳴海の妻を訪ねた。
自分だけが能力を受け取って生き残ったことを謝罪し、鳴海の代わりに人を救う仕事をすると伝えようとした。
しかし、鳴海の妻は深見へ、
> 「あの人が助けたのは、将来立派な人になるあなたじゃない」
> 「十五歳だった、その時のあなたよ」
> 「その後の人生まで、あの人へ捧げなくていい」
と告げた。
この言葉によって、深見は、
> 鳴海の死へ報いるために、鳴海と同じ人生を生きなければならない。
という考えから離れた。
消防士にも、災害救助専門の能力者にもならなかった。
鳴海の後継者を名乗ることもない。
現在も鳴海の墓を訪れることはあるが、代理戦の勝敗や、自分が救った人間の数を報告することはない。
仕事の愚痴や、最近起きた小さな出来事を話して帰る。
深見にとって鳴海の能力は、返済し続けなければならない借金ではない。
鳴海が最後に深見へ渡し、深見自身がその後の人生で使い方を選んできた力である。
◆
現在の職業
事故後の深見は、地下空間と水音に対して強い恐怖を抱くようになった。
水の音が反響する閉所へ入ると、事故当時の浸水音や崩落音を思い出す。
それでも深見が選んだのは、
> 事故が起きてから人を助ける仕事ではなく、事故が起きる前に危険を見つける仕事
だった。
土木工学、地下構造物、基礎工事、止水設備、安全管理について学び、東嶺基礎工業へ入社。
橋梁基礎。
地下設備。
止水壁。
地下工事。
重量物の搬入。
構造物の補修。
などの現場経験を積んだ。
当初は地下現場へ入るだけでも強い緊張を覚えていたが、恐怖を消そうとはしなかった。
恐怖を感じた時ほど、
水の流入経路。
避難経路。
構造物の亀裂。
足場の状態。
作業員の人数。
通信手段。
緊急停止設備。
を順番に確認するよう訓練した。
深見本人は、
> 「怖くなくなったわけじゃない。怖い場所で何を確認するべきか覚えただけだ」
と説明している。
東嶺基礎工業は、深見を災害から生還した能力者や、危険作業へ投入できる特殊人材としてだけ扱わなかった。
一人の現場技術者として資格を取得させ、経験を積ませ、判断を誤れば他の社員と同じように叱った。
深見にとって東嶺基礎工業は、
> 鳴海から能力を受け取った少年
ではなく、
> 深見渉という技術者
として自分を扱った会社である。
会社への盲目的な忠誠心はない。
危険な工期や、現場の安全を無視した判断には、上司や経営側に対しても反対する。
それでも会社が正当な工事契約を守るために企業代理人を必要とした場合は、自分が担当できる特殊業務の一つとして出場する。
◆
能力一
《身体能力強化》Tier4
基本情報
本人使用名称:《身体能力強化》
八咫烏登録名称:《身体能力強化》
評価:Tier4
形式:全身強化型・授与定着型
鳴海慎吾から《還流》と同時に授与された能力。
深見の、
筋力。
速度。
耐久力。
反応速度。
姿勢制御。
平衡感覚。
関節の保持力。
を総合的に強化する。
純粋な最大出力だけを比較すれば、佐伯直人が使用する《身体能力強化》よりもわずかに低い。
ただし、深見は二十二年間にわたって、《還流》と組み技を安全に成立させるための身体運用を続けている。
特に発達しているのは、
低い姿勢の維持。
相手へ組みついた状態での前進。
片足になった際の安定。
関節技へ耐えるための身体制御。
受けた外力を出口へ通す際の姿勢固定。
崩れた足場での踏ん張り。
投げられた際の受け身。
相手を傷つけず押さえ込むための出力調整。
など。
深見は《身体能力強化》を、最大威力の打撃を放つためにはほとんど使用しない。
《還流》を成立させる接触状態を維持し、相手との組み合いで有利な形を作るための基礎能力として運用している。
◆
能力二
《還流》Tier4
基本情報
本人使用名称:《還流》
八咫烏登録分類:外力移送型因果律改変
評価:Tier4
形式:自己身体経由・接触先移送型
深見の身体へ伝わった物理的な外力を、身体の別の接触点から外部へ流す能力。
外力を消滅させる能力ではない。
受けた力を内部へ保存する能力でもない。
深見の身体を、
> 力が入る入口と、力が出ていく出口をつなぐ導管
として扱い、外力が作用する場所を変更する。
拳を右腕で受け、衝撃を足裏から床へ流す。
前蹴りを胸で受け、背中が触れている壁へ流す。
投げられた際の落下衝撃を、着地した掌から別の床面へ逃がす。
相手と組んでいる状態で攻撃を受け、掴んでいる相手へ力を返す。
落下物を受け止め、その荷重を足元の強固な構造へ流す。
これらはすべて、同じ《還流》の作用。
深見が、
防御。
衝撃反射。
ダメージ転嫁。
荷重移送。
という複数の別能力を持っているわけではない。
◆
《還流》の発動条件
《還流》を使用するためには、
> 深見の身体へ外力が入る入口
と、
> その力を流すための有効な出口
の両方が必要。
出口として使用できるのは、深見の身体が直接接触している対象。
主な出口は、
床。
壁。
柱。
地面。
大型構造物。
相手の身体。
深見が掴んでいる物体。
など。
攻撃を受ける直前、深見は、
踵を床へ押しつける。
掌を壁へ触れる。
肘を柱へ当てる。
背中を構造物へ接触させる。
相手の腕を掴む。
といった動作によって、力の出口を確保する。
接触先が複数ある場合は、その中から力を流す場所を選択できる。
ただし、何も触れていない空中などでは、有効な出口が存在しない。
その状態で攻撃を受ければ、《還流》は成立せず、外力は通常どおり深見の身体へ届く。
◆
《還流》の制約
深見の身体へ届く前の力には干渉できない。
離れた場所にある物体の衝撃を、直接別の場所へ動かすことはできない。
力を流すには、必ず深見自身の身体を経由する必要がある。
受けた外力を体内へ保存し、後から放出することはできない。
受けた力を増幅することもできない。
基本的には、外力を受けた時とほぼ同時に出口へ流さなければならない。
一度に処理できる外力には上限がある。
処理限界を超えた力は深見の身体へ残り、骨折、内臓損傷、筋断裂などを引き起こす。
授与者である鳴海が死亡したのも、《還流》で処理可能な限界を超える崩落荷重を受けたため。
出口となる物体が脆い場合、その物体が破損する。
石膏ボードへ強い衝撃を流せば壁が割れる。
床材へ流せばタイルや仕上げ材が砕ける。
損傷した柱や床へ繰り返し力を流せば、構造全体の破損へつながる可能性がある。
そのため深見は、一度大きく損傷した場所を、二度目の出口として使用しない。
刃物や銃弾など、接触面が小さく、身体へ損傷が生じるまでの時間が極端に短い攻撃は、安全に処理することが難しい。
理論上は運動エネルギーの一部を流せても、能力が成立する前に皮膚や組織が損傷する可能性があるため、深見は急所や鋭利な攻撃を通常どおり回避する。
熱。
毒。
病気。
精神作用。
酸欠。
などは、原則として《還流》の対象外。
絞め技による持続的な圧迫については、腕から加えられる力の一部を逃がすことができても、
相手の腕が首へ巻きついている。
頸動脈が圧迫され続けている。
身体が固定されている。
という状態そのものを解除できない。
そのため、完成した絞め技に対する防御能力は限定的。
◆
戦闘スタイル
柔道、レスリング、グラップリングを基礎とした近接制圧型。
深見は、相手と一定の距離を保ちながら打撃を交換するタイプではない。
相手の攻撃を受けられる部位で受け、《還流》によって外力を処理しながら距離を詰める。
接近後は、
片足タックル。
腰への組みつき。
壁際への押し込み。
足払い。
投げ。
関節技。
裸絞め。
押さえ込み。
によって相手の行動を制限する。
深見の組み技は、単なる競技格闘技ではない。
自分の身体のどこを相手へ接触させるか。
どの足を床へ残すか。
どの掌を壁へ置くか。
相手のどの腕を掴めば出口として利用できるか。
を常に管理する、《還流》と一体化した技術体系になっている。
深見が相手の攻撃を受けるのは、無敵だからではない。
攻撃を受けても安全な部位。
処理可能な威力。
外力を逃がせる出口。
出口となる構造物の強度。
第三者への危険。
を判断した上で、受けられる攻撃だけを選んで受けている。
顔面、喉、眼球、金的などへの攻撃は通常どおり回避する。
処理限界が読めない大技も、正面から受けない。
深見の防御能力を知らない相手からは、
> 攻撃を何発当てても本人だけが無傷で、周囲の床や壁だけが壊れていく。
ように見える。
しかし実際には、一撃ごとに出口を選び、建物のどこへ力を流すかを判断している。
◆
企業代理戦における戦術
深見は、自分の能力情報を積極的には公開していない。
公式に開示されていたのは、
《身体能力強化》
詳細非公開の固有能力一つ
という情報だけ。
《還流》という名称と具体的な作用は、対戦相手へ事前開示されていなかった。
ただし、能力を隠すために不自然な試合をしていたわけではない。
深見は通常、
相手が強打を放つ前に距離を潰す。
組み合いの中で軽い打撃を受け流す。
投げや絞めによって試合を終わらせる。
という戦い方を徹底している。
そのため、深見が強い打撃を正面から受け、《還流》によって周囲へ力を流している映像自体がほとんど残らない。
能力を見せないために勝ち方を変えているのではなく、
> 自分の最も安全で確実な勝ち方を続けた結果、能力の正体が知られていない。
という状態。
企業代理戦では、対戦相手へ不要な後遺症を残さず、建物の構造へ致命的な損傷を与えず、降参を取ることを重視する。
ただし、破損を完全に避けることはできない。
受けた力そのものは消滅しないため、必ずどこかへ負担が移る。
深見は試合前に戦場を歩き、
壁の内部。
床材の浮き。
柱の亀裂。
非構造壁の位置。
強固な基礎。
使用してはいけない損傷箇所。
を確認する。
これは会場の安全確認であると同時に、《還流》の出口を選定する作業でもある。
◆
佐伯直人との企業代理戦
老朽化した大型商業施設の地下躯体補強および止水設備更新工事を巡る企業代理戦で、佐伯直人と対戦。
試合会場は、解体予定の旧オフィスビル。
水瀬蓮花がFIELD WORKS側のセコンドを担当した。
佐伯は試合開始直後、踏み込みの初動を認識しにくくする現象を使用し、深見の脇腹へ強力なボディブローを命中させた。
攻撃自体は完全なクリーンヒット。
しかし深見は、受けた衝撃を右足から床へ流した。
深見本人には目立った損傷がなく、代わりに足元の床材が砕けた。
佐伯と水瀬は当初、《還流》を、
絶対防御。
物理攻撃無効化。
身体硬化。
衝撃吸収。
損傷転嫁。
などの可能性から分析した。
佐伯は拳、掌底、肘、蹴り、体当たりと攻撃方法を変えながら条件を探ったが、深見は床、壁、柱へ外力を流し続けた。
打撃戦では深見の損傷がほとんど増えず、佐伯だけに反撃のダメージが蓄積。
佐伯が絞め技へ切り替えた際にも、深見は純粋な組み技の技量で背後を取り返し、裸絞めへ移行した。
佐伯は、
自分の質量を変化させる現象。
接触している身体の一部をすり抜けさせる現象。
を立て続けに使用し、絞めから脱出した。
その後、水瀬が監視映像を同期解析。
佐伯の攻撃が深見へ当たる時刻と、深見が接触している床や壁が破損する時刻が一致していることを発見した。
佐伯も、深見が攻撃を受ける直前に必ず別の場所へ触れ、一度損傷した場所から離れていることを確認。
《還流》には、
> 力を流すための有効な接触先が必要
という条件があると推測した。
水瀬は、旧会議室中央に、固定ボルトを外された鋼製点検板が仮置きされていることを発見。
佐伯は先に自分から点検板へ乗ることで、露骨な罠ではないと深見へ判断させた。
深見の両足を点検板の上へ誘導。
深見が佐伯へ組みつき、佐伯自身を出口として確保した瞬間、佐伯は身体の質量を軽くして組みの形を崩した。
続けて身体をすり抜けさせる現象を使用し、深見との接触を解除。
さらに遠距離から衝撃を発生させる現象で点検板を移動させ、深見の足元から安定した出口を奪った。
深見は試合中、初めて有効な接触先を一つも持たない状態となった。
その瞬間に鳩尾へ掌底を受け、《還流》によって処理できない打撃損傷を負った。
最後は足場を崩された状態で背後を取られ、裸絞めを完成させられたため、タップして敗北。
◆
佐伯直人に対する認識
深見は、佐伯直人の能力構造を知らない。
《ライブラリ》という名称。
他人の技能や異能をコピーできること。
コピーの条件。
登録されている能力数。
使用回数の制限。
《日次再装填》。
《目録解析》。
試合中に《還流》を登録されたこと。
そのいずれも把握していない。
深見が実際に確認したのは、佐伯が試合中に、
身体能力を強化する現象。
攻撃の初動を読みにくくする現象。
自分の質量を変化させる現象。
身体を接触面からすり抜けさせる現象。
離れた点検板へ衝撃を与える現象。
重心や姿勢を不自然に制御する現象。
を状況に応じて使用したことだけ。
それらが、
それぞれ独立した異能なのか。
一つの複合型能力に含まれる機能なのか。
何らかの特殊な技能なのか。
装備や因果付与物による現象なのか。
深見には判断できない。
試合中に発した、
> 「本当に、手札が多いですね」
という言葉も、
> 佐伯は複数の対応手段を持っている。
という戦闘上の感想。
佐伯が分類上の多能力者であることや、実際にいくつの異能を保有しているかを知っているという意味ではない。
深見は佐伯を、
> 自分の能力の正体を試合中に分析し、セコンドから得た情報を即座に実戦へ組み込み、条件そのものを崩した相手
として評価している。
特に、単純な威力で《還流》の処理限界を突破しようとせず、
接触を切る。
足場を不安定にする。
出口をなくす。
絞め技へ移行する。
という順序で攻略した判断を高く評価。
また、試合後に佐伯が、水瀬の映像解析と図面確認がなければ勝てなかったと認めたことから、FIELD WORKSを佐伯一人の会社とは見ていない。
◆
敗北後
試合終了後、深見は佐伯へ、自分の能力名が《還流》であることを明かした。
ただし、これは佐伯との会話の中で本人が告げたもの。
《還流》の名称と詳細を、一般公開情報へ変更したかどうかは現時点では未定。
深見は敗北を能力相性だけの問題とは考えていない。
佐伯と水瀬が試合中に《還流》の条件を特定したこと。
自分が点検板の上へ誘導されたこと。
佐伯へ接触すれば出口を確保できると判断し、組みついたこと。
その接触を切られた直後に足場まで失ったこと。
すべてが連続した戦術による敗北だと認めている。
再戦する場合は、
浮いた床材や移動可能な足場へ両足を乗せない。
相手だけを出口として頼らない。
接触を強制解除する現象を警戒する。
空中で攻撃を受ける状況を作らない。
周囲に出口がない場所へ誘導されない。
といった対策を行う。
ただし、佐伯へ個人的な敵意や因縁は抱いていない。
同じく翌日に昼の仕事を控えながら企業代理戦へ出ている人間として、ある種の親近感を持っている。
◆
総合戦闘評価
Tier4の近接防御型能力者。
《身体能力強化》の純粋な出力は、Tier4として突出していない。
《還流》も、有効な出口がなければ成立せず、あらゆる攻撃を無条件に拒絶できる絶対防御ではない。
しかし深見は、二十二年間の経験によって、
攻撃を受ける部位。
出口となる接触先。
外力を流す方向。
構造物の強度。
一度に処理できる威力。
相手へ接触するタイミング。
組み技へ移行する距離。
を高い精度で管理している。
打撃主体の相手に対しては極めて強い。
相手の強打を無力化しながら距離を詰め、組み技へ持ち込むことで、攻撃力の差をそのまま無視できる。
特に、
床。
壁。
柱。
大型設備。
頑丈な構造物。
が多い屋内戦では、出口を確保しやすく、戦闘能力が大きく上昇する。
一方で、
空中戦。
接触先のない広い空間。
足場そのものを消す能力。
毒や精神作用。
熱攻撃。
持続的な拘束。
完成した絞め技。
接触前に損傷が成立する鋭利な攻撃。
などには弱点を持つ。
深見渉の強さは、《還流》という能力だけによるものではない。
能力を授与された十五歳の時点では、床や壁へ衝撃を逃がすだけでも、自分や周囲を危険に晒す未熟な使用者だった。
現在の深見を作ったのは、
地下構造物を学んだ時間。
現場で安全を確認した経験。
構造物が壊れる兆候を見てきた年月。
組み技を身につけた修練。
力の出口を誤れば別の誰かが傷つくという認識。
である。
深見は、鳴海の人生を継いだ人物ではない。
鳴海から生きて帰るための力を渡され、その力を使ってどのような人生を送るかを、自分で選び続けてきた直接授与型能力者である。